月をまね をみなの道を はづれてし あほうの群れぞ 乱れあふるる
*ご存じの通り、この時代、天使の顔を真似した美人があふれ出ました。
遠い昔から、馬鹿な女はほかの美人を真似して、自分の顔を作ってきたのですがね、それがこの時代ものすごいことになった。
かつてない現象です。よほど、あの天使の美人に驚いたのでしょう。
おそろしくたくさんの女が真似をした。あのような美人になりたいと言って、全部が全部、そっくりにまねをしたら、同じ顔の美人がものすごくたくさんできた。
美というものは、人それぞれに違うものだ。神が創ってくださったほかにだれひとりとしていないこの自分の、本当の美が表現されるとき、とりどりの、ほかに類をみない美しさが見えるものなのだが。
馬鹿が作る偽物の美人はいつも画一的で個性に乏しい。似たようなタイプがたくさんできる。
だがこの時代はそれがもっとひどくなり、すべての偽物美人が、ほとんどどころかまったくと言っていいほど、同じ顔になってしまった。よほどの手練れでなければ見分けがつかない。
あまりにも愚かなことになったのです。
類まれな美人も五万人もいれば雑草と同じだ。全然美しくはない。それどころか、人間とも思えない。全然別の生き物に見える。
天使の顔は、実は人間にはありえないのですよ。馬鹿はそんなことは何もしりませんから、美しいからという理由だけで単純に真似したのですが、そうしたら自分が人間ではなくなってしまった。
恐ろしい怪物になってしまったのです。
あまりにも自分とは違うものに化けすぎて、本当の自分の霊魂の姿が、溶けてきたのです。
自分の勉強をせず、人のものを盗んでばかりで生きてきた、馬鹿な女のなれの果てというべきですね。盗んだ美貌を鼻にかけて、男をだまし、人を馬鹿にし続けてきた報いです。
だれも同情はしてくれない。
あれらはもう、すべてを引き受け、自分ひとりで何もかもをやっていかねばならない。
今まで、そんなことは、ほとんどどころか、まったくやったことがないのです。
いつでも、盗んだ美貌を武器に、人にやらせてきたのです。