女子高生たちに手を取られ、素っ裸のまま長いこと歩かされた。夕日に染まって周囲の景色が淡くぼやけて見える。遊び終えて家に帰る子どもや塾帰りの生徒が歩道のない道路を連なった。僕はその中に混じって、小声で「やめて」と哀訴しながら歩いた。女子高生たちが足早だったのは唯一の救いだった。
昨晩から帰らない僕をおば様とY美はさぞ心配しているだろう、と女子高生たちは言い、僕を家まで送り届けることに決めた。おちんちん丸出しで歩かされているところを捕まったものだから、彼女たちは僕が恥ずかしがっていないと判断したようだが、実際は羞恥で身悶えする程だった。おちんちんを隠そうにも両手を引っ張られているので、ままならない。反対方向から来た女の子たちが左右に揺れるおちんちんを指さして笑った。
ようやく家に着いた時、玄関からY美とおば様が飛び出したのを覚えている。七時半を過ぎて庭が夜の闇に包まれていた。ほっと安堵の表情を浮かべたY美の目に涙らしきものが光った。おば様は女子高生たちに丁重に礼を述べ、財布から何枚か引き抜いて渡した。彼女たちは僕が素っ裸でおちんちんも隠さずに公道を歩いていたことを告げた。おば様は口に手を当てて静かに笑った。
女子高生たちが帰ると、Y美にいきなり左右の頬を平手打ちされた。僕がなかなか帰宅しなかったのでY美はおば様にひどく叱られたようだった。軽トラックの荷台に乗せた僕を遠くの畑で降ろし、そこから帰宅を命じたことに責任を感じるまでになっていた。約束通り僕がこうして素っ裸のまま戻ったことに安心すると、激しく僕を怒鳴り始めた。
うなだれる僕はコンクリートの台座の上で気をつけの姿勢を保った。Y美は、玄関灯を頼りに僕の体を仔細に調べる。そして、体のあちこちに乾いた泥の跡があること、おちんちんに精液の匂いが著しいことを指摘して、その理由を僕に述べさせた。
Y美とおば様の元に帰ることができたので、僕自身も不安から解放された気持ちだった。おば様の豊かな肉体に抱かれて眠りたかった。そういう時は自分の受けた恥ずかしい体験を隠そうとしたり、嘘で固めて自分の恥から目を逸らそうとは思わない。素直にどんな目に遭ったか、詳しく説明した。事実を知れば、Y美も僕に同情して優しくしてくれるような気がした。が、案に相違してY美の反応は冷淡だった。おば様と相談してから、そんな汚れた体では家に上げられないので外で寝るようにと言うのだった。
玄関のドアが閉まると中から鍵を掛ける音がした。もう明日の朝まで家に入れてもらえそうもない。諦めた僕は庭に回って、さるすべりの木の根元に横たわった。そこは土が盛り上がっていて柔らかい。カーテンの隙間から洩れる光が縁側の近くに生える芝生を照らした。テレビのバラエティー番組か何かの笑い声が漏れて聞こえた。さるすべりの赤い花が下からの光を受けて妖しく揺れていた。真っ裸のまま野外で眠るのはこれで四日目だった。いつも剥き出しの体じゅうの皮膚は、もう違和感を覚えることもなく、生暖かい空気を掛け布団のように感じながら、横になった。裸のまま土の上に寝ることに体がだいぶ慣れたようだった。
太陽の強い光が瞼を打って朝を迎えたことに気づいても、なかなか起き上がれなかった。眠り足りないというよりも体がなんとなくだるかった。Y美がすっかり学校支度を整えて僕の前に立った時も、まだしっかり目覚めていなかった。が、そんなことはもちろんY美の意の介するところではない。素っ裸の僕を蹴っ飛ばして起こさせると、その日は珍しく朝の生理的現象であるおちんちんの勃起がないことを指摘し、くすくす笑いながら縁側沿いの芝生に僕を連れて行った。僕は四つん這いにさせられ、ホースからほとばしる水で汚れた体を洗われた。水の冷たさに悲鳴を上げる僕を見下ろして、Y美がホースの水を容赦なく浴びせる。
縁側から降りてつっかけを足に引っ掛けたおば様には、硬いスポンジでごしごしと全身をこすられた。Y美は泡だらけのバケツにモップを突っ込むと、水を滴らせながら僕の体の上になすり付けるように走らせた。
Y美は次第に不機嫌な感情を露わにしてきた。朝の忙しい時間帯にもかかわらず、僕の体を洗っている。表の通りから通学の中学生たちの声が聞こえた。本来であればもう家を出ようという時刻なのだが、夕べおば様の前で約束した手前、Y美は不本意ながらも僕の汚れた体を洗わざるを得ないのだった。
Y美の怒りが爆発しないように僕としては従順に体を動かした。Y美に体をくまなく見られるのは何日振りだろうか。恥ずかしい気持ちもあったけど、それよりも怒らせたら怖いと思う気持ちが勝った。たまたま表の通りを行く中学生たちの声が一際大きくなったところにY美の命令が重なって、聞き取れなかったことがあった。ぼんやりしている僕をY美が叱責した。モップでお尻を強く叩かれ、仰向けに転ばされ、おちんちんにモップを押し当てられた。モップがおちんちんの袋に食い込んだ。ぐいぐいと押され、悶絶する僕にY美が罵声を浴びせる。Y美の気まぐれは相変わらずだった。不意にモップをガラス戸に立て掛けると、縁側から家に入った。学校に行く時間らしい。
水道の水で体を洗い終わったら、学校の制服を着て学校に行くのだと思っていた。おば様もそのつもりだったようで、Y美に僕のパンツや服のありかを訊ねていた。久し振りに衣類を身にまとうことができる。それなのに僕の体は重くて、だるかった。少し熱があるようだった。ずっと野外で素っ裸のまま過ごし、全身に日の光を浴びてきたから疲れが相当溜まっていた。とにかく、眠くてたまらなかった。
おば様は僕の様子がおかしいことに気づいて、脇を抱えるようにして玄関から家に入れてくれた。風雨をしのぐ建物の中に入るのも何日振りか分からなかった。上がりかまちに座る僕の足の裏を雑巾で拭き終わると、おば様は僕の額に手を当てた。
熱があるようだった。脇に挟んだ体温計を見たおば様が、
