ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

2013-07-19 00:23:33 | 嫌いだ嫌いだ
旅は気持ちを高揚させる
非日常はわれわれを興奮させる

千年に一度
の事件の現場が
ひとを高揚させないわけがあるだろうか

そこで
その現場で
はしゃいでる若者を
咎めることができるだろうか
若者が記憶にとどめ
いつか語り出すことを待ってはいけないだろうか

そう記憶にとどめる

巨大な鉄の塊がそこに
とどめられているように
失われた日常を想起する

カモメが飛び交う
カモメが陸を飛ぶ日は
雨が降るという

カモメが船の周りを飛ぶのは
日常の光景だが
湾内航路の旅客船の航跡のうえを
カモメが上に下に高度を変えながら飛ぶ
晴れた夏の旅行の
ありふれた情景だが
白い熱い砂の浜の海水浴のあと
西に傾いた太陽の光線を浴びながら
カモメのえさを手に持ったまま
飛ぶカモメにくわえさせ
飛び去らせる
プロモーションビデオや
観光パンフレットに
必ず使われるシーンだが

陸の上の鉄の塊は鈍重だ
暗部である
醜悪ですらある
決して見なれることのない風景だ
カモメが飛び交い
花が添えられ
手を合わせるひとびとがいる

通り過ぎる車の後部座席から
じっと見つめて振り向いて見つめるひとがいる

われわれがどうにもしようのない
途方もなく大きなもの
途方もなく大きなものの残した遺物
異物

ひとは花を添えて
手を合わせる
記憶にとどめる
そして立ち去る

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