朝から藤崎八旛宮秋季例大祭の神幸行列をたっぷり見物することができた、熊本旅2日目。この日の街歩きのテーマは、熊本の文化的な面をつぶさに見ていこうというものでした。ということで、わたしは熊本市中心街の書店を何軒か訪ねることにいたしました。
中心街から書店が次々になくなっている、地方都市のまことに寂しい現状の中で(わが宮崎市でも、中心街にあるのはチェーン店の蔦屋書店とヴィレッジヴァンガードくらいだもんなあ)、熊本市の中心街には老舗を含め、多くの書店が頑張って営業を続けております。街歩きを楽しみながら、ふらりと立ち寄ることができる本屋さんがいくつもあるというのは、実に羨ましいところであります。
(1)想像以上に豊かな文化的空間だった、蔦屋書店熊本三年坂店
まず最初に立ち寄ったのは、下通のアーケード街から伸びる三年坂通りにある商業施設「カリーノ」にある「蔦屋書店熊本三年坂店」です。
店名にあるように、ここも蔦屋書店グループのひとつなのですが、品ぞろえがなかなか素晴らしいという高い評価を受けていて、気になっていた書店のひとつでした。
全国各地の書店をイラストとともに紹介した『本屋図鑑』(得地直美・本屋図鑑編集部著、夏葉社)でも、その品ぞろえの素晴らしさ、とりわけ海外文学棚の充実ぶりが伝えられていて、それもぜひ見ておこうと思っておりました。
地上3階、地下1階にまたがる書店フロアには、文具やファッション関連の販売店やカフェなど、15のテナントが併設されております。
1階は雑誌や話題の新刊書、文芸書、文庫を中心に揃えたエリアです。
フロアをひとわたり廻ったあと、高い評価を受けていた海外文学の棚を拝見いたしました。
あとから聞いた話では、今年(2016年)の6月にリニューアルされた際、それまでよりは少々スペースが小さくなっている、とのことでしたが、古代から現代までの海外文学の歴史と流れを、目に見えるように示してくれている配列(それも、ハードカバーの書籍や文庫といった異なる判型の本を取り混ぜた)には、思わず「むむっ」と唸りましたね。前よりいささかスペースは小さくなっているとしても、海外文学へのこだわりっぷりは、しっかりと守られているように思われました。
その海外文学棚の隣には、「本」や「本屋」「出版」「編集」にまつわる本を集めた棚がつくられておりました。この棚にも、本に関心のある向きなら思わず手に取りたくなるような本がズラッと揃えられていて、感服いたしました。
これら文芸書の棚からは、とことん本がお好きな担当者が、しっかりとこだわって棚つくりをしているなあ、という印象を受けて、素直に嬉しい気持ちになりました。
雑誌コーナーには、さまざまなジャンルの雑誌の最新号はもちろんのこと、『pen』や『BRUTUS』『POPEYE』などといった高感度系雑誌のバックナンバーが平積みしてあったりして、いろいろと手に取ってめくってみたくなってきました。
ビジネス書や、教養系の新書や文庫、専門書、資格試験関連の本などを集めた地下1階は、1階よりも照明が落ち着いた感じで、ゆっくりと本選びができそうです。腰かけて本を閲覧したり、ひと息つけたりできるスペースが広めに設けられているのも嬉しいところでしょう。
そして、わたしがもっとも目を見張ったのは、女性向けのファッションやコスメ、ライフスタイルに関する本を陳列する2階エリアでした。
ここでは、化粧品やアクセサリーなどのテナントの中に、それぞれに関連した本が一緒に陳列されているという趣向がなされておりました。
それぞれの商品と書籍が、互いの魅力を高め合うかのように並べられた陳列の妙。これにはかなり、惹かれるものがありました。
単に書店とテナントが併設されているというだけにとどまらず、それぞれが融合しているかのような売り場づくりの面白さ。これにはただただ、お見事と言いたい気持ちがいたしました。
これに加えて、コミックやライトノベル、ゲーム関連、そしてDVDやCDのレンタル&販売をメインとする3階エリアが続きます。
