思い立ってすぐ
語り出す
青い空は青い
緑の森は緑
紺碧の海は紺碧
白い雲は白い
辛いものは辛い
香るものは香る
甘いものは甘い
美味いものは美味い
語られた言葉は失われることがない
忘れられても失われるわけではない
そこにある
そこに残っている
そこのそこに
おくそこに
深い闇のそこに
忘れきったおくそこの閉じ込められたそのそこに
ある日
湧き出でる泉水のように
柔らかな乳白 . . . 本文を読む
土を盛る
華やかにデコレートする
土色の土を盛る
アスファルトで塗りたくる
全般に低下しているから
多少一部を盛っても追いつかない
お目々ぱっちり
まつげどっきり
くちもとげんなり
夜暗いときに通ると
目測の助けになるものがひとつもないので
つい踏み外しそうになる
ような気がして怖い
とドライバーは証言する
街路灯がない
不要な交差点に信号機は随分復活しているのに
でもね
抜け道にはなる . . . 本文を読む
飛ぶ夢を
しばらく見ていない
気分良くすいすいと
ドライブする
ことをすっかり忘れてしまった
低く低く地べたを這いつくばって
鳥瞰する視点を失って
むしろ穴を掘って
ぬくぬくと生暖かい穴の中にうずくまって
そのままいつまでも眠り続けて
未来永劫眠り続けて
さて
すっと立ちあがって
遠くを見据えて
見とおして
地面を蹴る
跳びあがる
空を飛ぶ
夢を見る
. . . 本文を読む
メモしておけば役に立つ
ことは知っている
ばらばらに
読み流した
順序立てない記憶
どこかで
泉が湧きでるように
いつか
絶え間なく
言葉が紡ぎだされる
だろう
そんな虫のいい目論見
結構信じている
その力を
どこかに深く
簡単に読み解けるわけではなく
仕舞いこまれている
一言一句違わずに
とも言われる
一種の神話
だな
. . . 本文を読む
風だとか
建築だとか
路上だとか
それらの都会の風物は
いつも悲しい
悲しいが
確固としている
曖昧なところはない
多くのひとがいるはずなのに
だれ一人としてそこにはいない
ように見える
悲しいが
悲惨ではない
悲しいが
涙ぐむわけでもない
屹立した
孤絶の風貌
ターミナルの群衆のさなかに
暗いマントをはおった暗い人影
上野駅の正面の改札付近
東京や新宿やまして横浜ではない
風が吹 . . . 本文を読む
わたしは
斜線である
斜に構えて
女を見る
好ましく見えているか
厭わしく観じられるか
どちらでもよい
見ていることを見られている斜線
区分線
そこに何かある
何か良く分からないが
何かがある
すっと引かれた斜線
吸引する裂け目
鏡を見てはじめて
何ものかであると
気づく
むしろ
想像する
その前は
無限定な
無
幅のない斜線
. . . 本文を読む
とりたてて
悲しいことがある
わけではない
つらいこと
苦しいこと
我慢できないこと
耐えられないこと
泣きたいことがある
わけではない
無為に過ごす休日
目覚めて寝床で本を読み
眠り
目覚めてトーストを焼いて食し
歯を磨いて本を読み
眠り
起き出して
車を出して
カフェでコーヒーを飲み
本を読み
そばを喰って本を読み
帰宅して本を読み
メールをチェックして
ネットをチェックして
軽く食事し . . . 本文を読む
ときおり
ひとがひとでなくなるような
そんな瞬間が
訪れる
桜の咲く季節
だからというのでなく
ひとがひとである
そんな理想郷
ひとが鬼である
そんな日常
いやいやどちらにしろ
それらは
レトリック
ひとは鬼となる縁がなければ鬼とはならない
ひととなる縁がなければひととなることはできない
ひとは
ビルの屋上から飛び降りることができる
ナイフでひとを刺すことができる
言葉でひとを貶めること . . . 本文を読む
自転車で突っ走っているひとは
脚を緩めることができない
止めればぶっ倒れる
ブレーキのない
空まわしのできない
競技用自転車
ぼくらの社会は
競技用自転車のようなものなのか?
それとも
ブレーキも効いて
空まわしもできる
安全な普通の自転車なのか?
ぼくらの経済は
休みなく
ペダルを踏み続けなければ
立ちゆかないのか?
時には脚を休め
時にはゆっくりと回し
そして時には思い切り疾走すること . . . 本文を読む
夢をみる
夢はいつか叶い
夢であることをやめる
別の夢は
叶うことなく
いつか忘れられる
いくつかの夢は
いつまでも叶うことなく
いつまでも
夢であり続ける
儚い夢や
現実的な夢や
永遠の夢
そして
いつのまにか
少しづつ
姿を変えてしまう夢
中には
悪夢に転落する夢も
ある
神の使いが悪魔に身を落とすように
. . . 本文を読む
街に
灯りがともる
こんなにも
多くの
灯りがともる
発電所から
送電線を伝わって
送られた電気が
あたたかな灯りとなって
街を照らす
ひとびとを明るくする
電気は
希望だ
成長の原動機だ
生存のインフラストラクチャーだ
電気がなくて
ぼくらは生き延びることができない
電気がなくても
ぼくらは生き延びることができる
木の実を採集して
獣を狩猟して
田畑を耕して
電気がなくて
ぼくらは生 . . . 本文を読む
静かに
月の光が
蛇行する川面に映り
眼下を横切る川の流れが
折れて
また折れて
もう少し下流の大橋の向こうで
月と私を結ぶ線のしたを
直行し
川幅いっぱいに
光を映し
ところどころに
街路灯が光る
暗い地上に
一面静かに光る川面が
浮かぶ
私は暗い庭から
きらきらと
細かな月の光を映す
もう少し下流の
川面を見下ろす
南天には
満月からもう少し欠けた月
薄曇りなのか
星は
ほとんど見え . . . 本文を読む
カモミール・ティーは
飲んですぐ眠くなる薬
ではないが
穏やかに深い
良質の眠りをもたらす
カモミールとミントの交合
昔
さるシンガー・ソングライターが
さるシンガーのデビュー曲として
さる美しいUSのシンガーを聴く
という趣旨の曲を作ったが
あの曲のジャスミン・ティーは
眠気を誘う
ことになっている
普通のジャスミン・ティーは
カフェインたっぷりのティーなので
むしろ眠気を払うはず
. . . 本文を読む