10年前、東日本大震災時に起こった東電福島第1原発事故の後始末が一向に捗らない。廃炉計画では今年2月28日、ようやく3号機の使用済み核燃料566体を取り出す作業を完了したとの発表があったが、1号機や2号機にはまだ多数の燃料棒が残る。事故から10年目でこの有様である。
燃料棒の取り出しより遥かに困難な作業はデブリの撤去であるが、未だデブリのある場所すらはっきり分かっておらず、当初の事故から40年で廃炉完了とは夢の夢であろう。ところで廃炉作業より技術的には簡単と思われる、汚染水や汚染土の処分法、核ゴミの処分法に関しては政治的な問題が絡み、先送りが目立つ。
第1原発の敷地内に設けられたタンクにたまり続けている汚染処理水の処分を巡り、菅首相は今月7日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸会長と首相官邸で会談した。岸氏によると、菅首相からは、処理水の処分は海洋放出がより現実的という有識者による政府小委員会の報告書を踏まえ、海洋放出処分に理解を求めたそうだ。
東日本大震災で破損した原子炉の冷却水等の汚染水は各種放射性物資を取り除く処理が施されるが、トリチウムだけは残りそのためタンクに一時保管されているが、タンク増設も来年には限界が来るとのことで、タンクの水の処分を急いで決めなくてはならない状況なのだ。
3月6日、菅首相は福島を訪れ、汚染水の処理法いつまでも決定せずに先送りすべきではなく、適切な時期に政府が責任をもって処分方針を決定する、と宣言したが、全漁連会長との会談もその一環であろう。これまで地元漁業組合との話し合いは何度かなされているようだが、埒が明かない為、組合の上部組織に話を持ち込み、政治的圧力を強めたのであろう。
岸氏は放出反対の姿勢を崩さなかったものの、海洋放出を前提にする場合は国民への丁寧な説明や風評被害の対策をすることなどの要望をしたそうだ。汚染水の安全性に関しては、専門家も問題ないと判断しているようだが、それ以上の問題は風評被害であり、現時点ではいくら安全と政府が言ったところで、政府の信用がないため、効き目がない。
増え続ける処理水の扱いを巡る議論が始まって7年以上になるが、地元には漁業などへの風評被害を懸念する声が絶えず政府は問題先送りに明け暮れていた。処理水を海水で薄め、トリチウムを基準の40分の1以下にするが、それでも風評被害は無くならない。風評被害は心の問題であり、東電や政府が信頼出来ないことが根本にある。
東電が再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原発では、去年3月以降、テロリストなどの侵入を検知する複数の設備が壊れ、その後の対策も十分機能していなかったこと等が明らかになった。東電は原発の安全神話にまだどっぷり浸かっているのか、あるいはやる気をすっかり無くしているのか、この無責任さである。
菅首相の抱えている問題は、原発事故の後始末だけではなく、コロナウイルス対策もあるが、ここでも厚労省職員の深夜まで飲食店で送別会の体たらくに足を引っ張られる。首相は官僚の人事権掌握で辣腕を振ってきたそうだが、直接の人事権が及ばないところでは全く信頼されていないようだ。2021.04.10(犬賀 大好ー693)