「週刊新潮は、あした、発売でぇーす!」というテレビ・コマーシャルが、どういうわけか、今でも、子供の頃の耳に、残っている。そして、その後に、音楽とともに、谷内六郎氏の表紙の絵が、映し出されたのを覚えている。それらの作品は、昭和20年代後半のまだ、子供達が、夜の暗闇を怖がったり、心細くさせる時代の日本人の「心の原風景」を様々な情景を介して、1336点もの絵を、描き続けたもののうちの120点の表紙絵の作品を、東御市の梅野記念絵画館で展示したものである。旧北御牧の芸術村の一角にあるとても、景観に恵まれた絵画館で、作品展示に、ふさわしい場所である。今では、忘れられたような情景の中に、私たち、「あの時の子供達」を発見し、「幼き日の記憶」を、呼び覚まされる。タンポポをふく少女、遠い花火、線香花火、海岸の足跡と波の消しゴム、ススキのインディアン遊び、粉雪、初雪、天井の木目模様、船の航跡と海岸の波、漫画の主人公ごっこ、お正月の遊び、幻灯遊び、影絵遊び、人形劇遊び、つむじ風、行商売りのおばさん、お風呂屋さん、川底の記憶、夜の校庭での映写会、祭りと赤い風船、お豆腐やさんのラッパと一番星、お祭りの記憶、夜店の風景、流れ星、水まき、かたつむりと列車の窓、海辺の夕焼け、水上生活者の船、クリスマス、毛糸巻きの手伝い、銀杏の葉、柿に残る残照、教会の坂道、アイロンの蒸気、雪山の村の生活、雪の造形、道草、迷子の恐怖、ローカル線の汽車、霧、北風・木枯らし、寒い朝、風邪熱の晩、餅つきの日、獅子舞、粉雪の中の電灯の明かり、街灯の明かり、寒椿とゴザ帽子、残雪の雨だれの音、等…、四季折々、既に、消え去ってしまったもの、消え去ろうとしつつあるもの、かろうじて、未だ、残っているもの、幼き日の記憶を呼び覚ますような様々な情景が、お下げ髪やおかっぱ頭や、いがぐり頭の少年とともに、描かれていて、そこの空間だけ、ポッカリと、タイム・スリップしたような錯覚に陥ってしまう。絵画のみならず、「谷内六郎の世界を歌う」という催しも今後予定されているので、絵画とは別に、音楽では、どのように、表現されるのかも、大変、興味深いものがある。