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生活習慣病改善の鍵はミトコンドリアの活性化にあった!

2016年07月01日 | 健康・病気

 

毎日新聞 2016年6月28日 能勢博 / 信州大学教授

   インターバル速歩を実施すると、体力の向上に比例して、生活習慣病、関節痛、うつ症状が改善することを述べてきましたが、最近、その要因がミトコンドリアの活性化にあることがわかってきましたので、今回はそれを紹介しましょう。

 以前、ヒトの体力は30歳以降、10歳加齢するごとに5〜10%ずつ低下すること、それは加齢による筋肉萎縮(老人性筋萎縮症またはサルコペニアと呼ばれています)によること、そして、この体力低下と医療費が見事に相関することを述べました。このことは、この老人性筋萎縮症こそが生活習慣病の根本原因であることを意味するのです。なぜでしょうか。

細胞のエネルギー発生源「ミトコンドリア」

 皆さん、ミトコンドリアってご存じですか。ミトコンドリアは、細胞の中にあって、細胞が生きていくためのエネルギーを産生する装置です。ミトコンドリアは、ちょうど、車のエンジンのシリンダーにたとえることができます。シリンダーの中では、ガソリンと酸素が結合しピストンを動かして、車を動かす原動力を得ます。それと同様にミトコンドリアでは、炭水化物や脂肪が酸素と結合して体が生きていくエネルギーを産生します。

 ところが、車が古くなると、シリンダーの中でガソリンが不完全燃焼を起こすように、ミトコンドリアもその機能が劣化すると、不完全燃焼がおき、活性酸素という、いわば「汚れた排ガス」を産生します。それが体の細胞や組織を損傷し「炎症反応」をひきおこすのです。そして、この炎症反応が脂肪細胞でおきれば「糖尿病」、免疫細胞でおきれば「動脈硬化・高血圧」、脳細胞でおきれば「認知症・うつ病」、がん抑制遺伝子に影響が及べば「がん」になる、という説が最近有力です。

 では、なぜ、ミトコンドリアの機能が劣化するのでしょうか。その原因が「老人性筋萎縮症」です。筋肉は体の中で最も大きい臓器で、運動時にはたくさんのエネルギーを消費しますから、その細胞にはたくさんのミトコンドリアがあります。ところが老人性筋萎縮症がおこるとミトコンドリアの活躍の場がなくなりますし、また、筋肉の萎縮がおこると、運動をするのがおっくうになりますから、心臓や肝臓など直接運動に関与しない臓器のミトコンドリア機能も落ちてきます。その結果、体全体に炎症反応が広がり、生活習慣病など中高年特有の疾患に陥りやすくなるのです。では、どうしたらいいのでしょうか。

 答えは簡単。老人性筋萎縮症に負けないように、インターバル速歩のようなややきついと感じる運動で、筋力を向上すればよいのです(図1)。すなわち、筋力が向上してPGC-1α(ピージーシーワン・アルファ)というたんぱく質が産生され、ミトコンドリアが増殖します。すると、細胞自然死(アポトーシス)の抑制、血管の新生、活性酸素の解毒などがおこり慢性炎症を抑制するのです。

 「インターバル速歩」のような運動習慣はミトコンドリア機能を活性化し生活習慣病の根本原因となるような慢性炎症を抑制する。

  私たちは、この理論を実際に確認するため、最近、5カ月間のインターバル速歩トレーニングが、炎症を引きおこす遺伝子の活性に及ぼす影響を調べました。その結果、炎症を促進する遺伝子群が不活性化を引きおこし、逆に、炎症を抑制する遺伝子群の活性化が起こることを明らかにしました。特に、炎症反応のマスター遺伝子とされているNFkB2(エヌエフカッパービーツー)遺伝子の活性が20%も抑制されたのです(図2)。これらの結果は、私たちが体力向上や生活習慣病の症状改善から明らかにしてきたインターバル速歩の効果に対して、分子生物学的な裏づけを得たもので、大変心強く思っています。

 炎症反応のマスター遺伝子であるNFkB2遺伝子のプロモーター領域の6部位のメチル化を5カ月間のインターバル速歩前後で表す。その結果、3部位(赤枠で囲んだもの)についてメチル化が高まり、同遺伝子の不活性化が起こった。