マジックの練習は午後も厳しかった。メライちゃんも僕もステージ経験のない素人なのに、鷺丸君は妥協というものを知らなかった。僕が唯一身に付けている使い捨てパンツは、びりびりに破れた挙句、お姉さんに鋏を入れられ、おちんちんを隠す布以外は全て切り取られた状態だった。こんな格好でいると、不思議なことに、そばにいるスクール水着姿のメライちゃんが一段と生々しく感じられてくる。
メライちゃんは最初のうちこそあまり僕の方を見ないようにしていてくれたものの、そのうちに見慣れてきたのか、いつのまにか普通に僕に視線を向けるようになって、僕だけが走らされている時など、鷺丸君と一緒になって手の振り方、演技などを遠慮がちにではあるけれど、アドバイスするようになった。これも覚えが悪い僕への親切心には違いないけれど、全裸に限りなく近い格好をじっと観察されるのは、辛かった。
練習に集中できない原因はもう一つあった。児童合唱団の三人、二人の女子児童と眼鏡の男の子がギャラリーとして見物し、「見えた」「また見えた」などと言っては笑ったり、時にはパイプ椅子に座ったまま足を踏み鳴らしたりするのだった。
パンツの前部、不織布が二重になっている部分も外側の部分は切り取られて、ぎりぎりおちんちんを隠す程度の布しか残っていない。隠し部屋から出る時、ドアにパンツを擦ったり、全力で走ったりしていると、どうしてもおちんちんがぽろりとこぼれてしまう。走っていてもおちんちんが出てしまわないか気になって仕方がなかった。
指導の細かい鷺丸君も、僕のパンツからおちんちんがぽろりとこぼれ、その度に僕の手が下がることについては非常な理解を示して、あまり注意はしなかった。ギャラリーの児童たちにおちんちんを見られて笑われる僕の恥ずかしい気持ちを忖度し、同性として大いに同情を寄せてくれているように思われた。
最初は抑え気味だった児童たちのくすくす笑いがだんだん遠慮のないものになる。パンツからこぼれたおちんちんがぷるんぷるんと左右に揺れるのを指で再現して、しきりに面白がっている。メライちゃんは、児童たちが何を笑っているのか分からなかったようだった。こぼれたおちんちんをパンツにしまう僕に対して、背後から「手が下がっているよ」と、僕が鷺丸君に叱られないように先回りしてやんわりと教えてくれる。僕としては、鷺丸君よりもメライちゃんから注意を受けるのがいやだったので、おちんちんがこぼれても、走り切るまではおちんちんへ手が出しづらくなった。
青いカチューシャの女子児童が白いブラウスの襟を引っ張り、その中に首を引っ込める仕草をして、隣のペレー帽の女子や眼鏡の男の子を笑わせた。パンツからこぼれたおちんちんがすっぽりと皮を被っていることを嘲っているのだった。メライちゃんが女子児童の仕草を見て、不思議そうに首を傾げる。羞恥のあまり顔が火照った僕は、おちんちんをパンツにしまう時、気付かれないようにこっそりと皮を剥いた。すると、それを目敏く見つけた眼鏡の男の子が僕の方を指差して、「あれええ」と声を上げた。
「剥いたよ、今」
「ほんと?」ペレー帽の女子児童がにっこり笑って質すと
「うん。今、パンツの中にしまう時。ぼく見たもん」男の子が得意げに声を張り上げる。
「皮を被ったままじゃ恥ずかしいもんね。どうせ見られちゃうなら、ちゃんと皮を剥いてプライドを示したかったのかもよ。男の子って面白い」
青いカチューシャの女子児童が襟首の中から首をすっと伸ばして、言った。
僕としては、今の会話がメライちゃんに聞こえなかったことを祈るばかりだった。幸い、メライちゃんは少し離れたところで鷺丸君と動き方の確認をしている。恐らく聞こえなかっただろう。どきどきしながらも、そっと胸を撫で下ろす。
ステージでは、僕が隠し部屋から出てくる方向は、決められた回数ごとに変わる。でも、今は生憎とメライちゃんの回転ドアへの入り方を中心に練習が行われているため、裸の僕が出てくる方向はいつも同じで、ギャラリーの児童たちがパイプ椅子を並べた側だった。だから、隠し部屋から走り出る僕の裸は毎回チェックされ、おちんちんがこぼれ出てしまうと見過ごされることはなかった。
はみ出ないように太腿を擦り合わせて走っていたのだけれど、こぼれないのは連続二回までが最高だった。こぼれ出てしまったおちんちんを見て、男の子が「ほら見て」と叫んだ。その甲高い声は、はっきりとメライちゃんに聞こえてしまったような気がする。
「やっぱり皮剥いたんだよ」勝ち誇ったように言う。
「ほんとだね。何か出てたね」ペレー帽の女子児童が笑うと、
「隠し部屋でこっそり剥いてるんでしょうよ。そうしないとすぐ被っちゃうから。それにしても、わざわざおしっこの穴まで見せてくれるんだからね」
青いカチューシャの女子児童が僕を流し目に見て、せせら笑った。
児童たちの声が大きい。ついにメライちゃんに聞かれてしまった、と思って立ち竦んでいると、後ろからメライちゃんが声を掛けながら近づいてきた。僕がいたく恥ずかしがっているのを憐れんでいるようだった。
「大丈夫だよ。私、ナオス君が紐みたいなパンツ姿で頑張ってて、すごいなって思ってるから。お尻が見えてたって、全然気にしてないからね。私も、こんな水着姿だけど、恥ずかしいの我慢してるんだよ」
と、泣きそうになるのを堪える僕の顔をじっと覗き込んで励ましてくれる。良かった、メライちゃんはまだおちんちんがはみ出て児童たちの嘲笑の的になっていることに気付いていない。僕がありがとうと返す代わりにうんうんと頷いていると、アトリエのドアが乱暴に開いて、白いワンピース姿のお姉さんが入ってきた。
「Y美ちゃんが遊びに来たよ。ちょっと練習見たいんだって」
朗らかな声が聞こえて、耳を疑う。開けっ放しのドアの向こうでY美が鷺丸君のお母さんに挨拶をしている。練習が見たいからと言って即許されると思ったら、大間違い。いつでも自分の思う通りに事を進めるY美に対し、マジックの種を明かす訳にはいかないという理由で練習の立ち会いを断るのは小気味良く、僕は逸る気持ちを抑えて鷺丸君に駆け寄り、自分の意見を伝えた。
「Y美を追い返せって言うかのよ」
鷺丸君は驚いたように目を丸くして、僕の体を上から下まで眺めた。その視線がお臍の下の辺りで止まったので、もしやと思って急いで手をパンツの前に置く。おちんちんははみ出ていなかった。僕は頷いて、鷺丸君と目を合わせようとしたが、鷺丸君の視線は僕の紐状になったパンツからなかなか上がってこない。
「そりゃ無理だよ、追い返すなんて」
力なく呟いた鷺丸君は、思わぬ来客を断れない自分の無力さに落胆しているようだった。がっくりと肩を落とした視線の先に、たまたま僕のわずかな布で覆われた下半身があるだけなのかもしれなかった。
「でも、練習見せたらマジックの仕掛けもばれるよね」
「ああ、もう何言ってんだよ、ナオス」
やっと僕の下半身から視線を上げた鷺丸君は、呆れたように天井に顔を上げ、額をぴしゃりと手のひらで叩いた。
「Y美は最初から知ってるよ。お前を裸にしたらいいってアイデアは、Y美が俺の姉ちゃんに伝えたものなんだって」
力が抜けて、そのまま床に膝がつきそうになる。メライちゃんと入れ替わりに隠し部屋から出てくる僕がどんな格好をすればよいか話し合った時、パンツ一枚になるのはどうか、と提案したのはお姉さんだった。それがY美の入れ知恵だったとは。メライちゃんの衣装を体操着からスクール水着に変えさせたのも、Y美の案かもしれない。
入口付近では、丈の長い黄色のスカートに襟付きの半袖シャツをまとったY美がスクール水着姿のメライちゃんにちょっかいを出していた。メライちゃんのスクール水着の肩の部分を引っ張ってから放し、ぱちんと鳴らす。「似合ってるよ、その水着」と言って、後ろから水着を引っ張り、背中やお尻を覗き込もうとする。メライちゃんは体を捻ってY美から逃れた。
夏期講習が午前中で終わり、午後からはS子たちと町へ出掛ける予定だったけれど、急に気が変わってこちらに遊びに来たと言うY美は、おちんちんを隠すわずかな布以外はきれいに切り取られ、紐状になったパンツ一枚の僕を見て、「何あれ」と笑った。お姉さんがY美に、僕のパンツがこうなってしまった経緯を説明する。
三人の小学生のほか、Y美とお姉さんがギャラリーに加わり、再開されたマジックの練習は、午前中とは比較にならないほど賑やかになった。回転ドアを通り抜けたメライちゃんと入れ替わりに隠し部屋から僕が出て、走る。相変わらず三回に一回はおちんちんがこぼれてしまい、その都度、児童たちは我先に指さして、「出た」と叫んだ。お姉さんがひと際大きな声で、「やだ、おちんちんが出てるう」と叫んだ時、隠し部屋の狭い暗闇の中で、メライちゃんは確かに僕のパンツからおちんちんがこぼれたことを知ったに違いない。
パイプ椅子から立ち上がったY美がメライちゃんと回転ドアへの入り方について話し合っている鷺丸君を呼びつけた。
「ねえねえ、鷺丸君」
気持ちの悪くなるような、甘ったれた声を出す。
「走り出てくるこの子のパンツからおちんちんが出ちゃうんだけど、知ってた?」
大きな声で問い質す。メライちゃんがそっと顔を庭の方に背けた
「うん。まあ」
マジックに関しては強気で自信満々の鷺丸君が珍しく不安そうに答えた。プライドを傷つけられると思ったのか、鷺丸君はびくびくと怯えたような顔をY美に向けた。
「この子、おちんちんがこぼれるたびに走り方がおかしくなるんだよなあ」
腕組みをしてY美が一歩鷺丸君に詰め寄ると、背丈はY美と変わらないのに、その迫力に圧されて、鷺丸君は俯いてしまった。「本番ではそんなことはないと思うけど」とようやく聞き取れるくらいの声で言い返したものの、到底Y美を納得させる感じではなかった。
「最初からパンツを脱がせばいいと思うんだけど、どうかな?」
「パンツを脱がす?」
上ずった声で鷺丸君が聞き返す。
「そうだよ。丸裸にしておけば、おちんちんがこぼれるとかこぼれないとか気にしなくても済むでしょ。どうせ素っ裸同然の格好してるし」
今までマジックショーの練習には一度も顔を出さなかったY美が今回に限って見学に来て、臆することなく自分の意見を述べる。メライちゃんにだけは見られていなかったおちんちんがとうとう晒されてしまうと思うと、頭の中が真っ白になる。僕は思わずパンツの腰に通したゴムを掴んで、後ずさった。
Y美の案にまずお姉さんが賛成した。「どうせ素っ裸同然の格好をしてる」という点に特に共感したようだった。児童たちが手を叩いて嬉しそうに僕を見つめる。どうせ素っ裸同然の、と軽々しく言うけれども、おちんちんが隠れているのとそうでないのとでは、全然恥ずかしさの度合いが違う。早速、鷺丸君はY美に促されて、僕を羽交い絞めにした。全身を揺さぶって抗うものの、鷺丸君にがっしり押さえ込まれて、ほとんど身動きできない。Y美が眼鏡の男の子に僕のパンツを脱がしてみないかと話し掛けている。男の子は二つ返事で承諾し、小さくガッツポーズをして椅子から立ち上がった。女子児童たちもが男の子に続いて、声援を送りながら、羽交い絞めにされた僕の前にしゃがみ込んだ。
「女の子たちに見られながら、同性にパンツを脱がされる気分はどうかな」
庭に面した窓辺にいたメライちゃんの手を引きながら、Y美が言った。おちんちんが丸出しになる瞬間をしっかり目に焼き付けさせようとするのか、沈んだ表情のメライちゃんを僕の正面に立たせる。
「お願いだから、やめて。話が違います。脱がさないで」
「どうせ素っ裸同然の格好だし、破れたパンツなんか脱いだ方がいいよ」
暴れる僕を押さえ込みながら鷺丸君がそっと囁く。僕は「いやだ、やめて」と抵抗を続けた。
「ねえ、やめなよ。ナオス君、可哀想だよ」
勇気を振り絞ったと思われるメライちゃんの一言は、Y美をムスっとさせた。やにわに体の向きを変え、メライちゃんの両の頬を片手で挟み込んで楕円形に小さな口を開かせると、白い前歯を指先でコツコツ叩いた。
「この可愛い前歯、折っちゃおうかな。余計な口出しする子の歯は折っちゃおうかな」