「今日も休むことになったわね。今週はまだ一度も学校に行ってないよね」
と言って、僕の乳首をツンと指で突いた。
二階の廊下の突き当たり左側にあるのが、この家で僕に割り当てられた部屋だった。電気もカーテンもない。ドアを開けると、向かいの南側に窓があるだけだった。フローリングにマットが敷いてある。掛け布団はなかったけど、その必要はなかった。なぜなら、部屋の中が蒸して、暑苦しいことこの上なかったから。窓を開けると、涼しい風が入ってきた。
この家で生活するようになってから、僕の極めて限定された自由時間のほとんどは、この部屋のこのマットレスの上で過ごしてきた。睡眠時間だけが僕の自由時間と言ってもよかった。体調不良のためにその自由時間が増えたと思うと、嬉しいような気分になる。普通の硬めのマットだけど、こんなに寝心地の良い場所で寝るのは久し振りだったので、すぐに眠りに落ちた。が、急に寒気を覚えて体を起こし、急いで窓を閉めた。マットの上で体を丸めて震える。寒い。掛け布団がなく、自分が衣類を全く身にまとっていないのが恨めしかった。
部屋を出てふらつきながら廊下を進み、階段を下りた。おば様は居間で片付けをしていた。寒くてたまらないことを訴えると、おば様が僕の額に手を当てた。今朝よりも熱が上がっているようで、おば様は驚きの声を上げた。
Y美が僕の衣類を含めた荷物を一つ残らずどこかに仕舞った。その場所をおば様も知らなかった。
おば様は、
「仕方ないでしょ。素っ裸のままでいるより他ないのよ」
と、寒さで震える僕に言って、小さく縮こまっているおちんちんを隠す僕の手を払った。寒くてだるい。頭がぼんやりする。おば様は僕を入浴させた。朝はY美とおば様に庭で水を浴びせられ、何か物体でも洗うように一方的に体の汚れを落としてもらったのだが、それに比べると今度はずっと親切心に満ちていて、有難かった。お湯の中で体をゆっくり温める。おば様はもう一度僕の体をくまなく洗ってくれた。頭も念入りに洗ってくれた。お風呂から上がると、食卓にお粥とバナナがあった。性的な奉仕をする時以外は入室は許されないおば様の寝室で、特別に眠ることが許された。
一糸もまとわぬ裸でいることに変わりはないものの、おば様は毛布の他に厚い掛け布団を出してくれた。剥き出しの皮膚が上も下も古い家の匂いがする、懐かしいふかふかの布団に包まれた。寒気が少し治まって、すっかり眠ってしまった。目が覚めても体は布団から出さなかった。
外では、夏を迎えて暑さが日増しに激しくなっている。窓から枯れて崩れたシクラメンの花が見えた。桐の葉が白く輝いて、かすかな風に揺れている。ふと、僕は山間の畑から素っ裸のまま歩いて帰宅させられたことをまざまざと思い出し、恥ずかしさに全身の血がカッと熱くなった。一体、何人に裸を見られたことだろう。おちんちんの袋の裏側からお尻の穴まで覗かれたことだろう。
自転車に乗せられ、繁華街を通り抜けた時は、数えきれないくらいの人におちんちんを見られた。そればかりでなく、おちんちんに触ってくる手が何本もあった。お尻も知らない人に撫で回された。三十回は下らないだろう。乳首にべたべた触る指もあった。笑い声と「いやだあ」と嬉しげに発する黄色い声ばかりが記憶の中で反響する。
昨日の夕方にやられたことも、その時は努めて意識しないようにしていたからなんとかしのげたけれど、今改めて思い出すと、羞恥のショックで憂鬱になる。女子高生たちは、素っ裸の僕をこの家まで送り届けてくれた。それはおば様とY美に対する親切心であり、僕のことは二の次だった。彼女たちは僕を真ん中にして両手をしっかりと掴み、人通りの絶えない道をわざわざ選んだ。同じ学校の人、知り合いにも見られたかもしれない。見られた可能性の方が高い。
不良中学生に命じられたこととはいえ、おちんちんを隠さずに女子高生に向かって歩いている時に保護されたものだから、彼女たちは僕がまだ羞恥も知らない子どもだと判断した。だから、おちんちんを隠したいと哀訴しても、今更何を恥ずかしがっているのか、と彼女たちに怪訝な顔をされてしまった。何人もの人たちが僕のおちんちんを指して笑った。悪戯盛りの子どもたちには、すれ違いざまにお尻をぴしゃりと叩かれた。
その前の晩は、やはり女子高校生たちにさんざんいじめられ、連続射精の扱きを受けた。山の中では不良中学生たちに素っ裸のまま踊らされ、同級生のEさんに射精させられた。お尻の穴にローターを入れられたまま、オナニーを強制された。みんなの見ている前でおしっこやうんちの排泄行為、果ては射精の瞬間までも観察された。
理不尽な仕打ちの数々の断片が浮かんでは消え、涙が止まらなくなった。僕のいやがることを、なぜみんなはするのか。もう許してくださいとどれだけ訴えても、誰も聞き入れてくれない。僕が素っ裸の無防備な姿のまま歩き回っていたのが原因なのかもしれない。真の弱者に対しては、世の中の人は、その人の持っている残酷性を平気で露わにする。ほんとに容赦がないと思う。特別に悪い人ではない、普通の人でも、身をよろう何物も持たない、生まれたままの姿の弱者がいると、その弱者を困らせてみるのもおもしろい、と感じるようだ。感じ方が大きいか、小さいかだけの違いがあるだけ。
素っ裸のまま歩かされている僕を見て、人は自分の圧倒的な優位を覚えてしまう。その優位感、優越感があまりにも急上昇するため、その過程で「弱者を助けてあげよう」という共同体構成員としての意識から解放される。僕はたまたま衣類をまとっていないから弱者に貶められた。Y美やおば様が僕に服を着せないようするのも、この辺りに理由があるのだろう。とにかく、人は絶対的な弱者を前にすると、その人の持っている善の部分よりも悪の部分がまず出てきやすい。これは素っ裸のままずっと人々の間をうろついてきた僕の偽らざる実感であり、覚えておいて損はないと思った。
