読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

3年ぶりの熊本がまだせ旅(第5回) シェリーの美味しい気さくなバーと、人吉球磨の情報誌『どぅぎゃん』に出会えた、熊本夜歩き第2ラウンド

2022-12-07 19:52:00 | 旅のお噂
山鹿散策を終え、ふたたび熊本市の繁華街へと戻ったわたしは、この日の宿泊先である「東横INN熊本新市街」にチェックインいたしました。
東横INNに泊まるのも久しぶりのことでしたが、フロントで渡された部屋のカギはやはりカードキー。ビックリいたしましたが、前日のこともあってまごつくことなく使えました。どうやらコロナ莫迦騒ぎを機に、多くのホテルでカードキーが導入されたということなのでありましょう。いやはや、世の中もいろいろと変わったもんですなあ。
なにはともあれ、シャワーを浴びてひと息ついたあと、お楽しみの熊本夜歩き第2ラウンドに出陣したのであります。

この日は、ぜひ一度立ち寄ってみたいと思っていたお店がありました。なんでもおでん屋台からスタートしたという、熊本では老舗の居酒屋「瓢六」さんであります。前回の熊本訪問のときに立ち寄った姉妹店「天草」さんがなかなかいい感じだったので、今度はぜひとも「瓢六」さんのほうに・・・と目論んでいたのです。
ところがいざ行ってみると、あるべきハズの場所にお店がありません。それならと、背中合わせに立っていた「天草」のほうに行くと、そちらにもお店がありませんでした。
なんだなんだどうしたというのだ・・・と、ローバイしつつ手元のタブレットでネット検索をかけてみると、つい最近2つのお店を統合させた「天草瓢六」としてリニューアルし、近くに移転したということがわかりました。おおそれならよかったよかった・・・と一安心しながら、そちらのほうに行ってみると、まだ建って間もない感じのビルの1階にお店がありました。

居酒屋というより、どこか高級感が漂う割烹店かなにかのような店先ですが、入り口にはたしかに「天草瓢六」と記された小さい看板があります。ああここで間違いなさそうだのう・・・と思いながら、いささか緊張しつつ店内に入り、あのう一人なんですけど空いてますか?と尋ねますと、
「予約が入ってていっぱいなんだけど・・・4〜50分くらいでよろしければカウンターにどうぞ」
とのお答えが。そういえば、前回「天草」さんに入ったときも、同じような展開だったのを思い出し、今もなお高い人気を誇っていることを認識させられました。ああこれはやはり、予約して来るべきだったなあ・・・と思いましたが、まあ少しでも呑み食いできればいいか、と思い直し、カウンターに座りました。
真新しい店内もどことなく高級感があり、いささか気圧されてしまっておりましたが、名物であるおでんを筆頭に、お寿司や刺身などの海鮮料理が並ぶメニュー構成は以前と変わらないようであります。ちょっと安心しつつ、生ビールとともにおでんを注文いたしました。突き出しに出てきたのはカツオのたたき。いいねえ。


たまごに大根、タコといった定番のおでんタネとともに注文したのが、牛ならぬ馬のスジ肉と「くんせい」。牛よりもさっぱりした馬のスジ肉と、かまぼこの燻製を煮込んだ「くんせい」はいずれも美味しく、ビールが進みました。さればお次は日本酒を!ということで、熊本市の蔵元「瑞鷹」の「芳醇純米酒」を注文いたしました。

スッキリした飲み口の中から、米の旨味がじわじわと口に広がってきて、まことにいいお酒であります。黒のラベルもかっこいいねえ。
ここはせめてもう一品食べておきたいということで、ホタテ貝柱のバター焼きも注文。プリプリした貝柱がバターと良く合って、こちらも美味しくいただきました。

呑み食いを楽しんでいるあいだ、お店には次々にお客さんが入ってきておりました。その多くが以前からのお馴染みさんのようで、カウンターの中にいるお店の方々に向かって「お久しぶりです〜」などと声をかけておられました。こうやってお馴染みさんに愛され続けているところに、老舗居酒屋の良さが感じられていいですねえ。
短い時間しかいられなかったのは残念でしたが、立ち寄ることができてよかったです。今度はぜひとも、予約した上で行かなければな。

もう一軒どこか居酒屋に立ち寄ろうかなあ・・・とも考えたのですが、前日からの美食続きのためなのか、少々胃が疲れ気味のようでしたので、しばし街を散策することにいたしました。

