昨年8月1日から、実在の「秋山利雄」さん(1889~1947)の人生。
戦前・戦中に海軍水路部で海図の制作など担った航海天文学者で海軍少将・キリスト教徒。
私も1944年に海軍予科錬の経験がり、クリスチャン((1952年洗礼)で、興味がり毎朝読んでいます。
今朝は戦時中に歌った♪海ゆかば♪
https://www.youtube.com/watch?v=tcNEuMmeCXw
準国歌「海ゆかば」/ Umi Yukaba - YouTube
その夜、わたしは早く帰れて家族と夕食の卓を囲むことができた。
「昨日は大変だったな」と洋子に言う。
「大変でした。私たち、笑いをこらえるのに」
何のことだ?
「あのお歌を五万人で斉唱したのですが、あれにはカバが四匹も出てくるでしょ。そこでもうおかしくておかしくて。おまけにその後にもう一つ『へにこそ』もあるのよ」
海行カバ
水漬(みづ)くカバね
山行カバ
草生(む)すカバね
大君の辺(へ)にこそ死なめ
かえりみはせじ
荘重にして厳粛な歌である。
それを笑いをこらえて歌う。海を行く河馬(かば)、山を行く河馬か。
わたしは苦笑しながらもこの年頃の少女たちの陽気さに感心した。世に箸が転がっても笑うというがそのとおりだ。
しかしこの歌の真意は生きては帰らぬということである。
高等教育を受ける学徒には徴兵延期の措置があった。それを撤廃して文系の学生を戦場に送り出す。わたしはたまたま海軍の中枢部で戦況全体を見渡せる立場にあるが、そこから見るにこの国の先行きはまことに暗い。科学者として判断すればそう言うしかない。
何十万人かの若い学生が勉学を中断させられる。
教育というのは未来への投資である。
今すぐには役に立たなくともいずれは社会の骨格となるはずの努力だ。専念している若人たちにそれを中断させて兵士として使う。知力ではなく体力・筋力。これはいわば預金の取り崩しである。
この国はそこまで追い詰められている。しかしそれを言う者はいない。
彼らが帰ってきた時に歓迎の式典はあるだろうか?
更には、ただ徴兵されてそれぞれの駅頭で親族の万歳で送り出される兵が何百万といる。