本や雑誌をゆっくり選び、気になるDVDやCD、ファッションやコスメをチェックしつつ、カフェで憩いの時を過ごす・・・。その気になれば一日中ゆったりできるような、思っていた以上に豊かな感じの文化的スポットであるなあ、という印象を、三年坂の蔦屋書店から受けました。
(2)祈再開!休業中の金龍堂まるぶん店で滂沱の涙
三年坂の蔦屋書店を出たあと、下通エリアから上通エリアへと移りました。上通のアーケード街にも、ぜひ訪ねてみたい書店がありました。
しかし、そのうちの一軒は現在休業中。店先には、シャッターが下ろされたままの状態でした。熊本の老舗書店の一つである「金龍堂まるぶん店」です。
店先に立つカッパの像とともに、多くの人から親しまれていた「まるぶん店」。わたしも、単身赴任で熊本に住んでいた25年ほど前に立ち寄った記憶がございます。
しかし、「まるぶん店」は熊本地震により店舗に損傷を受けたことで敷地への立ち入りが禁止となり、営業の休止を余儀なくされておりました。現時点で、再開の見通しも立っていない状況だといいます。
地震により閉ざされたままの「まるぶん店」のシャッターに、いくつかの紙が貼られているのが見えました。近づいてみると、そこには「まるぶん店」の復活を願う人たちからの、たくさんの応援メッセージが書き込まれておりました。
「熊本の本好きがみーんなでまってます。光が消えたみたい・・・一日も早い再開を願ってます」
「学生の頃からお世話になってます。今は東大阪から応援してます!!頑張れ!」
「少しずつ、ゆっくり、ともに回復していきましょう!」
「まるぶんさん、いつまでも開店するのをまっとるばい」
「まるぶんのない上通りなんて、ありえなーい 再開を祈ります!」
「宮崎から来ました!また来ます!ガンバレ!!」
「足のわるい人も ゆっくりできる 本屋が必要です」
「早く再開できますように。そしてまたみんなと会えますように」
・・・地元の方々はもちろん、県外からやってきた方々からも寄せられていた、「まるぶん店」への愛着と再開への願いがこもったメッセージの数々。それらからは、このお店が長きにわたって人びとから愛され親しまれ、かつそれらの方々の支えともなっていたことが、じんじんと伝わってきました。
これらのメッセージを読んでいるうちに、人通りの多い上通の真っ只中であるにもかかわらず、涙があふれ出てきて止まらなくなりました。熊本旅から1週間ちょっと経った今、こうして思い返していても目頭が熱くなってくるのを感じます。お店を再開できない状況を余儀なくされているスタッフの方々も、さぞかし悔しさと無念の思いを抱いておられるのではないかとお察しいたします。
一日も早く、「まるぶん」さんが完全復活を果たすことを、そして次に熊本にお邪魔するときには、復活を果たした「まるぶん」さんに立ち寄ることができるよう、降りたままのシャッターの前で願わずにはおれませんでした。
涙目のわたしがメッセージを目にしていた前で、一人の女性が持ってきていたペンで、紙にメッセージを書き込んでおられました。
(3)「麺処 眞力」の赤牛カレーライスに舌鼓(生ビールも)
時刻はお昼近くとなってきておりました。ひとまずここで昼食を食べることにしたわたしは、上通アーケードの中にあるうどんと丼物のお店「麺処 眞力」に立ち寄り、「赤牛カレーライス」をいただきました。
ワインで煮込んでいるという赤牛の肉は柔らかく、噛むほどに旨味がじわじわと口の中に広がりました。カレーもスパイスが効いていて美味しゅうございました。・・・で、またも真っ昼間から生ビールもいただいたり。
(4)お宝本がけっこうありそうだった古書店・舒文堂河島書店
昼食を終えて書店めぐりを再開したわたしは、上通アーケードを抜けてすぐ、並木坂に入ったところにある古書店「舒文堂(じょぶんどう)河島書店」に入ることにいたしました。店先からして正統派の古書店、という感じで、強く惹かれるものがございました。