仕事に出掛けたおば様は、昼にはいったん家に戻った。
「具合はどうかしら」
スーツに身を固めたおば様のお化粧した顔が枕もとにそっと近づいた。僕の目が涙で潤んでいるのを見て、そっと目の下の涙を指で拭ってくれた。
「かわいそうにね。辛い思いをいっぱいしてきたのね」
僕の頭を撫でながらおば様が同情の言葉を寄せた。布団の中の素っ裸の体に甘い電流のようなものが流れた。おば様は僕のために昼食と飲み物を用意すると、夕方には戻ると言って再び家を出た。
尿意を催して寝室を出る。食卓の椅子にY美がいて、雑誌をめくりながら煎餅を頬張っていた。白いブラウスの制服姿のままで鞄が隣りの椅子にあった。僕の姿を認めると、
「お前、お母さんの部屋で何してたのよ」
と、語気鋭く詰った。僕が性的な奉仕のためにおば様の寝室に出入りしていることをY美は知らない。僕は素っ裸の身を竦め、発作的に手でおちんちんを隠した。相変わらず裸でいることを冷やかされたくなかった。風邪を引いたので特別におば様の寝室で寝ることを許されたのだと説明すると、Y美は不思議そうな顔をしたまま、黙って頷き、雑誌に目を戻した。
トイレのドアを引いた時、居間からY美の制する声がした。ドアノブを握ったまま静止する僕に向かって、Y美がどしどし足音を鳴らして迫った。
「お前のトイレは庭でしょ。ルールを忘れたの?」
家の中のトイレを僕は使ってはいけないことになっていた。庭に建てられた便所小屋の和式便器で用を足すのがこの家の決まりだった。しかし、今日に限り、僕が風邪を引いていることを理由に、おば様から使用の許可があったのだった。が、今度のY美は、納得しなかった。
「そんなの、やだよ。お母さんに確認してからでないと、トイレは使わせない。庭に出なさいよ」
どんと肩を押され、よろめいた。それでもなお家の中のトイレに執着する素振りを見せた僕は、続けて強く腰を蹴られた。廊下の冷たい床に倒れた僕の髪の毛を掴んで立たせる。Y美は蹴ったり突いたりしながら、玄関の土間に僕を落とした。風邪を引いて熱があることを告げてもY美は、手加減しなかった。つっかけに足を入れたY美が玄関のドアを開けると、素っ裸で裸足の僕を外へ押し出した。
おしっこをして戻る。玄関の鍵が閉められて入れなかったので縁側に回ってガラス戸を叩いた。レースのカーテンがあいて、Y美がガラス戸の向こうにすらりと背の高い姿を現わした。白い靴下が眩しい。紺のスカート、半袖のブラウスの崩れた感じが学校のY美を髣髴させた。夏の日差しは感じられるのだが風邪で体調の悪い僕には、かすかな風にも寒さで体が震える。足の裏の庭石も大理石のように冷たく感じられる。こんな環境の中で何日も過ごしたことが今更ながら信じられない。中に入れてください、とお願いする。ぶるぶる震えながら何度もお願いする。Y美はなかなか首を縦に振らなかった。最後は土下座をしてようやく中に入ることを許された。膝に付着した土や足の裏を雑巾でよく拭いてから、居間を横切って寝室に向かう。
次の日も僕の体調は戻らなかった。二階の僕の部屋に掛け布団、毛布が運ばれた。Y美がお粥とか薬を持ってきてくれた。と、いきなり布団と毛布が剝された。寒い。ぐったりとマットに横たわる裸の僕をしばらく見下ろしていたが、やがて、足の指でおちんちんをいじり始めた。おちんちんの皮が引っ張られて痛い。扱かれてもなかなかおちんちんが大きくならないので、Y美は、
「ほんとに調子が悪いんだね」
と言って、毛布と布団を元通りにかけ直すと、そそくさと部屋を出て行った。
翌日、日曜の午後になって、やっと熱が下がった。起き上がって居間の食卓でY美とおば様の三人で食事ができた。食欲も少しずつ戻り、夕食はY美の半分くらいの量を平らげた。体温計も平熱を示したので、おば様も安心したようだった。食後はしばらく居間にいて、珍しくY美と一緒にテレビを見た。
それは、全く平穏な日常生活だった。少し変な感じもしたけど、僕は素直にこの生活を享受した。Y美もおば様も、病み上がりの僕に台所の手伝いや窓拭き、廊下の雑巾掛けを命じたりしなかった。でも、僕は素っ裸のままだった。Y美は一体いつになったら服を出してくれるのだろうか。昼食の前にそれとなく訊ねたがうまくかわされてしまった。おば様にも頼んだけど、曖昧な微笑を浮かべるだけだった。
ソファでくつろくY美の足元に正座してテレビを見ている。相変わらず全裸だった。番組がコマーシャルに入った時、両手で肩を包み込むようにして、
「やっぱりまだ寒いようです」
と、言ってみた。台所で蛇口から水の出る音がする。
「寒いです」
もう一度、おずおずと独り言のように言う。やはり、何の反応もなかった。Y美はテレビの画面を見つめたまま動かない。おば様は台所で食器の片付けを済ませたところだった。この家では、僕はパンツ一枚だけが着用を許された衣類だった。おば様がY美に、僕に服を着せてもよいのではないか、と訊ねた。しかし、Y美の答えはそっけなかった。
「駄目だよ。チャコは裸がこの家の決まりだもん」
フローリングの床に真っ裸の身を小さく丸める僕にY美の視線がちらちら刺さる。この僕と同級生の怖い女の人は、ルールは順守するべきだと考えているだけで、病み上がりの僕を特にいじめようとしているのではなさそうだった。その証拠に僕にも切り分けたメロンを与えてくれた。いつもなら絶対にしないことだった。メロンを食べた僕は、Y美に向き直り、頭を下げた。
「では、せめてパンツだけでもいいですから穿かせてください」
厳格にルールを適用するのなら当然認められるべき要求だった。しかし、Y美は面倒くさがった。テレビはちょうどコマーシャルが終わって番組に入ったところだった。
「うるさいな。親切にしてやってんだから、あまり調子に乗らないでよ」
