朝の通勤途中である。
バスの中にはいつもの顔ぶれ。職場の同僚が5,6人載っている。
わたしが座っていると、副所長が乗り込んできて、ちょうど目の前、窓のほうを見ながら、後ろ向きに立った。毎朝のことである。顔見知りの誰がどこにいるかだいたいわかっているので、お互い、さりげなく距離をあけたり、目を合わさないように、向きを変えたりするのである。ソーシャルデイスタンスなどという理由ではなく、朝っぱらから、職場の外で、敢えて話題もないのだろう
ふと見ると、副所長のズボンのベルト紐に、クリーニング屋さんのタグがホッチキスで付いたままになっている。ちょうどわたしの目の高さである。
7月だし、ここは率先してクールビズを実践しようとはりきって、去年クリーニングしたズボンをタンスから出してきたのだろう。ちょっとしゃれたポロシャツとズボン。色の組み合わせもなかなか品よくまとまっていて、ソックスもくるぶしまでの涼しげな素材である。
―タグさえなければねえ―。
通勤途中のバスの中ではあまり同僚と隣り合いたくないなあと思っているわたしであるが、その時ばかりは思った。
見て、見て、あれ!と、ヒソヒソクスクスと可笑しみの情報共有したい。
隣の席には知らない年配の女性が座っていたが、彼女もきっと気づいたはず。
この際、知らない人でも誰でもいいから、マスクから覗いた目をちょっと意味ありげに交わし、ヒソヒソ、クスクス、ちょっとした”目撃者”の気分を分かち合いたい。
後ろのほうの席でぺちゃくちゃしゃべっている同僚女子が隣にいないことが実に残念に思われた。
その日わたしは半日で早退したので、彼が一日気づかずに過ごしたのか、それとも心優しきどなたかが教えてさしあげたのか知らない。(まあ教えてあげたとしてもお互い気まずくて、感謝すらされないと思うが)
そういえばわたしもその昔、便座シートをズボンに挟んでしっぽのように垂らしたまま電車に乗ったことがあったっけ。それを思えば、クリーニングのタグなんざ、ありがちでかわいいもんではある。
バスの中にはいつもの顔ぶれ。職場の同僚が5,6人載っている。
わたしが座っていると、副所長が乗り込んできて、ちょうど目の前、窓のほうを見ながら、後ろ向きに立った。毎朝のことである。顔見知りの誰がどこにいるかだいたいわかっているので、お互い、さりげなく距離をあけたり、目を合わさないように、向きを変えたりするのである。ソーシャルデイスタンスなどという理由ではなく、朝っぱらから、職場の外で、敢えて話題もないのだろう
ふと見ると、副所長のズボンのベルト紐に、クリーニング屋さんのタグがホッチキスで付いたままになっている。ちょうどわたしの目の高さである。
7月だし、ここは率先してクールビズを実践しようとはりきって、去年クリーニングしたズボンをタンスから出してきたのだろう。ちょっとしゃれたポロシャツとズボン。色の組み合わせもなかなか品よくまとまっていて、ソックスもくるぶしまでの涼しげな素材である。
―タグさえなければねえ―。
通勤途中のバスの中ではあまり同僚と隣り合いたくないなあと思っているわたしであるが、その時ばかりは思った。
見て、見て、あれ!と、ヒソヒソクスクスと可笑しみの情報共有したい。
隣の席には知らない年配の女性が座っていたが、彼女もきっと気づいたはず。
この際、知らない人でも誰でもいいから、マスクから覗いた目をちょっと意味ありげに交わし、ヒソヒソ、クスクス、ちょっとした”目撃者”の気分を分かち合いたい。
後ろのほうの席でぺちゃくちゃしゃべっている同僚女子が隣にいないことが実に残念に思われた。
その日わたしは半日で早退したので、彼が一日気づかずに過ごしたのか、それとも心優しきどなたかが教えてさしあげたのか知らない。(まあ教えてあげたとしてもお互い気まずくて、感謝すらされないと思うが)
そういえばわたしもその昔、便座シートをズボンに挟んでしっぽのように垂らしたまま電車に乗ったことがあったっけ。それを思えば、クリーニングのタグなんざ、ありがちでかわいいもんではある。