メライちゃんの体が小刻みに震える。スクール水着のボディラインが弓なりに曲がって、どこか痛々しい。メライちゃんの目が潤んで、眼尻から一筋の涙がこぼれた。
「もう許してあげなよ。Y美ちゃん、怖いねえ」
お姉さんに促されて、やっとメライちゃんから手を放したY美は、すぐに眼鏡の男の子の肩に手を置いて、僕の目の前に腰を落とさせた。「始めていいよ。どんな風に脱がせてもいいからね」とY美が言うと、男の子は元気よく頷いて、拘束された体を右に左にくねらせる僕のパンツのゴムに手を掛けた。やめて、と訴える僕を見上げながらパンツのゴムを上げたり下げたりした後、上に向かって力一杯引っ張った。
「いやだ、やめて」
思わず暴れてしまった足が危うく男の子に当たるところだった。鷺丸君は足を巧みに使って、背後から僕の足の動きを封じた。引っ張られたパンツの布地が下からおちんちんの袋を圧迫する。パンツのゴムが僕の鳩尾近くまで引っ張り上げられ、千切れるのは時間の問題だった。パンツの布からおちんちんの袋の一部がはみ出たらしく、女子児童たちが黄色い声を上げた。
パチンと音がして、とうとうゴムが切れた。「いやだ、やめて」としか言わなくなっていた僕は股を閉じ、お腹をへこませて腰を引いた。「切れちゃった」男の子がおどけた仕草で二人の女子児童を笑わせる。前の部分の布がだらりと垂れて、おちんちんの上のところで止まった。僕は息を殺してじっとする。少しでも動いたら、パンツだったところの布切れがぽろりと床に落ちてしまう。
「すごい。絶妙なバランスを保ってるのね」
お姉さんが児童たちの頭の上からすっと首を突き出して、感心する。すでにお尻の方を覆っていた布は完全に落ちて、必死に閉じた股から垂れ下がっていた。羽交い絞めを解いてくれた鷺丸君は、Y美の指示に基づき僕の両手首を握ると、万歳させた。下手に動くとおちんちんを覆う布が落ちるので、されるがままになるしかない。
「よく見ようよ。同い年の男の子の裸だよ」
「痛い。Y美さん、やめて」
顔を背けてしまったためにY美に後ろ髪を掴まれたメライちゃんが真っ赤に染めた顔を激しく左右に振った。お姉さんが「メライちゃんは、まだナオス君のパンツの中は見たことがないのかな」と訊ねると、「お尻はあるよね」とY美がメライちゃんの小さな巻き貝のような耳に薄い唇を寄せて、問いを重ねる。メライちゃんが「いや、痛い」を繰り返すばかりで返事をしないと、Y美が「じゃ、確認ね」と言ってメライちゃんの後ろ髪を掴んだまま、僕の後ろへ回った。
布が落ちて完全に丸出しになった僕のお尻にメライちゃんの顔が近づけられる。これまでに何度か見られてしまったことがあったけれど、こんな至近距離は初めてだった。「ほら、これがあんたがいつも仲良くしているクラスメイトのお尻。なよっとして全然男の子っぽくないでしょ。しっかり見たのかな、答えなさいよ」と、お尻に唾を飛ばしながらY美が詰問する。メライちゃんがなんと答えたのかは分からない。恐らくは理不尽な暴力に怯えながら、首を縦に振ったのだろう。メライちゃんの鼻をすする音が聞こえた。
「はい、じゃ次は、いよいよ前だね」
Y美が再びメライちゃんを僕の前に引き据え、後ろ髪を掴んで顔を動かせないようにすると、男の子に目配せをした。
「お願いですからやめて、やめてください」
涙ながらに年下の男の子に敬語を使って哀訴するものの、美声のボーイソプラノの男の子は全く意に介さないようだった。床に垂れた布の端を手に取り、ゆっくりと引いてゆく。万歳させられている僕は、おちんちんを覆う布が落ちないように腰をやや引いて、少しも動けない状態。せめてもの抵抗に、パンツだったところの布切れを挟んだ股に力を込める。しかし抵抗の甲斐なく、布切れが引かれてゆく。「いやだ、やめて」と泣きながら訴える僕の声はいつしか小さくなる。むずがるメライちゃんをY美が叱りつけた。その間もじわじわと布が引かれ、とうとうおちんちんの根元部分が露わになった。眼鏡の男の子のすぐ後ろで体育座りしていた二人の女子児童が身を乗り出して、「こんな風に裸にされるのなら、いっそのこと、一気に脱がされた方がまだいいよね」「恥ずかしいよね」と言う。
どんなに股に力を込めても、布を引き抜く抵抗にはならない。それでも、メライちゃんにおちんちんを見られたくないという絶望的な気持ちが太腿と太腿をぴったりとくっ付けさせた。おちんちんが半分ほど見えてくると、布切れの下がる速度が一段と落ち、完全に停止した。男の子は一呼吸置いた。
「ねえ、メライちゃん。これなんだと思う。この半分出てきたこれ」
Y美がわずかな布をまとったおちんちんを指さして、メライちゃんに問い掛ける。メライちゃんは顔を背けることができないよう、相変わらず後ろ髪を掴まれたままだった。顔を真っ赤に染めて、首を横に振る。
「じゃ、引っこ抜こうか」
お姉さんが声を掛けると、男の子は布切れを引いた。すぽっと布が股から抜けた。メライちゃんの短い叫びが聞こえ、すぐに女子児童たちの笑い声が続いた。
「とうとう素っ裸だね」
お姉さんが憐れむような目で僕を見ながら言った。女の人たちの高いテンションに影響を受けたのか、鷺丸君も今や羞恥に悶える僕への同性としての心配りは忘れて、僕の手首を握って万歳させたまま、上下に揺さぶっては、「ほれ、ぶらんぶらん」と女の人たちを喜ばせる。お姉さんが「さすがわが弟。ステージに立つだけあって、客の求めを敏感に感じ取ってるのね」と、鷺丸君を褒めた。
引き抜いたパンツの布切れを男の子は細切れに千切った。「これでもう、君が身に付ける物はどこにもなくなったね」と、男の子が気取った声を出して、素っ裸のまま万歳させられている僕に人差し指を突き立てた。
練習が再開された。何か腰を覆う物が欲しいと頼むと、「恥ずかしいのはよく分かるけど、お願いだから我慢してくれ」と鷺丸君が言い、適当な布がどこにもないから、と申し訳なさを表明するように急いでその理由を付け加え、おちんちんを手で隠して項垂れる僕の両肩を撫でる。手のひらを押しつけるようにして何度も撫でては、「すごいつるつるだな」と呟く。
パンツの端からおちんちんがこぼれるのと違って、素っ裸にされてしまった今は、最初から丸出しだから、パイプ椅子を並べて見学する女の人たちや眼鏡の男の子は、走るたびにおちんちんがどのように激しく揺れるか、最初からじっくり見学できた。青いカチューシャの女子児童が僕に「あまりお兄ちゃんは裸んぼたってこと意識しない方がいいと思うよ」と、アドバイスをした。僕よりも背がうんと高いにもかかわらず、年上であるということで僕を「お兄ちゃん」と呼んでくれる。でも、その言い方にはどこか侮蔑の調子が込められていた。「裸んぼだって意識すると走り方が不自然になるし、そうすると練習が終わらなくなって、お兄ちゃんは、いつまでも私たちに裸んぼを見られることになるよ」と、わざとのように細めた目で僕を見つめながら言った。横ではY美が苦笑していた。
自分が全裸でないことを意識しないようにしろと言っても、それは無理な相談だった。言った本人からして、隣のベレー帽の女子児童と一緒に僕を笑ったり囃したりしている。一方、Y美とお姉さんは、僕だけでなくマジック全体に目を配り、修正するべき点があれば指摘しようという心構えを見せた。鷺丸君にしてみれば要らぬお世話だったかもしれない。ともあれ、Y美はお姉さんに先んじて幾つかの指摘をした。その一つは、僕に対してのものだった。
どんな指摘だったか。例えば僕が隠し部屋に戻る時とか、回転扉をくぐる際の定位置に戻る時など、舞台での決められた所作から解放されている時は、自由におちんちんを隠すことが許されていた。青いカチューシャの女子児童が僕に「まだまだ恥ずかしがってるよ、お兄ちゃん」と言った時も、僕はおちんちんに手を当てていた。Y美は、これこそ問題ではないか、とあげつらったのだった。もう散々に裸を見られているから今更隠す必要はないでしょうに、とお姉さんまでもがY美に同意した。確かに理屈ではそうだろうけれども、それでも手が空いた時には、自然とおちんちんに当ててしまう。Y美に言わせると、それこそがいつまでも自分が素っ裸の状態であることを意識してしまう原因とのことだった。
練習中は決しておちんちんを隠さないこと、これがマジックの練習中に突然なんの関係もないのに現れたY美の僕に対する命令だった。従わなければもっと酷い目に遭わされる。僕は泣きたくなるのを堪えて、「はい」と頷いた。大好きなメライちゃんにおちんちんを晒し続けるのがどんなに耐え難いことなのか、Y美には想像もつかないのだろう。
素っ裸であることを意識して動きが硬くなったのは、僕だけではなかった。メライちゃんもまた動揺著しく、僕がパンツを脱がされる前と比べて明らかに動きがぎくしゃくしてきた。鷺丸君は、メライちゃんと僕を横に並ばせて、手の合図とともに一緒に走らせた。マジックではメライちゃんと僕は同一人物を演じることになる。だから二人の走りは、速度はもちろん、手の振り、足の動かし方まで全く同じようでなければならない。しかも走る速度は、後半以降、どんどん速くなる。これまで練習を重ね、二人が同じように走り、速度を上げるコツを体で覚えてきた筈だった。ところが、メライちゃんは、パートナーである僕がとうとうパンツを脱がされておちんちんを晒してしまうと、走り方や所作に今までのなめらかさがなくなり、迷いや硬さが見られるようになった。かてて加えて、Y美は僕におちんちんを隠す行為、手を当てたり腰をひねったり股に挟んだりすることを固く禁じた。これはつまり、僕の存在がメライちゃんの視界に入れば同時に極めて高い確率でおちんちんが目に入ることを意味する。メライちゃんが益々平常心ではいられなくなってしまうのも道理だった。
強い集中力でマジックに臨む鷺丸君には、手兵の一人である僕の格好なぞ大して気になる事柄ではなかったようで、メライちゃんと僕の走り方に生じたずれを修正しようと必死だった。素っ裸の僕を何度もメライちゃんの横に立たせる。体がくっ付くほどの近さだった。互いの足の動きを見ながら走れ、と鷺丸君が指導する。相手の足の動きを見て自分たちで修正するように言う。「どこに視点を置くか、ピンポイントで教えた方がいいんじゃないの?」とY美が口を挟むと、鷺丸君は苛々と頭を掻いてから、「そうだな、足の付け根だ。相手の太腿の動きをよく見てくれ」と、とりわけ動きがおかしくなったメライちゃんに厳しい目を向けて指示した。メライちゃんは返事もせず、体を硬直させたままだった。ただ頭だけはよく動いて、きょろきょろといろいろな方向を見る。
「聞いてるのかよ、メライ」
椅子から身を乗り出したY美が怒鳴ると、メライちゃんの小柄な体がぷるっと震え、小さく「はい」と返事した。
ぱしんと鷺丸君が手を打って、僕たちはそれを合図に走った。言われた通り、メライちゃんは僕の股間に目を置きながら走る。おちんちんが揺れる様子までもつぶさにメライちゃんに見られながら走るのがどれほど辛いのか、いかにマジックに夢中とはいえ同性としてこの羞恥の切なさに気付いてくれない鷺丸君が恨めしかった。
相手の太腿の辺りを見ながら横に並んで三度四度と走らされたメライちゃんと僕ではあったけれど、メライちゃんのぎこちなさは変わらなかった。鷺丸君が腰に手を当てて、天井を仰いだ。大きな溜め息が聞こえて、メライちゃんがそれを聞くまいとするかのようにぐっと体を棒のように硬直させる。僕はY美の厳命でおちんちんを隠すことができず、恥ずかしいのを我慢し続けて体が内側からじわっと熱くなっていた。少し離れたところでY美が鷺丸君に何か話し込んでいる。鷺丸君がいかにも気乗りしない様子でうんうん頷いている。夏祭りのイベントに地元企業から少なくない額の協賛金が集まるのは、おば様の力によるところが大きい。あのプライドの高い鷺丸君がY美の提案を、それがてんでお話にならないものであっても、決して無下に扱わないのは、おば様の一人娘であるY美の機嫌を損ねてはいけないと思うからこそなのだろうけれど、それにしても鷺丸君の目からいきいきとした力が失せているのは、明らかだった。