「書物文化の愉しみをひろげる店」をモットーとして掲げるこの古書店、中に入ると、主力として扱っている歴史関係の書物の品ぞろえに圧倒されました。地元熊本や九州を中心にして、古代から近現代までのさまざまなテーマの歴史書がズラッと並ぶ書棚は、じっくり時間をかけて見ていけば、あまり見かけないようなお宝本がいろいろと出てきそうでした。
歴史のほかには文学関係の書物もかなりありましたが、入り口近くの棚に並んでいる映画関連書の品ぞろえも、なかなかの充実ぶりでした。
いろいろと見ているとあれもこれも買いたくなってはきましたが、あいにく資金と抱えられる荷物には限界がございます。少々迷った末、『日本百年写真館』I・II(朝日文庫、1985年)を買いました。これらもすでに絶版となっているので、ささやかとはいえ嬉しい買い物でした。
お会計のとき、9月末から10月はじめにかけて、中心街の鶴屋百貨店で開催される古書販売会のチラシをくださいました(舒文堂さんを含めた5軒の古書店の共催のようでした)。まことに残念ながらそれには行けないのですが、ちょっと覗いてみたい気もいたしましたねえ。
熊本は古書文化のほうも、なかなか豊かなようであります。
(5)地域密着の老舗店の気概を感じた長崎書店
舒文堂河島書店を出たあと、上通でもう一軒立ち寄ってみたかった書店である「長崎書店」に入りました。
創業が明治22年というかなりの老舗であるお店ですが、明るくきれいな店内は、ことさら「老舗」くささのようなものを感じさせないような雰囲気でした。
入ってみて驚かされるのは、入り口のすぐ左側に、美術やデザイン、建築関係の書棚や平台が設けられていることです。その品ぞろえも、なかなか充実しているようでした。
一般的な書店では、入り口近くには話題の新刊書だったり、雑誌の最新号あたりが並べられていることが多く、美術やデザインに関する本のコーナーはお店の奥のほうに、それもこじんまりと設けられていたりします。ところが長崎書店は、お店の顔である入り口近くに、美術関連のコーナーを大々的に展開しているのです。
入り口右側のほうには、熊本に関する本や雑誌を集めたコーナーがありました。
熊本の情報誌をはじめ、熊本の歴史や文化、風土についての本、熊本ゆかりの作家たちの作品、さらには水俣病に関する本がしっかりと揃えられています。上通商店街の歴史を語った証言集など、ほかではまず見かけないのではないかという本も。熊本のことをもっと深く知りたいと思う向きには、なかなか重宝するコーナーではないかと思いました。
少し奥に進むと、報道写真集を中心にした熊本地震関連の出版物と合わせて、地震のメカニズムについて書かれた本や、地震への備えを説いた本などを特集したコーナーも。
話題の新刊書を陳列した一角を見ると、そこにはなんと村上春樹さんのサイン入り色紙が。熊本を訪れたおりに、この長崎書店にも立ち寄られたというのです。
色紙には日付とお名前とともに、「長崎書店さん、がんばってください」という言葉が、訥々とした字で記されておりました。
また、7月に亡くなられた永六輔さんを追悼したコーナーも、わりと目立つところで展開しておりました。
文芸書や人文系の書物の品ぞろえもけっこう充実していて、良質の書籍をしっかりと売っていこうという気概のようなものを感じることができました。
店内には、『すすめ!!パイレーツ』や『ストップ!!ひばりくん!』などの作品で人気を博すとともに、さまざまな媒体でイラストやデザインを手がけている、熊本出身の漫画家・江口寿史さんのポストカードやTシャツを集めたコーナーもありました。熊本市現代美術館が開催する江口さんの展覧会「KING OF POP」に連動したコーナーのようでした。
