季刊『理科の探検』(RikaTan)春号
発行=SAMA企画、販売=文理
理科教育、科学リテラシーを専門とされている法政大学教授・左巻健男さんが編集長をつとめておられる季刊の科学雑誌『理科の探検』(略称RikaTan)。
左巻さんを中心に、理科教育に携わっている有志の教育者や専門家が編集や執筆に参画し、理科の基本をわかりやすく伝えている雑誌です。実験や観察例も豊富に盛り込まれたりしていて、楽しみながら理科を身近に感じることができるつくりとなっており、子どもたちの理科学習はもちろん、大人の学び直しにも最適な内容となっています。
その『理科の探検』最新号の特集は「ニセ科学を斬る!」。巧みでもっともらしいコトバで人びとを惑わし、社会にはびこっているニセ科学の数々を、RikaTanの編集・執筆陣が一刀両断するという好企画であります。
通常、特集を2本ずつ組んでいるRikaTanですが、今回はこの特集1本のみで勝負。とはいえ、全部で60ページ近い大特集となっていて、編集・執筆陣の力の入れようがひしひしと伝わってきます。以下、特集の目次を引いておきます。
「ニセ科学」問題入門 左巻健男
ダイエットをめぐるニセ科学 小内亨
健康食品・サプリメントにご用心 ーその宣伝、信じてよいの? 片瀬久美子
抗酸化物質は体によいのか 安居光國
ニセ科学の「波動」と物理学の波動 菊池誠
摘発されたニセ科学商品の実例 天羽優子
法と科学 ニセ科学による被害を救済する仕組み 天羽優子
EMのニセ科学問題 呼吸発電
EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる 松永勝彦
脳科学とどうつきあうか ーニセ脳科学にだまされないために 鈴木貴之
ニセ科学を信じてしまう心のしくみ 菊池聡
地震予知におけるニセ科学 小林則彦
このように、「ニセ科学」というキーワードのもとに取り上げられているトピックは多岐にわたっています。ニセ科学問題の根がいかに深いものなのかをあらためて実感させられます。
ニセ科学が特にはびこっているのが、人びとの関心が高い健康やダイエットまわり。小内亨さんは、さまざまな巷のダイエット理論を検証、基礎研究や理論、体験談を過大に評価してしまう問題点を指摘します。
片瀬久美子さんは、メディアに溢れる宣伝広告で広まっている健康食品やサプリメントについて検証。多くは「毒にも薬にもならない」「気休め」に過ぎないにもかかわらず、それらを過信してしまうことの危険性を訴えています。また「特定保健用食品」や「栄養機能食品」といった健康食品の分類についても解説。これらは知っているようで知らなかったので、大変参考になりました。
安居光國さんは、これもよく聞く「抗酸化物質」について、酸素と生命維持のシステムから説き起こしていきます。そして、もともと体には本来の抗酸化システムが備わっているにもかかわらず、「抗酸化物質」を過剰摂取することの問題点を指摘します。
最近、放射線についてわかりやすく解説した『いちから聞きたい放射線のほんとう』(共著、筑摩書房刊。こちらも読んだ上で当ブログでご紹介する予定です)を出版された菊池誠さんは、ニセ科学界隈でよく出てくる「波動」について、専門の物理学の目から追及。「波動測定器」だの「磁気」だのと、「なんとなく科学的」なコトバで語られている、ニセ科学における「波動」の正体を暴いていきます。
天羽優子さんは、さまざまなニセ科学商品の摘発事例を挙げながら、ニセ科学商品の被害から消費者を救済する仕組みについて解説。人と人の間の争いを解決するための裁判所の「事実」と科学における「事実」の役割や性質は違うことを踏まえつつ、いかに被害を防いでいけばいいのかを説いています。
ニセ科学界隈でしばしばクローズアップされているのが「EM」をめぐる問題でしょう。最近も超党派の国会議員によるEM推進の議員連盟が発足するなど、隠然たる普及への動きが進んでいる模様です。
故郷の福島県における原発事故に絡んだEM普及の動きを追い続けている「呼吸発電」さんは、数多くの資料やWebサイト、ツイッターまとめを引用しながら、EMが社会へと広まっている状況とそのニセ科学性を克明に述べていきます。引用したWebサイトのリンクも全て記されていて、資料性も高い記事となっています。
