【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

空の彼方

2014-08-20 07:03:36 | Weblog

 「バベルの塔」「ジャックと豆の木」「蜘蛛の糸」には共通点があります。

【ただいま読書中】『宇宙エレベーターの本 ──実現したら未来はこうなる』宇宙エレベーター協会 編、アスペクト、2014年、1600円(税別)

 静止軌道から赤道上の地表(または海上)に「蜘蛛の糸」を垂らして、そこを上下にエレベーター(というか、垂直方向の長距離電車)で移動するのが「宇宙エレベーター」です。ロケットを使わずにすむし、下りのエレベーターで回生ブレーキを使えば省エネです。そもそもエレベーターに使う電力は宇宙で発電したらもっと効率が良くなります。なお、地表まで伸ばさず空中に「駅」を作って、そこまでは飛行機などで到達するものは「スカイフック」と呼ばれます。
 宇宙エレベーターは「駅」「ケーブル」「クライマー」で構成されます。大林組の設計では、ケーブルの長さは約10万km。静止衛星の軌道高度は約3万6千kmですが、バランスを取るためと共振を防ぐため、さらにケーブル先端から発射する衛星が太陽系内どこにでも到達できるスピードを得ることを目的として、このケーブルの長さがはじき出されました。ケーブルの張力はクライマーの移動によって変化します。それに応じてアクティブに張力を調節するために、海上基地を中空構造にしてそこに大量の海水を出し入れする案が提案されています。
 「駅」はいろいろなものが想定されています。たとえば高度3900kmは重力加速度が地球の1/3になるので「火星重力センター」、8900kmは「月重力センター」。「低軌道衛星投入センター」もあります。ロケットで打ち上げるのではなくて「センター」から投げ落としたら軌道に投入できるのです。
 クライマーの速度は時速200kmが想定されています。かつての新幹線の速度並みで「エレベーター」としては超高速ですが、それでも静止軌道上の「駅」まで地表からは1週間かかります。長旅ですね。
 問題点は多々あります。たとえばケーブルの素材。10万kmの長さのカーボンナノチューブはまだ完成していません。静止軌道からケーブルを降ろしてきても地表でその先端をどうやってキャッチするかも未解決です(『楽園の泉』でもその危険性が指摘されていました。『星ぼしに架ける橋』ではずいぶん荒っぽく“解決”していましたが)。隕石やデブリの衝突も予防する必要がありますし、テロ対策も重要です。途中でケーブルが切断されたら、(重心が静止軌道より上にありますから)切断点より上は落ちては来ませんが、下のケーブルは地表をのたうち回って大惨事を引き起こします。つまり、宇宙エレベーターが成立するためには、技術的なブレークスルーと同時に、「世界平和」が必要なのです。そもそも世界中の協力がなければその建設は無理ですしね。なかなか示唆深い指摘でした。