鷺丸君が僕に向かって手招きをする。いかにも目下の、地位の低い者を呼ぶように、指先だけを小刻みに震わせて、不機嫌な感情を漂わせる。まるで僕を自分たちの思い付き次第でどうにでもなるペットとでも思っているようだった。これまでにも何度も経験していることだけれども、服を着た人たちの中に一人だけ素っ裸でいると、このような屈辱的な扱いを受けることが多い。文句を言おうものなら、「周りをよく見ろよ。真っ裸のくせに偉そうなこと抜かすな」で終わってしまう。これは、鷺丸君のような、普段は僕を苛めることのないような人でも同じなのだから、つくづくと「みんなが服を着ている中で自分だけ素っ裸」という状況は辛い。
そばにY美がいるので、僕はおちんちんを隠すことができなかった。鷺丸君は、Y美の「気をつけ」の一言に従う僕の肩を撫でながら、「済まないけど頼まれてくれよ」と言った。Y美が僕の後ろに回ると、両肩を掴んで僕の体の向きをトイレから戻ってきたメライちゃんに向けた。鷺丸君が「メライちゃん、ちょっと」と呼んだ。
おちんちんを晒して起立する僕の方は見ないようにして、メライちゃんが来た。顔を上げた時も目は一心に鷺丸君とY美の顔を見る。頬から耳の付け根、耳たぶまでもが赤く染まっていた。Y美が「メライはもっと慣れる必要があるんだよ」と言って、メライちゃんのショートカットの後ろ髪を掴むと、僕の体に顔をぐっと近づけさせた。
首筋、乳首をじっくり見せてから、少しずつ下げてくる。「よく見ろ、じっくり見て、慣れろ」とY美が命じる。「痛い。髪、引っ張らないで」とメライちゃんが訴えても、「いいから、しっかり見ろよ」とにべもない。
無理矢理見せられるメライちゃんの頭が少しずつ下げられる。僕もじっと起立しているのが苦痛になり、もじもじして足を動かしてしまう。「ほれ、これがお臍だよ。その次は」と言わずもがなの説明をしながら、Y美がメライちゃんの後ろ髪をぐいと下げる。おちんちんのすぐ前にメライちゃんの顔が来た。「いや」メライちゃんが叫ぶと同時に、僕はとうとうY美の厳命を無視して、手でおちんちんを隠してしまった。途端にY美に頬を平手打ちされる。
「誰が隠していいって言った?」
更にもう一発、Y美の平手が飛んできた。僕は泣きそうになるのを堪えながら、許しを乞う。こんな風に気をつけの姿勢を強制された状態でメライちゃんにおちんちんを観察されるのは耐え難く、いくら頭で「気をつけ、気をつけ」と思っていても、手が自然と前を覆ってしまう。そんなことを訴えながら、Y美の気が変わることを願うのだけれど、Y美は何も答えずに僕の左腕を取って背中に回し、ねじ曲げた。
少しでも引っ張り上げられると確実に腕を骨折してしまう。激痛に爪先立ちしながら耐えていると、Y美の利き手である右手がおちんちんに伸びてきた。「痛い。やめて」涙混じりに叫んだ僕は、Y美に摘ままれたおちんちんの皮が垂直に伸びるのを見た。
いつのまにかお姉さんと児童たちも集まっていた。お姉さんがY美に代わってメライちゃんによく見て慣れるように勧めている。Y美と違って髪を掴んで強制的に見せるような真似はせず、しゃがみ込ませ、じっくりと観察するように優しく言い含めている。皮を垂直に引っ張られて裏筋を向けているおちんちんが、メライちゃんの今にも涙の零れ落ちそうな大きな瞳に捉われる。
痛い、千切れちゃう、やめてください、と涙ながらに訴えるものの、Y美は聞き入れてくれなかった。摘まんだおちんちんの皮を引っ張ったまま、円を描くようにゆっくりと回す。「気をつけ、気をつけでしょ」とY美が言った。僕の背中で曲げられていない方の腕がメライちゃんからおちんちんを隠そうとしていた。僕は痛みに耐えきれず、言われた通りに空いている方の手を体の側面に当てて指先を伸ばした。すると、ようやくY美は引っ張ったおちんちんの皮を緩めてくれた。
皮の中もせっかくだから見るようにY美がメライちゃんに命じ、おちんちんを三本の指でしっかり固定すると、指を根元に向かってするりとスライドさせて、おちんちんの皮を剥いた。メライちゃんのすぐ目の前で亀頭を露出させられる。抵抗もできず、されるがままになっている僕の目から悔し涙がこぼれる。どんなに「いやだ、やめて」と言ってもY美ばやめてくれない。ずっと一緒に居たい、その人のことを考えるだけで胸がきゅんとなる。僕にとっては、メライちゃんこそがまさにそういう人だった。そのメライちゃんの前でこれまでパンツ一枚の格好で手品の練習をさせられて、それだけでも恥ずかしい思いを我慢して耐えてきたのに、図らずも今日、とうとうそのパンツすらも破られ、ついには脱がされ、一糸まとわぬ格好にさせられたのみならず、こうしておちんちんを観察され、皮まで剥かれて亀頭やおしっこの出る穴までも広げさせられている。
亀頭の根元の部分にお姉さんが人差し指を当て、すっと引いた。過敏な部分なので僕の体がぴくぴくと反応してしまう。二人の女子児童と男の子が面白がった。お姉さんが人差し指を見て、「うん、まあ奇麗だね」と言った。
「皮を被ってる子は、よくここに垢が溜まるって聞くけど」
ペレー帽の女子児童が恐る恐るY美に話し掛けた。隣で青いカチューシャの女子児童が真剣な面持ちをしている。
「そうだよね。でも、この子の場合はね、裸にさせられることがすごく多くて、おちんちんなんかもしょっちゅう見られたり、いじられたりしてるから、いつも清潔にしてるんだよね」
もういやだ、許してください、とべそを掻きながら訴え続ける僕をY美は「男の子らしくない。我慢しなさいよ」と叱った。女子児童たちが「男の子は恥ずかしくても我慢するもんだって学校の先生が言ってた」と暗に僕を非難し、学校の身体検査において女子は体操服に上履き、男子はパンツ一丁に裸足で廊下に並ばされるという慣例を引き合いに出す。眼鏡の男の子が「男の子でも恥ずかしいものは恥ずかしいよ」と、屈託のない笑顔で応じた。メライちゃんは無表情だった。おちんちんを見せられても反応を示さず、もう見慣れたということをY美やお姉さんたちにアピールする。
確かにそれは賢明なやり方だったように思う。メライちゃんがいつまでもおちんちんを見せられることに抵抗すれば、「まだ見慣れないからだ」とY美は判断して、更に素っ裸の僕に恥ずかしい思いをさせるだろう。ところが、Y美の僕を辱めて楽しむ性向は簡単に満足しなかった。見慣れた風を装うメライちゃんに嫌悪の情を掻き立てられたのか、メライちゃんのスクール水着を掴んで引き寄せると、僕には見えないようにして水着の中を覗き込んで、にやりと笑った。メライちゃんが突然のことに身を強張らせていると、Y美は水着を放し、今度は僕の髪の毛を掴んで四つん這いにさせた。猛烈な勢いでお尻を叩き始める。おちんちんを許可なく手で覆った罰だと言う。途中からお姉さんが細長い板をY美に渡した。板でお尻を叩かれる痛みに悲鳴を上げる僕は、おちんちんの袋からお尻の穴までもすっかりメライちゃんに見られていることを、お姉さんの微に入り細をうがった実況中継によって知らされる。おちんちんの袋の揺れる具合やお尻の穴の皺にまでお姉さんが言及し、メライちゃんに何度も「しっかり見た?」と確認する。無反応を装いきれなくなったのか、「はい」と返事をするメライちゃんの声がかすかに震えている。
小学生たちの囃す中、素っ裸のまま四つん這いにされてお尻叩きを受けている。こんな僕をメライちゃんが好きになってくれる可能性は、もうこれで限りなくゼロに近くなったことだろう。そう思うと無性に悲しくなって、悔しさとはまた別の涙が頬を流れた。メライちゃんが「もうやめてあげて。こんなにお尻が真っ赤になってる」と落ち着いた声で言ってくれるのが聞こえると、一層とめどもなく涙がこぼれた。
最後の一発をめぐって二人の女子児童がじゃけんをし、勝った青いカチューシャの児童が叩くことになった。股を開くように指示される。これがラストだと思って四つん這いのまま歯を食いしばって構えていると、全く予想外の激痛が走った。カチューシャの女の子は、お尻ではなく、おちんちんの袋に向かって握り拳を繰り出したのだった。ひいひいと呻きながらのたうち回る僕をお姉さんが見下ろして、やんわりと女子児童に注意する。女子児童は悪びれずに言った。「そうか。やっぱりほんとだったんだね。でも、そんなに大事なものだったら、なんで無防備に垂れ下がってるの?」
痛みがなかなか引かない。動けないでいる僕の足がぴくぴくと動く。女子児童たちがしゃがみ込んで、足の間に小さく縮こまったおちんちんの袋にじっと視線を注いでいる。ふと目を開けると、メライちゃんが真っ青な顔をして僕を見守っていた。Y美によるメライちゃんへの嫌がらせは執拗だった。水着の背面のUの字を引っ張り、裸の背中やお尻までも覗き込んでから放す。ぱちんとゴム全体がメライちゃんの柔らかい肉体を締め付ける音がする。「いや」とメライちゃんが一言発して、身を捩る。
もうマジックの練習は終りでいいよね、とY美が鷺丸君に言った。鷺丸君は逆らうことができず、ちらとお姉さんの方を見て、すぐに顔を伏せた。このままY美のアシスタントとして、僕やメライちゃんを苛める手伝いをさせられることに忸怩たる思いがあるのかもしれない。荒々しく腋の下に鷺丸君の手が入って、僕を立たせる。Y美が僕に向かってメライちゃんの背中を押すと、僕のすぐ目の前でメライちゃんの膝ががくっと折れた。
「仲良しの男の子の裸にだいぶ慣れたみたいだね。では次に」
Y美はこう言うと、メライちゃんの手を取った。気をつけの姿勢を強制されている僕のおちんちんとメライちゃんの丸っこい指を見比べる。
「触ってみましょうね」
言うが早いか、メライちゃんの指をおちんちんにくっ付けた。メライちゃんが首を振って嫌がるのをY美が力ずくで押さえつける。引っ込めようとして暴れる手がおちんちんに当たって、振動を加える。「やめて、やめて」と吐息混じりに漏らす僕の声はY美にではなく、メライちゃんに対して呼びかけるものだった。
駄々をこねるメライちゃんに業を煮やしたY美は、メライちゃんの頬を片手で挟んで締め上げた。ぽっかりと口が開き、小さな前歯が二本現れた。Y美が白い前歯を指でコツコツと叩きながら、「折っちゃおうかな。聞きわけのない子の前歯は叩いて折っちゃおうかな」と節を付けて脅した。うぐぐ、とメライちゃんが仰け反って苦しむと、スクール水着のわずかな胸の膨らみが最大限に強調される。
逆らうと前歯をへし折られるメライちゃんは、再び無表情の強張った顔つきになって、Y美の指図するままにおちんちんへ手を伸ばした。メライちゃんの、これまで授業中に何度も見て、しっかり僕の目に焼き付けられている、あの鉛筆の独特な握り方が思い浮かぶ。まるで食らい付くように鉛筆を握るその指の一本一本が今、Y美に強制されているとはいえ、おちんちんをまさぐり、その奥のおちんちんの袋にまで伸びるのだった。顔が接近し、メライちゃんの口や鼻から漏れる微細な息が懐かしいような香りを含んで、僕の下腹部からお臍、乳首を撫でるようにして、ゆるやかに立ち昇ってくる。うう、と思わず喘ぐ僕をメライちゃんが上目使いに見る。無表情を装うからか、その瞳は少しも潤むことはなく、大きくしっかり見開かれていた。
メライちゃんの前で恥ずかしい思いはしたくない、痴態は晒したくないという一心で性的官能に対するバリケードを築いていたけれど、二日間に渡ってY美に射精を禁じられてきたので、ひとたびそのバリケードが崩れると、寸止めで抑えつけられてきた官能の波動は、あまりにも簡単に全身に行き渡った。
