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『教養が身につく最強の読書』 しぼんでいた読書欲を刺激してくれる、正統派読書人によるおすすめ本のラインナップ

2018-08-16 21:07:38 | 「本」についての本

『教養が身につく最強の読書』
出口治明著、PHP研究所(PHP文庫)、2018年
(親本は2014年に日経BP社から『ビジネスに効く最強の「読書」』として刊行)


ライフネット生命創業者にして、現在は大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明さん。本書は、大の読書家としても知られている出口さんが、これまで読んできた膨大な量の本の中から、特におススメの135冊を紹介した一冊です。

「ビジネスに効く教養のつくり方」「歴史から叡智を学ぶ」「日本と世界の現在を知る」という3つの大きなテーマに沿って、歴史や哲学、宗教、科学、戦史、政治、経済、さらに文学などの幅広いジャンルから選び抜いた書物を取り上げていくのですが、その紹介の仕方がいちいち絶妙なのです。
たとえば第2章の「『意思決定力』を鍛える」。悩んでいる時はまず、頭を柔軟にほぐす「アイスブレーキング」をということで、まずは脳科学者・池谷裕二さんの『脳には妙なクセがある』が取り上げられます。
その次に紹介されるのは、中国の『貞観政要』や『宋名臣言行録』、そしてクラウゼウィッツ『戦争論』といったド直球の古典。「軽いものを読んで解決できるような悩みなら、しょせん大した悩みではありません」と出口さんはいい、こう力説します。

「悩みに匹敵するような、ずっしりと重いものを読まなければ、どだい解決にはなりません」
「読み応えのある超ド級の『重たい』本をしっかりと読み、悩みを吹き飛ばしてください」


それでも悩みが解決せず煮詰まったら、極端にスケールの大きなことを・・・ということで紹介されるのが、村山斉さんの『宇宙は本当にひとつなのか』などの宇宙論の本。そして仕上げに、おなじみの『西遊記』やウンベルト・エーコの『バウドリーノ』などの「おいしいもの」で頭を切り替え、生気を取り戻して意思決定に取り組んでみては・・・と締めるのです。
「『意思決定力』を鍛える」というお題のもと、かくも多彩な書物を紹介するというのも、豊富な読書体験があるからこそだなあ、とただただ唸らされるばかりでありました。

「戦争を見る眼を養う」という章では、第2次世界大戦にまつわる本はもちろんのこと、第1次世界大戦に関する本もいろいろと紹介されております。第1次大戦についてはよく知らないことが多いので、これは参考になります。
レマルク『西部戦線異状なし』や、ヘミングウェイ『武器よさらば』といった文学作品も取り上げられていますが、第1次大戦の背景を深く掘り下げたルポルタージュである、クリストファー・クラーク『夢遊病者たち』とバーバラ・W・タックマン『八月の砲声』に興味が湧きました。

現代社会を深く理解するために役立つ本を紹介した第3部「日本と世界の現在を知る」で最も気になった本といえば、「保守主義の父」エドマンド・バークの『フランス革命の省察』です。
バークが唱えた保守主義というのは、「社会の中で長い間生き残ってきたものは、理屈はどうであれ人々は受け入れており、その限りにおいて正しい。そうであれば、社会がおかしくなったら少しずつおかしくなった部分から変えていけばいい。それが保守なんだ」という考え方だとか。
出口さんはそのことを踏まえつつ、「後のことまでよく考えず、誰も困っていないことを自らのイデオロギーで無理にやろうとしている」日本の一部の保守は「原理主義に陥ってしまったフランス革命の徒となんら変わりない」と喝破します。そして、こう指摘するのです。

「『社会に根づいている物事が正しく、困った点はちょっとずつ直していけばいい』という、真の保守主義がわが国には存在しない。それが、日本の根本的な問題の一つなのではないのだろうかと常に思っています」

「リベラル」と同様、日本においてはいささかズレた解釈をされていると思われる「保守」の本来の意味を確かめるためにも、『フランス革命の省察』を一読してみたくなりました。
「グローバリゼーションの本質を見抜く」本の1つとして取り上げられている、イマニュエル・ウォーラーステインの『近代世界システム』も、前から気になっていた本でした。全4巻という大著であり、容易には読めなさそうな書物ではありそうなのですが、ぜひチャレンジしてみたいと思っております。

出口さんならではの読書観がところどころで語られているのも、本書の魅力です。
本の読み方について語ったコラムでは、「速読」という言葉が大嫌いだといい、その心をこのように語ります。

「速読は、世界遺産の前で記念写真を撮っては15分で次に向かう弾丸ツアーのようなものです。行ったことがあるという記憶は写真を見れば蘇るでしょうが、そこで何を観たかは少しも頭に残ってはいないでしょう。資格を取るための受験勉強などを除いて、速読ほど有害無益なものはない、と考えています。
人の話も本も、集中力を高め相手と対峙して初めて身につくものです」


ともすれば、読書をある種の「タスク」のように考えがちなところもある中で、出口さんのまっすぐで正統的な読書への姿勢に、あらためて背筋を正されるような思いがいたしました。

本書で紹介されているラインナップを辿りながら思ったのは、しっかりした書物を読むのはやはり必要で大切なことだなあ、ということでした。
われわれはともすれば、日々のマスメディアによる報道や、SNS上に流れるさまざまな意見によって物事を判断しがちになるところがあります。無論それらの中にも、傾聴に値する見解があることは否定しませんが、よくよく気をつけておかないと、知らず知らずのうちにものの見方がバランスを欠いたものになってしまう危険があるということも、また確かでしょう。
そんな危険に足をすくわれないためにも、しっかりとした書物を、じっくりと腰を据えて読むことで、自分の頭で考えるために必要な、本当の意味での「教養」を身につけておかなければ・・・ということを感じた次第であります。

尊敬する読書人にして教養人である出口さんが選び抜いた書物のラインナップに接して、暑さでしぼみがちだった読書欲が、ムラムラと湧き上がってきたわたしでした。


【関連オススメ本】

『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』
出口治明著、KADOKAWA(角川oneテーマ21→角川新書)、2014年

自らの読書遍歴から、「おもしろそうな本」の選び方、「1行たりとも読み飛ばさない」という本との向き合い方・・・などなど、出口流の読書術を存分に語った一冊です。小賢しい考え方とは無縁な、まっすぐに本と向き合う姿勢に感銘を受けます。拙ブログの紹介記事はこちらです。→ 【読了本】『本の「使い方」』 あくまでも真っすぐで正統的な「知」の構築法に感銘

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