「ごめんなさい。でも、パンツだけでも穿きたいです」
「男の子なんだから我慢しなよ。明日の朝、学校に行く前には出すから」
憎悪のこもった目で僕を睨み付けてからすぐに視線をテレビに戻す。これ以上食い下がったら、間違いなくお仕置きをされる。テレビにY美の好きなタレントが映っていた。
おば様が、僕の剥き出しの肩にそっと手を置いた。
「Y美も私に似て頑固よ。あなた、どうせずっと裸んぼだったんでしょ。私たちはあなたの体は全部よく見て、知ってるのよ。明日の朝までおちんちん丸出しだって、もう恥ずかしくないでしょうに」
一糸まとわぬ格好で居続けることに体が慣れたことは事実だけど、そのままで良いかどうかは別問題だった。とにかく僕は衣類を身にまといたかった。人間らしい格好をして、普通の人間としての承認のようなものが欲しかった。この心持ちは、僕と違って裸での生活を強要されることのないY美やおば様には、理解しにくいのかもしれない。彼女たちは、僕がずっと真っ裸で野外を徘徊したため羞恥心も薄れ、体も慣れたことだろうから、そのままの格好でいても不都合はないだろう、と単純に考えているのだろう。僕がこれほどまでに服やパンツ着用にこだわるのを奇異に思っているに違いない。
諦めた僕は、Y美とおば様に挨拶とお礼を述べてから部屋に戻る許可を求めた。おば様が優しい声で「おやすみなさい」と返してくれた。テレビから流れる下品な笑い声を背中越しに聞きながら階段をのぼった。
体調がすっかり回復した月曜の朝、登校時間ぎりぎりになってY美が服を出してくれた。一週間ぶりに衣類を身にまとって学校へ行く。学校では噂が流れていた。女子高生たちに手を引かれ、素っ裸のまま往来を歩いていた男の子がいる、それは僕ではないかと誰かが言った。風邪で寝ていたと言い張ったが、それにしては大層な日焼けだなと返す者があった。同じ屋根の下に住むY美が「風邪で寝込んでいた」と弁護してくれれば済むのに、なぜかY美は、僕が風邪で寝込んでいたかどうかは知らないと答えるのだった。メライちゃんが心配そうに僕を見た。僕はしらを切り通した。
とにかく昼間は学校に行って人並みに勉学に励む生活が戻ったのだが、裸の生活から解放された訳ではなかった。決まりに従って、家に帰れば勝手口の手前で服を脱ぎ、パンツ一枚になって家に入る。脱いだ服は靴までも含めて盥に入れて、勝手口横の壁に据えられた棚に仕舞う。
授業が終われば真っ直ぐ帰る。家で掃除、窓拭きなどの仕事があるので、寄り道している時間はなかった。夕方までに仕事が片付いていないと、おば様に説教され、庭に立たされることになる。バケツの水を頭から何杯もかけられる。びしょ濡れのパンツを引き下ろされて足首から抜き取られる。おば様は、仕事から帰って家が汚れていたり片付いていなかったりすると、憂鬱になり、びっくりするくらい感情のコントロールが利かなくなるのだった。
Y美はと言えば、週に三日の学習塾の日以外は、帰宅するとすぐに出掛け、夕方六時前に家に帰ることなど滅多になかった。七時を過ぎることも珍しくない。どこかで夕食を済ませてくることもあった。バスに乗って町に出て、友達とお茶を飲んだり店を回ったりしているらしい。
遅く帰宅して出掛けない日もあった。Y美は玄関に入るやいなや僕を呼び付けて、鞄を自分の部屋まで運ばせた。S子とかルコなどのいつもの友達を連れて帰ることもあった。そんな時は、玄関で「お帰りなさいませ」と正座して頭を下げさせられ、Y美とその友達の鞄を運ぶのだった。Y美の特定の友達は、僕が家ではパンツ一枚の裸で生活させられているのを日常的なこととして受け止めているようだった。彼女たちが部屋にこもってお喋りに夢中になっている間、僕は廊下と階段を雑巾掛けなどの仕事に励む。時々、Y美の部屋にお茶や菓子などを運ばされることもあった。
もう夏休みまであと一週間というある日、Y美がミューとルコを自分の部屋に招き、しばらくしてから僕を呼び付けた。三人の女の人がブリーフの白いパンツ一枚だけを身に付けた僕の体をじろじろと眺め回した。
「メライと体格が似てるよね。使えるでしょ?」
Y美がミューとルコに問い掛ける。二人は興味深そうに頷いた。
「パンツを脱いで」
有無を言わせぬ口調だった。Y美の切れ長の目が僕を睨み付けている。
「早く。みんな、お前のすっぽんぽんは初めてじゃないから」
そう言うと、Y美はミューとルコに顔を向けた。二人ともうつむいてくすくす笑っている。Y美がもう一度、僕にパンツを脱ぐように目で促した。じっと見られながらパンツを脱ぐのは恥ずかしい。ミューとルコもいつの間にか顔を上げていた。パンツのゴムに手をかけ、足首から抜く。Y美が素早く僕の手からパンツを取り上げると、おちんちんを両手で覆う僕の前で、それを広げた。ミューがパンツにおしっこの染みを見つけ、ルコが鼻を近づけて顔をしかめた。
「夏祭りのイベントで鷺丸君がマジックショーを披露するから、お前はメライと一緒に手伝うんだよ」
「はい」
どういうことか、訳が分からない。それでもY美から命令を受ける時はいつでもそうするように、僕は気をつけの姿勢をしていた。ミューが呆れたような顔をして、溜息をついた。丸出しになったおちんちんが皮をかむって小さく縮んでいた。
昨晩から帰らない僕をおば様とY美はさぞ心配しているだろう、と女子高生たちは言い、僕を家まで送り届けることに決めた。おちんちん丸出しで歩かされているところを捕まったものだから、彼女たちは僕が恥ずかしがっていないと判断したようだが、実際は羞恥で身悶えする程だった。おちんちんを隠そうにも両手を引っ張られているので、ままならない。反対方向から来た女の子たちが左右に揺れるおちんちんを指さして笑った。