駄目、お願い、と口にするのが精一杯だった。たどたどしく指がおちんちんに絡み付く。指導するY美は、今までとは打って変わって優しい、甘い声でメライちゃんをおだてた。Y美の指と交錯しながら、メライちゃんの手がおちんちんを扱く。もう片方の手がおちんちんの袋を撫でる。女子児童たちが固唾を飲んで見守り、形がだんだん変わってきたことを言う。お姉さんがメライちゃんに硬くなったかと訊ねる。小さく頷く。Y美が少し押すようにして硬さを確かめるように唆す。おちんちんを挟んだ指と指にあえかな力を加える。僕はもう気をつけの姿勢を保てなくなる。Y美が目配せすると、鷺丸君が背後から近づいて、僕の腕を背中に回した。
これ以上続けられると、射精してしまう。メライちゃんがうわっと驚いたようにおちんちんから手を離した。もう無表情ではなかった。真っ赤に染まった頬に手を当てて、息を弾ませているその顔には、同級生男子の性の秘密に触れた女子中学生の純粋な興奮があった。メライちゃんの大きな瞳が勃起させられたおちんちんに釘付けになっている。
「やだな。もう大きくなっちゃったの? 信じられない」
Y美が呆れたような声で言い、笑った。
「こんなに簡単におちんちん大きくさせてさ。恥ずかしくないの?」
蔑むように僕の顔を覗き込んで、硬くさせられたおちんちんを指でピンと弾いた。これまでずっと性的な刺激を与えながら射精は許さなかったくせに、Y美は素知らぬ顔をして、僕のことを変態呼ばわりする。のみならず、男の子の生理に通じていないメライちゃんに向かって、普通はこの程度では大きくなったりはしない、しかもこんなに沢山の女の子がいる中、裸んぼにされておちんちんを扱かれて勃起させるなんてことは、よほどのマゾ気質でないと考えにくい、などと正しいとは思われない情報を自信満々に伝える。横ではお姉さんもうんうんと頷いている。
メライちゃんは両手で顔を覆うようにしながら、指の間からちらりと、もう一度僕の方を見た。はっきりとは見えなかったけれども、完全に嫌われた、と言うか軽蔑されたことを決定的に告げる一瞥だったような気がする。
絶望に打ちひしがれた僕は、屹立するおちんちんを手で覆って、腰を引いた。Y美がすかさず鷺丸君を呼ぶ。回転ドアの回転具合を確かめていた鷺丸君が僕のところに来て、いきなり膝で僕のお尻を蹴り、背後から僕の両手首を握ると、頭の後ろで組むように命じる。僕が「恥ずかしいよ、やだよこんなの」と同性の鷺丸君なら分かってくれると思って鼻をすすりながら小声で頼むものの、鷺丸君は「お前な、Y美に逆らうなよ。俺のステージに影響が出たらどう責任取るつもりだよ」と怒りを滲ませた口調で制し、もう一度、僕のお尻を膝頭で蹴るのだった。
女子児童たちの要望によって、僕は彼女たちに引き渡された。仰向けに寝かされた状態で左右に広げた足を太腿の裏側が天井に向かう位置まで持ち上げられる。いやだいやだ、やめて、と何度も懇願し、懇願の言葉しか口にしなくなった僕の乳首をいじりながら、お姉さんが呑気な声で訊ねる。「やめてって、それ本気で思ってるの?」
でんぐり返しの途中のような格好で押さえつけられている僕は、質問の意味が分からなかった。お姉さんが冷ややかな目をしておちんちんを指した。
「やめてほしいんなら、なんでおちんちん大きくさせてるのよ」
すると、女子児童たちが「そうだよ、すごく硬くなってる」「ぬるぬるしたものが先から出てるよ」と口々に加勢して、性的な快楽に心ならずも身悶えてしまう僕を非難する。メライちゃんもまた僕を非難する側の一人だろう。もしも寸止めばかりの禁欲生活がなかったら、こんな無様な格好で容易に性的官能に反応することはなかったろうにと思うと、今更ながらY美の策略が憎らしくてならない。
精液が出るところも見たい、とせがむ女子児童たちにY美が「それはまた今度。きっと見せてあげるからね」と約束した。女子児童と眼鏡の男の子が帰ると、Y美に誘われてお姉さんとメライちゃんが庭に出た。アトリエの中は急に静かになった。僕は白くて清潔な木材を張った床に正座して、両手で一糸まとわぬ身を覆っていた。悲しい気持ち、絶望的な気持ちで一杯だった。早く服を着てこの場から立ち去りたかった。隠し部屋の点検をしていた鷺丸君が僕を呼び、隠し部屋の中に入って欲しいと頼んだ。
いそいそと隠し部屋に入った僕は、素っ裸の身を誰にも晒すことのない、この薄暗い空間を好もしく思った。外から鷺丸君がドアの回転具合を確かめる。蝶番のネジが弛んでいるようだった。しばらくすると、ドライバーでネジを締め直す音が聞こえた。Y美とお姉さんとメライちゃんが庭から戻ってきた。
狭い隠し部屋だから、もちろんずっと立ちっ放しで腰を下ろすことはできない。それでも、じっと立っていると、朝からハードな練習をしてきた疲れがどっと出てきて、眠気を催した。一枚の回転ドアの向こうでY美とお姉さんの話す声、時折口を挟む鷺丸君の声が聞こえる。さざ波のような笑い声。全ては薄い膜の外側から聞こえてくる遠い世界の出来事のようだった。いつまでここに入っていなければならないのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、朦朧としてきて、意識がところどころ飛んだ。板壁にごつんと頭をぶつけることも度々だった。
と、突然、メライちゃんの体が激しくぶつかってきて、僕は板壁に背中を押し付けられた。「いや、何やってんのよ」メライちゃんが詰る。まさか、いきなりメライちゃんが入ってくるとは思わなかった。
ちょっと走ってみて、というメライちゃんへの指示は、隠し部屋の中の僕にも当然聞こえていると思ったらしい。本来であれば、メライちゃんが入ってくるのと同時に僕が出なければいけないのだけれど、眠気にうつらうつらとしていた僕は、いきなりメライちゃんが入ってくるとは思わず、外へ出るタイミングを完全に逸してしまった。
狭い隠し部屋の中で水着姿のメライちゃんと素っ裸の僕の体が密着する。僕の正面にメライちゃんの体が横向きに入ってきて、メライちゃんの右側面、足の付け根から水着になる部分の丁度境い目あたりに上向きになったおちんちんがぴったりとくっ付いた。清楚なうなじがすぐ目の前にある。
二人の人間が入ると、一枚の回転ドアは、互いの肉体が妨げとなってどちらの側にも動かなくなってしまった。
「ねえ何これ。ナオス君、そっち側から出られないの?」
困ったような声を出して、メライちゃんがスクール水着に包まれた柔らかい肉体をもぞもぞと動かす。僕の乳首がメライちゃんの腕に圧迫される。メライちゃんが足を動かすと、太腿の健康的な弾力のぷりぷりした感じがおちんちんの裏側から伝わり、反応しそうになる。僕は、ちょっと今の体勢ではドアを押そうにも押せないことを告げる。
「嘘でしょ? 困ったな」
なんとか外へ出られないものかと試みるメライちゃんの吐息が狭い空間の中で甘酸っぱい香りとなって、僕の鼻腔をくすぐる。おちんちんが生暖かいメライちゃんの太腿やスクール水着のナイロンにこすれる。僕は、感じないように歯を食いしばった。性的な快感に屈しておちんちんを大きくさせてしまえば、間違いなくメライちゃんに軽蔑される。もう既にメライちゃんは僕のことなど変態と思っているかもしれないけれど、それでもこれ以上メライちゃんに嫌われたくなかった。逆に、もしここでおちんちんを勃起させなければ、僕のことを見直してくれるかもしれない。だから、絶対に感じないようにしなければならない。メライちゃんの指がおちんちんに当たった。
「いやだ、ごめん」
びっくりしたようにメライちゃんが急いで手を引っ込めた。隠し部屋の回転ドアとは反対側の板壁、僕の左側の上部には明かり取りの格子があり、そこから斜めに入ってくる光線がメライちゃんの耳から首、スクール水着が張り付いて湿った胸元を照らした。粒状の汗が首筋に浮かんでいる。暑い。Y美がアトリエの冷房を切らせたのだった。あれだけ冷房を効かせるのが好きで、僕が裸でいるにもかかわらず冷房を止めなかった鷺丸君がY美の要求には直ぐに従った。すると、メライちゃんと二人て閉じ込められたこの隠し部屋の中は、たちまち蒸し蒸しするのだった。重なり合った二人の体が汗でぬめりを帯びる。
「おい、大丈夫か。もう少しドアを開けられないのか」
ドアの向こうから鷺丸君が声を掛け、何とかして開けようとする。しかし、回転ドアはどちらの側を押しても、メライちゃんか僕の体にぶつかって、外へ体が出る程の隙間を作ることができない。困り切った様子の鷺丸君とは対照的に、Y美やお姉さんは明らかに面白がっていた。Y美が「良かったね。メライちゃんと密室で二人きりになれて」と、ドアの隙間から目だけ覗かせて僕をからかう。お姉さんがくすくす笑いながら、「ナオス君、チャンスだよ。メライちゃんのおっぱいとか触っちゃえば」と、誘いかける。
メライちゃんが身動きもままならない狭い空間の中で首を向けて、きゅっと僕を睨む。僕はそんな意思がないことを知らせようとして、首をすくめる。
二人の女の人があまりに吞気なものだから、次第に鷺丸君も感化されて、それ程あせらなくなってきた。メライちゃんと僕を外へ出すために大切なこの仕掛けを壊すことになりはしないか、というのが鷺丸君の一番の心配事だったようだけど、お姉さんに「壊さなくても大丈夫よ。入ったんだから出られるって。結局、中の二人が考えて出るしかないのよ」と言われて、落ち着きを取り戻したのかもしれない。お姉さんが母屋へ行ってお茶でも飲みましょうと誘う。しばらくしたら戻ると言う。「それまでに出て来られるといいね」とY美が隠し部屋の隙間に向かって舌を出した。三人が出入り口に向かって移動する気配がする。軋んだ音を立ててドアが閉まった。こうして、隠し部屋の中のメライちゃんと僕だけがアトリエに取り残された。
「なんとかしなくちゃ」
がらんとした静けさの中、メライちゃんが言い、もう一度、回転ドアを外に向かって押した。僕の側のドアがぐんぐんと内側に押し寄せてくる。僕はドアに圧されてメライちゃんの柔らかな体にぐにゅっと素っ裸の身を押し付けてしまった。短く切り揃えた黒髪と耳に僕の睫毛が当たる。汗の湿った匂いと石鹸の香りが息を吸う僕の体に入ってきて、肌を内側から刺激する。おちんちんの袋に痛みを覚える。
「ちょっとやめてよ。押し付けないで」
メライちゃんがきりっとした目で僕を睨む。慌てて謝った。
「それよりここから出ることを考えないと」
メライちゃんは、まず僕の体の向きを変えたらどうか、と提案した。こんなに体がぴったりと密着して、部位によっては相手の体に食い込んでいるのに、体の向きを変えるのはちょっと難しい。僕がためらっていると、
「とにかくやってみないことには始まらないじゃないの」
と、叱咤する。うん、そうだね、と答えたものの気が進まない。無理をして腰をドアの方に向けて回してみる。メライちゃんの足の付け根部分、水着の切れ込みのところに押し付けられたおちんちんがメライちゃんの柔肉と水着の上で摩擦を起こす。
二人して同時に相手とは逆の方向に動こうとする。と、僕の手がメライちゃんの胸をかすめてしまった。そこには、ピクリと反応した小動物を思わせる、柔らかな肉の膨らみがあった。メライちゃんは何も言わず、ただ口から静かに息を吐き続けながら、力を込めていた。ほのかに甘い、それでいて石鹸のような清潔感のある香りが狭い箱の中に漂う。
メライちゃんは最初のうちこそあまり僕の方を見ないようにしていてくれたものの、そのうちに見慣れてきたのか、いつのまにか普通に僕に視線を向けるようになって、僕だけが走らされている時など、鷺丸君と一緒になって手の振り方、演技などを遠慮がちにではあるけれど、アドバイスするようになった。これも覚えが悪い僕への親切心には違いないけれど、全裸に限りなく近い格好をじっと観察されるのは、辛かった。
練習に集中できない原因はもう一つあった。児童合唱団の三人、二人の女子児童と眼鏡の男の子がギャラリーとして見物し、「見えた」「また見えた」などと言っては笑ったり、時にはパイプ椅子に座ったまま足を踏み鳴らしたりするのだった。
