読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

地方の一高校生が見た『知られざる世界』伝説 (下)

2014-04-25 21:04:18 | ドキュメンタリーのお噂

かつて、日本テレビ系列で放送されていた伝説のドキュメンタリー番組『知られざる世界』とはいかなる番組だったのか、ということを、わたくしの高校時代の日記を引用しつつ振り返っていこうという続きものの最終回であります。前回でおしまいにするハズが、3回も引きずるハメとなってしまいました。
こういう妙な続きもので3回もブログを書くとは、我ながらどういうことだか、と呆れるばかりでありますが、時にはこういう妙なことに情熱を燃やすような青春というのもまた良し、ではないかな、と(もう青春だとかいってるようなトシぢゃないだろ、オマエ)。
日記からの引用は、このような斜体文字 で記します(誤記も含めてすべて原文どおりです)。また、宮崎では日本テレビと同時ネットで放送されておりましたので、放送月日はすべて日曜日であります。

1986年(つづき)

8月3日
10時から「知られざる世界」を見た。カツオの四季の追跡レポート。一本釣りのサオさばきは見事であった。


8月10日
10時から「知られざる世界」を見た。先週のカツオに続いて今日はサンマの四季の追跡レポート。


8月17日
10時から「知られざる世界」を見た。食物が消化器で消化される過程を、消化器の働きを説明しながらカメラで追っていた。胃袋や腸などの内部をカメラでとらえた画面は、不思議といおうか不気味といおうか。


8月24日
10時から「知られざる世界」を見た。アメリカの一夫多妻主義者のこと。そのなかの一人なんざ、なんと子孫を400人もかかえていた。しかも、複数の妻たちが協同生活を営んでいるのである。どの妻も、意外とサバサバしているのには驚いた。ある一夫多妻主義者は、「次々と愛人を変える人はいけない。いっぺんに何人かと結婚したほうが良い」と言っていたが、どっちにしろ女好きであることに変わりないと思うのだが。余談だが、リポーターの友杉祐子さんが美人だった(何を見ているんだ、おれは!)。


そうか、リポーターのおねえさんが美人だったか、高校時代のオレよ(笑)。•••あゝ、あらためてこの企画、やるんじゃなかったかも、という後悔がフツフツと(苦笑)。それにしても、なんでわざわざこういうテーマ選んでたんだろうなあ、番組のほうも。

8月31日
10時から「知られざる世界」を見た。首都防災のこと。レポーターの人と数名の住民が、自分たちの避難場所へ行こうとして迷ってしまい、最後にレポーターだけが一時間以上かかってようやくそこに着いた、という一幕があった。これでは大いに困る。


9月7日
10時から「知られざる世界」を見た。火山に挑む科学者のこと。硫酸の火山湖にゴムボートを浮かべて調査する学者の姿も出たが、さぞ生きたここちがしないだろう。