ようやく家に着いた時、玄関からY美とおば様が飛び出したのを覚えている。七時半を過ぎて庭が夜の闇に包まれていた。ほっと安堵の表情を浮かべたY美の目に涙らしきものが光った。おば様は女子高生たちに丁重に礼を述べ、財布から何枚か引き抜いて渡した。彼女たちは僕が素っ裸でおちんちんも隠さずに公道を歩いていたことを告げた。おば様は口に手を当てて静かに笑った。
女子高生たちが帰ると、Y美にいきなり左右の頬を平手打ちされた。僕がなかなか帰宅しなかったのでY美はおば様にひどく叱られたようだった。軽トラックの荷台に乗せた僕を遠くの畑で降ろし、そこから帰宅を命じたことに責任を感じるまでになっていた。約束通り僕がこうして素っ裸のまま戻ったことに安心すると、激しく僕を怒鳴り始めた。
うなだれる僕はコンクリートの台座の上で気をつけの姿勢を保った。Y美は、玄関灯を頼りに僕の体を仔細に調べる。そして、体のあちこちに乾いた泥の跡があること、おちんちんに精液の匂いが著しいことを指摘して、その理由を僕に述べさせた。
Y美とおば様の元に帰ることができたので、僕自身も不安から解放された気持ちだった。おば様の豊かな肉体に抱かれて眠りたかった。そういう時は自分の受けた恥ずかしい体験を隠そうとしたり、嘘で固めて自分の恥から目を逸らそうとは思わない。素直にどんな目に遭ったか、詳しく説明した。事実を知れば、Y美も僕に同情して優しくしてくれるような気がした。が、案に相違してY美の反応は冷淡だった。おば様と相談してから、そんな汚れた体では家に上げられないので外で寝るようにと言うのだった。
玄関のドアが閉まると中から鍵を掛ける音がした。もう明日の朝まで家に入れてもらえそうもない。諦めた僕は庭に回って、さるすべりの木の根元に横たわった。そこは土が盛り上がっていて柔らかい。カーテンの隙間から洩れる光が縁側の近くに生える芝生を照らした。テレビのバラエティー番組か何かの笑い声が漏れて聞こえた。さるすべりの赤い花が下からの光を受けて妖しく揺れていた。真っ裸のまま野外で眠るのはこれで四日目だった。いつも剥き出しの体じゅうの皮膚は、もう違和感を覚えることもなく、生暖かい空気を掛け布団のように感じながら、横になった。裸のまま土の上に寝ることに体がだいぶ慣れたようだった。
太陽の強い光が瞼を打って朝を迎えたことに気づいても、なかなか起き上がれなかった。眠り足りないというよりも体がなんとなくだるかった。Y美がすっかり学校支度を整えて僕の前に立った時も、まだしっかり目覚めていなかった。が、そんなことはもちろんY美の意の介するところではない。素っ裸の僕を蹴っ飛ばして起こさせると、その日は珍しく朝の生理的現象であるおちんちんの勃起がないことを指摘し、くすくす笑いながら縁側沿いの芝生に僕を連れて行った。僕は四つん這いにさせられ、ホースからほとばしる水で汚れた体を洗われた。水の冷たさに悲鳴を上げる僕を見下ろして、Y美がホースの水を容赦なく浴びせる。
縁側から降りてつっかけを足に引っ掛けたおば様には、硬いスポンジでごしごしと全身をこすられた。Y美は泡だらけのバケツにモップを突っ込むと、水を滴らせながら僕の体の上になすり付けるように走らせた。
Y美は次第に不機嫌な感情を露わにしてきた。朝の忙しい時間帯にもかかわらず、僕の体を洗っている。表の通りから通学の中学生たちの声が聞こえた。本来であればもう家を出ようという時刻なのだが、夕べおば様の前で約束した手前、Y美は不本意ながらも僕の汚れた体を洗わざるを得ないのだった。
Y美の怒りが爆発しないように僕としては従順に体を動かした。Y美に体をくまなく見られるのは何日振りだろうか。恥ずかしい気持ちもあったけど、それよりも怒らせたら怖いと思う気持ちが勝った。たまたま表の通りを行く中学生たちの声が一際大きくなったところにY美の命令が重なって、聞き取れなかったことがあった。ぼんやりしている僕をY美が叱責した。モップでお尻を強く叩かれ、仰向けに転ばされ、おちんちんにモップを押し当てられた。モップがおちんちんの袋に食い込んだ。ぐいぐいと押され、悶絶する僕にY美が罵声を浴びせる。Y美の気まぐれは相変わらずだった。不意にモップをガラス戸に立て掛けると、縁側から家に入った。学校に行く時間らしい。
水道の水で体を洗い終わったら、学校の制服を着て学校に行くのだと思っていた。おば様もそのつもりだったようで、Y美に僕のパンツや服のありかを訊ねていた。久し振りに衣類を身にまとうことができる。それなのに僕の体は重くて、だるかった。少し熱があるようだった。ずっと野外で素っ裸のまま過ごし、全身に日の光を浴びてきたから疲れが相当溜まっていた。とにかく、眠くてたまらなかった。
おば様は僕の様子がおかしいことに気づいて、脇を抱えるようにして玄関から家に入れてくれた。風雨をしのぐ建物の中に入るのも何日振りか分からなかった。上がりかまちに座る僕の足の裏を雑巾で拭き終わると、おば様は僕の額に手を当てた。
熱があるようだった。脇に挟んだ体温計を見たおば様が、
「今日も休むことになったわね。今週はまだ一度も学校に行ってないよね」
と言って、僕の乳首をツンと指で突いた。
二階の廊下の突き当たり左側にあるのが、この家で僕に割り当てられた部屋だった。電気もカーテンもない。ドアを開けると、向かいの南側に窓があるだけだった。フローリングにマットが敷いてある。掛け布団はなかったけど、その必要はなかった。なぜなら、部屋の中が蒸して、暑苦しいことこの上なかったから。窓を開けると、涼しい風が入ってきた。
この家で生活するようになってから、僕の極めて限定された自由時間のほとんどは、この部屋のこのマットレスの上で過ごしてきた。睡眠時間だけが僕の自由時間と言ってもよかった。体調不良のためにその自由時間が増えたと思うと、嬉しいような気分になる。普通の硬めのマットだけど、こんなに寝心地の良い場所で寝るのは久し振りだったので、すぐに眠りに落ちた。が、急に寒気を覚えて体を起こし、急いで窓を閉めた。マットの上で体を丸めて震える。寒い。掛け布団がなく、自分が衣類を全く身にまとっていないのが恨めしかった。