パンツの前部、不織布が二重になっている部分も外側の部分は切り取られて、ぎりぎりおちんちんを隠す程度の布しか残っていない。隠し部屋から出る時、ドアにパンツを擦ったり、全力で走ったりしていると、どうしてもおちんちんがぽろりとこぼれてしまう。走っていてもおちんちんが出てしまわないか気になって仕方がなかった。
指導の細かい鷺丸君も、僕のパンツからおちんちんがぽろりとこぼれ、その度に僕の手が下がることについては非常な理解を示して、あまり注意はしなかった。ギャラリーの児童たちにおちんちんを見られて笑われる僕の恥ずかしい気持ちを忖度し、同性として大いに同情を寄せてくれているように思われた。
最初は抑え気味だった児童たちのくすくす笑いがだんだん遠慮のないものになる。パンツからこぼれたおちんちんがぷるんぷるんと左右に揺れるのを指で再現して、しきりに面白がっている。メライちゃんは、児童たちが何を笑っているのか分からなかったようだった。こぼれたおちんちんをパンツにしまう僕に対して、背後から「手が下がっているよ」と、僕が鷺丸君に叱られないように先回りしてやんわりと教えてくれる。僕としては、鷺丸君よりもメライちゃんから注意を受けるのがいやだったので、おちんちんがこぼれても、走り切るまではおちんちんへ手が出しづらくなった。
青いカチューシャの女子児童が白いブラウスの襟を引っ張り、その中に首を引っ込める仕草をして、隣のペレー帽の女子や眼鏡の男の子を笑わせた。パンツからこぼれたおちんちんがすっぽりと皮を被っていることを嘲っているのだった。メライちゃんが女子児童の仕草を見て、不思議そうに首を傾げる。羞恥のあまり顔が火照った僕は、おちんちんをパンツにしまう時、気付かれないようにこっそりと皮を剥いた。すると、それを目敏く見つけた眼鏡の男の子が僕の方を指差して、「あれええ」と声を上げた。
「剥いたよ、今」
「ほんと?」ペレー帽の女子児童がにっこり笑って質すと
「うん。今、パンツの中にしまう時。ぼく見たもん」男の子が得意げに声を張り上げる。
「皮を被ったままじゃ恥ずかしいもんね。どうせ見られちゃうなら、ちゃんと皮を剥いてプライドを示したかったのかもよ。男の子って面白い」
青いカチューシャの女子児童が襟首の中から首をすっと伸ばして、言った。
僕としては、今の会話がメライちゃんに聞こえなかったことを祈るばかりだった。幸い、メライちゃんは少し離れたところで鷺丸君と動き方の確認をしている。恐らく聞こえなかっただろう。どきどきしながらも、そっと胸を撫で下ろす。
ステージでは、僕が隠し部屋から出てくる方向は、決められた回数ごとに変わる。でも、今は生憎とメライちゃんの回転ドアへの入り方を中心に練習が行われているため、裸の僕が出てくる方向はいつも同じで、ギャラリーの児童たちがパイプ椅子を並べた側だった。だから、隠し部屋から走り出る僕の裸は毎回チェックされ、おちんちんがこぼれ出てしまうと見過ごされることはなかった。
はみ出ないように太腿を擦り合わせて走っていたのだけれど、こぼれないのは連続二回までが最高だった。こぼれ出てしまったおちんちんを見て、男の子が「ほら見て」と叫んだ。その甲高い声は、はっきりとメライちゃんに聞こえてしまったような気がする。
「やっぱり皮剥いたんだよ」勝ち誇ったように言う。
「ほんとだね。何か出てたね」ペレー帽の女子児童が笑うと、
「隠し部屋でこっそり剥いてるんでしょうよ。そうしないとすぐ被っちゃうから。それにしても、わざわざおしっこの穴まで見せてくれるんだからね」
青いカチューシャの女子児童が僕を流し目に見て、せせら笑った。
児童たちの声が大きい。ついにメライちゃんに聞かれてしまった、と思って立ち竦んでいると、後ろからメライちゃんが声を掛けながら近づいてきた。僕がいたく恥ずかしがっているのを憐れんでいるようだった。
「大丈夫だよ。私、ナオス君が紐みたいなパンツ姿で頑張ってて、すごいなって思ってるから。お尻が見えてたって、全然気にしてないからね。私も、こんな水着姿だけど、恥ずかしいの我慢してるんだよ」
と、泣きそうになるのを堪える僕の顔をじっと覗き込んで励ましてくれる。良かった、メライちゃんはまだおちんちんがはみ出て児童たちの嘲笑の的になっていることに気付いていない。僕がありがとうと返す代わりにうんうんと頷いていると、アトリエのドアが乱暴に開いて、白いワンピース姿のお姉さんが入ってきた。
「Y美ちゃんが遊びに来たよ。ちょっと練習見たいんだって」
朗らかな声が聞こえて、耳を疑う。開けっ放しのドアの向こうでY美が鷺丸君のお母さんに挨拶をしている。練習が見たいからと言って即許されると思ったら、大間違い。いつでも自分の思う通りに事を進めるY美に対し、マジックの種を明かす訳にはいかないという理由で練習の立ち会いを断るのは小気味良く、僕は逸る気持ちを抑えて鷺丸君に駆け寄り、自分の意見を伝えた。
「Y美を追い返せって言うかのよ」
鷺丸君は驚いたように目を丸くして、僕の体を上から下まで眺めた。その視線がお臍の下の辺りで止まったので、もしやと思って急いで手をパンツの前に置く。おちんちんははみ出ていなかった。僕は頷いて、鷺丸君と目を合わせようとしたが、鷺丸君の視線は僕の紐状になったパンツからなかなか上がってこない。
「そりゃ無理だよ、追い返すなんて」
力なく呟いた鷺丸君は、思わぬ来客を断れない自分の無力さに落胆しているようだった。がっくりと肩を落とした視線の先に、たまたま僕のわずかな布で覆われた下半身があるだけなのかもしれなかった。
「でも、練習見せたらマジックの仕掛けもばれるよね」
「ああ、もう何言ってんだよ、ナオス」
やっと僕の下半身から視線を上げた鷺丸君は、呆れたように天井に顔を上げ、額をぴしゃりと手のひらで叩いた。
「Y美は最初から知ってるよ。お前を裸にしたらいいってアイデアは、Y美が俺の姉ちゃんに伝えたものなんだって」
力が抜けて、そのまま床に膝がつきそうになる。メライちゃんと入れ替わりに隠し部屋から出てくる僕がどんな格好をすればよいか話し合った時、パンツ一枚になるのはどうか、と提案したのはお姉さんだった。それがY美の入れ知恵だったとは。メライちゃんの衣装を体操着からスクール水着に変えさせたのも、Y美の案かもしれない。
入口付近では、丈の長い黄色のスカートに襟付きの半袖シャツをまとったY美がスクール水着姿のメライちゃんにちょっかいを出していた。メライちゃんのスクール水着の肩の部分を引っ張ってから放し、ぱちんと鳴らす。「似合ってるよ、その水着」と言って、後ろから水着を引っ張り、背中やお尻を覗き込もうとする。メライちゃんは体を捻ってY美から逃れた。
夏期講習が午前中で終わり、午後からはS子たちと町へ出掛ける予定だったけれど、急に気が変わってこちらに遊びに来たと言うY美は、おちんちんを隠すわずかな布以外はきれいに切り取られ、紐状になったパンツ一枚の僕を見て、「何あれ」と笑った。お姉さんがY美に、僕のパンツがこうなってしまった経緯を説明する。
三人の小学生のほか、Y美とお姉さんがギャラリーに加わり、再開されたマジックの練習は、午前中とは比較にならないほど賑やかになった。回転ドアを通り抜けたメライちゃんと入れ替わりに隠し部屋から僕が出て、走る。相変わらず三回に一回はおちんちんがこぼれてしまい、その都度、児童たちは我先に指さして、「出た」と叫んだ。お姉さんがひと際大きな声で、「やだ、おちんちんが出てるう」と叫んだ時、隠し部屋の狭い暗闇の中で、メライちゃんは確かに僕のパンツからおちんちんがこぼれたことを知ったに違いない。
パイプ椅子から立ち上がったY美がメライちゃんと回転ドアへの入り方について話し合っている鷺丸君を呼びつけた。
「ねえねえ、鷺丸君」
気持ちの悪くなるような、甘ったれた声を出す。
「走り出てくるこの子のパンツからおちんちんが出ちゃうんだけど、知ってた?」
大きな声で問い質す。メライちゃんがそっと顔を庭の方に背けた
「うん。まあ」
マジックに関しては強気で自信満々の鷺丸君が珍しく不安そうに答えた。プライドを傷つけられると思ったのか、鷺丸君はびくびくと怯えたような顔をY美に向けた。
「この子、おちんちんがこぼれるたびに走り方がおかしくなるんだよなあ」
腕組みをしてY美が一歩鷺丸君に詰め寄ると、背丈はY美と変わらないのに、その迫力に圧されて、鷺丸君は俯いてしまった。「本番ではそんなことはないと思うけど」とようやく聞き取れるくらいの声で言い返したものの、到底Y美を納得させる感じではなかった。
「最初からパンツを脱がせばいいと思うんだけど、どうかな?」
「パンツを脱がす?」
上ずった声で鷺丸君が聞き返す。
「そうだよ。丸裸にしておけば、おちんちんがこぼれるとかこぼれないとか気にしなくても済むでしょ。どうせ素っ裸同然の格好してるし」
今までマジックショーの練習には一度も顔を出さなかったY美が今回に限って見学に来て、臆することなく自分の意見を述べる。メライちゃんにだけは見られていなかったおちんちんがとうとう晒されてしまうと思うと、頭の中が真っ白になる。僕は思わずパンツの腰に通したゴムを掴んで、後ずさった。
Y美の案にまずお姉さんが賛成した。「どうせ素っ裸同然の格好をしてる」という点に特に共感したようだった。児童たちが手を叩いて嬉しそうに僕を見つめる。どうせ素っ裸同然の、と軽々しく言うけれども、おちんちんが隠れているのとそうでないのとでは、全然恥ずかしさの度合いが違う。早速、鷺丸君はY美に促されて、僕を羽交い絞めにした。全身を揺さぶって抗うものの、鷺丸君にがっしり押さえ込まれて、ほとんど身動きできない。Y美が眼鏡の男の子に僕のパンツを脱がしてみないかと話し掛けている。男の子は二つ返事で承諾し、小さくガッツポーズをして椅子から立ち上がった。女子児童たちもが男の子に続いて、声援を送りながら、羽交い絞めにされた僕の前にしゃがみ込んだ。
「女の子たちに見られながら、同性にパンツを脱がされる気分はどうかな」
庭に面した窓辺にいたメライちゃんの手を引きながら、Y美が言った。おちんちんが丸出しになる瞬間をしっかり目に焼き付けさせようとするのか、沈んだ表情のメライちゃんを僕の正面に立たせる。
「お願いだから、やめて。話が違います。脱がさないで」
「どうせ素っ裸同然の格好だし、破れたパンツなんか脱いだ方がいいよ」
暴れる僕を押さえ込みながら鷺丸君がそっと囁く。僕は「いやだ、やめて」と抵抗を続けた。
「ねえ、やめなよ。ナオス君、可哀想だよ」
勇気を振り絞ったと思われるメライちゃんの一言は、Y美をムスっとさせた。やにわに体の向きを変え、メライちゃんの両の頬を片手で挟み込んで楕円形に小さな口を開かせると、白い前歯を指先でコツコツ叩いた。
「この可愛い前歯、折っちゃおうかな。余計な口出しする子の歯は折っちゃおうかな」
メライちゃんの体が小刻みに震える。スクール水着のボディラインが弓なりに曲がって、どこか痛々しい。メライちゃんの目が潤んで、眼尻から一筋の涙がこぼれた。
「もう許してあげなよ。Y美ちゃん、怖いねえ」
お姉さんに促されて、やっとメライちゃんから手を放したY美は、すぐに眼鏡の男の子の肩に手を置いて、僕の目の前に腰を落とさせた。「始めていいよ。どんな風に脱がせてもいいからね」とY美が言うと、男の子は元気よく頷いて、拘束された体を右に左にくねらせる僕のパンツのゴムに手を掛けた。やめて、と訴える僕を見上げながらパンツのゴムを上げたり下げたりした後、上に向かって力一杯引っ張った。
「いやだ、やめて」
思わず暴れてしまった足が危うく男の子に当たるところだった。鷺丸君は足を巧みに使って、背後から僕の足の動きを封じた。引っ張られたパンツの布地が下からおちんちんの袋を圧迫する。パンツのゴムが僕の鳩尾近くまで引っ張り上げられ、千切れるのは時間の問題だった。パンツの布からおちんちんの袋の一部がはみ出たらしく、女子児童たちが黄色い声を上げた。
