場所はあるのです
震えているのです
知らず知らず病んでいるように
みんな震えているのです
舞い上がるように
確かな地面に立ちながら
奥の奥 底の底は
みんな震えているのです
震えなければ
寒くて寒くて
みんな凍えてしまいます
場所も消えてしまいます
あからさまな電気のきらめきは
奥の奥 底の底に封じ込めて
あからさまなはじまりの爆発は
未知の彼方に忘却して
じっと
温もる体温を保持している . . . 本文を読む
二十一世紀のぼくたちはいつも
ぼくたち自身を再発見しなければならない
ぼくたちは
まぎれもない日本人だが
いくばくかは
イギリス人で
フランス人で
ドイツ人で
かなりのところ
アメリカ人だ
多少は
ロシア人で
イタリア人で
スペイン・ポルトガル人ですらある
でも
あまり
中国人ではなくなったし
韓国人でもないようだ
歌舞伎や能や狂言や新内節や
浮世絵
最近は童謡唱歌すら
ぼくらは忘れていて . . . 本文を読む
リアス・アーク美術館のワークショップで、「体・からだ・カラダ」と題して面白いことをやっていた。十月十三日の日曜日、最終日の閉館間際行ってみた。
学芸員の山内宏泰氏が、若い男の腰に柔らかい紙を巻きつけ終え、ガムテープを引きちぎってその上に張りつけていく。体の線に沿って、たるみが生じないよう丁寧に張る。丁寧であるが、手慣れている。へそからふとももの途中、丁度一番太くなるあたりまで、あれはなんと言う . . . 本文を読む
昨夜の「テールランプが」を推敲して、「嫌いだ嫌いだ」シリーズでないほうのバージョンで載せるとすると、たとえば以下のようになる。哀しいという形容詞がなくなる。
テールランプが
橋を渡って右折
ヘッドライトが二台
少しの間をおいて直進
橋を渡ってくる
何ごとの不思議もない
夜の街を
テールランプとヘッドライトが往来する
ま、どちらがいいかは、読者のお好み次第。
「嫌いだ嫌いだ」シリー . . . 本文を読む
月はやさしい
穏やかに
見守ってくれる
微笑んで
見守ってくれる
月はけして自ら光らない
見えない太陽の光を受けて
やさしく輝きかえす
全てを受け入れて
やさしく
贈り返してくれる
けして支配することなく
受け入れる
受け止める
月はやさしい
傷つきやすい心を
やさしく受け止めてくれる
受け入れてくれる
ほの暗い空を
ほの明るく染めて
何を奪い取ることもなく
全てを受容する
月はや . . . 本文を読む
半月からちょっと欠けた赤い月が
西の山に落ちていく
少しだけ陰った部分が
ちょうどほほ笑むまなざしのようだ
どこか不思議に懐かしい
私を
見守ってくれるような
暖かく語りかけてくれるような
あのアンデルセンの「絵のない絵本」の月は
この月だったに違いない
世の中の
さまざまな物語を見て
さまざまな幸福と不幸を見下ろして
そっと
私だけに語りかけてくれる
そんな
暖かな
懐かしい月
高台の私 . . . 本文を読む
珈琲を淹れる
お湯を沸かし
豆を挽いて
と冷蔵庫開けると
貰いものの挽いた豆があって
先にそちらを使う
人生で
何度
私は珈琲を淹れただろうか
いまはもう随分長く
ペーパードリップを使って
苦い珈琲
あるいは
酸味の珈琲
カフェインを体内に取り込んで
緑茶とも紅茶とも
ましてコーラとも違うカフェインを
(もちろん他の成分の違いがあるのだろうが)
珈琲は別格だ
生きることの根幹に触れる気がす . . . 本文を読む
