NHKスペシャル『病の起源』第1集「がん ~人類進化が生んだ病~』
初回放送=5月19日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史、ナビゲーター=陣内孝則、語り=伊東敏恵
人類を悩ませ続ける数々の病の起源を、生物進化の観点から探っていくシリーズ『病の起源』。
2008年に放送された最初のシリーズから5年を経て、待望の新シリーズが始まりました。昨夜放送されたプロローグに続いての第1集は、日本人の死因のトップであり、人類最大の脅威でもある病、がんの起源に迫ります。
現代病と思われているがん。しかしその歴史はかなり古く、アメリカで発見された1億5000万年前のディプロドクスの化石からも、骨の組織を崩したがんの痕跡が見つかっています。
近年の研究によれば、5億5000万年前の多細胞生物の出現に、がんのルーツが求められるといいます。
多細胞生物は、細胞が失われると細胞分裂により、新たな細胞が補われるのですが、その際に細胞のコピーミスが生じることがあります。それがもととなってがん細胞が生み出され、増殖していくことになるのです。
生物は多細胞化することでさまざまな機能を獲得し、バリエーションに富んだ進化を遂げるというメリットを得ましたが、その代償として、がんになる宿命を背負うことになった、というのです。
多細胞生物の宿命であるがん。その中で、人類は特に大きいがんのリスクを背負っています。遺伝子の99%が同じという人類と共通の祖先、チンパンジーと較べても、ずば抜けて高いリスクです。
その違いは、精子が持つ遺伝子の変化にありました。人類は、700万年前に二足歩行を始めるようになって以降、絶えず精子が増殖していくように遺伝子を変化させていきましたが、がん細胞もそれと同じ仕組みを利用し、増殖できるようになっていったのです。
では、精子が絶えず増殖できるように変化していったのはなぜか。それは、人類の繁殖戦略の変化が原因だといいます。
チンパンジーは、繁殖期になるとメスの生殖器が肥大化するという目に見える変化が生じます。しかし、人類のメスにはそのような外見上の変化は見られなくなりました。それによりオスは交尾のタイミングがわからず、狩りをして得た食料をメスに与えつつ、ひんぱんに交尾をして子孫を増やしていきました。
この繁殖戦略の変化が、結果として人類ががんのリスクを高めた最初の要因となりました。
2つめの要因は、人類の脳の巨大化にありました。
人類は脳を大きくしていく過程で道具を生み出していき、やがては文明を築き上げていくことになります。
その脳の巨大化は、FASという脂肪酸を作り出す酵素がもたらしたものでした。人類のFASは、他の動物よりも多くの脂肪酸を作り出すことができ、それにより細胞が活発化します。そのことで神経のネットワークが生み出され、やがて脳も巨大化していきました。
ところが、がん細胞はFASによる細胞の活発化のメカニズムをも取り込むようになり、さらに増殖する力を持つようになっていったのです。
生命の維持と進化のシステムを逆手に取る、「したたか」ともいえるがん細胞の進化ぶりには、驚きを覚えるばかりでした。
人類ががんのリスクを高めた3つめの要因。それは6万年前の「出アフリカ」にありました。
人口の増加により、日差しの強いアフリカを出て地球のあらゆるところへと移動していった人類。しかし、紫外線の弱い場所にも住むようになったことから、紫外線により生成されるビタミンDが不足するようになり、それががんのリスクを高めるようになった、というのです。
紫外線は浴び過ぎても皮膚がんのリスクを高めますが、浴びなくなることもまた逆効果となるのです。
そして現代になって加わった、がんのリスクを高める要因のひとつが、ライフスタイルの変化でした。
近年、夜勤で働く人たちはがんのリスクが高まる、という研究結果が明らかになっているといいます。女性の場合は乳がんの、男性の場合は前立腺がんのリスクが高い、と。
それらの要因は、睡眠をつかさどる物質であるメラトニンの不足にあるとか。メラトニンにはがんの増殖を抑制する働きもあるのですが、夜間に電気の明るさの中にいることでメラトニンの生成が抑えられ、それによりがんリスクが高まる、ということがわかってきました。
がんの起源とメカニズムが明るみになっていく中で、それをもとにしたがん治療法も模索されてきています。
脂肪酸で細胞を活発化させるFASの研究をしている研究者により開発された「FAS阻害薬」は、FASのみをターゲットにしてその働きをブロック、がん細胞の増殖を抑え、死滅させるというもので、現在臨床試験中とのことです。実用化されればどんな効果が見られることになるのでしょうか。注目したいところです。
人類の進化と歩調を合わせるように増殖力を高めていった、がんの起源と歴史には、あらためて驚かされるばかりでありました。
とはいえ、がんにはまだまだ、わからないことがたくさんあります。ここで明らかになったことをもとにして、さらにどんなことがわかってくるのか。そして、そこからどんな、がんに対抗する手段が生み出されていくのか。
がんという、決して他人事ではない病のリスクを抱える人間の一人として、注目をしていきたいと思います。