パチンと音がして、とうとうゴムが切れた。「いやだ、やめて」としか言わなくなっていた僕は股を閉じ、お腹をへこませて腰を引いた。「切れちゃった」男の子がおどけた仕草で二人の女子児童を笑わせる。前の部分の布がだらりと垂れて、おちんちんの上のところで止まった。僕は息を殺してじっとする。少しでも動いたら、パンツだったところの布切れがぽろりと床に落ちてしまう。
「すごい。絶妙なバランスを保ってるのね」
お姉さんが児童たちの頭の上からすっと首を突き出して、感心する。すでにお尻の方を覆っていた布は完全に落ちて、必死に閉じた股から垂れ下がっていた。羽交い絞めを解いてくれた鷺丸君は、Y美の指示に基づき僕の両手首を握ると、万歳させた。下手に動くとおちんちんを覆う布が落ちるので、されるがままになるしかない。
「よく見ようよ。同い年の男の子の裸だよ」
「痛い。Y美さん、やめて」
顔を背けてしまったためにY美に後ろ髪を掴まれたメライちゃんが真っ赤に染めた顔を激しく左右に振った。お姉さんが「メライちゃんは、まだナオス君のパンツの中は見たことがないのかな」と訊ねると、「お尻はあるよね」とY美がメライちゃんの小さな巻き貝のような耳に薄い唇を寄せて、問いを重ねる。メライちゃんが「いや、痛い」を繰り返すばかりで返事をしないと、Y美が「じゃ、確認ね」と言ってメライちゃんの後ろ髪を掴んだまま、僕の後ろへ回った。
布が落ちて完全に丸出しになった僕のお尻にメライちゃんの顔が近づけられる。これまでに何度か見られてしまったことがあったけれど、こんな至近距離は初めてだった。「ほら、これがあんたがいつも仲良くしているクラスメイトのお尻。なよっとして全然男の子っぽくないでしょ。しっかり見たのかな、答えなさいよ」と、お尻に唾を飛ばしながらY美が詰問する。メライちゃんがなんと答えたのかは分からない。恐らくは理不尽な暴力に怯えながら、首を縦に振ったのだろう。メライちゃんの鼻をすする音が聞こえた。
「はい、じゃ次は、いよいよ前だね」
Y美が再びメライちゃんを僕の前に引き据え、後ろ髪を掴んで顔を動かせないようにすると、男の子に目配せをした。
「お願いですからやめて、やめてください」
涙ながらに年下の男の子に敬語を使って哀訴するものの、美声のボーイソプラノの男の子は全く意に介さないようだった。床に垂れた布の端を手に取り、ゆっくりと引いてゆく。万歳させられている僕は、おちんちんを覆う布が落ちないように腰をやや引いて、少しも動けない状態。せめてもの抵抗に、パンツだったところの布切れを挟んだ股に力を込める。しかし抵抗の甲斐なく、布切れが引かれてゆく。「いやだ、やめて」と泣きながら訴える僕の声はいつしか小さくなる。むずがるメライちゃんをY美が叱りつけた。その間もじわじわと布が引かれ、とうとうおちんちんの根元部分が露わになった。眼鏡の男の子のすぐ後ろで体育座りしていた二人の女子児童が身を乗り出して、「こんな風に裸にされるのなら、いっそのこと、一気に脱がされた方がまだいいよね」「恥ずかしいよね」と言う。
どんなに股に力を込めても、布を引き抜く抵抗にはならない。それでも、メライちゃんにおちんちんを見られたくないという絶望的な気持ちが太腿と太腿をぴったりとくっ付けさせた。おちんちんが半分ほど見えてくると、布切れの下がる速度が一段と落ち、完全に停止した。男の子は一呼吸置いた。
「ねえ、メライちゃん。これなんだと思う。この半分出てきたこれ」
Y美がわずかな布をまとったおちんちんを指さして、メライちゃんに問い掛ける。メライちゃんは顔を背けることができないよう、相変わらず後ろ髪を掴まれたままだった。顔を真っ赤に染めて、首を横に振る。
「じゃ、引っこ抜こうか」
お姉さんが声を掛けると、男の子は布切れを引いた。すぽっと布が股から抜けた。メライちゃんの短い叫びが聞こえ、すぐに女子児童たちの笑い声が続いた。
「とうとう素っ裸だね」
お姉さんが憐れむような目で僕を見ながら言った。女の人たちの高いテンションに影響を受けたのか、鷺丸君も今や羞恥に悶える僕への同性としての心配りは忘れて、僕の手首を握って万歳させたまま、上下に揺さぶっては、「ほれ、ぶらんぶらん」と女の人たちを喜ばせる。お姉さんが「さすがわが弟。ステージに立つだけあって、客の求めを敏感に感じ取ってるのね」と、鷺丸君を褒めた。
引き抜いたパンツの布切れを男の子は細切れに千切った。「これでもう、君が身に付ける物はどこにもなくなったね」と、男の子が気取った声を出して、素っ裸のまま万歳させられている僕に人差し指を突き立てた。
練習が再開された。何か腰を覆う物が欲しいと頼むと、「恥ずかしいのはよく分かるけど、お願いだから我慢してくれ」と鷺丸君が言い、適当な布がどこにもないから、と申し訳なさを表明するように急いでその理由を付け加え、おちんちんを手で隠して項垂れる僕の両肩を撫でる。手のひらを押しつけるようにして何度も撫でては、「すごいつるつるだな」と呟く。
パンツの端からおちんちんがこぼれるのと違って、素っ裸にされてしまった今は、最初から丸出しだから、パイプ椅子を並べて見学する女の人たちや眼鏡の男の子は、走るたびにおちんちんがどのように激しく揺れるか、最初からじっくり見学できた。青いカチューシャの女子児童が僕に「あまりお兄ちゃんは裸んぼたってこと意識しない方がいいと思うよ」と、アドバイスをした。僕よりも背がうんと高いにもかかわらず、年上であるということで僕を「お兄ちゃん」と呼んでくれる。でも、その言い方にはどこか侮蔑の調子が込められていた。「裸んぼだって意識すると走り方が不自然になるし、そうすると練習が終わらなくなって、お兄ちゃんは、いつまでも私たちに裸んぼを見られることになるよ」と、わざとのように細めた目で僕を見つめながら言った。横ではY美が苦笑していた。
自分が全裸でないことを意識しないようにしろと言っても、それは無理な相談だった。言った本人からして、隣のベレー帽の女子児童と一緒に僕を笑ったり囃したりしている。一方、Y美とお姉さんは、僕だけでなくマジック全体に目を配り、修正するべき点があれば指摘しようという心構えを見せた。鷺丸君にしてみれば要らぬお世話だったかもしれない。ともあれ、Y美はお姉さんに先んじて幾つかの指摘をした。その一つは、僕に対してのものだった。
どんな指摘だったか。例えば僕が隠し部屋に戻る時とか、回転扉をくぐる際の定位置に戻る時など、舞台での決められた所作から解放されている時は、自由におちんちんを隠すことが許されていた。青いカチューシャの女子児童が僕に「まだまだ恥ずかしがってるよ、お兄ちゃん」と言った時も、僕はおちんちんに手を当てていた。Y美は、これこそ問題ではないか、とあげつらったのだった。もう散々に裸を見られているから今更隠す必要はないでしょうに、とお姉さんまでもがY美に同意した。確かに理屈ではそうだろうけれども、それでも手が空いた時には、自然とおちんちんに当ててしまう。Y美に言わせると、それこそがいつまでも自分が素っ裸の状態であることを意識してしまう原因とのことだった。
練習中は決しておちんちんを隠さないこと、これがマジックの練習中に突然なんの関係もないのに現れたY美の僕に対する命令だった。従わなければもっと酷い目に遭わされる。僕は泣きたくなるのを堪えて、「はい」と頷いた。大好きなメライちゃんにおちんちんを晒し続けるのがどんなに耐え難いことなのか、Y美には想像もつかないのだろう。
素っ裸であることを意識して動きが硬くなったのは、僕だけではなかった。メライちゃんもまた動揺著しく、僕がパンツを脱がされる前と比べて明らかに動きがぎくしゃくしてきた。鷺丸君は、メライちゃんと僕を横に並ばせて、手の合図とともに一緒に走らせた。マジックではメライちゃんと僕は同一人物を演じることになる。だから二人の走りは、速度はもちろん、手の振り、足の動かし方まで全く同じようでなければならない。しかも走る速度は、後半以降、どんどん速くなる。これまで練習を重ね、二人が同じように走り、速度を上げるコツを体で覚えてきた筈だった。ところが、メライちゃんは、パートナーである僕がとうとうパンツを脱がされておちんちんを晒してしまうと、走り方や所作に今までのなめらかさがなくなり、迷いや硬さが見られるようになった。かてて加えて、Y美は僕におちんちんを隠す行為、手を当てたり腰をひねったり股に挟んだりすることを固く禁じた。これはつまり、僕の存在がメライちゃんの視界に入れば同時に極めて高い確率でおちんちんが目に入ることを意味する。メライちゃんが益々平常心ではいられなくなってしまうのも道理だった。
強い集中力でマジックに臨む鷺丸君には、手兵の一人である僕の格好なぞ大して気になる事柄ではなかったようで、メライちゃんと僕の走り方に生じたずれを修正しようと必死だった。素っ裸の僕を何度もメライちゃんの横に立たせる。体がくっ付くほどの近さだった。互いの足の動きを見ながら走れ、と鷺丸君が指導する。相手の足の動きを見て自分たちで修正するように言う。「どこに視点を置くか、ピンポイントで教えた方がいいんじゃないの?」とY美が口を挟むと、鷺丸君は苛々と頭を掻いてから、「そうだな、足の付け根だ。相手の太腿の動きをよく見てくれ」と、とりわけ動きがおかしくなったメライちゃんに厳しい目を向けて指示した。メライちゃんは返事もせず、体を硬直させたままだった。ただ頭だけはよく動いて、きょろきょろといろいろな方向を見る。
「聞いてるのかよ、メライ」
椅子から身を乗り出したY美が怒鳴ると、メライちゃんの小柄な体がぷるっと震え、小さく「はい」と返事した。
ぱしんと鷺丸君が手を打って、僕たちはそれを合図に走った。言われた通り、メライちゃんは僕の股間に目を置きながら走る。おちんちんが揺れる様子までもつぶさにメライちゃんに見られながら走るのがどれほど辛いのか、いかにマジックに夢中とはいえ同性としてこの羞恥の切なさに気付いてくれない鷺丸君が恨めしかった。
相手の太腿の辺りを見ながら横に並んで三度四度と走らされたメライちゃんと僕ではあったけれど、メライちゃんのぎこちなさは変わらなかった。鷺丸君が腰に手を当てて、天井を仰いだ。大きな溜め息が聞こえて、メライちゃんがそれを聞くまいとするかのようにぐっと体を棒のように硬直させる。僕はY美の厳命でおちんちんを隠すことができず、恥ずかしいのを我慢し続けて体が内側からじわっと熱くなっていた。少し離れたところでY美が鷺丸君に何か話し込んでいる。鷺丸君がいかにも気乗りしない様子でうんうん頷いている。夏祭りのイベントに地元企業から少なくない額の協賛金が集まるのは、おば様の力によるところが大きい。あのプライドの高い鷺丸君がY美の提案を、それがてんでお話にならないものであっても、決して無下に扱わないのは、おば様の一人娘であるY美の機嫌を損ねてはいけないと思うからこそなのだろうけれど、それにしても鷺丸君の目からいきいきとした力が失せているのは、明らかだった。
鷺丸君が僕に向かって手招きをする。いかにも目下の、地位の低い者を呼ぶように、指先だけを小刻みに震わせて、不機嫌な感情を漂わせる。まるで僕を自分たちの思い付き次第でどうにでもなるペットとでも思っているようだった。これまでにも何度も経験していることだけれども、服を着た人たちの中に一人だけ素っ裸でいると、このような屈辱的な扱いを受けることが多い。文句を言おうものなら、「周りをよく見ろよ。真っ裸のくせに偉そうなこと抜かすな」で終わってしまう。これは、鷺丸君のような、普段は僕を苛めることのないような人でも同じなのだから、つくづくと「みんなが服を着ている中で自分だけ素っ裸」という状況は辛い。
そばにY美がいるので、僕はおちんちんを隠すことができなかった。鷺丸君は、Y美の「気をつけ」の一言に従う僕の肩を撫でながら、「済まないけど頼まれてくれよ」と言った。Y美が僕の後ろに回ると、両肩を掴んで僕の体の向きをトイレから戻ってきたメライちゃんに向けた。鷺丸君が「メライちゃん、ちょっと」と呼んだ。
