Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

親子滝

2020年11月12日 06時00分00秒 | エッセイ
    小さな、小さな虫が目の前を飛び回っている。手で払う。
    だが、陽に透かして見ると、違った。
    38㍍の高さから滝壺目がけ勢いよく落下する複数の瀑布が、
    細かい、細かい飛沫となって、
    あたり一面を霧のように柔らかく包んでいたのだった。

大分県竹田市にある「白水(しらみず)の滝」。
岩肌から湧き出した水が幾筋もの糸のような滝となって流れ落ち、
その滝水が白く見えることから、そう名付けられたという。
周辺には「白水(はくすい)ダム」「竹田湧水群」などが点在する水の豊かな地域であり、
この「白水の滝」は、豊の国名水15選の1つとなっている。

    紅葉の名所でもある陽目(ひなため)渓谷はその下流域一帯である。
    散策の起点ともなっている「陽目の里・名水茶屋」。
    ここに車を置き、渓谷沿いに伸びる500㍍ほどの遊歩道を上っていく。
    途中、岩肌から湧く、滝とは呼べぬような水流が何カ所もある。
    やっと300㍍ほど進んで「これが白水の滝か」と思える滝に出会った。
    事前に写真で見ていたように、2本の瀑布がある。
    だが、そうではなかった。標識には「母滝」と書かれている。
                  
「白水の滝」は、ここからさらに200㍍先らしい。
しかも、ちょっと急な上り坂が続く。
息が上がるほどではないが、ゆっくり、ゆっくりと上っていく。
目より耳が先だった。
ゴーゴーと流れ落ちる水音、それから豪快ないくつもの瀑布を持つ
滝が現れたのである。
しばらくの間、濡れるほどではない飛沫にくるまれ、
自然の息吹に静かに身を寄せた。

    そして、気付いた。
    そうか、この「白水の滝」は200㍍ほど手前にあった「母滝」の息子なのだ。
    どちらも複数の瀑布を持っている。似ている。血のつながる親子に違いない。
    しかも、その子は母の願い通り、実にたくましく育った。
    母は少し離れた所にいて、そんな息子を誇らしげに見上げているのだ。