Newton増刊『Newtonライト データがわかる 数字に強くなる 統計のきほん』
ニュートンプレス、2017年
毎号美しい写真とイラスト、そしてわかりやすい語り口で、驚きに満ちた科学の面白さを伝えている老舗の科学雑誌『Newton』が、この夏から増刊号として『Newtonライト』という新しいシリーズをスタートさせました。
『Newtonライト』は、これまでの『Newton』本誌および別冊に掲載された記事を再編集し、読みやすくカジュアルな形にまとめたワンテーマ・マガジンです。大きさは『Newton』本誌よりちょっと小さめで、ページ数も60ページほどなので、ちょっとした時間を使ってサクッと読むことができます。定価も680円(プラス税)とお手頃価格なのも嬉しいところです。
その『Newtonライト』の第1弾として刊行されたのが、今回取り上げる『データがわかる 数字に強くなる 統計のきほん』であります。
さまざまな現象からデータを集め、その意味するところを一目でわかるように示すとともに、そこから未知の結果を予測していく・・・。そんな「複雑な自然界や社会にあらわれる出来事を正しく読み解き、さまざまな問題を解決する道具」(前説より)である統計と、その考え方の基本を、『Newton』ならではの豊富なイラストとともに解説しております。
「正規分布」や「標準偏差」「相関」といった、統計における基本的な概念でありながら、その理解となるとイマイチ「?」であった事柄や、偏差値や生命保険の算出法、世論調査や選挙の当確報道といった、身近ではあるけれども、その仕組みとなると「??」であった事象について、数字や数式に弱い文系人間のアタマにもすんなり入るように解きほぐしてくれています。・・・中学・高校時代にさんざん数学のテストで赤点を取ってきたわたしが申し上げるのだから間違いございません(笑)。
取り上げられたトピックの中には、統計学と意外な人物とが結びついた面白いエピソードも。データが左右対称の山のような形となる「正規分布」の節では、フランスの数学者ポアンカレが、1年間毎日買ったパンの重さを表したグラフが正規分布からずれていたことで、パンの重さをごまかしていたパン屋のうそを見抜いたのだとか。宇宙の形の証明という壮大な難問を提示した数学者の天才っぷりは、パンの重さの違いという身近で極小な事象においても発揮されていたようですな。
生命保険の算出に用いられる、年齢ごとの死亡率の一覧表である「生命表」を発表したのが、ハレー彗星にその名を残すイギリスの天文学者、エドモンド・ハレーであったということも、この『統計のきほん』で初めて知りました。
物事を正しく把握するために役立つ統計データも、読み方を誤ればかえって、間違った認識と判断につながってしまうことがあります。『統計のきほん』は、統計を読み解く上で陥りやすい「落とし穴」についてもしっかり触れております。
統計でよく使われる「平均値」という概念。その字面から、「平均値=多数派」だと勘違いしやすいのですが、平均値には極端なデータ(外れ値)の影響を受けやすいという欠点があることが、日本の勤労者世帯における貯蓄額のグラフを例にとって明快に説明されます。
また、Aの要素とBの要素に相関関係があることで、二つの要素に因果関係があるように見えてしまう「疑似相関」についても、例を挙げてしっかりと説明しています(たとえば「理系か文系かということと、指の長さの間には相関関係がある」といったような)。二つの要素以外の、因果関係に影響を及ぼす第3の要素(潜在変数)の可能性を、常に念頭におく必要がある、と。
二つの要素が相関関係にあることだけをもって、二つには因果関係があるのだ!と決めつけてしまうような物事の見方をしばしば目にしますが、それがいかに危ういことなのかがよくわかり、とても勉強になりました。
新しく始まったシリーズ『Newtonライト』に冠せられているキャッチコピーは「理系脳を鍛える!」。そう、数字や数式に弱いバリバリの文系人間であっても、適度な頭の体操をしつつ理系的な知識と考え方を身につけておくことは、世に溢れる怪しげな言説に振り回されないためにも大事なことだと思います。なにより、科学によって広がる驚きに満ちた世界を知ることって、とても楽しいことでもあるのですから。
統計についてもしかり。バイアスのかかった印象操作による誤った認識で判断を下していては、肝心の問題解決にも悪影響を与えてしまいかねませんし、数字に苦手意識があって近寄り難かった統計学の世界も、意外と面白く奥深いものであることがよくわかりました。
統計の基本的な考え方とその奥深さを、文系人間にもわかりやすく伝えてくれる『Newtonライト』第1弾『統計のきほん』、大いにオススメであります。
実はこの『統計のきほん』、買い込んではいたもののずっと積ん読のままであった統計についての本2冊を読むための「予習」のために読んだ次第でした。その2冊もなかなか興味深そうなので、おいおい読んでご紹介したいと思っております。
シリーズ『Newtonライト』は、第2弾となる『大宇宙への旅』がすでに発売中。第3弾の『超ひも理論』も、来週9月19日に刊行予定とのこと。今後も期待したいと思います。
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