上通りのアーケード街に入ると、まだまだ多くの人たちで賑わっておりました。この中にある、2軒の老舗書店に立ち寄ってみることにいたしました。まずは「金龍堂まるぶん店」さんへ。

街中の本屋さんとしてはかなり広い売り場を持ち、豊富な品揃えを特徴とする、創業102年のお店です。6年前の熊本地震で大きな被害を受け、しばらく休業を余儀なくされるという困難を乗り越え、その年の秋には見事に再開を果たしました。久しぶりに中を覗いたのですが、幅広いニーズをカバーする品揃えの豊富さに、あらためて感心させられました。
このお店のシンボルとなっているのが、入り口に鎮座する3体のカッパ像。10月ということで、ハロウィン仕様の飾り付けがされているのが、なんとも微笑ましいのでありました。


上通りにあるもう一軒の老舗書店は「長崎書店」さん。こちらも、明治22年の創業から133年になるという歴史あるお店であります。

こちらも、いわゆる「街の本屋さん」的な幅広い商品構成でありながら、売り場のところどころに独特のこだわりも感じられて、本好きの琴線をくすぐってくれます。とりわけ、ノンフィクションや思想書、美術関連の品揃えには唸らされるものがあります。入り口近くの熊本関連書コーナーも見逃せません。
その熊本関連書コーナーを覗いていたとき、一冊の雑誌の表紙が目に止まりました。人吉市で発行されている情報誌『どぅぎゃん』(発行=ぷらんどぅデザイン工房)であります。

人吉・球磨地区のさまざまな話題を取り上げている、月刊のローカル情報誌。その存在は、前日熊本城の近くで開催されていた、人吉・球磨地区を支援する写真パネル展で知りました(第2回で触れました)。被災当時の状況を伝える写真とともに展示されていた、復興に向けて進んでいこうとする地元の方々の写真の中に、『どぅぎゃん』の編集室と、そのスタッフを紹介した写真パネルがあったのです。
(↑前日に観覧した写真パネル展より)
人吉・球磨の歴史や文化、産業、グルメ、そしてそこに暮らす「人」を丁寧に取り上げている・・・というこの雑誌。創刊されたのが2000年とのことなので、もう20年あまりにわたって、しかも月刊ペースで発行が続いているということに驚きました。一地方のローカル誌としては、なかなかの健闘ぶりといえましょう。
いったいどんな雑誌なんだろう・・・と気になっていたところに、「長崎書店」さんの熊本関連書のコーナーに、その『どぅぎゃん』が置かれていたのですから、これはもう買うしかない!ということで、さっそく購入いたしました。

旅から帰ったあとに読んでみると、これがなかなか面白いのです。地元のアマチュア天文カメラマンによる星空写真や、全国大会に出場した運動系・文化系の部活高校生たちの紹介、そしてホルモン料理の美味しい飲食店の紹介・・・といった特集企画をはじめ、歴史や風土を深掘りしたコーナー、ファッション系のショップ情報、生後まもない子どもたちの愛らしい表情を集めたページ、法律相談に占いコーナー・・・などなど、多彩な切り口で人吉・球磨の「いま」を伝えてくれます。もちろん、誌面に掲載されている広告もすべて、地元の企業やお店のもので占められております。
人吉・球磨の「いま」の中には、2年前の豪雨災害から立ち直ろうとする皆さんの姿もあります。豪雨災害で被災しながらも、修理を経て再生された小学校とお寺のピアノによる演奏会のレポートに加え、自宅を飲み込んだ川のそばに、あえて新しい自宅を再建された方を取り上げたページも。そこからは、これからも川とともに地元で生きていこうとする、人吉の皆さんの静かなる決意のようなものが伝わってくるようでした。
驚いたのは、俳優の中原丈雄さんがエッセイを連載されていること。中原さん、人吉のご出身だったんですねえ。数多くの映画やドラマ、舞台でご活躍の役者さんなのですが、個人的には『ゴジラ2000ミレニアム』以降のいわゆる「ミレニアムゴジラシリーズ」の常連出演者として馴染み深いんだよねえ。なんにせよ、これはちょっと嬉しい発見でありました。
『どぅぎゃん』を読んでいると、なんだか無性に人吉・球磨へ出かけたくなってまいりました。次の熊本旅行の機会には、人吉にもぜひ立ち寄ってみたいと思うのであります。
(『どぅぎゃん』についての詳しいことは、こちらのサイトをご参照くださいませ。→ http://dougyan.com/dougyan.html )