美術館のギャラリーを中心にして、上通のさまざまな店舗が連動するという、ユニークな趣向の江口さんの展覧会。ぜひ観覧してみたくなりましたが、会期はわたしが熊本旅から帰ったあとの、9月22日から11月6日まででありました。・・・うう、あとちょっとだけ、開幕を早くして欲しかった・・・。
一見「老舗」っぽさを感じさせないような、明るくきれいな雰囲気の長崎書店。しかしそこからは、地元熊本に根を下ろしながら、地域文化をしっかりと担っていこうという、老舗ならではの気概を感じとることができたのでありました。
ということで、駆け足で数軒回った程度ではありましたが、熊本市中心街の主だった書店を訪ねてきました。
そこから感じたのは、しっかりと良質の本を提示して売っていこうとするそれぞれの書店の気概であり、そういった書店が成り立っている熊本という街の、文化的な豊かさと底力といったようなものでした。
地震によって大きな被害を受けた熊本ですが、この文化的な豊かさと底力によって災いを糧となし、きっとよりよい復興を遂げていくことができるのではないか。そう思えてくるのであります。
(6)「積読書店員ふぃぶりお」さんとの出会い
熊本中心街の書店めぐりを一通り終えたわたしは、以前から畏敬の念を持っていたお方と待ち合わせるべく、再び蔦屋書店熊本三年坂店に入りました。熊本の現役書店員さんである「積読書店員ふぃぶりお」さんであります。
「ふぃぶりお」さんは本業のかたわら、本や出版、書店に関する情報を丹念に集めては、ツイッターでこまめに発信しておられる方であります(ツイッターのアカウントは「 @fiblio2011 」)。「ふぃぶりお」さんが発信してくださる情報は、わたしにとってもすごく参考になるものが多く、実にありがたいのであります。
その「ふぃぶりお」さんが熊本の方だと知ったのは、熊本地震のあとのことでした。熊本地震以降は、出版関係の情報に加えて、熊本の現状を伝える情報の発信もこまめになさっておられます。
「ふぃぶりお」さんが熊本地震のあとにブログにアップした「わが人生の「教科書」井上靖『あすなろ物語』を再読して蘇る青春の記憶」と、「本読みの人が、熊本と熊本の本屋を支援するための6つの方法」という2本の記事には、書物と本屋、そして熊本への愛着が溢れていて、ぜひとも多くの方にお読みいただきたいと願うところです。
そんな畏敬の念を持っている方との初対面ということで、緊張しきりだったわたしの目の前に現れた「ふぃぶりお」さんは、理知的でありながら穏やかな表情をたたえた好青年でありました。蔦屋三年坂店の中にあるカフェでしばしの間、お話させていただくことができました。
「ふぃぶりお」さんとのお話でとりわけ印象に残ったのは、そのフットワークの軽やかさでした。
気になる人物やイベントがあれば、それが遠方であろうと足を運んでみるという「ふぃぶりお」さんの姿勢。時間やお金の不足を言いわけにしつつ、狭い行動半径の中で生きているわたしとしては、大いに学ばねばならないなあ、と思ったことでした。
(ちなみに、この日は休日だったという「ふぃぶりお」さんは、このあと南阿蘇鉄道の駅舎にある古書店「ひなた文庫」でのイベントに参加すべく、阿蘇へと足を伸ばされておりました)
いや、フットワークの軽やかさだけでなく、張り巡らせるアンテナや好奇心の広さという点でも、「ふぃぶりお」さんからは学ぶべきところが多々あるように思います。
短い時間ではありましたが、「ふぃぶりお」さんと出会ってお話できたことは、今回の熊本旅の大きな収穫のひとつとなりました。
夕方の飲み歩きのとき。「ふぃぶりお」さんから「ちょっと覗いてみては」と勧められていた「橙書店」に行ってみることにいたしました。
飲み屋街の真っ只中にある、カフェと雑貨店を兼ねた小さな本屋さんでしたが、別の場所へお引っ越しということでひとまず閉店し、中では移転のための荷づくりが行われている最中のようでした。
村上春樹さんが詩の朗読会を開くなど、文学好きには定評のあった「橙書店」。次に熊本を訪れるときにはぜひ、新たな場所で再開したお店に立ち寄ってみたいな、と思います。
