『あさひるばん』(2013年、日本)
監督・原作・共同脚本=やまざき十三
出演=國村隼、板尾創路、山寺宏一、桐谷美玲、斉藤慶子、雛形あきこ、間寛平、温水洋一、上島竜兵、國本鐘建、松平健、西田敏行
かつて、宮崎で高校球児としての青春を送っていた浅本有也(國村隼)、日留川三郎(板尾創路)、板東欽三(山寺宏一)の3人。それぞれの名字の頭をとって「あさひるばん」と呼ばれる、チームワークの良いトリオであった。が、甲子園出場を目前にした県大会の決勝戦で、ライバル校に逆転サヨナラ負けを喫してしまい、それが3人の中で深い後悔としてくすぶり続けていた。
30年後。東京でイベント企画の会社を営む浅本のもとに、一通の手紙が届く。かつて、3人にとってのマドンナ的存在だった幸子(斉藤慶子)の一人娘、有三子(桐谷美玲)からであった。手紙には、幸子は重い病の床にあることが綴られていた。幸子に娘がいたことに驚く浅本。そこへさらに宮崎刑務所からの電話が。暴力沙汰を起こしたかどで服役中の板東からであった。板東のもとにも手紙が届いていて、なんとかして幸子のもとへ駆けつけたいと、浅本に泣きながら頼み込む。浅本は、急ぎ宮崎へと向かうことに。
すったもんだの末に、板東は3日間の外泊許可を得ることができた。さらに、バイクに乗って現れた日留川も合流し、30年ぶりに揃った3人は幸子の入院する病院へ。3人を迎えた有三子は、2日後に結婚を控えていたが、母を気遣い延期することも考えていた。さらに、幸子は父親であり、高校球児時代の「あさひるばん」トリオをしごいていた鬼監督でもあった雷蔵(西田敏行)とは、行き違いから長く絶縁状態にあるという。
「あさひるばん」の3人は雷蔵のもとを訪れ、なんとか幸子と仲直りして有三子の結婚式に参加してくれるよう頼み込む。しかし、雷蔵は娘への複雑な思いを抱きつつも、頑なに復縁を拒む。一度は引き下がる3人だったが、今また悔いを残すわけにはいかないと思い直す。
翌朝。渓流釣りをしている雷蔵の横に、浅本が釣り竿を手にして現れる。自分が勝ったら幸子と復縁し、有三子の結婚式に出てくれないか、というのだ。
「おまえ、俺と勝負するつもりか?」
「いいえ、“果たし合い”です!」
かくて始まった浅本と雷蔵の釣り対決。果たして、その結末は•••。
現在も雑誌連載が続く人気漫画であり、映画版も22作に及ぶロングランのシリーズとなった『釣りバカ日誌』。その作者でもあるやまざき十三さんが、故郷の宮崎を舞台に、72歳にして映画監督デビューを果たした人情コメディであります。
20代の頃には東映で助監督としての経験があり、映画にも精通しているやまざきさんとはいえ、監督としての力量はどんなものなのだろうか、と思いつつ観始めたのですが、想像した以上にウェルメイドな映画に仕上がっていました。
『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』などのような、かつてのプログラムピクチャー(2本立て興行番組のために製作された娯楽映画のこと)の復活を目指したというやまざき監督。本作もまさしく、大いに笑えてしっかり泣ける、直球勝負で王道の娯楽人情喜劇といった仕上がりで、安心して楽しむことができました。
また、黒木和雄監督や篠田正浩監督、寺山修司監督といった監督陣を支えてきたベテランの撮影監督、鈴木達夫さんの仕事ぶりも、やまざき監督をしっかりと支えていて、作品をより味わいのあるものにしておりました。
何より「あさひるばん」トリオの3人によるアンサンブルは実に最高でありました。わたくしが大好きな役者さんでもある國村隼さんは、実直そうでありながらお茶目なところもある「あさ」を魅力たっぷりに演じておられました。また、ちょっとスカした感じながらも、時に真摯な態度を見せる「ひる」役の板尾創路さんや、三枚目的キャラクターの「ばん」役で、実写映画での本格的な演技に挑戦した山寺宏一さんも、なかなかの好演ぶりでした。お三方はカメラの外でもチームワークが良かったそうで、その楽しい雰囲気がいい感じで作品にも反映されているように感じられました。
観終わったあと、ぜひまたこのトリオによる続篇が観てみたい、と思わせてくれるものがありました。
多彩な共演陣も見どころであります。有三子役の桐谷美玲さんの清楚な可愛らしさは魅力的でしたし、「あさひるばん」トリオの因縁のライバルでもある、宮崎選出の大物国会議員を演じた松平健さんは、さすがと言いたくなるような貫禄を魅せてくれました。
そして、『釣りバカ日誌』シリーズでハマちゃんを演じ続けてきた西田敏行さんは、「頑固になって帰ってきたハマちゃん」といったような役どころの雷蔵を、存在感たっぷりに演じておられました。宮崎出身者以外の出演者の中では、宮崎弁のセリフが一番自然だったことにも唸らされるものが。パンフレット収録のインタビューによれば、宮崎でのロケに参加したのは6日間だったそうですが、その中でよくぞあそこまで•••と思うばかりです。あらためて、すごい役者さんだなあと感じさせられました。
そして、宮崎出身である役者さんたちの活躍も嬉しい限りです。幸子役の斉藤慶子さんの変わらぬ美しさには惚れ惚れしましたし、幸子の主治医を演じた温水洋一さんも、しっかり楽しませてくれました。
他にも、宮崎で活躍されているローカルタレントやアナウンサーの方々もちょこちょこ出演されていて、地元民としてはニンマリさせられたりいたしました(宮崎県のゆるキャラ「みやざき犬」の3体もチラリと登場)。
宮崎の人間としては、舞台になったわが故郷がさまざまな形で活かされていたことにも、嬉しさがひとしおでした。
山場である釣り対決の舞台となった、綾町の綾南川の渓流をはじめ、日南海岸、霧島牧場、シーガイアなどの名所もふんだんに映し出されていましたが、驚かされたのは実在する宮崎刑務所でのシーンが、想像していた以上に長かったこと。しかも外観のみならず、内部の工場や独房でも撮影されていたのですから。かつて刑務所に行っていた(といっても、もちろん収監されてのことではないのですが•••)身としては、よくぞここまで、と感慨深いものがありました。
宮崎が舞台ということも嬉しかったのですが、それぞれに過去に対する深い後悔の念を抱えた登場人物たちが、前に進むことで過去を乗り越えていこうとする本作のストーリーには、観ていて胸が熱くなってくるものがありました。
大人たち、特に中高年のオトコたちから元気が失われているように見えてならない、昨今の日本。本作は、過去を乗り越え、人生を諦めることなく前を向いて進んでいくことの大切さを、笑いと涙とともにしみじみと感じさせてくれました。
ぜひとも、多くの人たちに本作をご覧いただき、元気と勇気をチャージしてもらえたらなあ、と思います。