お墓の引っ越しが加速度的に増えている理由
ダイヤモンド・オンライン
「墓じまい」「改葬」といったキーワードがブームになっている背景には、団塊の世代の高齢化があるという
ここ数年、お墓の引っ越しや整理についての問い合わせが供養業界全体で急増しており、「墓じまい」や「改葬」といった言葉が盛んに飛び交うようになっている。なぜ最近になって、お墓の引っ越しや整理が気にされるようになったのだろうか。経済産業省認可を受けている石材業界の全国組織「全国石製品協同組合(全石協)」に、水面上下の実情を聞いた。
家のお墓をどうにかしたい!2000年代から始まった「改葬ブーム」
改葬とは、お墓から遺骨や遺体を取り出して別のお墓に移す行為を指す。つまり、お墓の引っ越しだ。改葬を決めたら市町村役場で改葬許可証をもらい、元のお墓から遺骨を取り出す前に僧侶によってお墓の閉眼供養(魂抜き)を行うのが一般的な流れ。その後、元のお墓を更地にし、新たなお墓の管理者に改葬許可証を提出したうえで遺骨を納め、また僧侶によって開眼供養(魂入れ)して完了となる。石碑をそのまま移動する場合、一連の作業で200~300万円かかることが多い。
墓じまいは、上記のうちの「元のお墓を更地に」する工程のみを指すというのが、全石協の見解だ。
墓や遺骨の消滅を示す言葉ではなく、個別の墓にしろ手元に置くにしろ、その後に移転先があることを前提にしている。
いずれにしろ、いまある家のお墓をどうにかしたいというニーズが近年増えているのは確かだ。厚生労働省の統計によると、全国の改葬件数は2000年代に入ってから全体的にじわじわ増えており、ここ数年は毎年8万件前後実施されている。供養業界に寄せられる相談件数の変動はそれ以上で、たとえばメモリアルアートの大野屋に寄せられた改葬に関する問い合わせは、06年度に600件弱だったのが07年度には2000件超に急増している。また、13~14年頃に前年比数倍のペースで増えたという企業も複数あり、いくつかの波が起きているようだ。
全石協の事務局長を務める筒井哲郎氏も、関心の高まりを肌で感じていると頷く。
「加盟している全国の石材店に届いた問い合わせと実際の改葬件数を調べたところ、11年あたりからどちらも徐々に伸びてきて、14年から加速度的に上昇しています。今年も前年同月比で大幅増を継続中です」
その背景には何があるのか。よくいわれるのが団塊の世代(1947~49年生まれ)のライフステージの変化だ。
彼ら・彼女らが60歳台に踏み込んで定年期に入ったのが07年。定年はその後65歳頃まで伸びたが、12年から14年にかけて全員がその線を越えている。
この現役から余生への移り変わりと、改葬や墓じまいについての世間の関心の高まりの時期はぴったりと一致する。会社勤めや育児が一段落し、いままで放っておいた家のお墓の問題とようやく対峙する気になった人。あるいは両親との死別を経験し、家の墓の継承者としてその道筋をつけざるをえなくなった人。そうした人々の絶対数が、ここ数年で波が押し寄せるように増えているというわけだ。
加えて、次代への継承不安も影響を与えているという。「実家や墓を継いでくれる跡取りのような存在がいなかったり、いても継ぐのが難しい場合があったりして、これまでのいわゆる“先祖代々のお墓”のままでは厳しいから、どうするかと悩んでいる人の声も少なくありません」(筒井氏)
いざお墓の問題に相対してみたら、単に引き継ぐだけでは安心できない状況にあることに気づき、それが改葬や墓じまいにつながるというパターンも多い。近年、承継を前提としないタイプのお墓として「樹木葬」などの合葬タイプのお墓や、遺骨を自宅に置き続ける「手元供養」、あるいは「散骨」といった葬送スタイルが注目を集めているのには、そうした事情もあるようだ。
生きている人が引っ越しをするとお墓も後を付いて行く
では今後、お墓のトレンドはどうなっていくのだろう。
「都市部と地方でははっきり分かれています。都市部はお墓が多様化していて、我々石材業界としては墓地離れよりも墓石離れを食い止める方が深刻な問題だったりします。地方のお墓については、やはり元々あったお墓を撤去することが多くなっていて、この流れはまだ続くと思われます」(筒井氏)
生きている人の都市圏への人口流入は高度経済成長期から続いているが、亡くなった人も同じように都市圏へ引っ越す流れが出てきている。そして、引っ越し先では、お墓も多種多様なスタイルが用意されるようになっているのが最近の世の中というわけだ。
少し見方を変えれば、生者が死者を近くに引っ張ってきていると言えるかもしれない。
「お墓を守るのは生きている人なので、生きている人の事情でお墓の場所やスタイルが変化する動きは、今後も変わらないと思います。すでに実家の改葬を済ませた方でも、その方の住環境が変わればお墓についても、再度考えなければならなくなる。家の引っ越しと同じで、必ずしも1回で終わり、ではないんですよね。家の引っ越しとのタイムラグはもちろんありますが」(筒井氏)
生きている人が引っ越しをする以上、改葬や墓じまいブームが落ち着いたとしても、似た動きは恒久的に続きそうだ。そのなかでどんなニーズが育っていくのか。筒井氏は2本の流れをみる。
「死後のことを考えて生前に自分や家族のお墓について道筋をつけておく人と、実際に家族が亡くなったあとにどうするかと動き出す人がいらっしゃいます。双方で必要なサービスは異なるので、どちらの割合が多くなるかで業界全体のトレンドが変わってくるんじゃないかと思います」
全石協が14年6月に、改葬を含めたお墓探し支援サイト「いいお墓探し!お墓の引越しドットコム」を立ち上げたのは、生前からお墓について考える前者の人をサポートする意味合いもあるそうだ。
「我々は全国の石材店の組合なので、各地にあった具体的なアドバイスができると思います。元気なうちからお墓のことを考えるのは抵抗があるという人は少なからずいらっしゃるでしょうが、先に動いていたほうが後々に後悔しない選択がしやすいのは確かです。その一助になれれば」(筒井氏)
1985~93年あたりのバブル期は、生きているうちから自分たち夫婦のお墓を買おうという寿陵(じゅりょう)ブームがあり、都内を中心に墓地不足が発生していた。墓石販売のピークはその頃で、現在にいたるまで漸減している状況だという。
当時は6~7割の方が生前にお墓を買っていましたが、いまはまったく逆の割合になっています」と筒井氏は言う。死後の準備をするのが「縁起悪い」という風潮が薄れてきた昨今、この割合はどう変わっていくのだろうか。