失われた30年と言う言葉をよく耳にする。日本においてバブル崩壊後の1990年代初頭から日本経済が低迷し続けていることを表す言葉である。名目国内総生産(GDP)が、1990-2020年の間で米国3.5倍増、中国37倍増、ドイツ2.3倍増しているのに対し、日本1.5倍しか増えていないのが象徴だ。
かって日本のお家芸だった半導体や太陽光パネル、等の国際競争力の低下は目に余るものがある。これらの生産能力が低下する一方であり、加えて少子高齢化が顕著になってきている。新しい価値観をなかなか受け入れない国民や企業が蔓延し、失われた30年が過ぎたいま、日本はこれから失われた40年、あるいは失われた50年が始まっているのかもしれない。
日本の技術力の低下の原因はいろいろ考えられる。バブルに踊らされ、バブルがはじけ、日本全体が自信を失ったと総括できるかも知れないが、後遺症の一つに日本の技術力や研究力の軽視がある。国は技術力の回復を急ぐあまり、国立大学の効率化を目的に2003年国立大学法人法を定めた。この中で独立採算制の名目で、研究費用は自分で調達しろと、大学への予算が年々減らされるため、年期付きの採用が多くなり、また研究者も実績を上げるために安易な研究テーマを取り上げる傾向が強くなった。
文部科学省の昨年9月の調査によれば、今年3月末で丸10年となる特例対象者は681機関で約1.2万人となり、このうち無期契約を結ぶ見通しが立っていたのはわずか3.9%にとどまっていたそうだ。研究は単に効率の問題では無く、安定した環境の下自由な発想で進むものである。職を失うかもしれないとの不安な環境では良い研究が出来る筈が無い。
日本のこのような情勢の中、お隣の中国では1000人計画と称し、研究力の向上に力を入れているようだ。中国の優秀な学生は海外で高度研究に取り組むことが多く、その多くが留学後も海外に残り、中国には戻らないのだそうだ。中国側は、この状況を打開するために、中国の大学の規模と威信を高め、世界最高レベルの大学から華僑や外国生まれの優秀な人材を招致することを目的として、2008年に1000人計画を創設した。
日本の研究機関で研究の場を失った研究者の中にはこの計画に参加する者もいるそうだ。2021年当時、日本では1000人計画への参加などに関する政府の規制はなく、実態も把握できていなかったが、最近どうなっているのか。
中国の優秀な若者が中国に戻らないのは、単に処遇の問題では無く、安心して自分の研究に打ち込める環境の整備が重要なのは中国も日本も同様である。
2023.07.22(犬賀 大好ー932)
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