ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

夜間飛行

2022-09-05 10:33:29 | 詩誌霧笛137号(2021)以降
陽が落ちて
小さな星たちが輝きはじめる時刻に
西の空から
軽量金属の滑らかな翼を持った飛行体が
滑空する
下界の灯りが鈍く機体に反映し
滑らかに滑っていく

ひとり
心細く
寄る辺なく
暗闇の中を滑る
心震え右に左に傾きながら
ようやく墜落せずに
ある高度を保って

この世は仮の世
陽光なく温もりなく
冷え切った夜空の鳥が一羽
彼方の恒星を目指して甲高い鳴き声を残して
駆け上がる
突如
反転しキリリと墜落し
ネリリと命を落とす
その代わりに名もない星になる

よく見ると
南から
東北から
南南西から
何機もの飛行体が
ふらふらと
あるものはほとんど地に落ちそうに
星空を滑っている
互いを知ることなくばらばらに
寄る辺なく
心弱く
ひとりきりで

そのとき忽然とマグマ大使が現われて順番に時間を区切ってそれぞれに伴走しそれぞれの悲しい歌を聴いて吃音のハーモニーを奏でる
かのような夜の夢



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