4月13日の東京外国為替市場で一時1ドル=126円台となり、19年11カ月ぶりの水準に下落したと大騒ぎになったが、19日には129円台となり、126円も驚くほどではなかったようだ。ウクライナ情勢の悪化による資源価格の高騰にこの円安が拍車をかけ、輸入品の諸物価が値上がりし、家計の負担が益々重くなると思われる。
円安の原因はドルの金利の上昇と日本のゼロ金利政策の違いで、金利の高いドルを買って円を売る動きが強まっているのだ。ドルの金利の高さはインフレ抑制の為であり、日本の金利の低さはデフレ脱却の為であり、世界の経済と日本の経済は真逆のようであるが、ウクライナを巡る経済の悪化は世界が連動している。
黒田日銀総裁の9年間に及ぶ低金利政策は日本のデフレ脱却を目指し物価上昇率2%を目標とする政策であるが、諸物価の値上がりでようやく日本もインフレ傾向となってきたのは喜ぶべき現象か。黒田総裁も「消費者物価は4月以降、2%程度の伸びとなる可能性がある」とこれを認めたが、低金利政策を続けるとも言明した。
一般に低金利政策は、景気後退期に中央銀行が市中銀行に対する貸出金利を引き下げ、市中金利を低下させて企業の投資活動を喚起し景気回復を図るものであり、高景気は普通諸物価の値上がりを伴う。欧米は低金利政策による金融緩和で景気が回復し、インフレ傾向が強まった為め、低金利政策を終了する方向に動き始めているが。
しかし、日本では諸物価が値上りしても一向に景気が回復せず、黒田総裁は金融緩和を維持しようとしているのだ。黒田総裁はこれまで消費者物価指数だけで景気回復を判断してきたが、最近は賃金上昇を伴わない物価上昇では駄目だと言い出し、金融緩和を止めようとしない。勘繰るに金融緩和を止められない理由が別にあるのだ。
慢性的な低成長から脱却するには、金のばらまきではなく社会保障制度や教育制度の見直しが必要であり、また生産性を向上させる仕組みの構築等が必要と主張する識者もいる。これらは黒田総裁の担当外であろうが、安倍元首相と親密であったように政権幹部と意思の疎通は密である筈だ。
さて、諸物価が値上がりし、インフレが激しくなった場合、黒田総裁は利上げに踏み切るであろうか。日本の国の借金は1千兆円を越えている。この借金にも当然利子を払わなくてはならない。国家予算の歳出の約1/4は、国債を返したり利子を支払ったりするためだ。この内利子の支払い分はいくらか分からないが、利上げは当然ながら支払い分を増やす。この支払い分の増加を恐れているのではなかろうか。
9年間の異次元金融緩和の時期が長すぎ、日本経済はすっかり慣れきってしまった。ここでの利上げは、膨大な国の借金の維持に困難を来たす等影響が大きい。黒田総裁の任期は残すところ約1年、”飛ぶ鳥跡を濁さず”、ちゃんと道筋を示して辞めて欲しい。2022.04.20(犬賀 大好ー808)