小屋組中の敷地全景 2006年4月カモミールが満開の頃
1.柱の垂直修正
柱、梁、桁が済むと小屋組に入る前に、柱の垂直を修正しておかねばならない。
貫板と下げ振りで垂直定規を作り、柱に当てて垂直を見る。
傾き量は多いところで、10mm程である。
これは誤差としては、少ない方のようである。
伝統構法で建てると、長い枘や渡り顎や厚貫の組手を使うことにより、
垂直や直角に据えることを気にせず、ハメ込んで組立てていくだけで
自動的に垂直や直角がとれているのだ。
金物偏重の筋違い工法だと、絶えず垂直を気にしながら、
仮筋違いで止めていくようだ。
傾き量の多いところは、ロープねじりを使って修正する。
修正が済んだところで、アンカーボルトのナット、柱枘の込栓、貫の楔を
すべて締める。これは、このあと作業が進む度に、何度か締める。
2.小屋束を建てる
小屋束を梁の上に建てるには脚立では間に合わず、
梁の上に乗らなければならない。
梁や桁の上だけでは、心もとないので足場板をのせる。
近所の人に戴いた足場板は、厚さ6㎝で長さも4mと厚くて長いので、大変重い。
それを半分に切って使うことに。それでも梁の上へ持ち上げるのに苦労する。
梁や桁の幅は12cmだが、足場板だと30cmある。30cmあれば、安心して作業ができる。
小屋束と束つなぎをかついで上へ上げる。
足場板の上であっても、つかまるところがないので、やはりコワイのは変わらぬ。
ソロリ、ソロリ、ビクビク、ユルユルと動いて束つなぎを組み込んでから束を立てる。
い、は、ほ、と、り、る通りと同じパターンを6回繰り返す。
これだけで、丸一日かかる。
二重梁と棟束の取り付け
短く切った足場板を小屋貫に架ける
3.せっかく建てた小屋束を解体!!??
建て終った小屋束を見ると桁方向に弱そうだ。
母屋をかければ、安定するだろうが、屋根勾配が6.5寸なので、小屋束の背が相当高い。小屋裏の利用を考えているので、二重梁の下を立って通れる程の高さがある。それだから一層不安定に見える。
桁方向にゆすられると、パタンと倒れてしまいそうだ。
一度不安になると、止まらない。どんどん不安になってくる。
設計当初は、小屋束を貫でつなぐことも考えていたが、小屋裏の利用に邪魔だと思ったし、小屋組は、母屋、垂木、野地板と屋根がかかれば,面で安定がはかれるだろうとも思って、貫をやめてしまった経緯がある。
だが、この背の高い小屋束を目の前にしたら、どうしても、貫がほしくなった。
丸一日かけて、組み上げた小屋束を解体するのはイヤだった。
貫板を、後で釘止めする方法はあるが、せっかくの貫構造にケチがつく。
組み上がった小屋束
さあどうしようか。
頼りになる筈もない妻に相談すると、
あさっりと、”解体してやり直したら”と。
もう二度としたくないと思っていることを、気軽にもう一度やれと、おっしゃる。
「私だって、セーターを編んでいて、首まで編んでも、そこで失敗に気付いたら、全部ほどいて裾からやり直すのよ。それと同じよ」
とも、おっしゃる。
セーター編みも家作りも同じか。
「せっかくここまでやったのだから、このままでやり直せる方法を考えたらいいじゃない」
と言う返事を期待していたのに。あっさりと解体せよと。
自分でやってないから、これまでの苦労を知らないから、
こんなに気軽に言えるのだと妻の返事にあきれてしまう反面、
気にいらないのなら、悔いを残さないように、
やり直せばいいのだという気持ちも出てきた。
結局頼りになる筈もない妻の一言により、解体してやり直すことに。
狭い高い足場の上で、束つなぎの長い枘を束から抜くのに、大変難儀したし、
小屋束取り外す。 2006年4月28日
運び上げたものを、また運びおろすのもむなしかった。
解体した小屋束の材を抱えて、下ろしてりるところ。
作業場で束に貫穴をあけ、貫を新たに作り、
丸一日遅れで、再び小屋束を建て直すことができた。
新たに貫を入れた小屋束 2006年4月29日
貫を通すと安定感が出て一安心。