部屋を出てふらつきながら廊下を進み、階段を下りた。おば様は居間で片付けをしていた。寒くてたまらないことを訴えると、おば様が僕の額に手を当てた。今朝よりも熱が上がっているようで、おば様は驚きの声を上げた。
Y美が僕の衣類を含めた荷物を一つ残らずどこかに仕舞った。その場所をおば様も知らなかった。
おば様は、
「仕方ないでしょ。素っ裸のままでいるより他ないのよ」
と、寒さで震える僕に言って、小さく縮こまっているおちんちんを隠す僕の手を払った。寒くてだるい。頭がぼんやりする。おば様は僕を入浴させた。朝はY美とおば様に庭で水を浴びせられ、何か物体でも洗うように一方的に体の汚れを落としてもらったのだが、それに比べると今度はずっと親切心に満ちていて、有難かった。お湯の中で体をゆっくり温める。おば様はもう一度僕の体をくまなく洗ってくれた。頭も念入りに洗ってくれた。お風呂から上がると、食卓にお粥とバナナがあった。性的な奉仕をする時以外は入室は許されないおば様の寝室で、特別に眠ることが許された。
一糸もまとわぬ裸でいることに変わりはないものの、おば様は毛布の他に厚い掛け布団を出してくれた。剥き出しの皮膚が上も下も古い家の匂いがする、懐かしいふかふかの布団に包まれた。寒気が少し治まって、すっかり眠ってしまった。目が覚めても体は布団から出さなかった。
外では、夏を迎えて暑さが日増しに激しくなっている。窓から枯れて崩れたシクラメンの花が見えた。桐の葉が白く輝いて、かすかな風に揺れている。ふと、僕は山間の畑から素っ裸のまま歩いて帰宅させられたことをまざまざと思い出し、恥ずかしさに全身の血がカッと熱くなった。一体、何人に裸を見られたことだろう。おちんちんの袋の裏側からお尻の穴まで覗かれたことだろう。
自転車に乗せられ、繁華街を通り抜けた時は、数えきれないくらいの人におちんちんを見られた。そればかりでなく、おちんちんに触ってくる手が何本もあった。お尻も知らない人に撫で回された。三十回は下らないだろう。乳首にべたべた触る指もあった。笑い声と「いやだあ」と嬉しげに発する黄色い声ばかりが記憶の中で反響する。
昨日の夕方にやられたことも、その時は努めて意識しないようにしていたからなんとかしのげたけれど、今改めて思い出すと、羞恥のショックで憂鬱になる。女子高生たちは、素っ裸の僕をこの家まで送り届けてくれた。それはおば様とY美に対する親切心であり、僕のことは二の次だった。彼女たちは僕を真ん中にして両手をしっかりと掴み、人通りの絶えない道をわざわざ選んだ。同じ学校の人、知り合いにも見られたかもしれない。見られた可能性の方が高い。
不良中学生に命じられたこととはいえ、おちんちんを隠さずに女子高生に向かって歩いている時に保護されたものだから、彼女たちは僕がまだ羞恥も知らない子どもだと判断した。だから、おちんちんを隠したいと哀訴しても、今更何を恥ずかしがっているのか、と彼女たちに怪訝な顔をされてしまった。何人もの人たちが僕のおちんちんを指して笑った。悪戯盛りの子どもたちには、すれ違いざまにお尻をぴしゃりと叩かれた。
その前の晩は、やはり女子高校生たちにさんざんいじめられ、連続射精の扱きを受けた。山の中では不良中学生たちに素っ裸のまま踊らされ、同級生のEさんに射精させられた。お尻の穴にローターを入れられたまま、オナニーを強制された。みんなの見ている前でおしっこやうんちの排泄行為、果ては射精の瞬間までも観察された。
理不尽な仕打ちの数々の断片が浮かんでは消え、涙が止まらなくなった。僕のいやがることを、なぜみんなはするのか。もう許してくださいとどれだけ訴えても、誰も聞き入れてくれない。僕が素っ裸の無防備な姿のまま歩き回っていたのが原因なのかもしれない。真の弱者に対しては、世の中の人は、その人の持っている残酷性を平気で露わにする。ほんとに容赦がないと思う。特別に悪い人ではない、普通の人でも、身をよろう何物も持たない、生まれたままの姿の弱者がいると、その弱者を困らせてみるのもおもしろい、と感じるようだ。感じ方が大きいか、小さいかだけの違いがあるだけ。
素っ裸のまま歩かされている僕を見て、人は自分の圧倒的な優位を覚えてしまう。その優位感、優越感があまりにも急上昇するため、その過程で「弱者を助けてあげよう」という共同体構成員としての意識から解放される。僕はたまたま衣類をまとっていないから弱者に貶められた。Y美やおば様が僕に服を着せないようするのも、この辺りに理由があるのだろう。とにかく、人は絶対的な弱者を前にすると、その人の持っている善の部分よりも悪の部分がまず出てきやすい。これは素っ裸のままずっと人々の間をうろついてきた僕の偽らざる実感であり、覚えておいて損はないと思った。
仕事に出掛けたおば様は、昼にはいったん家に戻った。
「具合はどうかしら」
スーツに身を固めたおば様のお化粧した顔が枕もとにそっと近づいた。僕の目が涙で潤んでいるのを見て、そっと目の下の涙を指で拭ってくれた。
「かわいそうにね。辛い思いをいっぱいしてきたのね」
僕の頭を撫でながらおば様が同情の言葉を寄せた。布団の中の素っ裸の体に甘い電流のようなものが流れた。おば様は僕のために昼食と飲み物を用意すると、夕方には戻ると言って再び家を出た。
尿意を催して寝室を出る。食卓の椅子にY美がいて、雑誌をめくりながら煎餅を頬張っていた。白いブラウスの制服姿のままで鞄が隣りの椅子にあった。僕の姿を認めると、
「お前、お母さんの部屋で何してたのよ」
