まだ若かった時、ある村では「神輿を(担ぐのでなく)台車に乗せて引く」ということで、驚いたり、話題になったりしていたが、
今では、お祭りの日に神輿が出ないのがあたりまえのようになった。
真四角で社の形を”神輿”と呼び、ふとんの”千歳楽”などを除くと、意外に笠岡市内にある「神輿」は数少ない。
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「御輿大全」 宮本卯之助 新光社 2011年発行
唐破風屋根(延べ屋根) 白木造り(漆塗り) 総彫り (二重台)御輿
(尾坂・艮神社の神輿)
(笠岡・白雲大社の神輿)
屋根を見上げてみる。
唐破風屋根の湾曲部分や桝組みの一つひとつに至るまで、すべて彫刻で埋め尽くされている。
屋根部分の装飾。
蕨手には龍がまきつき、さらに鳳凰型の小鳥が羽を広げている。
いずれも繊細な彫金が施される。
軒下から一番下の台輪に至るまでの彫刻。
彫金は格の高さを演出。
龍が巻き付いた鳥居は1本の木から丸ごと彫り上げる。
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(神島外浦・神島神社の神輿)
御輿は、神の乗り物である。
普段は鎮守の森に鎮座するが、祭のその時だけ、神輿にお乗りになり、
町の隅ずみを巡り、人々の近くまで降りてくる。
豪華に、美しく、細部に至るまで心を込めて作られた神の乗り物は、その姿だけで、担ぐ人、見る人の心を動さずにはおかない。
工芸美術の極みにまで達しており、世界に誇れる技術品と言っても過言ではない。
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(西大島・一宮の神輿)
御輿を飾る意匠
屋根、堂、台輪の3つに分かれる
神様が本来祀られている神社を模して作られるのが御輿である。
精巧な神社の再現であるばかりでなく、豪華な装飾も施される。
唐破風屋根・延屋根
曲線が重厚感と華やかさを感じさせる唐破風屋根。
直線的で屋根紋が映える延屋根。
屋根の骨格部分はケヤキなどで作られる。
それを仕上げるのは木地師の役割だ。
通常は漆塗りで仕上げられる。
漆の色には黒や朱、茶色などいくつかの色があり、さらには漆の上に金粉をまく梨地仕上げなどがある。
屋根には鳳凰、
屋根の四面には屋根紋、
屋根の四隅の蕨手には龍などの鋳物と、その上に乗る小鳥など。
桝組み
屋根の重みを均等に分散して支える桝組みは、機能と美しさを同時に叶える職人技の極致。
金箔押しや木彫刻も施す。
堂
神社さながらに、本殿を構成する各要素がぎっしり詰め込まれている。
堂をぐるりと囲んでいるのは囲垣(いがき)である。
俗性と神域を区切るもの。
鳥居では、龍が巻きついているのがある。
龍は鳥居から先の神域を守っているとされる。
唐戸は、必ず正面につく。
飾り紐
魔除けの鈴が結ばれ、先端に大きな房が付いた飾り紐。
漆塗りには紫糸
白木御輿には金茶系が基本。
台輪(だいわ)
激しい衝撃にも耐える伝統の組み木製法を駆使して作られ、堂と屋根を受けとめる。
堅牢な基礎が御輿の躍動感を後押しする。
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(六島・嶋神社の神輿)