読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府・日田 いい湯いい酒いい人旅 (第1回) 雨にも寝不足にも負けず、別府の熱〜い共同浴場をめぐり、美味にノドを唸らせる

2018-02-18 16:28:42 | 旅のお噂
暦の上では春にはなったものの、まだまだ全国的に厳しい冷え込みが続いていた2月の10日から12日の3日間、この時期の恒例である「おんせん県」大分県への旅に出かけてまいりました。
今回は、毎年出かけている別府市に加えて、福岡県に境を接する内陸の日田市にも行ってきました。日田市は、昨年(2017年)の九州北部豪雨で大きな被害を受けた場所でもあり(やはり被害の大きかった福岡の朝倉市や東峰村も近くにあります)、現地の状況がずっと気になっておりました。ここは現地に足を運び、とことん観光を楽しんで現地にお金を落とすことで、ささやかであっても応援ができれば・・・という思いもございました。
終わってみれば、今回の旅はいい温泉、いいお酒と食べもの、そしていい人との触れ合いに恵まれた楽しいものとなりました。これから何回かに分けて、その旅でのお噂のご報告、やっていくことにいたします。

2月10日・土曜日。この日の出発は早朝6時少し前という、かなり早いものとなりました。いつもだと、2泊3日間は別府でゆっくりと過ごすところなのですが、今回は別府での滞在時間はかなり限られており、そんな中で少しでも長く別府で過ごせるようにと、一番列車での出発ということに相成ったのであります。
出発が早いこともあり、前日の夜には早く床についたのですが、旅に出かける前のソワソワウキウキ感ゆえかなかなか寝付けなかった上、朝も1時間ほど早く眼が覚めるというありさまで、完全に寝不足状態。それでもそそくさとタクシーを呼び、支度を整えて家を出ました。
出発駅である南宮崎駅までわたしを乗せてくれたタクシーの運転手さんは話好きの方で、わたしが別府へ行くということを申し上げると、前の会社で別府に社員旅行に出かけたときの楽しかった思い出を語ってくださいました。駅で降りるとき、運賃をピッタリちょうどお支払いしようとサイフをあらためると・・・あれれ、10円だけ足りません。じゃあコレで、と2000円を出そうとすると、運転手さんは、
「ああ、いいですが。10円はまけときます」
といって、10円まけてくださったのであります。恐縮するわたしに運転手さんは、
「じゃあ、どうぞ気をつけて行ってきてください!」
と声をかけ、去っていかれたのでありました。いやあ、ありがたい。なんだか、幸先のいい出発の朝であります。
駅のそばにあるコンビニでお弁当と缶ビールを買い込んだわたしは、5時52分発の特急列車「にちりん」に乗り込み、別府目指して出発いたしました。外はまだ真っ暗。乗り込んでいる乗客も、この時間だとさすがに多くはありませんでした。
わたしは買ってきた唐揚げ弁当を開き・・・早朝から恐縮ではございましたが、缶ビールをプシュッと開けて、さっそく出発の乾杯。旅に出るときは、コレがまず楽しみなのであります。


6時を過ぎてからしばらくすると、東の空が少しずつ明るくなってまいりました。ですが、この日は天気がイマイチで、きれいな朝日を拝むことはできませんでした。前日まではけっこういい天気だったのですが、わたしが出発するとなると、いつも天気がイマイチになるのでありまして・・・。
宮崎市から大分への移動は、お隣の県とはいえけっこう長くかかります。読もうと思い持参していた、山下達郎さんの『サンデーソングブック』25周年記念特集の雑誌『BRUTUS』を開いて読み始めたのですが、寝不足に加えてビールの酔いも回ってきてウツラウツラ。結局、雑誌の中身をほとんど読むこともなく、列車は大分駅に到着したのでありました。
ここでいったん列車を降りて、博多行きの特急「ソニック」に乗り換えです。毎度のことではありますが、せっかく別府まであと少しだというのに、いちいち大分駅で博多行きに乗換えなきゃならないというのが、少々不便なのでありまして・・・。それでも無事に乗換えもでき、9時20分前には別府に到着いたしました。
駅前から街を見ると、かすかながら雨がパラついておりました。街歩きには特段、支障はない程度の降りかたではありましたが、このところのわたしの旅と同じく、やはり今回も雨の中でのスタートということに・・・。わたしのアタマの中では、またしてもASKAさんの歌う、
「♪は〜じ〜〜ま〜り〜はい〜つ〜も雨〜〜」
というフレーズがリフレインしてきたのでありました。
でも、せっかく別府に来たのだから、雨なんぞに負けずに楽しまなければ。わたしは、駅前に突拍子もないポージングで立っておられる別府観光の立役者・油屋熊八さんの銅像にご挨拶したあと、その隣にある「手湯」でお清めかたがた、両手を温めたのであります。


