日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

金融のグローバル化と経済格差の拡大

2016年08月10日 09時47分22秒 | 日々雑感
 約10年前の2007年、当時の日銀福井総裁は講演で”金融グローバル化は、長い目でみて世界の経済成長にプラスの貢献を果たすものと考えらる”と発言した。金融グローバル化とは、大雑把に言えば、資金が国境を越えて瞬時に動くようになった事であろう。同講演で、総裁はグローバル化の特徴は、第一に国境を超えた莫大な資金の流れであり、第二はそこに参加する者の多様化、資金流れの多様化、と指摘した。

 従来からの多国籍企業や金融機関の活動に加え、90年代にはヘッジ・ファンドが登場し、その後、素人には簡単には理解できない数々のファンドも登場した。資金の流れの多様化は、債券や株といった従来の金融商品に加えて、先物、オプションなどの金融派生商品、あるいはCDO、CLOといった証券化商品がある、との説明であるが、何のことかよく理解できない。兎も角、資金は色々な形で変幻自在に瞬時に世界を駆け巡るといったことであろう。

 このような金融のグローバルが急激に進んだのは、それを理解する者にはそのメリットを最大限に利用できるからであろう。しかし、その仕組みを理解し、利用することは容易でない。また、動く資金も膨大で、素人は簡単には参加できない。その結果、富の集中、すなわち経済格差が大きく進行したことは感覚的にも理解できる。

 日銀元総裁は、金融グローバル化の長所のみを述べたが、ここに来て、その欠点が顕著に現れてきた。その一つが、各国でのナショナリズムの風潮が高まってきたことである。ナショナリズムの台頭は、イスラム諸国の政情不安定等の影響もあるだろうが、金融のグローバル化により経済のグローバル化が急激に進み、経済格差の拡大したことが最大の原因であろう。

 共和党の次期大統領候補トランプ氏の主張、民主党候補であったサンダース議員の主張、英国のEU離脱の主張には、共通して自国産業の衰退がある。鉄鋼業等の製造業は、中国を始めとする新興国に移り、多くの労働者が職を失った。自国産業の衰退は、金融のグローバル化が強力に推し進めたのは間違いないだろう。ナショナリズムの台頭は、保護貿易主義を招き、各国間の利害の衝突となり、強いては武力の衝突、すなわち戦争へと進みかねない。これは歴史の教えるところである。

 金融のグローバル化は日銀前総裁の言うように世界の経済の発展には役立ったかも知れないが、その発展を余りにも急激に推し進めてしまったのではなかろうか。経済の自由化、グローバル化に伴う世界の産業構造の変化は止められないが、その変化の急激さに一般大衆はついていけない、いや政治家もついていけないのだ。そこで、その負の影響が顕著になってきたのだ。

 しかも、金融のグローバル化は経済格差の拡大化を連れてくる。現在の金融システムの複雑さ、金の流れの複雑さ、が余りのも大きいため、それをうまく利用しているのは一部の経済通であり、全体を理解できる政治家が居ないため野放図になっているのではないだろうか。

 野放図の一端が今年始めのパナマ文書であろう。その公開の結果、4月始めにはアイスランドの首相が辞任に追い込まれた。世界のあちこちにはタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる、税金がかから無かったり、極めて安い国がある。そこに名目だけの会社を作り、自国で払うべき税金を逃れる手法があるらしい。

 今回、流出したパナマ文書というのは、そのペーパーカンパニーを設立したり管理している法律事務所の顧客情報なので、これを見れば、誰がタックス・ヘイブンに偽りの会社を作り、税金逃れをしていたかが一目瞭然なのだそうだ。

 しかし、現在の法体系では必ずしも違法では無いとのことで ”大した情報ではない”との見方も金融関係者の間では根強い。パナマ文書に記載された名前は、報道した国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)も認める通り、大半は合法な用途で使ったとみられている。金融業界のプロは ”悪事を隠す方法はいくらでもある"として、パナマ文書以上に深い闇の存在を指摘している。

 金融のグローバル化の弊害は経済格差とナショナリズムを伴って、世界に蔓延している。政治は金融のグローバル化についていけなかったといって、経済をシンプルな国家単位の時代に戻せるであろうか。
2016.08.10(犬賀 大好-258)