結婚生活で幸福になる人もいれば不幸になる人もいます。だったら、未婚であるいは伴侶を失ったあとの生活でも、幸福になる人もいれば不幸になる人もいることでしょう。
【ただいま読書中】『飢餓海峡 改訂決定版(上)』水上勉 著、 河出書房新社、2005年、1600円(税別)
昭和22年、青函海峡を台風が襲い、連絡船層雲丸が沈没します。洞爺丸台風は実際には昭和29年のことですが、本書ではそれがカスリーン台風が日本を襲った昭和22年に移されています。死者は多数でしたが、不思議なことに引き取り手のない死体が2体、その中に混じっていました。
台風が海峡を襲った翌朝、北海道の岩幌町で、質屋が強盗に襲われ一家が全員殺され、放火されてその火が折からの強風にあおられて全町に広がる、という凶悪な事件がありました。犯人と目されたのは、網走刑務所を出所したばかりの二人組とそれになぜか同行している大男。そして、沈没事故で引き上げられた身元不明の二人が、その二人組と酷似していました。
青森大湊の歓楽街のあいまい宿で酌婦をしている杉戸八重は、客として上がった不思議な大男から大金をもらいます。それで八重は前借り金を返しますが、この大男が岩幌の事件の大男に酷似しています。
「復員服」「闇市」がまだ“現役"の時代です。刑事が探す「復員服を着た男」なんてどこにでもいます。また、聞き込みをしようにも「経済統制違反」の捜査と思われて、店主などの口はとても固くなってしまいます。それでも層雲丸での身元不明の死体に疑問を持つことから事件に最初から関わることになった弓坂警部補は、粘り強く歩き続けます。北海道だけではなくて、青森、そして東京も。
売春婦としての過去や貧乏と別れようと上京した八重ですが、結局まっとうな仕事は長続きせずまた売春婦に逆戻り。ただ、大湊では全然貯金ができなかったのに、東京では上京したときに持ってきた金には手を付けずきちんと貯金ができています。しかし売春防止法が施行され、「別の道」を探さなければならなくなります。そのとき偶然見た新聞に「舞鶴の篤志家」の記事があり、その写真が「あの時の大男」にそっくり。八重は舞鶴に旅行することにします。彼が何者で、あのときの大金は何だったのか、その謎を知りたい、と。