(第6回に続く)
中心街から書店が次々になくなっている、地方都市のまことに寂しい現状の中で(わが宮崎市でも、中心街にあるのはチェーン店の蔦屋書店とヴィレッジヴァンガードくらいだもんなあ)、熊本市の中心街には老舗を含め、多くの書店が頑張って営業を続けております。街歩きを楽しみながら、ふらりと立ち寄ることができる本屋さんがいくつもあるというのは、実に羨ましいところであります。
(1)想像以上に豊かな文化的空間だった、蔦屋書店熊本三年坂店
まず最初に立ち寄ったのは、下通のアーケード街から伸びる三年坂通りにある商業施設「カリーノ」にある「蔦屋書店熊本三年坂店」です。
店名にあるように、ここも蔦屋書店グループのひとつなのですが、品ぞろえがなかなか素晴らしいという高い評価を受けていて、気になっていた書店のひとつでした。
全国各地の書店をイラストとともに紹介した『本屋図鑑』(得地直美・本屋図鑑編集部著、夏葉社)でも、その品ぞろえの素晴らしさ、とりわけ海外文学棚の充実ぶりが伝えられていて、それもぜひ見ておこうと思っておりました。
地上3階、地下1階にまたがる書店フロアには、文具やファッション関連の販売店やカフェなど、15のテナントが併設されております。
1階は雑誌や話題の新刊書、文芸書、文庫を中心に揃えたエリアです。
フロアをひとわたり廻ったあと、高い評価を受けていた海外文学の棚を拝見いたしました。
あとから聞いた話では、今年(2016年)の6月にリニューアルされた際、それまでよりは少々スペースが小さくなっている、とのことでしたが、古代から現代までの海外文学の歴史と流れを、目に見えるように示してくれている配列(それも、ハードカバーの書籍や文庫といった異なる判型の本を取り混ぜた)には、思わず「むむっ」と唸りましたね。前よりいささかスペースは小さくなっているとしても、海外文学へのこだわりっぷりは、しっかりと守られているように思われました。
その海外文学棚の隣には、「本」や「本屋」「出版」「編集」にまつわる本を集めた棚がつくられておりました。この棚にも、本に関心のある向きなら思わず手に取りたくなるような本がズラッと揃えられていて、感服いたしました。
これら文芸書の棚からは、とことん本がお好きな担当者が、しっかりとこだわって棚つくりをしているなあ、という印象を受けて、素直に嬉しい気持ちになりました。
雑誌コーナーには、さまざまなジャンルの雑誌の最新号はもちろんのこと、『pen』や『BRUTUS』『POPEYE』などといった高感度系雑誌のバックナンバーが平積みしてあったりして、いろいろと手に取ってめくってみたくなってきました。
ビジネス書や、教養系の新書や文庫、専門書、資格試験関連の本などを集めた地下1階は、1階よりも照明が落ち着いた感じで、ゆっくりと本選びができそうです。腰かけて本を閲覧したり、ひと息つけたりできるスペースが広めに設けられているのも嬉しいところでしょう。
そして、わたしがもっとも目を見張ったのは、女性向けのファッションやコスメ、ライフスタイルに関する本を陳列する2階エリアでした。
ここでは、化粧品やアクセサリーなどのテナントの中に、それぞれに関連した本が一緒に陳列されているという趣向がなされておりました。
それぞれの商品と書籍が、互いの魅力を高め合うかのように並べられた陳列の妙。これにはかなり、惹かれるものがありました。
単に書店とテナントが併設されているというだけにとどまらず、それぞれが融合しているかのような売り場づくりの面白さ。これにはただただ、お見事と言いたい気持ちがいたしました。
これに加えて、コミックやライトノベル、ゲーム関連、そしてDVDやCDのレンタル&販売をメインとする3階エリアが続きます。
