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『みつばちの大地』(2012年ドイツ・オーストリア・スイス)
原題:MORE THAN HONEY
監督・脚本=マークス・イムホーフ
出演=フレッド・ヤギー、ジョン・ミラー、ランドルフ・メンツェル
2014年9月7日、宮崎キネマ館にて鑑賞
植物の花粉を運んで受粉に貢献することで、植物のみならず人間を含む多くの生命をも育んできたミツバチ。われわれが口にしている野菜や果物の三分の一はミツバチにより受粉されていて、アインシュタインをして「地上からミツバチが絶滅したら人類も4年で滅びる」と言わしめるほど、人間の生存にとっても欠かすことのできない存在です。
そのミツバチが突如として大量死したり、忽然と姿を消すといった現象が世界の各地で発生しています。「蜂群崩壊症候群」(CCD)と呼ばれるこの現象がなぜ起こるのか、その要因には諸説があり、まだはっきりしたことはわかっていません。
本作『みつばちの大地』は、養蜂家であった祖父のもとで、幼少の頃からミツバチと親しんでいたというスイスのマークス・イムホーフ監督が、ミツバチを取り巻く状況を世界各地に取材し、作り上げたドキュメンタリー映画の労作にして秀作です。
本作で目を見張らされるのが、ミツバチたちの生態を克明に捉えた映像の数々です。黄金色に輝く巣箱の中で生を営むミツバチを接写したマクロ映像にも引きこまれるものがありましたが、とりわけ目を見張ったのが空中を飛んでいるハチを捉えた映像でした。
エサ場に向かって一目散に飛ぶ働き蜂や、空中で交尾をする女王蜂の姿を、ハチの後ろや側面、そして前からアップで捉えた映像は、これまでまったく目にすることのなかった新鮮さと驚きに溢れておりました。パンフレットに収録されているイムホーフ監督のインタビューによれば、これらの空中飛翔シーンは「小型カメラを搭載した無人偵察機のような、小さなヘリコプター」を使用して撮影されたのだとか。ミツバチ一匹のマクロ撮影にも人間を撮影するときの2倍である10人の人手がかかったということで、素晴らしい映像の数々を撮るために費やされた時間と手間を思うと、そのこと自体も十分感動的だったりいたしました。
それらの映像から見えてくるのは、驚くほどに高度な知性と社会性を備えたミツバチたちの生態です。特に、巣箱の中にいる5万匹のミツバチたちは一つの大きな家族であり、個体それぞれが自らの役割を担うことでシステムとして機能する「超個体」でもある、という話には驚かされるものがありました。
そんなミツバチたちに、想像以上の大きな負荷がかかっている現実も、映画はしっかりと突きつけてきました。
大量のミツバチを飼育しているアメリカの養蜂家は、ハチたちを連れて大規模な農園を渡り歩き、受粉をさせることで利益をあげています。長距離の移動はハチにストレスを与える上、農園では農薬散布で命を落とすハチも。エサとして与えられているのは、病気や寄生虫を防ぐ目的で加えられる抗生物質入りの砂糖水というありさまです。
それとは対照的に、現地にいる在来種のハチで伝統的養蜂を営んでいるスイスの養蜂家も、近くの養蜂家が飼育する外来種が入り込んだことで、飼っていたハチが感染症にかかってしまいます。
さらに衝撃的なのが中国の現状です。文化大革命の時代、毛沢東の命によって穀物を食べるススメが数十億単位で駆除されたのですが、それによって増えた昆虫を駆除するために散布された殺虫剤によりミツバチも犠牲となり、植物の受粉は人間の手によって行わなくてはいけなくなってしまっている、というのです。
人間の活動によるさまざまな負荷によって、その生を脅かされているミツバチたちの現実を描きながらも、映画は特定の何かを「害悪」と決めつけることをしてはいません。
それぞれの現実に横たわっている複雑な面を、極力そのまま提示していくことで、特定の何かに還元されないわれわれ一人一人の問題として、ミツバチと人間との関わりを考えることができます。そのことで、観たあとに深い余韻を覚えることができました。
素晴らしい映像美と深いテーマ性を合わせ持った、見応えある秀作ドキュメンタリーでありました。
【関連オススメ本】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/66/485e6cc1603fff8b8d7cadf61a319958.jpg)
『ハチはなぜ大量死したのか』
ローワン・ジェイコブソン著、中里京子訳、福岡伸一解説、文藝春秋、2009年(文春文庫版もあり)
『みつばちの大地』と同じく、「蜂群崩壊症候群」を題材にして書かれた科学ノンフィクションです。携帯電話の電磁波説、ウイルス説、農薬説•••などの大量死の仮説を、一つ一つ検証していく巧みな語り口は良質のミステリーを思わせるものがあります。映画とともに広く読まれて欲しい一冊です。
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