一般意志は我にあり
と僭称する
おおカエサルにこそ帰属せしめよ
ステージに立って右手を斜め上方に上げ
手のひらを小さくくるりと一回転する
それだけで
1万人がどよめく
右手を前に突き出し
人差し指をまっすぐ伸ばす
それだけで
1万人が絶叫する
一般意志はわが手の中
人差し指の先端にある
口から . . . 本文を読む
S.O.S
S.O.S
私はどこにいますか
S.O.S
S.O.S
声が聞こえますか
S.O.S
S.O.S
…
※
必ずしも苦しくはないが
沈んでいる
おとなしく
大人しく?
平板に
血液を送り出す力
空気を送り出す力
言葉を排出する力
ああ言葉は語 . . . 本文を読む
画策を弄する必要はない
正論がもっとも強い
すっとまっすぐに通る理路を語る
理路を語ることによって道が開かれる
開かれた道を歩くことができる
理念を語り
理念に至る道を示す
あとはたんたんとその道を歩けばよい
ただ問題は
各々のその道が往々交差して
ぶつかることがあるということだ
そのときはちょっと歩をゆるめて
. . . 本文を読む
春が来て
夏が来て
秋が来て
また冬が来る
杉が咲いて
梅が咲いて
桜が咲いて
紫陽花が咲いて
向日葵が咲いて
秋桜が咲く
山茶花が咲いて
やがて椿が咲く
くしゃみする
鼻水を啜る
汗をかく
日焼けする
くしゃみする
そして咳をする
花粉が降り
黄砂が降り
雨が降り
陽が射し
雹が降り
粉塵が降り
雨が . . . 本文を読む
ひとりはひとり
ひとひとりの重さ
百人の重さ
一億人の重さ
ひとりはひとり
古代の哲人もひとり
中世の武人もひとり
近世の学者もひとり
近代の発明家もひとり
現代のミュージシャンもひとり
あかちゃんもひとり
小学生もひとり
初恋の高校生もひとり
黒いスーツの大学生もひとり
社長もひとり
カエサルもひとり
公爵もひとり
. . . 本文を読む
小春日和
冬の日差し
ガラス戸の内側の縁側で街を見下ろす
新しい橋がある
古い橋を撤去した両岸をパワーショベルが土木工事している
暖かい
寒くはない
昼の南の空からの陽射しが
縁側に射し込む
ぬくぬくと暖かい
川が海に向って流れていく
満潮なのか
昨夜の雪の雪解け水があるのか
水量は多く
細かな波に光も映り
水が流れ下っている有様も明らかだ
河口自体 . . . 本文を読む
そうだ
かまぼこ兵舎というのはあった
どうやら東京の下北沢近辺にあったらしい
というのは最近知ったことだが
アメリカ軍が日本に進駐して下北沢あたりに作ったらしい
前線近くに急ごしらえに作る兵舎だろう
テントよりはまし
くらいの感じで
かまぼこ校舎は
安波山のふもと
丘の上
内湾沿いの目立つ場所に
もとの保健所のところに
私立の女子高が立つことになって
充 . . . 本文を読む
休日・朝
バタ付きパンの朝食(ブランチとも言う)のあとのコーヒー
豆を挽いて
(挽いた粉を買うときもあるが)
ペーパードリップで
コーヒーを淹れる
あるとき
口の細いやかんを見つけて
はじめのうちは直接それでお湯を沸かしていたが
そのうちに
別のやかんで沸かしたお湯を
その
口の細いやつに移して
注ぐことにした
それはもちろん
コーヒー . . . 本文を読む
休日
朝
目覚めて顔を洗って
長い食パンを切って
(ほぼ四枚切りの厚さ二枚)
強めにトーストする
仕事の日には
簡単なストレッチのような体馴らしをこの間に
休みの日は後回し
トーストが上がったら
今度は
牛乳をマグに注いで
温める
妻は野菜を出して切って器に盛って
時にはモッツァレラ・チーズを引き割いて
黒胡椒と塩と酢と . . . 本文を読む
切りとった大きな窓
床面からの大きな窓
窓際に二人がけのテーブルとイスが並んだ
その向こうに内湾の狭い水面が見える
対岸にコンクリートの建物
4階建てや3階建てが数棟
木造家屋が流された跡地のなかに残り
小高いところに
屋内体操場を上に乗せたコンクリートの校舎
かまぼこ校舎と呼ばれたランドマーク
(エッフェル塔もできた当時はかまびすしいパリっ子の不平のタネだった)
この春の卒 . . . 本文を読む
わたしはわたしなのか
わたしはわたしを手わたし
あなたはわたしなのか
あなたはあなたなのか
あなたはあなたへ過ぎ去り
あれはあなたなのか
あれ
向こうにずっと向こうに
草原の先に
いっぽんの木が
あれはあなたなのか
ひとりで
立っている
春から夏に
陽を受け
たくさんの光を浴びて
呼吸し . . . 本文を読む
一匹のうさぎ
褐色で腹だけ白い
縫ぐるみのようにまるまると太って
耳を切りそろえ
耳をつかんで
耳が長すぎて垂れてしまわないように
ピンと立つ長さに切りそろえ
首も締めてしまえ
それから
こちらに寄こせ
ああ
まるまると太ったうさぎの
耳を切りそろえるところまではできるけれども
首を絞めるまではやりたくない
やらずに済ませ . . . 本文を読む
よく晴れたすがすがしい一日
もはや暑くはなく
陽射しがここちよく
日陰は
少し風が吹くと寒いくらいの日
杉でも松でもない針葉樹の屋敷林と砂利道
道端にまばらにコスモス
ところどころに小さな白い菊
ヨモギの葉
舗装道路の坂道と白い金属のフェンス
名もない草
いや
名もない草などない
不勉強な輩が
名もない雑草と安易に描写する
名もない虫な . . . 本文を読む
わたしはわたしなのか
わたしはわたしを手わたし
あなたはわたしなのか
あなたはあなたなのか
あなたはあなたへ過ぎ去り
あれはあなたなのか
あれ
向こうにずっと向こうに
草原の先に
いっぽんの木が
あれはあなたなのか
ひとりで
立っている
春から夏に
陽を受け
たくさんの光を浴びて
呼吸し . . . 本文を読む
その迷宮は目に見えない
目に見える明白な迷宮は迷宮ではない
ひとつも迷宮に見えない
すみずみまでよく見とおせる
死角の無い四角い箱のような建築
それこそが迷宮
明白に目に見えるものしかないのに
その底に潜んでいる謎
扉を開けたその向こうに流れる織り目(テクスト)
宝石箱
びっくり箱
パンドラの箱
ひとつも隠されていないのに
謎はひとつもない . . . 本文を読む