また松永勝彦さんは、水環境を浄化するとして進められている「EM団子」の投げ込みについて、実験データを引きつつ検証。まともな研究論文もなく、研究成果が世界にオーソライズされることもないというEMは「科学と言えない」と結論します。
EMについては、普及団体が外部からの性能評価を拒否している上、地方の自治体や議会、メディアをじわじわと取り込んでいく戦略をとっているということもあり、今後もしっかり注目していく必要がありそうですね。
鈴木貴之さんは、「ゲーム脳」理論や「脳トレ」「早期教育」といった、メディアを賑わす脳をめぐる情報について検討。根拠のないものや飛躍を含むものであっても、一見して科学的で信頼できるような情報とともに提示されるとつい信じてしまうという心理を押さえた上で、脳に関する情報には慎重になる必要があることを説いていきます。
(本記事を踏まえると、先だってのNHKスペシャルのシリーズ『人体 ミクロの大冒険』で展開された、「学び」をめぐる神経細胞のメカニズムの話や、ホルモンが感情を「支配」したり、逆にコントロールすることもできるといった話に対しては、いくらか慎重に捉え直しておく必要があるのかもしれません)
そうしたニセ科学をついつい信じてしまうような心について菊池聡さんは、もともと人の心理に「認知バイアス」という「自分で自分を騙す」仕組みが備わっていることを指摘し、むしろ騙されることが「人にとって自然なこと」だと言います。そして、その心理的な4つの要因を詳しく探っていきます。これはニセ科学が受け入れられる仕組みを考える上で、非常に興味深い論考でした。
東日本大震災以後、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震などの可能性が取り沙汰される中、怪しげな「地震予知」情報が、主にWebサイトや週刊誌(特にひどいのは女性週刊誌あたりでしょうか)で展開されておりますが、小林則彦さんは最近の地震学の知見により、「地震の発生機構は混沌と偶然性が支配する複雑系であり、予知は非常に難しい」ことを前提にしながら、地震予知についてのニセ科学言説にメスを入れています。とりわけ、予知の「的中率」をめぐるカラクリの解説は「なるほど、そういうことだったのか」と腑に落ちるものがありました。
特集の総論である、「『ニセ科学』問題入門」の中で、本誌編集長でもある左巻さんはこう述べておられます。
「ニセ科学を広めてしまう人の口癖は『科学ではわからないことがある』です。そのくせ、科学には弱い人たちが多いようです。
(中略)
科学でわかっていないことも膨大にありますが、わかってきたことも膨大にあり、真実の基盤は増え続けています。そういった真実の基盤でものを考えることができることが必要でしょう。」
科学を過信することも確かに危ういことでしょうし、時には科学のあり方を批判的に見つめ直すこともまた必要なことではあるでしょう。しかし、だからといって科学の考え方や原理原則を軽視、もしくは否定し、果てはニセ科学の罠にはまってしまっては本末転倒ではないでしょうか。
人びとの弱みや不安につけこむ形で、これからもさまざまなニセ科学が入れ替わり立ち替わり現れてくることでしょう。それらに惑わされない視座と考え方を身につけていくためにも、この特集はとても学ぶところが多々ある内容だと感じました。
ぜひとも、多くの人に読まれて欲しい特集であります。
今週中には届きそうです。ずっと文系畑でしたが、高校の時 何を血迷ったか化学部に。でも遊んでばかりで実験は一度だけ(笑)数学は苦手だし、ほんとに理科系はだめです。でも興味だけはあります。楽しみです。紹介してくださってありがとうございます♪
U+2022U+2022U+2022実は、わたくしめも数学やらは大の苦手でありますが、高校の頃から科学の本や雑誌を読んだりするのは好きだったりして、やはり科学への関心はあるほうですね。自分の知らない世界や驚きに接するのはいい刺激ですし、アタマの中や視野に広がりが出てくるんですよね。これからも、もっと未知の世界を知りたいものだなあ、と思っております。