ここはさっそく、朝風呂ということにいたしましょう。わたしはまず、別府駅の真正面すぐにある共同浴場「駅前高等温泉」に入りました。大正13(1924)年に建てられた洋館建築が目を惹く、別府のランドマーク的共同浴場です。


建物の向かって右側が「あつ湯」、左側が「ぬる湯」に分かれていて、それぞれがさらに男女別に分かれているという構造。わたしは入浴料200円で券を買い、それを入り口の番台さんにお渡しすると、迷うことなく「あつ湯」のほうに入りました。別府のお湯は熱いのが身上。ここは「あつ湯」で、寝不足気味の馬鹿アタマをシャキッとさせたいところです。
まだ比較的早い時間帯ということもあってか、このときの入浴客はわたし一人。脱衣場のすぐ下にある、別府の共同浴場に多い半地下式の浴室に入り、カラダを洗って浴槽に浸かると・・・くぅ〜〜〜っ、これは熱い。お湯はしっかりとした熱さで、寝不足気味だったわたしのアタマをシャキッとさせてくれました。熱さとともに、「ああ、別府に来たんだなあ」という感慨が、ヨロコビとともにじんわりと湧きあがってくるのを噛みしめたのであります。

「駅前高等温泉」でポカポカに温まったわたしでしたが、午前中のうちにもう1ヶ所、共同浴場に入ることにいたしました。共同浴場めぐりでとことん温まって疲れを癒すというのが、初日のテーマでございましたので。ということでこちらも駅から歩いてすぐのところにある「不老泉」に立ち寄りました。


開業が明治時代初期という、やはり歴史と由緒のある温泉なのですが、建物自体は4年前にリニューアルした、バリアフリー対応の新しいもの。別府の市営共同浴場の中でも、とりわけ広々とした空間が特徴であります。午前中から入浴客が多く、駐車場に入りきれない車が数台、順番待ちしているという盛況ぶりであります。
入浴料100円を払って暖簾をくぐり、脱衣場でスッポンポンになり浴場内に入ると、湯気がもうもうと立ちこめる中にたくさんの入浴客の姿が。広い浴槽は真ん中から「あつ湯」と「ぬる湯」に区切られていて、わたしはここでも「あつ湯」に入ったのですが・・・いやはや、これはもうやる気まんまんな熱さ。浸かると即座に、カラダに喰らいついてくるような熱さであります。わたしはたまらずすぐに「あつ湯」を出ると、お隣の「ぬる湯」に移動いたしました。でも、「ぬる湯」もまた、一般的な基準からすればそこそこ熱いのでありまして・・・。
軟弱者のわたしは主に「ぬる湯」に浸かりながら、ときおり「あつ湯」に浸かってはすぐに出て、また「ぬる湯」に浸かることを繰り返す・・・という、なんとも落ち着きのない入りかたになってしまったのであります。こういう熱〜いお湯に日々浸かっておられる地元別府の皆さん、実にたいしたものです。もしかしたら、これが別府の皆さんの健康、そして「不老」のヒケツ、なのかもしれないなあ・・・とつくづく思うわたしでありました。

午前中から立て続けに熱々の温泉に浸かっているうちに、時刻はそろそろお昼という頃合いになってきました。さあ、ここは昼食かたがた、冷た〜い生ビールをぐいぐいといきたいところであります。わたしは、別府に着いたらお昼はまずここで、と決めている焼肉と冷麺の老舗店「元祖 アリラン」に立ち寄りました。
まずはさっそく生ビールを。熱〜い温泉で温まったところに飲む生ビールのうまさに、思いっきりノドが唸りました。


そして、ビールとともに焼肉を堪能いたしました。とろけるような甘さと柔らかさの黒毛和牛カルビ、コクのある旨さの豚カルビ、そして脂のとろみが絶品の牛ホルモンを口いっぱいに頬張る幸せ。あっという間に1杯目の生ビールを飲み干し、2杯目をおかわりしたのであります。


そして、このお店のもう1つのお楽しみは、締めにいただくさっぱり魚介系スープの「別府冷麺」。今回は通常の冷麺ではなく、8段階の辛さが選べる「ビビン冷麺」にいたしました。以前食べた時には「2辛」を選んだのですが、今回はもう一段辛い「3辛」にしてみました。


「2辛」は食べやすくてちょうどいい辛さでしたが、この「3辛」はちょいと刺激的な辛さ。でもそのぶん食欲も湧き、ヒハヒハ言いつつも箸が進んであっという間に完食。いやー、今回もお腹いっぱい、堪能させていただきました。

