白鳥の 飛ぶかたを見て 青みゆく 空深きゆゑ かへりかねつも
*「つも」は完了の助動詞「つ」と称序詞「も」で、「~してしまったことよ」という詠嘆を表します。おもしろい表現なので自分の歌にも取り入れていきましょう。
古語辞典にはこういうおもしろい表現がたくさん書いてある。暇があれば読み込んで、おもしろいことを見つければ、積極的に生かしていきましょう。
白鳥の飛んで行く方を見て、青みゆく空の色があまりに深いので、家に帰れなくなってしまったことですよ。
空を見ていると、時にいつまでも見ていたくなることがありますね。あまりに澄んで美しいので。時にそこに白い鳥などが飛んでいたりしたら、心もそれと一緒に飛んで行きそうになる。
実際人間には飛ぶことなどできませんから、心はしばしついていくだけで、すぐに自分に戻ってくるのですが、感慨だけはしばし続いて、自分の中を泳ぎ、こういう歌になったりするのです。
自分は自分だから、自分の形以外のものを生きることはできない。白鳥のように清らかに白く、高く飛んでいくことなどできはしない。それはわかっていても、深い青空の中を飛んでいく白鳥に惹かれる心も、否定することはできない。
充分にあこがれの中に甘い夢を見たあと、人は自分に戻ってくる。そして自分にある自分の足で歩き始めるのです。
時に白鳥に心馳せるのも、自分以外にはなれない自分に確かに帰って来れる自分というものを知るのにいいことでしょう。馬鹿にはこれができないのですが。
白鳥になりたいと思って、本当に白鳥のようになってしまって、帰って来ないことがある。どこかで馬鹿な思いを断ち切り、かへりかねつも、と言いながらも、自分に帰って来ねばなりません。