【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

契約社会

2015-04-08 06:30:05 | Weblog

 文書による契約が重視される社会とはつまり、口約束を守らない人間ばかりで構成されている社会、ということですか?

【ただいま読書中】『剣客商売全集第5巻』池波正太郎 著、 新潮社、1992年(98年3刷)

 剣客商売第9巻「待ち伏せ」と第10巻「春の嵐」が収載されています。
 「待ち伏せ」はいつもの連作短編集です。秋山小兵衛と大治郎の父子剣客が中心となって話が進んでいますが、不条理な敵討ちとか大治郎の妻三冬が妊娠したりとかのエピソードが混じって「いつもの話を読んでいる」安心感に私は包まれます。
 ところが「春の嵐」は、長編です。趣がちょいと変わります。短編集では小兵衛と大治郎はたしかに「主人公」ですが、彼らがかかわる事件の方に著者の筆の多くが割かれます。しかし長編では「主人公」が本当に「主人公」となってしまいます。事件の骨格は「秋山大治郎」と名乗る侍が、田沼家を襲い、次いで田沼の政敵である松平定信の家来を続けて殺します。秋山家は田沼家の庇護下にあるため、松平は田沼が自分たちに戦争を仕掛けてきたと思います。
 ……わざわざ名乗って襲いますか? ただ、困ったことに、その侍は体格が大治郎とそっくり。顔は頭巾で隠しています。ただ、声は違います。
 「秋山大治郎」と名乗る侍に人が殺されるたびに評定所から秋山大治郎は呼び出され取り調べを受けます。うっかり外出もできません。外出中に事件が起きたら“アリバイ”がありませんから。もどかしい思いをしながら大治郎は蟄居します。しかし、小兵衛は動き回ります。そして、このシリーズにこれまで登場した人たちも次々と参入してきます。事件解決に動き回る人たちにはすべて「名前」があります。
 そこで少しずつ陰謀の輪郭が浮かび上がってきます。それは、一橋家が絡む、天下を揺るがす可能性のある陰謀でした。ただ、その陰謀を駆動する原動力は、人の妄執・恨み・愚かさなどです。もうちょっとまともな方向に自分のエネルギーと時間を使えないものか、と私は思ってしまいます。そんなことを思っていたら、陰謀の餌食にしかなれないのでしょうが。