・・・このあたりで再び、お話を熊本呑み歩き2日目に戻すことにいたしましょう。
すでに熊本でお気に入りのバーを持っているわたしですが、実はまだまだ、熊本には気になるバーがございました。そのうちの一軒である「STATES」(ステイツ)さんに立ち寄ってみることにいたしました。開業から40年近い本格派のバーということで、ちょっと気になるお店だったのです。

雑居ビルの4階に上がってお店の前に来ると、開け放たれた扉からお店の中が見えました。
一人呑みが大好きとはいえ、やはり初めてのお店に入ろうとするときには緊張するものであります。いささか身を縮こませるようにしつつ店内に入り、「こんばんは・・・えーとひとりなんですけどよろしいでしょうか」と尋ねると、若いバーテンダーの方が愛想よく出迎えつつ、カウンター席をすすめてくださいました。カウンターの中にはもう一人、口ひげを生やした男性がおられて、やはり愛想よく話しかけてくださいました。この方がマスター氏であります。お二人が気さくに迎えてくださったおかげで、緊張していた気持ちがだいぶ和みました。
ホッとひと息ついたところで、「おすすめ」のところに記されていた白桃とスパークリングワインのカクテル「ベリーニ」を注文いたしました。爽快にしてフルーティな味わいが口の中いっぱいに広がって、お口直しには最高の一杯であります。

あらためてメニューを拝見すると、豊富なカクテルやウイスキーと並んで、さまざまなシェリー酒がラインナップされています。そういえば、シェリー酒はまだ飲んだことはなかったなあ・・・ということで、その中のひとつを選んで注文いたしました。なんというのか、取っ手の長い柄杓のような道具(後で知ったのですが、「ベネンシア」という名前の道具だとか)にシェリーを入れ、そこからグラスに注ぐマスター氏の所作が、なんともキマっていていいですねえ。

出てきたシェリーを口に含むと、華やかな芳香とキリッとした切れ味でなかなかの美味しさ。生まれて初めて味わうシェリーの芳醇さに、しばし陶然となりました。これはいいぞ!ということでもう一杯、別の銘柄のシェリーを注文。そちらのほうも、深みのある色と味わいが魅力的でありました。
(どちらも銘柄の名前を失念してしまいました・・・。ああ、ちゃんとメモっておけばよかったのう)

シェリーを飲みながらつまんだのが、見た目も楽しいオイルサーディンのカナッペ。これがまた、おつまみにうってつけの美味しさで、お酒がさらに進んだのでありました。
ふと、酒瓶がずらりと並ぶ後ろの棚を見ていると、そこには映画『007』シリーズのボンドカーとして知られる、アストンマーチンDB5のミニカーが。その話をマスター氏に向けると、「おお、よくお気づきですねえ」とのお答え。それからしばし、『007』映画談義に興じました。
「ウチの妻は(5代目ジェームズ・ボンド役者の)ピアース・ブロスナンのファンなんですよ」というマスター氏のお言葉に合わせるように、カウンターの奥からチャーミングな女性が姿をお見せになりました。おおそうか、ご夫妻で切り盛りされているんだねえ。
お店に入ったときには、お客さんはカウンターに2人おられるだけでしたが、それから次々にご常連とおぼしき方々が入ってきて、いつのまにか店内は満席に近い賑やかな状態になっておりました。ここもまた、多くの方々に愛されているお店なんだなあ・・・そう思いつつ、ひとまずこのあたりでお暇することにいたしました。
熊本に来たらまた寄りたいと思えるお店が、もう一店増えたのでありました・・・。

「STATES」さんをあとにして外に出てみると、下通のアーケード街は夜9時を過ぎてもなお、たくさんの人たちで賑わいを見せておりました。

熊本の盛り場の夜はまだまだ終わりそうにはありませんでしたが、わたしはひとまずお開きということで、前夜に続いて熊本ラーメンで締めることにいたしました。
この夜に立ち寄ったのは、ご当地でも人気のあるラーメン店「黒亭」さんの下通店。胃が少々くたびれ気味だったのを考慮して、玉子ラーメンのハーフサイズである「ちびたまラーメン」を注文いたしました。

コクと旨味が詰まったスープが絡んだ麺が実に美味しく、あっという間に完食。ふと隣を見ると、女性の一人客が普通サイズのラーメンを注文し、しっかりと完食しておられるではありませんか。
ああ、やっぱりオレも普通サイズのラーメンにしときゃよかったかなあ・・・そんな後悔の念が、湯気とともにアタマの後ろをかすめていったのでありました・・・。

                              (最終回につづく)



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