初回放送=5月19日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史、ナビゲーター=陣内孝則、語り=伊東敏恵
人類を悩ませ続ける数々の病の起源を、生物進化の観点から探っていくシリーズ『病の起源』。
2008年に放送された最初のシリーズから5年を経て、待望の新シリーズが始まりました。昨夜放送されたプロローグに続いての第1集は、日本人の死因のトップであり、人類最大の脅威でもある病、がんの起源に迫ります。
現代病と思われているがん。しかしその歴史はかなり古く、アメリカで発見された1億5000万年前のディプロドクスの化石からも、骨の組織を崩したがんの痕跡が見つかっています。
近年の研究によれば、5億5000万年前の多細胞生物の出現に、がんのルーツが求められるといいます。
多細胞生物は、細胞が失われると細胞分裂により、新たな細胞が補われるのですが、その際に細胞のコピーミスが生じることがあります。それがもととなってがん細胞が生み出され、増殖していくことになるのです。
生物は多細胞化することでさまざまな機能を獲得し、バリエーションに富んだ進化を遂げるというメリットを得ましたが、その代償として、がんになる宿命を背負うことになった、というのです。
多細胞生物の宿命であるがん。その中で、人類は特に大きいがんのリスクを背負っています。遺伝子の99%が同じという人類と共通の祖先、チンパンジーと較べても、ずば抜けて高いリスクです。
その違いは、精子が持つ遺伝子の変化にありました。人類は、700万年前に二足歩行を始めるようになって以降、絶えず精子が増殖していくように遺伝子を変化させていきましたが、がん細胞もそれと同じ仕組みを利用し、増殖できるようになっていったのです。
では、精子が絶えず増殖できるように変化していったのはなぜか。それは、人類の繁殖戦略の変化が原因だといいます。
チンパンジーは、繁殖期になるとメスの生殖器が肥大化するという目に見える変化が生じます。しかし、人類のメスにはそのような外見上の変化は見られなくなりました。それによりオスは交尾のタイミングがわからず、狩りをして得た食料をメスに与えつつ、ひんぱんに交尾をして子孫を増やしていきました。
この繁殖戦略の変化が、結果として人類ががんのリスクを高めた最初の要因となりました。
2つめの要因は、人類の脳の巨大化にありました。
人類は脳を大きくしていく過程で道具を生み出していき、やがては文明を築き上げていくことになります。
その脳の巨大化は、FASという脂肪酸を作り出す酵素がもたらしたものでした。人類のFASは、他の動物よりも多くの脂肪酸を作り出すことができ、それにより細胞が活発化します。そのことで神経のネットワークが生み出され、やがて脳も巨大化していきました。
ところが、がん細胞はFASによる細胞の活発化のメカニズムをも取り込むようになり、さらに増殖する力を持つようになっていったのです。
生命の維持と進化のシステムを逆手に取る、「したたか」ともいえるがん細胞の進化ぶりには、驚きを覚えるばかりでした。
人類ががんのリスクを高めた3つめの要因。それは6万年前の「出アフリカ」にありました。
人口の増加により、日差しの強いアフリカを出て地球のあらゆるところへと移動していった人類。しかし、紫外線の弱い場所にも住むようになったことから、紫外線により生成されるビタミンDが不足するようになり、それががんのリスクを高めるようになった、というのです。
紫外線は浴び過ぎても皮膚がんのリスクを高めますが、浴びなくなることもまた逆効果となるのです。
そして現代になって加わった、がんのリスクを高める要因のひとつが、ライフスタイルの変化でした。
近年、夜勤で働く人たちはがんのリスクが高まる、という研究結果が明らかになっているといいます。女性の場合は乳がんの、男性の場合は前立腺がんのリスクが高い、と。
それらの要因は、睡眠をつかさどる物質であるメラトニンの不足にあるとか。メラトニンにはがんの増殖を抑制する働きもあるのですが、夜間に電気の明るさの中にいることでメラトニンの生成が抑えられ、それによりがんリスクが高まる、ということがわかってきました。
がんの起源とメカニズムが明るみになっていく中で、それをもとにしたがん治療法も模索されてきています。
脂肪酸で細胞を活発化させるFASの研究をしている研究者により開発された「FAS阻害薬」は、FASのみをターゲットにしてその働きをブロック、がん細胞の増殖を抑え、死滅させるというもので、現在臨床試験中とのことです。実用化されればどんな効果が見られることになるのでしょうか。注目したいところです。
人類の進化と歩調を合わせるように増殖力を高めていった、がんの起源と歴史には、あらためて驚かされるばかりでありました。
とはいえ、がんにはまだまだ、わからないことがたくさんあります。ここで明らかになったことをもとにして、さらにどんなことがわかってくるのか。そして、そこからどんな、がんに対抗する手段が生み出されていくのか。
がんという、決して他人事ではない病のリスクを抱える人間の一人として、注目をしていきたいと思います。
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