お猿さんに教えられた家族の優しさ・・・
11月下旬、箕面の紅葉が真っ盛りとなりこの日曜日はすごい人出になり
ました。
箕面の滝に向かう人たちが多く、この日ばかりはあの混雑した心斎橋を歩く
ようなものでしたので、私は初めて臨時バスに乗り、一気に勝尾寺まで上が
り、そこから今日のコースを楽しむ予定です。
勝尾寺園地から降三世道を登り、東海自然歩道から清水谷~四反田谷
~EXPO90箕面の森~落合谷から滝道に下りてくる予定なのです。
バスを待つ人々で箕面の駅前はこれもすごい人だかりで、結局3台目の
バスにやっと乗ったのですが、この間約30分、私の後ろに並んだのは
若夫婦と2~3歳位のお嬢さん、そして話し方から嫁さんのお父さんの
4人家族と一緒になりました。
そしてそれは私の後ろに並んだ直後から始まりました。
嫁さんが自分の父親に向かって・・・・
” ほんまにアホちゃうか? ドンクサイな! はよ歩きいな・・・何してんのん?
ノロノロしてからに・・・それにな そんな格好できてからに・・・
ほんま恥ずかしワ! それになタバコすうのやめてんか・・・ くさいな!
もう しっつかんといて・・・ うっとうしいな!・・・ ”
子供を抱っこした夫は 横を向いているが, 子供は気になってかお母さんと
おじいちゃんの方を交互に見ながら心配している様子。
やがてバスがまだ来ないようなので おじいさんはボロカスに娘に言われ
苦笑しながら・・・
” ちょっと小便に行って来るワ・・ ” と、列を離れた。
そんな父親にまだ腹が立つのか 夫に向かって・・・
”ほんまにしょうない男やで・・・ あ~あ あんな所でまたタバコ吸ってるワ!
なんちゅう格好や! ヘラヘラするし、頼んないし、ほんま嫌んなんわ・・・ ”
夫は聞きたくない様子で娘と喋っている。
私もそうだがバスを待って並んでいる人々はそんな言葉を聞きたくもないが
、否応無くその大きな声は聞こえてくる。
これから きれいな紅葉を見に行く期待に胸膨らませている人達もその
汚い言葉使いに一様に嫌悪感を抱いているようだった。
やがてバスが到着。
おじいさんは小走りにまた列に並んだ。
順にバスに乗ったので運悪く? 私はまたこの家族の横に立つ事になった。
すると今度は・・・
” ポケットに手いれたあかんゆうてるやろ・・・ アホ! ドジ!
帽子もかぶるんやったらちゃんとかぶりいな・・・ くさいな!
あっちむいとてっか・・・ 便所といるみたいやワ・・・ ”
もう無茶苦茶です・・・
こっちが腹が立ってきて、余程怒鳴ろうかと思うくらい血圧が上がってきた。
夫もこの嫁と義父の間を取り持つすべもないらしく、でも周りを気にしてか
そわそわしているのが感じられる。
おじいちゃんはそれでも照れくさそうにして下を向いてじっとしている・・・
おばあさんはどうしたのかな? いるのかな?
娘夫婦と一緒に暮らしているのかな?
毎日毎日こんな調子だったら大変だろうな・・・ それでも今日は娘夫婦と
孫と一緒に箕面の紅葉を見ようと楽しみにしてきたんだろうに・・・
つい 私もおじいさんの身を案じてしまった。
やがて満員のバスが走り出した。
ドライブウエイをしばらく登ると南側に大阪が一望できる・・・
お~! と、乗客から歓声が上がる。
お天気もよく最高のもみじ日和になりそうだ。
バスのみんなにもやっと笑い声が聞こえてきて楽しい雰囲気が漂ってきた・・・
しかし、また始まった ” もう~混んでるゆうてこっとへこんといてか!
なにフラフラしてんの・・・ ほんまドンくさいわ・・・ しっかり立つときいな・・ ”
満員のバスの中でそれはないだろうに・・・
でも、そこまでいわれてもおじいさんは黙ってしょぼんとしている。
おばあさんがいたらこんな光景にはならなかったろうに・・・
娘夫婦を頼りに必死に生きているに違いない・・・・
わたしはそんなおじいさんが可哀想で仕方なかった。
そこまで言わなくても、もっと優しくしてあげたらいいのに・・・
せっかくの快晴なのに、私の心は深く沈んでしまった。
やがてバスは地獄谷からこもれびの森への入り口に来て急に止まった・・・
西側の谷一面にみえた真っ赤に紅葉した見事な景色に、思わずバスの中から
” ワー すごい! きれいだ~ ” と、一斉に大きな歓声が沸き起こった。
実はバスが止まったのは、お猿さんの群れが約5~60匹ぐらい道路上を
占拠していて通れなかったためなのだ。
この時期、心無い観光客が車の中から菓子類を投げたりするので、それを
目当てに森の中から降りてくるのだ。
その時、丁度バスの窓からみえる土手の岩の上にボス猿だろうか ?
いかにも大きく風格があり、顔の周りには 白いものが目立つ老猿が寝そ
べっていて、その周りを沢山の猿がとりまき、ニ匹の母猿が子猿を抱えながら
一所懸命にその老猿の毛つくろいをしている・・・・
老猿は時折目をつむり気持ちよさそうに身を委ねて・・・
実に落ち着いてくつろいでいる様子だ。
乗客はみんなその先に見える美しい紅葉と、目の前の老猿のしぐさを
交互に見ながら静かにその感激と感動に浸っていた。
その時、あの夫の腕の中で抱っこされていた幼いお嬢ちゃんが、
大きな声で老猿を指さして一言喋った・・・
” あの おじいちゃんは 幸せそうだね・・・ ”
一瞬、間をおいてバスの前の方でパチパチと手がなった・・・
やがてそれは大きな拍手でバス全体に広がっていった・・・
そしてバスは静かに発車した。
それから勝尾寺までの15分間、バスの中は遠足のように楽しい会話ばかり
になった・・・
あの嫁のキーキー声はついにそれから一度も聞くことは無かった。
” おかあさん! おじいちゃんに やさしくしてあげてね・・・ ”
あの娘さんの願いは、バスの中全員の願いになりました。
私は、さわやかな気持ちでバスを降り、今日の森の散策に向かいました。
それにしても大阪のおばちゃんは口が悪いし、その旦那は口が立たないし
、周りはいらいらして口を出したいし・・・
いずこも似たようなものだと苦笑する・・・
もう! (笑)
06-11 (完)