【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

帝国の臣民/『ローマ人の物語VII 悪名高き皇帝たち』

2008-10-04 18:16:09 | Weblog
 皇帝とは「王の王」ですから、皇帝が統治する帝国は多くの国の集合体です。つまり帝国は必然的に多民族国家になります。
 ところで日本には「日本人は単一民族」が好きな人がけっこういます。
 すると「単一民族」ファンの人は「大日本帝国」には住みたくない、ということなんですかね。

【ただいま読書中】
ローマ人の物語VII 悪名高き皇帝たち』塩野七生 著、 新潮社、1998年、3400円(税別)

 タイトルをみてすぐに思い出すのは、ネロやカリギュラですが、著者は順番通り、まずはアウグストゥスの後継者ティベリウスから話を始めます。
 アウグストゥスは、「形は共和制、実態は帝政」を巧妙に構築しました。それは彼個人の力によって“合法的”になしえたものです。その後継者ティベリウスには「構築の苦労」はありませんが「維持の苦労」があります。外交・内政・軍備・経済・建築物など、すべて「維持」の方針で行いつつ、「共和制のフリをした帝政」の基礎を盤石にしなければなりません。しかし不思議な帝政です。皇帝に就任するのに元老院の承認と市民集会の支持が必要とは、「絶対権力」とか「独裁」とはとても言えません。ただ、システムを愛好するローマ人として(街道よりは街道網、法律よりは法律の体系)、ティベリウスがそのシステムをメインテナンスすることに熱中するのは、きわめてローマ人らしい行動とは言えます。そして、ティベリウスは着実のその仕事をこなしましたが、家庭生活は不遇でした。本書を読んでいて気の毒になります。ただ、彼の晩年の「悪政」はやはり問題です。「国家反逆罪」によって、元老院には死刑の嵐が吹き荒れます。
 そしてティベリウスの治世はスムーズにカリグラに引き継がれます。彼は幼児期にライン川沿いの駐屯地で軍団のマスコットであり、兵士たちによって「カリグラ(小さな軍靴)」と愛称で呼ばれていました。そして、ティベリウスの“抑圧”によって、安定はしているが面白みもない帝国に「幸福感」をもたらします。カリグラは何の功績も無しに皇帝になりました。しかし、功績は必要なかったのです。ローマの安定と平和の「象徴」であれば良かったのですから。
 カリグラが市民に与えた娯楽に、剣闘士の試合や戦車競争があります。そういえば映画「ベン・ハー」の戦車競争は凄い迫力だった、と思い出していると、ちゃんと本書にもその写真が登場します。にくいサービスです。大盤振る舞いによって国庫を空にしたカリグラは、有力者(つまりは元老議員)の懐を狙います。さらにカリグラは、ユダヤ人問題でもチョンボをします。そしてついに、自分に絶対の忠誠を誓っているはずの近衛軍団の隊長によって皇帝は殺されてしまいます。
 後を襲ったのはカリグラの叔父クラウディウス。歴史家としてのんびり暮らしていた50男の政界への華々しい“デビュー”です。皇帝としての器量には疑問符がつきますが、財政緊縮政策はきちんと機能しました。外交も堅実です。ところが、また家庭に何やら……
 いろいろあって、ネロの登場ですが、世襲制にはやはり世襲制特有の問題がどうしてもついて回りますね。まあ「特有の問題」は他の制度にもそれぞれ存在するのですが。