お腹いっぱいにはなったものの、やはり甘いモノは別腹。わたしはデザートとして、別府駅前の通りから伸びるアーケード商店街「ソルパセオ銀座」の中にある洋菓子店「パティスリー 夢の樹」の看板商品 “長すぎるエクレア” を買って食べました。


約30センチという長さながら、中に詰まったコーヒークリームは甘さ控えめで、一人でもペロリといけます。これを食べるのもまた、別府でのお楽しみなのであります。

到着した時よりも幾分、雨の勢いが増してはおりましたが、熱い温泉と美味しいもので元気も出てきました。ここはちょっとだけ離れたところにある温泉まで歩いて行くとするか・・・ということで、別府の中心街から1キロ近く離れている浜脇温泉に向かいました。
別府温泉のルーツ的存在でもある浜脇温泉。かつては朝見川に沿って旅館が立ち並び、遊廓もあって大層賑わっていたといいますが、現在は観光地っぽさを感じさせないくらい静かな、住宅街の中の温泉場といった雰囲気の場所であります。
住民の方々がときおり行き交う、高層マンションやスーパーのある小さな商店街のある区域。それに隣接する温泉スパ施設の一角に、共同浴場「浜脇温泉」があります。こちらも入浴料は100円。


建物の前に立っているアーチは、かつてこの場所にあった「浜脇高等温泉」入り口の一部です。昭和3年に建てられた「浜脇高等温泉」は、日本で初めてという鉄筋コンクリート造りの温泉施設で、そのモダンな外観は浜脇温泉のシンボル的な存在だったといいます。
温泉スパ施設の一角にある「浜脇温泉」は建物こそ新しいものの、中に入るとそこは古き良き銭湯そのものといった雰囲気です。広めの浴場におられる入浴客の多くは近所の方々という感じで、それらの人びとが三々五々訪れては、温泉で憩いのひとときを過ごす浴場内には、あくまでもゆったりとした時間が流れておりました。
とはいえ、やはりここもお湯は熱め。ずーっと浸かりっぱなしというわけにもいかず、ときどき上がってはカラダを少し冷まして、また浸かるということを繰り返すわたしではありました。しかし、このゆったりとした時間の中に身を置くことがしみじみと嬉しく、しばらくその居心地を味わっていたのでありました・・・。
地元の人たちの暮らしに密着した、ゆったりとして懐かしい雰囲気の「浜脇温泉」。近所にこういう場所があったら、ほんと毎日でも通いたいなあ。

かつては遊廓もあった浜脇界隈。その賑わいはすっかり、昔日のものとなってしまいましたが、細く入り組んだ街路や、それっぽい雰囲気を残している町家もちらほらとあって、当時の賑わいを偲ぶことができます。


浜脇温泉から歩いて、また別府の中心街へと戻ってまいりました。浜脇界隈の遊廓は昔日のものとなってしまいましたが、別府の飲食店街の場末あたりに集中して立ち並ぶ風俗店は、この日も明るいうちからせっせと営業していて、前を通りがかるオトコ衆への呼び込みにも余念がないようでございました。わたしも何回かお声がかかりましたが・・・それを華麗に(笑)やり過ごしつつ、再びアーケード街「ソルパセオ銀座」に至り、ジェラート店「ジェノバ」に立ち寄り、バナナのジェラートをいただきました。


なめらかな口当たりの中に、バナナとミルクの旨味がいっぱいに広がってまことに美味。上にちょこんと乗っけてくれる、別フレーバーの “おまけ” も嬉しいところでした(このときはチョコナッツのジェラート)。
冷たくて美味しいジェラートは、三たび温泉で温まったわたしのカラダにしっかり、沁みわたってきたのでございました。

次回は、別府を代表する共同浴場「竹瓦温泉」で出会うことができた、わたしの中では “伝説” となっていた「あの方」のことや、夜の呑み歩きについて、たっぷりご報告することにいたします。


「駅前高等温泉」の紹介→ 別府市観光情報サイト 温泉ハイスタンダード!極楽地獄別府「駅前高等温泉」http://www.gokuraku-jigoku-beppu.com/entries/ekimae-kotoonsen
「不老泉」温泉データ→ 別府市ホームページ「不老泉」https://www.city.beppu.oita.jp/sisetu/shieionsen/detail5.html
「浜脇温泉」温泉データ→ 別府市ホームページ「浜脇温泉」https://www.city.beppu.oita.jp/sisetu/shieionsen/detail1.html
焼肉・冷麺「元祖 アリラン」ホームページ→ http://www.b-ariran.com/
「パティスリー 夢の樹」ホームページ→ http://www.yumenoki.net/
「ジェノバ」の紹介→ 旅手帖beppu「ジェノバ」https://beppu.asia/spot/2440


(次回につづく)


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