おちんちんを晒して起立する僕の方は見ないようにして、メライちゃんが来た。顔を上げた時も目は一心に鷺丸君とY美の顔を見る。頬から耳の付け根、耳たぶまでもが赤く染まっていた。Y美が「メライはもっと慣れる必要があるんだよ」と言って、メライちゃんのショートカットの後ろ髪を掴むと、僕の体に顔をぐっと近づけさせた。
首筋、乳首をじっくり見せてから、少しずつ下げてくる。「よく見ろ、じっくり見て、慣れろ」とY美が命じる。「痛い。髪、引っ張らないで」とメライちゃんが訴えても、「いいから、しっかり見ろよ」とにべもない。
無理矢理見せられるメライちゃんの頭が少しずつ下げられる。僕もじっと起立しているのが苦痛になり、もじもじして足を動かしてしまう。「ほれ、これがお臍だよ。その次は」と言わずもがなの説明をしながら、Y美がメライちゃんの後ろ髪をぐいと下げる。おちんちんのすぐ前にメライちゃんの顔が来た。「いや」メライちゃんが叫ぶと同時に、僕はとうとうY美の厳命を無視して、手でおちんちんを隠してしまった。途端にY美に頬を平手打ちされる。
「誰が隠していいって言った?」
更にもう一発、Y美の平手が飛んできた。僕は泣きそうになるのを堪えながら、許しを乞う。こんな風に気をつけの姿勢を強制された状態でメライちゃんにおちんちんを観察されるのは耐え難く、いくら頭で「気をつけ、気をつけ」と思っていても、手が自然と前を覆ってしまう。そんなことを訴えながら、Y美の気が変わることを願うのだけれど、Y美は何も答えずに僕の左腕を取って背中に回し、ねじ曲げた。
少しでも引っ張り上げられると確実に腕を骨折してしまう。激痛に爪先立ちしながら耐えていると、Y美の利き手である右手がおちんちんに伸びてきた。「痛い。やめて」涙混じりに叫んだ僕は、Y美に摘ままれたおちんちんの皮が垂直に伸びるのを見た。
いつのまにかお姉さんと児童たちも集まっていた。お姉さんがY美に代わってメライちゃんによく見て慣れるように勧めている。Y美と違って髪を掴んで強制的に見せるような真似はせず、しゃがみ込ませ、じっくりと観察するように優しく言い含めている。皮を垂直に引っ張られて裏筋を向けているおちんちんが、メライちゃんの今にも涙の零れ落ちそうな大きな瞳に捉われる。
痛い、千切れちゃう、やめてください、と涙ながらに訴えるものの、Y美は聞き入れてくれなかった。摘まんだおちんちんの皮を引っ張ったまま、円を描くようにゆっくりと回す。「気をつけ、気をつけでしょ」とY美が言った。僕の背中で曲げられていない方の腕がメライちゃんからおちんちんを隠そうとしていた。僕は痛みに耐えきれず、言われた通りに空いている方の手を体の側面に当てて指先を伸ばした。すると、ようやくY美は引っ張ったおちんちんの皮を緩めてくれた。
皮の中もせっかくだから見るようにY美がメライちゃんに命じ、おちんちんを三本の指でしっかり固定すると、指を根元に向かってするりとスライドさせて、おちんちんの皮を剥いた。メライちゃんのすぐ目の前で亀頭を露出させられる。抵抗もできず、されるがままになっている僕の目から悔し涙がこぼれる。どんなに「いやだ、やめて」と言ってもY美ばやめてくれない。ずっと一緒に居たい、その人のことを考えるだけで胸がきゅんとなる。僕にとっては、メライちゃんこそがまさにそういう人だった。そのメライちゃんの前でこれまでパンツ一枚の格好で手品の練習をさせられて、それだけでも恥ずかしい思いを我慢して耐えてきたのに、図らずも今日、とうとうそのパンツすらも破られ、ついには脱がされ、一糸まとわぬ格好にさせられたのみならず、こうしておちんちんを観察され、皮まで剥かれて亀頭やおしっこの出る穴までも広げさせられている。
亀頭の根元の部分にお姉さんが人差し指を当て、すっと引いた。過敏な部分なので僕の体がぴくぴくと反応してしまう。二人の女子児童と男の子が面白がった。お姉さんが人差し指を見て、「うん、まあ奇麗だね」と言った。
「皮を被ってる子は、よくここに垢が溜まるって聞くけど」
ペレー帽の女子児童が恐る恐るY美に話し掛けた。隣で青いカチューシャの女子児童が真剣な面持ちをしている。
「そうだよね。でも、この子の場合はね、裸にさせられることがすごく多くて、おちんちんなんかもしょっちゅう見られたり、いじられたりしてるから、いつも清潔にしてるんだよね」
もういやだ、許してください、とべそを掻きながら訴え続ける僕をY美は「男の子らしくない。我慢しなさいよ」と叱った。女子児童たちが「男の子は恥ずかしくても我慢するもんだって学校の先生が言ってた」と暗に僕を非難し、学校の身体検査において女子は体操服に上履き、男子はパンツ一丁に裸足で廊下に並ばされるという慣例を引き合いに出す。眼鏡の男の子が「男の子でも恥ずかしいものは恥ずかしいよ」と、屈託のない笑顔で応じた。メライちゃんは無表情だった。おちんちんを見せられても反応を示さず、もう見慣れたということをY美やお姉さんたちにアピールする。
確かにそれは賢明なやり方だったように思う。メライちゃんがいつまでもおちんちんを見せられることに抵抗すれば、「まだ見慣れないからだ」とY美は判断して、更に素っ裸の僕に恥ずかしい思いをさせるだろう。ところが、Y美の僕を辱めて楽しむ性向は簡単に満足しなかった。見慣れた風を装うメライちゃんに嫌悪の情を掻き立てられたのか、メライちゃんのスクール水着を掴んで引き寄せると、僕には見えないようにして水着の中を覗き込んで、にやりと笑った。メライちゃんが突然のことに身を強張らせていると、Y美は水着を放し、今度は僕の髪の毛を掴んで四つん這いにさせた。猛烈な勢いでお尻を叩き始める。おちんちんを許可なく手で覆った罰だと言う。途中からお姉さんが細長い板をY美に渡した。板でお尻を叩かれる痛みに悲鳴を上げる僕は、おちんちんの袋からお尻の穴までもすっかりメライちゃんに見られていることを、お姉さんの微に入り細をうがった実況中継によって知らされる。おちんちんの袋の揺れる具合やお尻の穴の皺にまでお姉さんが言及し、メライちゃんに何度も「しっかり見た?」と確認する。無反応を装いきれなくなったのか、「はい」と返事をするメライちゃんの声がかすかに震えている。
小学生たちの囃す中、素っ裸のまま四つん這いにされてお尻叩きを受けている。こんな僕をメライちゃんが好きになってくれる可能性は、もうこれで限りなくゼロに近くなったことだろう。そう思うと無性に悲しくなって、悔しさとはまた別の涙が頬を流れた。メライちゃんが「もうやめてあげて。こんなにお尻が真っ赤になってる」と落ち着いた声で言ってくれるのが聞こえると、一層とめどもなく涙がこぼれた。
最後の一発をめぐって二人の女子児童がじゃけんをし、勝った青いカチューシャの児童が叩くことになった。股を開くように指示される。これがラストだと思って四つん這いのまま歯を食いしばって構えていると、全く予想外の激痛が走った。カチューシャの女の子は、お尻ではなく、おちんちんの袋に向かって握り拳を繰り出したのだった。ひいひいと呻きながらのたうち回る僕をお姉さんが見下ろして、やんわりと女子児童に注意する。女子児童は悪びれずに言った。「そうか。やっぱりほんとだったんだね。でも、そんなに大事なものだったら、なんで無防備に垂れ下がってるの?」
痛みがなかなか引かない。動けないでいる僕の足がぴくぴくと動く。女子児童たちがしゃがみ込んで、足の間に小さく縮こまったおちんちんの袋にじっと視線を注いでいる。ふと目を開けると、メライちゃんが真っ青な顔をして僕を見守っていた。Y美によるメライちゃんへの嫌がらせは執拗だった。水着の背面のUの字を引っ張り、裸の背中やお尻までも覗き込んでから放す。ぱちんとゴム全体がメライちゃんの柔らかい肉体を締め付ける音がする。「いや」とメライちゃんが一言発して、身を捩る。
もうマジックの練習は終りでいいよね、とY美が鷺丸君に言った。鷺丸君は逆らうことができず、ちらとお姉さんの方を見て、すぐに顔を伏せた。このままY美のアシスタントとして、僕やメライちゃんを苛める手伝いをさせられることに忸怩たる思いがあるのかもしれない。荒々しく腋の下に鷺丸君の手が入って、僕を立たせる。Y美が僕に向かってメライちゃんの背中を押すと、僕のすぐ目の前でメライちゃんの膝ががくっと折れた。
「仲良しの男の子の裸にだいぶ慣れたみたいだね。では次に」
Y美はこう言うと、メライちゃんの手を取った。気をつけの姿勢を強制されている僕のおちんちんとメライちゃんの丸っこい指を見比べる。
「触ってみましょうね」
言うが早いか、メライちゃんの指をおちんちんにくっ付けた。メライちゃんが首を振って嫌がるのをY美が力ずくで押さえつける。引っ込めようとして暴れる手がおちんちんに当たって、振動を加える。「やめて、やめて」と吐息混じりに漏らす僕の声はY美にではなく、メライちゃんに対して呼びかけるものだった。
駄々をこねるメライちゃんに業を煮やしたY美は、メライちゃんの頬を片手で挟んで締め上げた。ぽっかりと口が開き、小さな前歯が二本現れた。Y美が白い前歯を指でコツコツと叩きながら、「折っちゃおうかな。聞きわけのない子の前歯は叩いて折っちゃおうかな」と節を付けて脅した。うぐぐ、とメライちゃんが仰け反って苦しむと、スクール水着のわずかな胸の膨らみが最大限に強調される。
逆らうと前歯をへし折られるメライちゃんは、再び無表情の強張った顔つきになって、Y美の指図するままにおちんちんへ手を伸ばした。メライちゃんの、これまで授業中に何度も見て、しっかり僕の目に焼き付けられている、あの鉛筆の独特な握り方が思い浮かぶ。まるで食らい付くように鉛筆を握るその指の一本一本が今、Y美に強制されているとはいえ、おちんちんをまさぐり、その奥のおちんちんの袋にまで伸びるのだった。顔が接近し、メライちゃんの口や鼻から漏れる微細な息が懐かしいような香りを含んで、僕の下腹部からお臍、乳首を撫でるようにして、ゆるやかに立ち昇ってくる。うう、と思わず喘ぐ僕をメライちゃんが上目使いに見る。無表情を装うからか、その瞳は少しも潤むことはなく、大きくしっかり見開かれていた。
メライちゃんの前で恥ずかしい思いはしたくない、痴態は晒したくないという一心で性的官能に対するバリケードを築いていたけれど、二日間に渡ってY美に射精を禁じられてきたので、ひとたびそのバリケードが崩れると、寸止めで抑えつけられてきた官能の波動は、あまりにも簡単に全身に行き渡った。
駄目、お願い、と口にするのが精一杯だった。たどたどしく指がおちんちんに絡み付く。指導するY美は、今までとは打って変わって優しい、甘い声でメライちゃんをおだてた。Y美の指と交錯しながら、メライちゃんの手がおちんちんを扱く。もう片方の手がおちんちんの袋を撫でる。女子児童たちが固唾を飲んで見守り、形がだんだん変わってきたことを言う。お姉さんがメライちゃんに硬くなったかと訊ねる。小さく頷く。Y美が少し押すようにして硬さを確かめるように唆す。おちんちんを挟んだ指と指にあえかな力を加える。僕はもう気をつけの姿勢を保てなくなる。Y美が目配せすると、鷺丸君が背後から近づいて、僕の腕を背中に回した。
これ以上続けられると、射精してしまう。メライちゃんがうわっと驚いたようにおちんちんから手を離した。もう無表情ではなかった。真っ赤に染まった頬に手を当てて、息を弾ませているその顔には、同級生男子の性の秘密に触れた女子中学生の純粋な興奮があった。メライちゃんの大きな瞳が勃起させられたおちんちんに釘付けになっている。
「やだな。もう大きくなっちゃったの? 信じられない」
Y美が呆れたような声で言い、笑った。
「こんなに簡単におちんちん大きくさせてさ。恥ずかしくないの?」