と、語気鋭く詰った。僕が性的な奉仕のためにおば様の寝室に出入りしていることをY美は知らない。僕は素っ裸の身を竦め、発作的に手でおちんちんを隠した。相変わらず裸でいることを冷やかされたくなかった。風邪を引いたので特別におば様の寝室で寝ることを許されたのだと説明すると、Y美は不思議そうな顔をしたまま、黙って頷き、雑誌に目を戻した。
トイレのドアを引いた時、居間からY美の制する声がした。ドアノブを握ったまま静止する僕に向かって、Y美がどしどし足音を鳴らして迫った。
「お前のトイレは庭でしょ。ルールを忘れたの?」
家の中のトイレを僕は使ってはいけないことになっていた。庭に建てられた便所小屋の和式便器で用を足すのがこの家の決まりだった。しかし、今日に限り、僕が風邪を引いていることを理由に、おば様から使用の許可があったのだった。が、今度のY美は、納得しなかった。
「そんなの、やだよ。お母さんに確認してからでないと、トイレは使わせない。庭に出なさいよ」
どんと肩を押され、よろめいた。それでもなお家の中のトイレに執着する素振りを見せた僕は、続けて強く腰を蹴られた。廊下の冷たい床に倒れた僕の髪の毛を掴んで立たせる。Y美は蹴ったり突いたりしながら、玄関の土間に僕を落とした。風邪を引いて熱があることを告げてもY美は、手加減しなかった。つっかけに足を入れたY美が玄関のドアを開けると、素っ裸で裸足の僕を外へ押し出した。
おしっこをして戻る。玄関の鍵が閉められて入れなかったので縁側に回ってガラス戸を叩いた。レースのカーテンがあいて、Y美がガラス戸の向こうにすらりと背の高い姿を現わした。白い靴下が眩しい。紺のスカート、半袖のブラウスの崩れた感じが学校のY美を髣髴させた。夏の日差しは感じられるのだが風邪で体調の悪い僕には、かすかな風にも寒さで体が震える。足の裏の庭石も大理石のように冷たく感じられる。こんな環境の中で何日も過ごしたことが今更ながら信じられない。中に入れてください、とお願いする。ぶるぶる震えながら何度もお願いする。Y美はなかなか首を縦に振らなかった。最後は土下座をしてようやく中に入ることを許された。膝に付着した土や足の裏を雑巾でよく拭いてから、居間を横切って寝室に向かう。
次の日も僕の体調は戻らなかった。二階の僕の部屋に掛け布団、毛布が運ばれた。Y美がお粥とか薬を持ってきてくれた。と、いきなり布団と毛布が剝された。寒い。ぐったりとマットに横たわる裸の僕をしばらく見下ろしていたが、やがて、足の指でおちんちんをいじり始めた。おちんちんの皮が引っ張られて痛い。扱かれてもなかなかおちんちんが大きくならないので、Y美は、
「ほんとに調子が悪いんだね」
と言って、毛布と布団を元通りにかけ直すと、そそくさと部屋を出て行った。
翌日、日曜の午後になって、やっと熱が下がった。起き上がって居間の食卓でY美とおば様の三人で食事ができた。食欲も少しずつ戻り、夕食はY美の半分くらいの量を平らげた。体温計も平熱を示したので、おば様も安心したようだった。食後はしばらく居間にいて、珍しくY美と一緒にテレビを見た。
それは、全く平穏な日常生活だった。少し変な感じもしたけど、僕は素直にこの生活を享受した。Y美もおば様も、病み上がりの僕に台所の手伝いや窓拭き、廊下の雑巾掛けを命じたりしなかった。でも、僕は素っ裸のままだった。Y美は一体いつになったら服を出してくれるのだろうか。昼食の前にそれとなく訊ねたがうまくかわされてしまった。おば様にも頼んだけど、曖昧な微笑を浮かべるだけだった。
ソファでくつろくY美の足元に正座してテレビを見ている。相変わらず全裸だった。番組がコマーシャルに入った時、両手で肩を包み込むようにして、
「やっぱりまだ寒いようです」
と、言ってみた。台所で蛇口から水の出る音がする。
「寒いです」
もう一度、おずおずと独り言のように言う。やはり、何の反応もなかった。Y美はテレビの画面を見つめたまま動かない。おば様は台所で食器の片付けを済ませたところだった。この家では、僕はパンツ一枚だけが着用を許された衣類だった。おば様がY美に、僕に服を着せてもよいのではないか、と訊ねた。しかし、Y美の答えはそっけなかった。
「駄目だよ。チャコは裸がこの家の決まりだもん」
フローリングの床に真っ裸の身を小さく丸める僕にY美の視線がちらちら刺さる。この僕と同級生の怖い女の人は、ルールは順守するべきだと考えているだけで、病み上がりの僕を特にいじめようとしているのではなさそうだった。その証拠に僕にも切り分けたメロンを与えてくれた。いつもなら絶対にしないことだった。メロンを食べた僕は、Y美に向き直り、頭を下げた。
「では、せめてパンツだけでもいいですから穿かせてください」
厳格にルールを適用するのなら当然認められるべき要求だった。しかし、Y美は面倒くさがった。テレビはちょうどコマーシャルが終わって番組に入ったところだった。
「うるさいな。親切にしてやってんだから、あまり調子に乗らないでよ」
「ごめんなさい。でも、パンツだけでも穿きたいです」
「男の子なんだから我慢しなよ。明日の朝、学校に行く前には出すから」
憎悪のこもった目で僕を睨み付けてからすぐに視線をテレビに戻す。これ以上食い下がったら、間違いなくお仕置きをされる。テレビにY美の好きなタレントが映っていた。
おば様が、僕の剥き出しの肩にそっと手を置いた。
「Y美も私に似て頑固よ。あなた、どうせずっと裸んぼだったんでしょ。私たちはあなたの体は全部よく見て、知ってるのよ。明日の朝までおちんちん丸出しだって、もう恥ずかしくないでしょうに」
