晩秋の
穏やかな快晴の空に
たったひとつ浮かぶ
蟻のような雲
あるいは
翅のない
蜂のような雲
翅がなくとも
ぽっかりと
悠々と
浮かんでいるから
それでいいか
それとも
仲間がないから
さびしいか
. . . 本文を読む
西の山並みが
沈んだばかりの太陽の
未だ残る光に照らされた
西の空に
暗く沈んだシルエットとして浮かび上がる
ごく薄い水色がかった白い空を背景に
薄明は
美しい
とひとは言う
見上げると
東南向きのごく高いところに
白いうろこ雲の隙間から
一番星が光っている
東の空は
まだ青い
もうすぐに暗くなる
束の間の猶予のとき
東の空の下
観音寺の銀杏の黄色い葉
つい先日まで青々とした銀杏の葉が . . . 本文を読む
情報の大半は
表
にある
まずは
表
をしっかりと読む
こと
裏は
表があって初めて存在しうる
その逆
ではない
裏
を読むことも大切だろうが
まずは
表
をしっかり見ること
建前をしっかりと把握すること
事象の把握に
裏を見ることも役に立つし
理解に深みを与えるが
表なしには
裏はない
裏話
裏情報
噂
好きも世の中多いが
惑わされてはいけない
表の筋をきっちりつかんで初めて
全体の構 . . . 本文を読む
今朝
職場の四角い窓から
さっさっさっと掃いたような
絹雲
雲の隙間が
くの字やんの字やXの字に残る
昼ころ
職場の四角い窓から
絵本に出てくる雲
雲らしい雲
積雲
ぽっこりと
浮かぶ
午後には
雲が晴れ
やや霞がかった
水色の青空
雲は
風に流され
遠くに飛んで行った
あるいは
雲散霧消した
何事の不思議もない
フシギ
. . . 本文を読む
今年は紅葉が美しい
という
暑かった夏と秋との寒暖差が大きく
十一月に雨が多かった
ことが幸いしている
のだろうと
専門家が言う
今年は紅葉が赤く美しい
とひとは言う
私も友と語らって
紅葉を求めて山の端を訪ねたい
紅葉の山は美しい
紅葉の里も美しい
さて
紅葉はどこにあるか
どこに行けば
美しい紅葉に出会えるか
ところで
私の家の庭に
紅葉の落葉が吹き溜まっている
この葉は
何処から落ち . . . 本文を読む
夕刻5時前
午睡の後
庭に出ると
川向かいのクリニックの
薄黄緑の壁面や
農協のくすんだ白い壁面
家々の北向きの壁面が
妙にくっきりと浮かぶように見える
既に
西の山なみの
稜線から落ちた
見えない西陽が
かすかに壁面を照らして
映画のCGの背景のように
芝居の書割のように
実在が虚構のように見える
すでに光が光とも見えないような
壁面をかすかに照らすことによって
まだ
光が残っているこ . . . 本文を読む
あの頃には
もう
帰れない
あの頃って
いつ
だっけ?
あの頃はあの頃
人生が
いちばん輝いていたあの頃
に決まっているじゃないか
セヴンティーンの十七歳
番茶も出花の十八歳
成人式の二十歳
卒業写真の二十二歳
その頃かなあ?
初恋の頃
恋愛が始まる頃
結婚前の頃
子どもが生まれた頃
その頃かなあ
それはひとそれぞれ
特定しちゃいけない
ひとが
何とでも想像できるように
ぼやっと
曖昧 . . . 本文を読む
川を挟んだ向こうの丘の
教会のあたりに
明るい灯が見える
周りの街灯は
青みがかった白
その中に
ひときわ明るく
暖色系の
オレンジがかった
灯が
ひとつ見える
右手に高く
ラジオの放送塔の
縦に並んだ
二つの赤い灯
真っ赤な灯
あの教会の丘の
たったひとつの
オレンジがかった明るい灯は
昔ながらの電球のように
ほのぼのとはせず
団欒を想わせず
強く光っている
神の高みを求めるように
. . . 本文を読む
2キロメートルほどの距離の
ここからは見えない
丘の向こうの港から
漁船のエンジン音が響いてくる
夜
サンマ船の季節は
毎夜
聞こえてくるものだが
今年は
今夜
初めて気付いた
かすかに
というよりは強く
うるさいとまでは行かず
この季節を告げる
この街の音
そして
夜空を照らすサーチライト
丘の向こうの空を
何ものか探すように
漁場では
魚群を探すか
障害物を照らす役割があるのだろうが
. . . 本文を読む