【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

糾弾決議

2019-06-07 07:33:25 | Weblog

 「戦争で北方領土を取り返すのはどうか」と言った丸山議員に対して糾弾決議案が与野党共同で決議されたそうです。
 私は丸山さんの主張には大反対ですが、だからと言って国会議員がよってたかって「糾弾」をするのも気持ち悪いと感じています。文革中の中国での「自己批判集会」みたいで。あるいは「天皇機関説」に対して「天皇を機関車扱いするのか!」などと的外れの妄言で大非難の合唱をして美濃部さんを辞職に追い込んだ帝国議会の動きも思い出すので。国会がやるのだったら、査問委員会を公開でやることまでにしておいて、その結果によって有権者が「議員の資格」について判断したらいいのでは? 議員の資格は「主権者」が与えるのですから。
 「仲間はずれの決議」って、子供のいじめの拡大版のようにも見えます。
 念のために繰り返しますが、私は丸山さんの主張には、大反対です。

【ただいま読書中】『亡霊星域』アン・レッキー 著、 赤尾秀子 訳、 東京創元社(創元SF文庫)、2016年、1200円(税別)

 「敵(てき、かたき)」であるはずの皇帝アナーンダ・ミアナーイから「カルルの慈(めぐみ)」の艦長に任命された(それどころかミアナーイという姓まで与えられた)ブレクは、副官セイヴァーデンとともに出発します。セイヴァーデンは1000年も時代遅れの存在で麻薬中毒で死にかけたところをブレクに救われ、なんとも情けない存在のようですが、彼女には彼女の思惑や生き方があるようです。軽蔑の対象であるはずの属躰に対等に向き合う姿勢にはわたしは彼女の“弱さ"と“強さ"を感じます。AIと人間の間に友情や愛情が存在できるのか?という問題を、AIの側から描こうとしているのかもしれませんが、AIから見たら人間はわかりやすいけれど奥深い謎です。あ、人間から見ても、人間は謎ですけどね。
 ブレクのように艦のAIと直結できる艦長、というのは、便利です。艦内で何が起きているのか、AIはすべて把握していますが、それを艦長が知る、という形で艦内の描写がとても自然にしかも多面的に行えます。もしそうでなければ、艦内のあれこれを書くとき「それを見たのは誰か?」「それを描写しているのは誰か?」の問題が発生するでしょう。
 「お辞儀の角度で相手への敬意を示す」「死の穢れを水と塩で清める」など、日本人として馴染みのある風習も登場します。
 ブレクが赴任したアソエク星系は、お茶の産地で帝国に知られていました。しかしそこでも、腐敗や対立や陰謀が渦巻いていて、誰が敵で誰が味方かわかりません。ブレクは細心の注意を払って見知らぬ星系の内部を探ります。皇帝が自分をここに派遣したのには必ず「意図」があるはずですし、そこに自分がかつて愛した人の妹が住んでいるのも「偶然」のわけがありません。
 「神経戦」のように、じりじりした展開が続きます。一見「非常に厳しい艦隊司令官」に見えるブレクは、先の先を読みながら「次の一手」を探り続けます。なんだか、将棋のタイトル戦を外側から見て、じっと座って考え続けている棋士の姿からその思考の回路を想像させられているような感じですが、ブレクにとってはこの「ゲーム」はまったくルールがわからず、しかもそこには自分と他の人々の命が賭けられているのです。ものすごく不公平な設定です。有利な点は、ブレクがAIであること。たった一つの脳しか使えませんが、ネットワークを駆使することで情報を取得することに関してはマルチプレイが可能なのです。
 とりあえずブレクがやっていることは、エイリアンの通訳(プレスジャーに育てられた人類)の不慮の死亡を悼み、地元の有力者の子弟で、甘ったれで権力と愚かさが結合したような若者をこらしめること。
 ここで「完全無欠の正義」なんてものがあるのか?という非常にシビアな問題が提起されます。誰であれ(極悪人であっても)ひどい目に遭ったら「これは不正義だ」と言うでしょうから。
 「神経戦」は次巻のための布石でしょう。ネタはたっぷり仕込まれました。「起」「承」と来たから最後は「転結」ですね。楽しみです。




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