もう季節は過ぎましたね~白い彼岸花
「外すのイヤだなあ」テーブルの向かいに座るAkikoさんはそう言いながら、
おもむろにマスクへ手をやった。
「だって、化粧といえば眉くらいなんですよ。下の方はノーメイク。
だからマスクを取ると、おばあさんそのものの顔を見られることになるんですもの。
でもコーヒーを飲むにはマスクを外さざるを得ませんしねぇ……」
コロナ禍における女性の皆さん、どなたも同じ思いをさているのだろうな。
「おばあさんの顔」Akikoさんはそう言うが、
本当はおいくつなのか正確には知らない。
女性にそれを聞くなんて失礼ができるはずもなく、
ただ、「何歳くらいだろうな」と推察するのみだ。
アルバイト先の保健所では職員も含めた中で最高齢であること、
また、ご子息が40歳半ばであることを会話の中で明かされたことがあるから、
それらを勘案し、おおよそ見当をつけて、
失礼のないようお付き合いしているのである。
物事に対し、はっきりした考えを持っておられるし、
周囲への気配りにはほとほと感心する。
僕ら7人のサークルの運営には、絶対に欠かせない存在なのである。
そんな人柄からなのであろう、訪れる人たちを
てきぱきと窓口案内している保健所で、さまざまなエピソードに埋もれている。
その一つに、「頭は角刈り、目つき鋭く、どう見ても
やくざな雰囲気を身にまとっている」兄さんとの話がある。
彼は時々、血圧を測定しに保健所に来ていたのだが、
ある日、彼がよれよれのマスクをしているのを見かねたAkikoさん、
ロッカーにしまっていたマスクを提供したのである。
それを機に「親しげに話しかけてくるようになり」、
ついにはAkikoさんのことを「姐さん」と呼ぶようになったのだそうだ。
「そんな呼び方やめて」と、むっとしたAkikoさんだったが、
毎日、毎日話をしているうちにそんな思いも氷解。
「姐さんと話すと、ほんと癒されるねぇ」とまで言われ、
自分のその日の行動計画を明かし、さらにはその報告にまで
訪れるようになったという。
Akikoさんの人柄をよく表しているエピソードであろう。
ほかにも、さまざまな人たちとの出会いがあり、
それぞれにAkikoさんらしいエピソードがあるのである。
今日もサークル仲間とテーブルを囲んでいる。
それぞれ好き好きにコーヒーやジュースを注文、Akikoさんはコーヒーだ。
マスクを取り、素敵な笑顔で談笑中……「次はいつ集まりますか」。