本や雑誌をゆっくり選び、気になるDVDやCD、ファッションやコスメをチェックしつつ、カフェで憩いの時を過ごす・・・。その気になれば一日中ゆったりできるような、思っていた以上に豊かな感じの文化的スポットであるなあ、という印象を、三年坂の蔦屋書店から受けました。
(2)祈再開!休業中の金龍堂まるぶん店で滂沱の涙
三年坂の蔦屋書店を出たあと、下通エリアから上通エリアへと移りました。上通のアーケード街にも、ぜひ訪ねてみたい書店がありました。
しかし、そのうちの一軒は現在休業中。店先には、シャッターが下ろされたままの状態でした。熊本の老舗書店の一つである「金龍堂まるぶん店」です。
店先に立つカッパの像とともに、多くの人から親しまれていた「まるぶん店」。わたしも、単身赴任で熊本に住んでいた25年ほど前に立ち寄った記憶がございます。
しかし、「まるぶん店」は熊本地震により店舗に損傷を受けたことで敷地への立ち入りが禁止となり、営業の休止を余儀なくされておりました。現時点で、再開の見通しも立っていない状況だといいます。
地震により閉ざされたままの「まるぶん店」のシャッターに、いくつかの紙が貼られているのが見えました。近づいてみると、そこには「まるぶん店」の復活を願う人たちからの、たくさんの応援メッセージが書き込まれておりました。
「熊本の本好きがみーんなでまってます。光が消えたみたい・・・一日も早い再開を願ってます」
「学生の頃からお世話になってます。今は東大阪から応援してます!!頑張れ!」
「少しずつ、ゆっくり、ともに回復していきましょう!」
「まるぶんさん、いつまでも開店するのをまっとるばい」
「まるぶんのない上通りなんて、ありえなーい 再開を祈ります!」
「宮崎から来ました!また来ます!ガンバレ!!」
「足のわるい人も ゆっくりできる 本屋が必要です」
「早く再開できますように。そしてまたみんなと会えますように」
・・・地元の方々はもちろん、県外からやってきた方々からも寄せられていた、「まるぶん店」への愛着と再開への願いがこもったメッセージの数々。それらからは、このお店が長きにわたって人びとから愛され親しまれ、かつそれらの方々の支えともなっていたことが、じんじんと伝わってきました。
これらのメッセージを読んでいるうちに、人通りの多い上通の真っ只中であるにもかかわらず、涙があふれ出てきて止まらなくなりました。熊本旅から1週間ちょっと経った今、こうして思い返していても目頭が熱くなってくるのを感じます。お店を再開できない状況を余儀なくされているスタッフの方々も、さぞかし悔しさと無念の思いを抱いておられるのではないかとお察しいたします。
一日も早く、「まるぶん」さんが完全復活を果たすことを、そして次に熊本にお邪魔するときには、復活を果たした「まるぶん」さんに立ち寄ることができるよう、降りたままのシャッターの前で願わずにはおれませんでした。
涙目のわたしがメッセージを目にしていた前で、一人の女性が持ってきていたペンで、紙にメッセージを書き込んでおられました。
(3)「麺処 眞力」の赤牛カレーライスに舌鼓(生ビールも)
時刻はお昼近くとなってきておりました。ひとまずここで昼食を食べることにしたわたしは、上通アーケードの中にあるうどんと丼物のお店「麺処 眞力」に立ち寄り、「赤牛カレーライス」をいただきました。
ワインで煮込んでいるという赤牛の肉は柔らかく、噛むほどに旨味がじわじわと口の中に広がりました。カレーもスパイスが効いていて美味しゅうございました。・・・で、またも真っ昼間から生ビールもいただいたり。
(4)お宝本がけっこうありそうだった古書店・舒文堂河島書店
昼食を終えて書店めぐりを再開したわたしは、上通アーケードを抜けてすぐ、並木坂に入ったところにある古書店「舒文堂(じょぶんどう)河島書店」に入ることにいたしました。店先からして正統派の古書店、という感じで、強く惹かれるものがございました。