一糸まとわぬ格好で居続けることに体が慣れたことは事実だけど、そのままで良いかどうかは別問題だった。とにかく僕は衣類を身にまといたかった。人間らしい格好をして、普通の人間としての承認のようなものが欲しかった。この心持ちは、僕と違って裸での生活を強要されることのないY美やおば様には、理解しにくいのかもしれない。彼女たちは、僕がずっと真っ裸で野外を徘徊したため羞恥心も薄れ、体も慣れたことだろうから、そのままの格好でいても不都合はないだろう、と単純に考えているのだろう。僕がこれほどまでに服やパンツ着用にこだわるのを奇異に思っているに違いない。
諦めた僕は、Y美とおば様に挨拶とお礼を述べてから部屋に戻る許可を求めた。おば様が優しい声で「おやすみなさい」と返してくれた。テレビから流れる下品な笑い声を背中越しに聞きながら階段をのぼった。
体調がすっかり回復した月曜の朝、登校時間ぎりぎりになってY美が服を出してくれた。一週間ぶりに衣類を身にまとって学校へ行く。学校では噂が流れていた。女子高生たちに手を引かれ、素っ裸のまま往来を歩いていた男の子がいる、それは僕ではないかと誰かが言った。風邪で寝ていたと言い張ったが、それにしては大層な日焼けだなと返す者があった。同じ屋根の下に住むY美が「風邪で寝込んでいた」と弁護してくれれば済むのに、なぜかY美は、僕が風邪で寝込んでいたかどうかは知らないと答えるのだった。メライちゃんが心配そうに僕を見た。僕はしらを切り通した。
とにかく昼間は学校に行って人並みに勉学に励む生活が戻ったのだが、裸の生活から解放された訳ではなかった。決まりに従って、家に帰れば勝手口の手前で服を脱ぎ、パンツ一枚になって家に入る。脱いだ服は靴までも含めて盥に入れて、勝手口横の壁に据えられた棚に仕舞う。
授業が終われば真っ直ぐ帰る。家で掃除、窓拭きなどの仕事があるので、寄り道している時間はなかった。夕方までに仕事が片付いていないと、おば様に説教され、庭に立たされることになる。バケツの水を頭から何杯もかけられる。びしょ濡れのパンツを引き下ろされて足首から抜き取られる。おば様は、仕事から帰って家が汚れていたり片付いていなかったりすると、憂鬱になり、びっくりするくらい感情のコントロールが利かなくなるのだった。
Y美はと言えば、週に三日の学習塾の日以外は、帰宅するとすぐに出掛け、夕方六時前に家に帰ることなど滅多になかった。七時を過ぎることも珍しくない。どこかで夕食を済ませてくることもあった。バスに乗って町に出て、友達とお茶を飲んだり店を回ったりしているらしい。
遅く帰宅して出掛けない日もあった。Y美は玄関に入るやいなや僕を呼び付けて、鞄を自分の部屋まで運ばせた。S子とかルコなどのいつもの友達を連れて帰ることもあった。そんな時は、玄関で「お帰りなさいませ」と正座して頭を下げさせられ、Y美とその友達の鞄を運ぶのだった。Y美の特定の友達は、僕が家ではパンツ一枚の裸で生活させられているのを日常的なこととして受け止めているようだった。彼女たちが部屋にこもってお喋りに夢中になっている間、僕は廊下と階段を雑巾掛けなどの仕事に励む。時々、Y美の部屋にお茶や菓子などを運ばされることもあった。
もう夏休みまであと一週間というある日、Y美がミューとルコを自分の部屋に招き、しばらくしてから僕を呼び付けた。三人の女の人がブリーフの白いパンツ一枚だけを身に付けた僕の体をじろじろと眺め回した。
「メライと体格が似てるよね。使えるでしょ?」
Y美がミューとルコに問い掛ける。二人は興味深そうに頷いた。
「パンツを脱いで」
有無を言わせぬ口調だった。Y美の切れ長の目が僕を睨み付けている。
「早く。みんな、お前のすっぽんぽんは初めてじゃないから」
そう言うと、Y美はミューとルコに顔を向けた。二人ともうつむいてくすくす笑っている。Y美がもう一度、僕にパンツを脱ぐように目で促した。じっと見られながらパンツを脱ぐのは恥ずかしい。ミューとルコもいつの間にか顔を上げていた。パンツのゴムに手をかけ、足首から抜く。Y美が素早く僕の手からパンツを取り上げると、おちんちんを両手で覆う僕の前で、それを広げた。ミューがパンツにおしっこの染みを見つけ、ルコが鼻を近づけて顔をしかめた。
「夏祭りのイベントで鷺丸君がマジックショーを披露するから、お前はメライと一緒に手伝うんだよ」
「はい」
どういうことか、訳が分からない。それでもY美から命令を受ける時はいつでもそうするように、僕は気をつけの姿勢をしていた。ミューが呆れたような顔をして、溜息をついた。丸出しになったおちんちんが皮をかむって小さく縮んでいた。
今後の展開も、楽しみに待っています。
男の子が無事?、居候先に帰れて良かったです。
でも、またY美に恥ずかしい目に合わされてしまうんですね。
今後の更新も、心から楽しみに待っています。
心配なので、ご無事ならコメントだけでも出して頂けたらと思います。
吉川のぼる様
Gio様
その他、コメントお寄せくださった方
いつもありがとうございます。
お返事が滞ってしまい、申し訳なく思っています。
大変不幸で深刻な自然災害が発生し、この国全体がとても苦しい時期にあることを感じています。
しかし、このブログでは現実のことには触れず、ただひたすら僕自身の「思い出したくないこと」の世界を展開する方針です。
どうぞこれからも応援よろしくお願いします。
極めて個人的な一つの性的世界を展開する場で、被災者の方々にお見舞い申し上げることは憚れることと思いますので、敢えて申し上げません。
ただ僕自身が被災者の方々にできることを、ほんの少しですが、現実に行なっていることだけを申し上げておきます。
Gio様
いつもあたたかいお言葉ありがとうございます。すっかりGio様の励ましを当たり前のように受け取っている傲慢な自分に気づき、愕然としております。
僕自身は震災後も以前と変わらぬ生活です。
ご心配おかけして申し訳ないです。
Gio様は、大丈夫でしたか。
最後になりましたが、このブログを読んでくださっている少数の方々の幸せを心よりお祈りいたします。