田村隆一は湿っていない水では湿っていないウィスキーのアルコールで湿っている大岡信は湿っている山の奥の水源の透きとおった怜悧な水で潤っている谷川俊太郎はたったひとりで宇宙にいて水分のない空で水晶のように光っている . . . 本文を読む
したいこと楽しいことをして生きていく競争しない勝負しない急か急かしない順位をつけない儲けない蓄蔵しない回せるところで回す見ろよ青い空白い雲森と海余分なカネはなくとも余分なモノはなくとも必要なモノを必要なだけ使用できる範囲で購入して楽しんで腹も一杯にして生活に充足して伝来のあり合わせのモノを育成し加工して世の中に必要なモノを生産し供給して生きる限りに必要なモノを消費して農漁業職人の手仕事顔の見えるお . . . 本文を読む
地球は発熱している資源が活用され採取され採掘され開発され搾取され生産され消費され激しく掘り出し踊り続け激しくばら撒き踊り続け排出され廃棄され酷使され蝕まれ平熱を超えて放っておけば病原体をまき散らし死に至る病となって不可逆の閾を超えて瀕死の白く美しい鷺のように横たわり息絶える . . . 本文を読む
赤い字がある濃紺の字もある緑だとか茶色だとかピンクや水色や灰色空色の文字の向こうに青空が透けて見える漆黒の文字の向こうに暗い夜の闇が透けて見えるめらめらと燃える木の幹の炎の向こうに真っ赤な火という文字が現れたりする赤い文字が燃えて爛熟したりする剥れ落ちたりする滴り落ちたりする堕ちると書いたりする倒れて息絶えたりする※2013年の詩を書き直してみた。赤い字 - 湾 . . . 本文を読む
朝目覚めるとなにものかになっているわたしきのうのわたしとおなじわたしきのうのわたしとちがうわたし体の組成は幾分か違っている構成する分子は入れ換わっているああだから水の流れが川であり風の動きが台風であり美味しいものを食べて今日もわたしはわたしきのうのわたしとおなじわたしきのうのわたしとちがうわたし . . . 本文を読む
民間の芸生活の中の芸術ぼくらが小さなころ民芸はごく近くにあるはずなのに身近などこにもないものだったハイファッションのように雑誌のなかに書物のなかに手の届かないはるか遠くにあるものだった身近にあるものはつまらないありふれたやすっぽいまがいものでしかなかったしかしいまはありふれて気持ちがよくて高価ではないがほんもので美しいそんなものが普通に手に入るいつのまにかそんな時代になったこれは確かにいいことに違 . . . 本文を読む
夕刻高台の家の庭に立つ西の山なみから落ちた見えない夕陽の残影が稜線のかたちをくっきりと暗く象る川向かいの家々の北向きの窓と壁面が夕映えを反映してほの暗く浮かびあがる午睡から目覚めて映画のCGの背景のように芝居の書割のように実在の街が虚構のミニチュアに化す天然の光が光とも見えず壁面をかすかに照らし名残の光がまるでほの暗い白熱電球の照明のようにふと京都の金閣寺の向こうの山蔭からゴジラが現れると思った記 . . . 本文を読む
もうひとつの世界があるこの世界は見えないもうひとつの世界があるこの世界は冷たい暖かな温もり肉体の実在あなたがいるからここは暖かい屋外は冷たいこの世界はないこの世界は冷たく意味がないもうひとつの世界がある豊かな意味を育んでもうひとつの世界がある あなたがストーブに火を灯し灯油が燃えるからこの部屋は暖かい想像しても部屋は暖まらない想像するだけでは部屋は暖まらないあなたが誰かが火を灯さなければ . . . 本文を読む
社会学者見田宗介は「現代社会はどこに向かうかー高原の見晴らしを切り開くこと」(岩波新書)において、新しい世界を創造するための3つの公準を示す「…新しい世界を創造する時のわれわれの実質的な公準は、次の三つであるように思われる。 第一にpositive(ポジティヴ)。肯定的であるということ。 第二にdiverse(ダイヴァース)。多様であること。 第三にconsummatory(コンサマ . . . 本文を読む
木製の窓枠に置いた深い緑の硝子のコルセットを着けた昔の貴婦人のスカートのような容れ物真鍮の金具の吹き口北向きの曇り硝子の窓の曇り空の明るさを受けて腰のあたり絵画であれば白の絵具を塗る白く反射した部分があり直接の光を受けない部分は緑色透明な縦の縞のむこうに真鍮の金具の下半を透明けさせて見せる手にとって(口をつけるかのように)霧を吹き出す湿った水分を吹き出し(喉の奥を湿らすかのように)歌ふ ※すべ . . . 本文を読む
詩の一行は神の恩寵である心を尽くして求め与えられる奇蹟のように出会い生成する海辺の苫屋の窓に金色の絵具で書き記すガラスの向こうに海と岬とがある求めて与えられる求めずして与えられず文字を描くことをせずに言葉を書くことはできないかたちを描くことなしに意味を書くことはできない空気を震せることなしに言葉を語ることはできない私の肉体において書くことが生成する私の肉体において語ることが成就するたとえば海が光っ . . . 本文を読む
誰も知らない黄昏どき湾の奥から滑るように船が出るあなたはじっと前を見たままで広々とした船室に座る船室にはだれもいない私は壁にもたれてあなたの後ろ姿を見るともなく見ている昼間のうちに何度も肩を抱き湾口の島への船着き場を探し巡航船は燃料を満たして船橋に行き先を表示する港のカフェの窓際のソファに二人で腰を掛け入り江を眺めて背後の山脈に陽が落ちるころ一緒に店を出て浮桟橋まで歩く ※魚市場のネオンサイン . . . 本文を読む
赤い薔薇は赤い
赤い薔薇が赤いのは自明のこと
そんなことを言っても何の意味もない
白い薔薇は白い
真夜中の薄明りのなかでも
白い薔薇は白い
密閉された灯りのない地下室でも
白い薔薇は白い
それもまた自明のこと
しかし
ひとつも灯りのない密室で
白い薔薇は白くは見えない
もっとも濃い緑の葉も茎ももちろん花も見えず
薔薇の存在そのものを知ることができない
手 . . . 本文を読む