斎藤環氏は、オープンダイアローグに出会う前から、その著書の大半を読んできた。 オープンダイアローグ自体も、斎藤氏から教えていただいたわけだが、それ以前と以後との氏の著作には断絶がある、という思いはあった。【書物と臨床の断絶と統合】 以前、著作においてはラカン派の精神分析でありつつ、臨床家としては、必ずしも精神分析家ではなかったようである。 しかし、オープンダイアローグに出会って以降、精神分析から . . . 本文を読む
【小説家であること】柴崎友香氏は、1973年生まれの芥川賞作家とのこと。 著者紹介に「人文地理学専攻で、場所の記憶や建築、写真などに興味がある」とあり、帯には「私の体の中には複数の時間が流れている」と大きな文字で記されている。その下部には小さな文字で「ある場所の過去と今。誰かの記憶と経験。出来事をめぐる複数からの視点」、裏を返すと「他人は自分と感覚が違う、世界を認識する仕方が違う。自分は自分の身体 . . . 本文を読む
この年1回刊の雑誌は、これで二冊目。第8号の、野村直樹・斎藤環編『オープンダイアローグの実践』以来である。なぜ、ナラティブについての雑誌がオープンダイアローグについての特集を組むのか。それは似たようなものだからである、と私は大雑把に言ってしまいたい。あんまり大雑把にすぎるけれども、あながち的を外してはいないはずだ。 たとえば、国重浩一氏が、この号所収の「ナラティブ・セラピーとオープンダイアローグ . . . 本文を読む
これは、1998年に発行されたロングセラーの改訂新版である。「ひきこもり」についての基本的な文献というべきだろう。 カバーの惹句を見ると、「精神科医として現場で「ひきこもり」の治療に携わってきた著者」による、「「ひきこもり」を単なる「個人の病理」でなく、個人・家庭・社会という3つのシステムの関わりの障害による「システムの病理」と」捉えて「正しい知識と対処の仕方を解説」した書物、ということになる。 . . . 本文を読む
【近田先生と哲学カフェと私】 近田真美子先生は福井看護大学看護学科の教授であるが、実は私にとって、哲学カフェの師である。さらに実は、東北福祉大学通信課程で精神保健福祉士目指して学ぶ現在、精神保健学の師でもある。昨年、今年と対面のスクーリングがあれば、ぜひ、直接ご指導いただきたかったところだが、残念ながら収録済みのオンデマンドのみであったので、他科目との兼ね合いでレポート、試験のみの受講とした。 哲 . . . 本文を読む
これも、シリーズケアをひらくの一冊。 中村祐子氏は、1977年東京生まれ、慶応義塾大学文学部卒、テレビマンユニオンに参加とのことで、映画・テレビの脚本、演出を手がけつつ、2020年に集英社から『マザリング 現代の母なる場所』を出版されているようだ。立教大学現代心理学部映像身体学科兼任講師も務められる。 さて、この本は、何の本だろうか?「ヤングケアラー」についての本だろうか。そうではあるだろう。し . . . 本文を読む
シリーズケアをひらくの一冊。 栗原康氏は、早稲田の政治学の大学院博士課程から、東北芸術工科大の非常勤講師とのこと。専門は、アナキズム研究だという。 文体は、軽々しい。パンキッシュである。アナーキーin the UK。 〈はじめに〉で、「近代看護の母」とか「クリミアの天使」と呼ばれ「道徳の教科書みたいなイメージ」で、「世のため、ひとのため、清く、正しく、美しく…そういうのにはヘドが出 . . . 本文を読む
白石正明氏は、医学書院の名物編集者、「偉大なる編集者」といってしまうと、評価が早すぎるとなってしまうだろうが、私が尊敬する、いつの間にか影響を受けていたというべき編集者であることは間違いない。白石氏が、この3月で定年退職を迎えたらしい。 写真は、同シリーズの他、本棚にあった担当書籍を並べてみた。このほか、斎藤環氏の『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』2021と、森川すいめい氏の『オー . . . 本文を読む
この本に掲載されている対談は、私がいま、精神保健福祉士を目指して、大学の通信課程で学んでいる、その直接のきっかけとなったものであるといって間違いない。このお二人は、私にとって、現在、五指に入る最も重要な著者である。 タイトルについて、購入してからも実際に読み始めるまで《臨床のブリコラージュ》だと思い込んでいた。《フ》でなくて、濁点のついた《ブ》。クロード・レヴィ=ストロースのいう《bricola . . . 本文を読む
副題は「患者と医師が語りつくしてわかったこと」。 樋口直美氏の著書は、シリーズケアをひらくの一冊『誤作動する脳』(医学書院2020)に次いで2冊目である。 この本のねらいは、「はじめに」に記されている。「私は、五〇歳の時に「レビー小体型認知症(DLB)」と診断され、治療を続けている患者です。診断後、自分の病態を観察、記録し、「従来の説明はちょっと違うよ」と書き続けてきました。当事者を苦しめる、認 . . . 本文を読む
村上靖彦氏は、大阪大学大学院人間科学研究科教授、東京大学教養学部から大学院、パリ第七大学で、現象学、精神分析などを修められたようである。 現象学は、フッサールが興した哲学の一派で、デカルトの懐疑を基底に、大雑把に言えば、ハイデガー、メルロ=ポンティ、サルトルなど後の実存主義につながるものである。 ちくまプリマー新書は、学問、教養への入門編というか、高校から大学一般教養レベルということになるのだろ . . . 本文を読む
バフチンは、ロシアの、というかソ連の、と言った方がしっくりくるだろうか、文芸学者。ブックカバーに「革命後の混乱の中、匿名の学者として活動。スターリン時代に逮捕され流刑に処された後、モルドヴァ大学の教師として半生を過ごした」とある。旧ソ連の西端に位置し、ルーマニアと接するモルドヴァ共和国の大学である。ソ連の辺境にひっそりと余生を過ごした学者、ということになるのだろうか。【ベイトソン、バフチンとの再 . . . 本文を読む
東畑氏の、『聞く技術 聞いてもらう技術』に引き続いて、『ふつうの相談』である。「さまざまな現場で交わされている日常的な相談の風景…、そこには共通して響いている通奏低音のようなものがある。 この響きを本論では「ふつうの相談」と呼びたい。それは心理療法の教科書や専門書には書かれていないけれど、誰もが本当は実践している相談のことだ。日々の臨床に溢れているのに名前を与えられることもなく、そ . . . 本文を読む
本の帯によれば、臨床心理士(公認心理師でもある)東畑開人氏の、はじめての新書らしい。 臨床心理士の著作であるが、タイトルの言葉は「聴く」ではなく「聞く」である。書き間違いではない。 ここが大切なところ。 私の関心領域のなかで、オープンダイアローグや哲学カフェなどと、大きな輪をかたちづくる重要な書物であった、と言っていい。【聴くではなく聞く】 ブックカバーの裏に次のように記される。「「聞く」は声が . . . 本文を読む
副題は、「リフレクティング・チームからリフレクティング・プロセスへ」。 リフレクティングについては、すでに昨年5月に、矢原隆行氏による『リフレクティング―会話についての会話という方法』(ナカニシヤ出版2016)を紹介済みであるが、重ねて深く学ぶべき方法であることに間違いはない。 矢原隆行氏は、熊本大学大学院人文社会科学研究部教授で、専攻は臨床社会学など。 トム・アンデルセンは、ノルウェーの精神科 . . . 本文を読む