「書物文化の愉しみをひろげる店」をモットーとして掲げるこの古書店、中に入ると、主力として扱っている歴史関係の書物の品ぞろえに圧倒されました。地元熊本や九州を中心にして、古代から近現代までのさまざまなテーマの歴史書がズラッと並ぶ書棚は、じっくり時間をかけて見ていけば、あまり見かけないようなお宝本がいろいろと出てきそうでした。
歴史のほかには文学関係の書物もかなりありましたが、入り口近くの棚に並んでいる映画関連書の品ぞろえも、なかなかの充実ぶりでした。
いろいろと見ているとあれもこれも買いたくなってはきましたが、あいにく資金と抱えられる荷物には限界がございます。少々迷った末、『日本百年写真館』I・II(朝日文庫、1985年)を買いました。これらもすでに絶版となっているので、ささやかとはいえ嬉しい買い物でした。
お会計のとき、9月末から10月はじめにかけて、中心街の鶴屋百貨店で開催される古書販売会のチラシをくださいました(舒文堂さんを含めた5軒の古書店の共催のようでした)。まことに残念ながらそれには行けないのですが、ちょっと覗いてみたい気もいたしましたねえ。
熊本は古書文化のほうも、なかなか豊かなようであります。
(5)地域密着の老舗店の気概を感じた長崎書店
舒文堂河島書店を出たあと、上通でもう一軒立ち寄ってみたかった書店である「長崎書店」に入りました。
創業が明治22年というかなりの老舗であるお店ですが、明るくきれいな店内は、ことさら「老舗」くささのようなものを感じさせないような雰囲気でした。
入ってみて驚かされるのは、入り口のすぐ左側に、美術やデザイン、建築関係の書棚や平台が設けられていることです。その品ぞろえも、なかなか充実しているようでした。
一般的な書店では、入り口近くには話題の新刊書だったり、雑誌の最新号あたりが並べられていることが多く、美術やデザインに関する本のコーナーはお店の奥のほうに、それもこじんまりと設けられていたりします。ところが長崎書店は、お店の顔である入り口近くに、美術関連のコーナーを大々的に展開しているのです。
入り口右側のほうには、熊本に関する本や雑誌を集めたコーナーがありました。
熊本の情報誌をはじめ、熊本の歴史や文化、風土についての本、熊本ゆかりの作家たちの作品、さらには水俣病に関する本がしっかりと揃えられています。上通商店街の歴史を語った証言集など、ほかではまず見かけないのではないかという本も。熊本のことをもっと深く知りたいと思う向きには、なかなか重宝するコーナーではないかと思いました。
少し奥に進むと、報道写真集を中心にした熊本地震関連の出版物と合わせて、地震のメカニズムについて書かれた本や、地震への備えを説いた本などを特集したコーナーも。
話題の新刊書を陳列した一角を見ると、そこにはなんと村上春樹さんのサイン入り色紙が。熊本を訪れたおりに、この長崎書店にも立ち寄られたというのです。
色紙には日付とお名前とともに、「長崎書店さん、がんばってください」という言葉が、訥々とした字で記されておりました。
また、7月に亡くなられた永六輔さんを追悼したコーナーも、わりと目立つところで展開しておりました。
文芸書や人文系の書物の品ぞろえもけっこう充実していて、良質の書籍をしっかりと売っていこうという気概のようなものを感じることができました。
店内には、『すすめ!!パイレーツ』や『ストップ!!ひばりくん!』などの作品で人気を博すとともに、さまざまな媒体でイラストやデザインを手がけている、熊本出身の漫画家・江口寿史さんのポストカードやTシャツを集めたコーナーもありました。熊本市現代美術館が開催する江口さんの展覧会「KING OF POP」に連動したコーナーのようでした。
美術館のギャラリーを中心にして、上通のさまざまな店舗が連動するという、ユニークな趣向の江口さんの展覧会。ぜひ観覧してみたくなりましたが、会期はわたしが熊本旅から帰ったあとの、9月22日から11月6日まででありました。・・・うう、あとちょっとだけ、開幕を早くして欲しかった・・・。