「硫酸の火山湖」というのは、果たしてどこのだったのかなあ。肝心のそういう情報は記さずに、また妙なところの印象だけはしっかり記してやがるからなあ、ったく。

9月14日
10時から「知られざる世界」を見た。カッパに関するレポート。カッパというものは、しいたげられた昔の民衆の暗部から生まれたものという。


こういうカッパの背景というのも、深掘りしていくとなかなか面白そうなものがありそうなのですが•••これもどちらかというと民俗学方面だよなあ。

9月21日
10時から「知られざる世界」を見た。心臓について。心臓内をカメラでとらえた映像はすごかった。


なんかこういう「身体の内部をカメラで覗く」的な趣向がやけに多いような気が。これで3回目ですよ、半年余りで。

10月5日
10時から「知られざる世界」を見た。人間の表情について。


10月12日
10時から「知られざる世界」を見た。今回はいつもの科学からはなれて、女性を美しくする方法についてのレポート。


•••いやいや、ここまでを振り返ってもちょこちょこ、科学からはなれたテーマをやっとるぞ、この番組は。

10月19日
10時から「知られざる世界」を見た。日本の食卓に欠かせないアジやエビ、アサリといったものが、実は東南アジアでとれているのだ、という話。


おお、これはなんだか村井吉敬さんの『エビと日本人』(岩波新書)のようなテーマみたいですね。

10月26日
10時から「知られざる世界」を見た。「世界を食べる日本」の後編。ウニはもちろんのこと、日本髪のカツラやわりばしまでが東南アジア製とは初めて知った。


11月2日
10時から「知られざる世界」を見た。幻の香料ジャコウのこと。


11月9日
10時から「知られざる世界」を見た。ビルマのカレン族の独立戦争のこと。カレン軍がビルマ軍の不発弾を再利用しているのがなんともいえなかった。


ああそうだった、この頃はまだ「ミャンマー」なる国名ではなかったんでしたね。それにしても、これはもうすっかり科学からは離れてしまっているよなあ。

番組についての日記の記述は、これ以降見られなくなります。この1ヶ月あまり後、番組は11年9ヶ月にわたる歴史に終止符を打ったのでした。

こうして振り返ってみるとこの番組、科学を主なテーマにしていたとはいえ、個々の内容は実に雑多だったんだなあという印象を受けました。民俗学があったり超自然があったり、果ては社会派もありで。とはいえ、これはあくまでも番組末期のラインナップであり、これをもって番組の全体像を決めつけるわけにはいかないわけなのですが。
ただ一つ言えるのは、当時のわたくしはこの番組を観続けたことで、科学をはじめとするさまざまなテーマへの関心を広げることができたんだなあ、ということです。そのことは間違いなく、今のわたくしの基礎をつくる上で役に立ってくれたのではないか、としみじみ思うのです。

思えば、わたくしの小学生から高校生にかけての頃には、民放テレビでもけっこう、良質で面白いドキュメンタリー番組を放送していたものでした。
(上)のはじめのほうでも触れた『すばらしい世界旅行』や、やはり日本テレビ系列で放送されていた『驚異の世界』、MBS/TBS系列の『野生の王国』•••。これらの番組からも、多くの驚きや好奇心を与えてもらったように思います。
これらの番組も終了して久しく、同じ時間帯のテレビは今やバラエティばかりとなってしまっております。ちょっと寂しい限りであります。

上のような番組群を観て育ったためか、まだ知られていないような世界や自然の驚異を伝えるような博物学的なドキュメンタリーが、いわばドキュメンタリーの「王道」なのではないかとの思いが、わたくしの中にはあります。
もちろん、ドキュメンタリーにはさまざまなテーマや分野のものがあるわけであり、それぞれならではの見どころや興味深さがあります。
社会の問題や矛盾をするどく抉るような報道系・社会派のドキュメンタリーは、やはりドキュメンタリーにおいては外せない大事な分野でしょう(ちなみに、高校時代には『NHK特集』や、TBSの『報道特集』あたりも一生懸命観ていて、それらの内容についてもせっせと日記に綴っておりました)。また、人間の営みや喜怒哀楽をじっくりと見つめてつくられたヒューマンドキュメンタリーも魅力的です。
その中にあっても、ニンゲンにはまだまだ未知の世界があるのだよ、ということを驚きとともに教えてくれるような博物学的ドキュメンタリーには、今なお惹きつけられるものを感じるのです。
交通機関や通信手段の飛躍的な進歩により、人類にとってまったくの未知の世界というものは狭まっていることでしょう。とはいえ、見出されることなく眠っている未知の世界はまだまだあるはずです。いや、むしろテクノロジーが進歩することで、さらなる未知と驚異の世界を見出していくことができるのではないでしょうか。
博物学的ドキュメンタリーにも、まだまだ出番はあるぞ、と思うのであります。

博物学的なドキュメンタリーの価値と面白さが再認識されるとともに、この『知られざる世界』という番組についても、さらに多くのことが明らかになることを願いたいところであります。







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