10月20日の外国為替市場で円相場が下落し、一時1ドル=150円の記録を32年ぶりに下回った。円安と言えば輸出産業は潤い、輸入産業は苦しくなるのが普通であった。しかし、かつてほど円安で輸出は伸びなくなり、片や燃料や穀物等の資源高で輸入コストが膨らみ一般庶民にも直接影響が及んでいる。
9月15日発表された8月の貿易統計速報によると、貿易収支は2兆8173億円の赤字だったそうだ。赤字額は東日本大震災の影響が大きかった2014年1月を上回ったとのことで、現在東日本大震災級の災難が日本中に降りかかっているのだ。
今の円安は、日米の金利差で専ら説明されているが、半分以上は日本の国力全体に対する市場の評価が落ちてきていることが原因だと考えられるそうだ。かっては高い技術力を背景に安い日本製品が海外でよく売れたが、海外の技術力が向上すると共に日本離れを招き、また人材の海外流出もあり国力が低下しているのではないかと懸念される。
日本は元々エネルギーや食料を輸入に頼る資源小国で、原材料を買い、日本で加工・組み立て、それを輸出し、生き抜いてきた。ところが太陽電池や半導体等の電気製品は海外勢に抜かれ、情報技術(IT)などの成長分野では米中に後れをとった。
自動車はかろうじて日本の輸出の主流を占めているが、電気自動車の開発遅れもありいつまでこの地位を保つことが出来るか分からない。欧州連合(EU)は10月27日、ガソリン車の新車販売を2035年に禁止することを正式に決めた。日本メーカーが得意とするハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も対象になるとのことだ。
日本の自動車各社も電気自動車(EV)へのシフトを加速しているが、EVはガソリン車よりはるかに構造が簡単で、無人運転等ITの占めるウエートが大きく、後れを取り戻すことが出来るであろうか。
かっての技術立国日本の技術力の低下の原因は様々な要因があろうが、その一つは研究者の地位低下であろう。国立大学の場合、国からの運営費交付金が削減される一方、競争的資金や外部資金の導入が進んだが、これらは期限付きのプロジェクト資金であり、そのために募集される教員ポストも期限付きになり、期限が来れば研究者は別の仕事を探す必要があるため、腰を据えて研究が出来ない現状である。
一方中国では1000人計画と称する海外から優秀な研究者を集める人材招致プロジェクトがあり、多額の研究費などが保証され、研究環境が日本より魅力的なため、日本を脱出する研究者もいるようだ。
また国力の一つは人口資源であるが、日本の出生率の低下も将来の大きなリスクをはらむ。労働生産人口の減少は海外からの出稼ぎ労働者の補充である程度補えるかもしれないが、最近の円安は儲けを母国に送金する出稼ぎ労働者にも敬遠されるそうだ。それどころか、海外で働く日本人もいるとのことで、社会は大きく変化しつつあるが、方向は日本の国力低下だ。
2022.11.05(犬賀 大好ー860)
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