一見「老舗」っぽさを感じさせないような、明るくきれいな雰囲気の長崎書店。しかしそこからは、地元熊本に根を下ろしながら、地域文化をしっかりと担っていこうという、老舗ならではの気概を感じとることができたのでありました。
ということで、駆け足で数軒回った程度ではありましたが、熊本市中心街の主だった書店を訪ねてきました。
そこから感じたのは、しっかりと良質の本を提示して売っていこうとするそれぞれの書店の気概であり、そういった書店が成り立っている熊本という街の、文化的な豊かさと底力といったようなものでした。
地震によって大きな被害を受けた熊本ですが、この文化的な豊かさと底力によって災いを糧となし、きっとよりよい復興を遂げていくことができるのではないか。そう思えてくるのであります。
(6)「積読書店員ふぃぶりお」さんとの出会い
熊本中心街の書店めぐりを一通り終えたわたしは、以前から畏敬の念を持っていたお方と待ち合わせるべく、再び蔦屋書店熊本三年坂店に入りました。熊本の現役書店員さんである「積読書店員ふぃぶりお」さんであります。
「ふぃぶりお」さんは本業のかたわら、本や出版、書店に関する情報を丹念に集めては、ツイッターでこまめに発信しておられる方であります(ツイッターのアカウントは「 @fiblio2011 」)。「ふぃぶりお」さんが発信してくださる情報は、わたしにとってもすごく参考になるものが多く、実にありがたいのであります。
その「ふぃぶりお」さんが熊本の方だと知ったのは、熊本地震のあとのことでした。熊本地震以降は、出版関係の情報に加えて、熊本の現状を伝える情報の発信もこまめになさっておられます。
「ふぃぶりお」さんが熊本地震のあとにブログにアップした「わが人生の「教科書」井上靖『あすなろ物語』を再読して蘇る青春の記憶」と、「本読みの人が、熊本と熊本の本屋を支援するための6つの方法」という2本の記事には、書物と本屋、そして熊本への愛着が溢れていて、ぜひとも多くの方にお読みいただきたいと願うところです。
そんな畏敬の念を持っている方との初対面ということで、緊張しきりだったわたしの目の前に現れた「ふぃぶりお」さんは、理知的でありながら穏やかな表情をたたえた好青年でありました。蔦屋三年坂店の中にあるカフェでしばしの間、お話させていただくことができました。
「ふぃぶりお」さんとのお話でとりわけ印象に残ったのは、そのフットワークの軽やかさでした。
気になる人物やイベントがあれば、それが遠方であろうと足を運んでみるという「ふぃぶりお」さんの姿勢。時間やお金の不足を言いわけにしつつ、狭い行動半径の中で生きているわたしとしては、大いに学ばねばならないなあ、と思ったことでした。
(ちなみに、この日は休日だったという「ふぃぶりお」さんは、このあと南阿蘇鉄道の駅舎にある古書店「ひなた文庫」でのイベントに参加すべく、阿蘇へと足を伸ばされておりました)
いや、フットワークの軽やかさだけでなく、張り巡らせるアンテナや好奇心の広さという点でも、「ふぃぶりお」さんからは学ぶべきところが多々あるように思います。
短い時間ではありましたが、「ふぃぶりお」さんと出会ってお話できたことは、今回の熊本旅の大きな収穫のひとつとなりました。
夕方の飲み歩きのとき。「ふぃぶりお」さんから「ちょっと覗いてみては」と勧められていた「橙書店」に行ってみることにいたしました。
飲み屋街の真っ只中にある、カフェと雑貨店を兼ねた小さな本屋さんでしたが、別の場所へお引っ越しということでひとまず閉店し、中では移転のための荷づくりが行われている最中のようでした。
村上春樹さんが詩の朗読会を開くなど、文学好きには定評のあった「橙書店」。次に熊本を訪れるときにはぜひ、新たな場所で再開したお店に立ち寄ってみたいな、と思います。
(第6回に続く)
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