今日も
美しい夕映えのなかを
日が沈んでいく
曇りの日も
雨の日すらも
雲の向こうで
美しく
日が沈んでいく
ひとが泣いても
笑っていても
喧嘩していても
美しく
日が沈んでいく
太陽が生まれた
はるか昔から
太陽が消滅する
はるか未来まで
変わりなく
日は沈んでいく
ひとが生まれた
はるか昔のそのまた昔から
ひとが消滅する
はるか未来を超えて
変わりなく
日は沈んでいく
そして夜が明 . . . 本文を読む
宇宙は一つ
地球は一つ
一人は一人
宇宙=地球=一人
一人は小さい
地球は大きい
宇宙は無限
一人≠地球≠宇宙
一人は一人
一人は個人
二人は二人
二人は一対
三人は三人
三人はトリオ
四人は四人
四人はグループ
仲間
同志
他人
ライバル
宿敵
民族は民族
民族は同胞
一国民は一国民
はらから
兄弟
家族
離散家族
崩壊家族
鍋を囲む寒い冬のだんらん
外は雪
外は吹雪
うちには . . . 本文を読む
海の碧と空の蒼 暗転その2(男女声コーラス間)
語り
小山鼎浦(ていほ)は、「経国(けいこく)の大業(たいぎょう)は哲人(てつじん)の理想に俟(ま)つ」と唱え、衆議院議員となりましたが、「久遠(くおん)の基督教(きりすときょう)」を著した思想家・宗教家、また、文学者でもありました。
紳士
―幽谷(ゆうこく)に芳樹(ほうじゅ)生(は)え
碧海(へきかい)は黙雷(もくらい)を宿(やど)す
鼎 . . . 本文を読む
海の碧と空の蒼 暗転その1
紳士
♪青葉茂れる桜井の…
婦人
♪里のわたりの夕まぐれ…
語り
仙台藩伊達家御一家筆頭鮎貝家に生まれた落合直文は、明治以降の近代短歌の源流に位置するといわれる歌人、詩人、国文学者。
紳士
―この歌は、楠正成を歌った直文の名作で、以前は、ラジオ、テレビでも、時々聴く機会があったものだが…
婦人
―最近は、とんと聴くこともないですねえ。
紳士
―「緋縅(ひお . . . 本文を読む
第3部 海の碧と空の蒼
語り
ひとりの老紳士とひとりのご婦人が、こざっぱりとした身なりをして、洋傘をステッキ代わりにしてはおりませんが、小さな入り江を囲む港のあたりを、こんなことを言いながら歩いておりました。
紳士
―ぜんたい、ここらのまちは怪しからん。木造2階建て瓦葺の昔ながらの町家があるかと思えば、鉄筋コンクリートのビルもある。中途半端に西洋の真似をして、表だけ四角く囲った店も多い。全く . . . 本文を読む
第2部 古(いにしえ)の海辺 暗転中
紳士
―夢か現(うつつ)か、幻か。遠き昔の都人(みやこびと)は、道の奥の潮汲みの、塩炊きの、松島を見る塩釜の、港の奥の、いや、一景島見る鼎の浦の、港の奥の細浦の、塩売り、塩振り、塩降らし、いや、外海、荒海、地獄崎、いや、祝いが崎の潮吹きの、潮汲みの、塩炊きの、翁(おきな)が技(わざ)の伊勢の国、いや、伊勢が浜、薪(まき)切り、薪取り、かまど焚(た)き、甘き塩 . . . 本文を読む
第2部 古(いにしえ)の海辺
語り
ひとりの老紳士とひとりのご婦人が、ひとりは、羽織袴の正装を整え、ひとりは、仕立ての良い、暖かそうなコートを着込んで、とある浜辺の近く、昔は、海水を汲んで塩を炊いたと伝えられるあたりを、こんなことを言いながら歩いておりました。
紳士
―ぜんたい、ここらの海は、怪しからん。白砂青松の美しき浜辺を遠目に眺め、ゆっくりと散歩をするのが、私たちの楽しみなのに、今日は . . . 本文を読む