あとで悔やむことがなくなったことも大安心。
妻に感謝。
4.母屋・二重梁
一の母屋を低い方の束に載せ、二重梁を高い方の束へ渡して載せ、それを押さえ込むように、二の母屋をのせる。
足場を少しづつ移動させながら、この作業を行うので大変面倒だ。
母屋の枘穴が束の枘へ入り、鎌継ぎの上木が下木へピタリと収まるととても気持ちいい。
なかなかいい腕をしているなと自分をほめたくなる。
母屋や棟木は、1本吊りで上げた。
一の母屋組立て中 滑車は一本吊り
一方向からだけでは無理なので、反対側に丸太を挿し替えようと、丸太を縛り付けていたロープをはずした時に、声を掛けられた。
今日は日曜日なので、昼から訪ねてくる人が多い。
建前は、やはりおもしろいようだ。
少し喋っていたら、先程ロープをはずした丸太が、隣の家の倉庫めがけて倒れた。
”しまった。屋根瓦が割れる”と思った時、
丸太は倉庫の手前10cm程のところへ倒れてくれた。
アブナイ、アブナイ、心引き締めねば。
5.棟上げ
後は棟木だけとなった小屋組がどれ程、しっかりしたものか、少し母屋にのって、ゆすってみた。
ビクともしないと思ったのに、ユラユラと動くではないか。
貫も通し、母屋ものせたのに、ふれを完全には止められない。
こういうものなのかどうか解からない。屋根面ができないと、安定しないのか。
だが、コレでは、屋根工事中が不安なので、仮筋違いを入れることに。
高い方の小屋束に十字に入れる。
これで、ピタリとゆれが止まった。筋違いの威力にあらためておどろく。
やはり、筋違い構造の方が良かった?
いや、剛構造と柔構造の違いなのだ、自分に言いきかせて、棟木をのせることに。
いよいよ棟上げ完了
棟束を二重梁に差し込む。二重梁にのせた足場と、この母屋を足場に棟木を棟束へおとす。一番高い位置に居るという緊張感がある。
最後の3本目の棟木が収まった。
最後の棟木を納めたところ
とうとう棟上げだ。
家の骨組が完了しただけなのに、建築の世界では、上棟式と言って、棟上げを盛大に祝う。自分でやってみて、棟上げの嬉しさがよくわかった。
数ヶ月もかけて、刃物でケガもせず、刻んできた材が果たしてうまく組み立てられるのか、やり直しは出てこないのか、高い所から落ちないか、等々の関門を突破してようやくここまでたどりつけた。
この後、屋根掛け、外装、内装、設備としなければならないことは、
山ほどあるものの、家作りの全工程の8割方が済んだ気分だ。
家作りの一番おもしろい部分が終わった。とりあえずはうまくいったようだ。
建前に要した日数はちょうど2週間。
思っていたより、ずっと早かった。
2006年5月1日 祝棟上げ
付記 妻・ひろより
大体において、セーターは裾より、編み始める。
複雑な模様編みなどの場合、首まで編み上がると、
出来上がった模様を、眺め透かし、かなりの達成感がある。
その時、裾の方の間違いに気付いた時のショックたるや
良妻・ひろとしては、
編み物を例えにした、このアドバイスは
夫にとっては、最善、最良、的確で
快く、受け入れてもらえるだろうと、自負していたのに。
どうも,気に食わなかった様子である。
夫は、日頃
偉大なる哲学者ソクラテス を自分になぞり、
妻・ひろのことを
ソクラテスに無頓着な、悪妻・クサンチッペと、評して
慰めているらしい。
大変、心外ではあるが・・
悪妻クサンチッペがいたからこそ
きっと
ソクラテスも、「なにくそ! まだまだ頑張らにゃあ~」
と、努力したのではないかと、想像する。
で、現在、
2007年9月15日現在 階段でロフトに上がったところ
出来上がった、ロフト(小屋裏)に上がる時
この、貫がすご~く、邪魔である。
「この、板(貫) 取れへんの?いちいち、潜るの、面倒くさいわあ.
大きいもの、ロフトに上げるにも、不便やン」
夫・ヒロからの、
はっきりとした答えは、まだ聞けていない。
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