蔑むように僕の顔を覗き込んで、硬くさせられたおちんちんを指でピンと弾いた。これまでずっと性的な刺激を与えながら射精は許さなかったくせに、Y美は素知らぬ顔をして、僕のことを変態呼ばわりする。のみならず、男の子の生理に通じていないメライちゃんに向かって、普通はこの程度では大きくなったりはしない、しかもこんなに沢山の女の子がいる中、裸んぼにされておちんちんを扱かれて勃起させるなんてことは、よほどのマゾ気質でないと考えにくい、などと正しいとは思われない情報を自信満々に伝える。横ではお姉さんもうんうんと頷いている。
メライちゃんは両手で顔を覆うようにしながら、指の間からちらりと、もう一度僕の方を見た。はっきりとは見えなかったけれども、完全に嫌われた、と言うか軽蔑されたことを決定的に告げる一瞥だったような気がする。
絶望に打ちひしがれた僕は、屹立するおちんちんを手で覆って、腰を引いた。Y美がすかさず鷺丸君を呼ぶ。回転ドアの回転具合を確かめていた鷺丸君が僕のところに来て、いきなり膝で僕のお尻を蹴り、背後から僕の両手首を握ると、頭の後ろで組むように命じる。僕が「恥ずかしいよ、やだよこんなの」と同性の鷺丸君なら分かってくれると思って鼻をすすりながら小声で頼むものの、鷺丸君は「お前な、Y美に逆らうなよ。俺のステージに影響が出たらどう責任取るつもりだよ」と怒りを滲ませた口調で制し、もう一度、僕のお尻を膝頭で蹴るのだった。
女子児童たちの要望によって、僕は彼女たちに引き渡された。仰向けに寝かされた状態で左右に広げた足を太腿の裏側が天井に向かう位置まで持ち上げられる。いやだいやだ、やめて、と何度も懇願し、懇願の言葉しか口にしなくなった僕の乳首をいじりながら、お姉さんが呑気な声で訊ねる。「やめてって、それ本気で思ってるの?」
でんぐり返しの途中のような格好で押さえつけられている僕は、質問の意味が分からなかった。お姉さんが冷ややかな目をしておちんちんを指した。
「やめてほしいんなら、なんでおちんちん大きくさせてるのよ」
すると、女子児童たちが「そうだよ、すごく硬くなってる」「ぬるぬるしたものが先から出てるよ」と口々に加勢して、性的な快楽に心ならずも身悶えてしまう僕を非難する。メライちゃんもまた僕を非難する側の一人だろう。もしも寸止めばかりの禁欲生活がなかったら、こんな無様な格好で容易に性的官能に反応することはなかったろうにと思うと、今更ながらY美の策略が憎らしくてならない。
精液が出るところも見たい、とせがむ女子児童たちにY美が「それはまた今度。きっと見せてあげるからね」と約束した。女子児童と眼鏡の男の子が帰ると、Y美に誘われてお姉さんとメライちゃんが庭に出た。アトリエの中は急に静かになった。僕は白くて清潔な木材を張った床に正座して、両手で一糸まとわぬ身を覆っていた。悲しい気持ち、絶望的な気持ちで一杯だった。早く服を着てこの場から立ち去りたかった。隠し部屋の点検をしていた鷺丸君が僕を呼び、隠し部屋の中に入って欲しいと頼んだ。
いそいそと隠し部屋に入った僕は、素っ裸の身を誰にも晒すことのない、この薄暗い空間を好もしく思った。外から鷺丸君がドアの回転具合を確かめる。蝶番のネジが弛んでいるようだった。しばらくすると、ドライバーでネジを締め直す音が聞こえた。Y美とお姉さんとメライちゃんが庭から戻ってきた。
狭い隠し部屋だから、もちろんずっと立ちっ放しで腰を下ろすことはできない。それでも、じっと立っていると、朝からハードな練習をしてきた疲れがどっと出てきて、眠気を催した。一枚の回転ドアの向こうでY美とお姉さんの話す声、時折口を挟む鷺丸君の声が聞こえる。さざ波のような笑い声。全ては薄い膜の外側から聞こえてくる遠い世界の出来事のようだった。いつまでここに入っていなければならないのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、朦朧としてきて、意識がところどころ飛んだ。板壁にごつんと頭をぶつけることも度々だった。
と、突然、メライちゃんの体が激しくぶつかってきて、僕は板壁に背中を押し付けられた。「いや、何やってんのよ」メライちゃんが詰る。まさか、いきなりメライちゃんが入ってくるとは思わなかった。
ちょっと走ってみて、というメライちゃんへの指示は、隠し部屋の中の僕にも当然聞こえていると思ったらしい。本来であれば、メライちゃんが入ってくるのと同時に僕が出なければいけないのだけれど、眠気にうつらうつらとしていた僕は、いきなりメライちゃんが入ってくるとは思わず、外へ出るタイミングを完全に逸してしまった。
狭い隠し部屋の中で水着姿のメライちゃんと素っ裸の僕の体が密着する。僕の正面にメライちゃんの体が横向きに入ってきて、メライちゃんの右側面、足の付け根から水着になる部分の丁度境い目あたりに上向きになったおちんちんがぴったりとくっ付いた。清楚なうなじがすぐ目の前にある。
二人の人間が入ると、一枚の回転ドアは、互いの肉体が妨げとなってどちらの側にも動かなくなってしまった。
「ねえ何これ。ナオス君、そっち側から出られないの?」
困ったような声を出して、メライちゃんがスクール水着に包まれた柔らかい肉体をもぞもぞと動かす。僕の乳首がメライちゃんの腕に圧迫される。メライちゃんが足を動かすと、太腿の健康的な弾力のぷりぷりした感じがおちんちんの裏側から伝わり、反応しそうになる。僕は、ちょっと今の体勢ではドアを押そうにも押せないことを告げる。
「嘘でしょ? 困ったな」
なんとか外へ出られないものかと試みるメライちゃんの吐息が狭い空間の中で甘酸っぱい香りとなって、僕の鼻腔をくすぐる。おちんちんが生暖かいメライちゃんの太腿やスクール水着のナイロンにこすれる。僕は、感じないように歯を食いしばった。性的な快感に屈しておちんちんを大きくさせてしまえば、間違いなくメライちゃんに軽蔑される。もう既にメライちゃんは僕のことなど変態と思っているかもしれないけれど、それでもこれ以上メライちゃんに嫌われたくなかった。逆に、もしここでおちんちんを勃起させなければ、僕のことを見直してくれるかもしれない。だから、絶対に感じないようにしなければならない。メライちゃんの指がおちんちんに当たった。
「いやだ、ごめん」
びっくりしたようにメライちゃんが急いで手を引っ込めた。隠し部屋の回転ドアとは反対側の板壁、僕の左側の上部には明かり取りの格子があり、そこから斜めに入ってくる光線がメライちゃんの耳から首、スクール水着が張り付いて湿った胸元を照らした。粒状の汗が首筋に浮かんでいる。暑い。Y美がアトリエの冷房を切らせたのだった。あれだけ冷房を効かせるのが好きで、僕が裸でいるにもかかわらず冷房を止めなかった鷺丸君がY美の要求には直ぐに従った。すると、メライちゃんと二人て閉じ込められたこの隠し部屋の中は、たちまち蒸し蒸しするのだった。重なり合った二人の体が汗でぬめりを帯びる。
「おい、大丈夫か。もう少しドアを開けられないのか」
ドアの向こうから鷺丸君が声を掛け、何とかして開けようとする。しかし、回転ドアはどちらの側を押しても、メライちゃんか僕の体にぶつかって、外へ体が出る程の隙間を作ることができない。困り切った様子の鷺丸君とは対照的に、Y美やお姉さんは明らかに面白がっていた。Y美が「良かったね。メライちゃんと密室で二人きりになれて」と、ドアの隙間から目だけ覗かせて僕をからかう。お姉さんがくすくす笑いながら、「ナオス君、チャンスだよ。メライちゃんのおっぱいとか触っちゃえば」と、誘いかける。
メライちゃんが身動きもままならない狭い空間の中で首を向けて、きゅっと僕を睨む。僕はそんな意思がないことを知らせようとして、首をすくめる。
二人の女の人があまりに吞気なものだから、次第に鷺丸君も感化されて、それ程あせらなくなってきた。メライちゃんと僕を外へ出すために大切なこの仕掛けを壊すことになりはしないか、というのが鷺丸君の一番の心配事だったようだけど、お姉さんに「壊さなくても大丈夫よ。入ったんだから出られるって。結局、中の二人が考えて出るしかないのよ」と言われて、落ち着きを取り戻したのかもしれない。お姉さんが母屋へ行ってお茶でも飲みましょうと誘う。しばらくしたら戻ると言う。「それまでに出て来られるといいね」とY美が隠し部屋の隙間に向かって舌を出した。三人が出入り口に向かって移動する気配がする。軋んだ音を立ててドアが閉まった。こうして、隠し部屋の中のメライちゃんと僕だけがアトリエに取り残された。
「なんとかしなくちゃ」
がらんとした静けさの中、メライちゃんが言い、もう一度、回転ドアを外に向かって押した。僕の側のドアがぐんぐんと内側に押し寄せてくる。僕はドアに圧されてメライちゃんの柔らかな体にぐにゅっと素っ裸の身を押し付けてしまった。短く切り揃えた黒髪と耳に僕の睫毛が当たる。汗の湿った匂いと石鹸の香りが息を吸う僕の体に入ってきて、肌を内側から刺激する。おちんちんの袋に痛みを覚える。
「ちょっとやめてよ。押し付けないで」
メライちゃんがきりっとした目で僕を睨む。慌てて謝った。
「それよりここから出ることを考えないと」
メライちゃんは、まず僕の体の向きを変えたらどうか、と提案した。こんなに体がぴったりと密着して、部位によっては相手の体に食い込んでいるのに、体の向きを変えるのはちょっと難しい。僕がためらっていると、
「とにかくやってみないことには始まらないじゃないの」
と、叱咤する。うん、そうだね、と答えたものの気が進まない。無理をして腰をドアの方に向けて回してみる。メライちゃんの足の付け根部分、水着の切れ込みのところに押し付けられたおちんちんがメライちゃんの柔肉と水着の上で摩擦を起こす。
二人して同時に相手とは逆の方向に動こうとする。と、僕の手がメライちゃんの胸をかすめてしまった。そこには、ピクリと反応した小動物を思わせる、柔らかな肉の膨らみがあった。メライちゃんは何も言わず、ただ口から静かに息を吐き続けながら、力を込めていた。ほのかに甘い、それでいて石鹸のような清潔感のある香りが狭い箱の中に漂う。
メライちゃんはこれからY美側に付いてしまうのでしょうか?
この先、メライちゃんとの関係はどうなってしまうのでしょう?
ますます楽しみです。
今後ともマイペースでお続け下さい。
残ったのはもう、アナルバージンくらいですね
いつか汚い中年のオッサンに輪姦されて欲しいと思います
ナオスきゅんを誑かす、メライとかいうビッチはDQNにまわされればいい
メライちゃんの自分…
↓
メライちゃんファンの自分…
コーフンしすぎて脱字で投稿してしまいました。スミマセン…。
それにつけてもY美がメライちゃんの水着の中を覗いてニヤリとするシーンが気になってしかたありません。ナオスくん同様幼児体形の彼女だけに、胸の膨らみ加減なのでしょうか? 普通毛の生えているあの部分なのでしょうか??? ともあれ、次回が楽しみです^^
ついに最愛の人に見られてしまったか…
しかし、本当に可哀想なナオス君。せめて恋だけでも報われてほしい。そのためにも、ナオス君、頑張ってこの闇から抜け出そう!
ま、無理でしょうね
相変わらず素晴らしい描写に見とれます。
次は一作は本当に楽しみ!
予想を裏切るような展開を期待しています。
では、御自愛ください。
続きが見たいです。
いつもありがとうございます。
コメント、嬉しく思います。
赤シャツ様
あたたかいお言葉、ありがとうございます。
長くお付き合いいただき、嬉しいです。
今後も激しく展開していきたいです。
ああああ様
コメント、ありがとうございます。
頑張って続けます。
今後ともよろしくお願いします。
へろへろ様
ありがとうございます。
長いのろのろした展開になりますが、お付き合いいただき嬉しいです。
まだいろいろと起こります。
kE様
コメント、ありがとうございます。
とても励みになります。
お楽しみいただければ嬉しいです。
ぼくもなかなか眠れない夜が多いです。
特に夜、小説を書くと駄目ですね。寝付けなくなりますので、なるべく早起きして書くようにしてます(笑い)。
湘南様
コメント、ありがとうございます。
海水浴編も準備しています。
こちらも長くなりますので、よろしくお願いしますね。