人材派遣会社の暗部に触れ、創業を決意
リツアン社長の野中久彰氏にお会いすると開口一番、「弊社の派遣社員と他社の派遣社員を比較すると、10年で1500万円の給料の差が出ます。弊社で働くと家を建てられますよ」と笑顔で語り始めた。世間では給料が低くて不安定というイメージのある派遣で、なぜ10年で1500万円という差が出てくるのか。そこを深掘りしてみると、派遣業界のダークな側面が見えてきた。
野中氏は、もともと大手技術系派遣会社で正社員として働いていた。そこで、派遣社員に対する搾取ともいえる現実を目の当たりにしたという。
「派遣先企業から派遣料が月60万円支払われていたとしても、派遣社員に実際に支払われる給料は20万円台です。手取り10万円台前半の派遣社員も多くいました。会社は一人の派遣社員から月30~40万円も利益を得ているのです。クライアントから支払われる派遣料からどれだけ抜かれているかは、派遣社員にはまったくわからないようになっていました」(野中氏)
こんなこともあったという。派遣社員であるA氏と飲みに行った時、A氏からこう切り出されたそうだ。
「僕には小学生になる子供がいます。今の給料では子供の学費も心配ですし、将来の生活もどうなるかわかりません。会社を辞めたいと悩んでいます」
野中氏はA氏の派遣先企業からどれだけの派遣料が支払われ、どれだけのマージン(手数料)を派遣会社が得ているかも知っていた。マージンの一部をA氏に還元しても会社は困らないはずだと考えた野中氏は、上司にA氏の給料を上げるように掛け合った。しかし返ってきた答えは非情なものだった。
「何を言っている。もっと利益を上げろ。もっと契約を取れ。今期の目標は前年比120%だ」
派遣社員を無機質な商品のように扱う上司の態度に野中氏は愕然としながら、ふと自分の父親の姿が浮かんだという。
「私の父親はレストランを経営していました。でもすぐに経営に行き詰まり、私が小学校低学年のころにはお店をたたんでしまいました。その後、父はトラック運転手や警備員など職を転々としました。料理しかできない不器用な父でしたから、どんなにがんばっても給料が低く、いつもお金に困っていました。私は子供ながらいつも疲れている父親を見ては心配していました。会社を辞めたいと相談されたA氏と、私の父親が重なって見えました。彼の子供は、昔の自分のように思えたのです。彼が会社のためにがんばるほど、彼の家族は不幸になる。私はまるで自分が罪を犯しているのではないかと思うようになりました」(野中氏)
これがきっかけとなり野中氏は会社を辞め、“ピンハネ屋”と言われてきた人材派遣の仕事を根底から変えていくと決意した。そして創業したのがリツアンだ。
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