思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

遅すぎた救出

2008-09-30 11:36:22 | 6.女子はたくらむ
 全裸のまま手足を広げた形で縛られている僕のおちんちんは、女の子にずっとしごかれていて、そのことをなぜかお尻を執拗に叩くリーダーは知らなかったらしい。ふとした拍子におちんちんを見た時、女の子はたまたま手を休めていて、おちんちんは大きくなりかかっていた。
 リーダーはお尻叩きとおちんちん硬化の因果関係を認めるという勘違いをして、お母さんの一人が公園内で拾った板切れを取り寄せると、それでお尻を更に強く叩くのだった。痛みがあれば痒みが消えるというリーダーの言葉は、嘘だった。体中のあらゆる部位の痒みと、お尻の痛みが競うように僕を責める。代わった女の子が同じように指で輪っかを作り、おちんちんへの摩擦攻撃を再開した。
 いっぱいに広げた両手両足をがっしり固定された体を波打たせ、僕は責めの三重苦に耐え続けた。いつになったら終わるのかまったく見当がつかない。「いやだ、もうやめて」と叫んでも「痒いんでしょ。親切に掻いてあげてるのに」と、大人びた口調の女の子に仏頂面して返されるのだった。
「あらあら、誰かと思ったらミイミイじゃない、まあまあ」
 公園にまた誰か来たと思ったら、雪ちゃんだった。F田さんちの雪ちゃんは、紺の半袖のシャツに赤いスカート姿で腕に買い物かごをぶら下げていた。お使いの途中だと言う。ミイミイと呼ばれた大人びた口調の女の子は、雪ちゃんに笑顔を向けた。二人は同じクラスの仲良しらしい。手を取り合って、いささか大げさにこの朝の偶然の出会いを喜び合っている。手を放した雪ちゃんが、横眼でちらと、無残な姿で縛られている僕を見た。
「やだ、チャコ兄ちゃんじゃない。何してんのよ」
「え、雪べえ、この子、知ってるの?」
「この子って言うけど、私たちより年上だよ。中学生なの」
「嘘、中学生なの? 同い年かと思った」
 目を丸くして驚くミイミイは、改めて僕の体にねちねちと視線を這わせながら「どう見ても小学四五年て感じだけど」と、呟いた。
 ひとしきり僕がY美の家で奴隷のような生活をさせられていることなどを話し終えた雪ちゃんは、ミイミイをはじめとする女の子やそのお母さんたちがしきりに僕のことで質問するのを適当にかわして、僕の前に立った。
「相変わらずチャコ兄ちゃんたら、いじめられてるんだね。Y美さんはどうしたの?」
「待ってるんだけど、家に縄を切る物を取りに行ったまま、朝になっても戻ってこないの。雪ちゃん、悪いけどY美さんを至急呼んできてください」
「やだよ。私だって用事があるんだし。それにしても、チャコ兄ちゃんたら、真っ裸で手足広げているからたくさん蚊に刺されたね。痒いでしょ。わあ、お尻なんか、真っ赤。ずいぶん叩かれたのね」
 後ろに回って、雪ちゃんが溜息をつく。リーダーもおちんちんをしごいていた女の子も、今は僕の体から離れて、雪ちゃんが僕の蚊に刺されて膨らんだ腿や脇腹などに指を当てるのをじっと見ていた。さんざんにしごかれたおちんちんが今しがたまで勃起していたことをミイミイが話すと、雪ちゃんは、ぷっと吹き出した。
「可哀そうに。私が来たから緊張して縮んじゃったのかしら。すっかり皮の中に隠れちゃったじゃないの」
 指でそろそろと皮をおちんちんの根本の方へ動かす雪ちゃんは、いったんすっかり剥き上げると、ふたたび皮を動かして、袋に物を入れて閉じるように、皮の中におちんちんを包み込み、先っぽをだらりと垂らした。
 蚊に刺された痒みもさることながら、もう一つの苦しみが僕の体の内部から発生していた。下腹部がなだらかに膨らんでいるのに気づいたミイミイが手を当てて、そっと押した。僕は反射的に腰を引いて、呻き声を上げた。公園に裸のまま歩かされて来てから、一度も排泄していなかった。その限界点が近付いていたのだった。
「やだな、この子、おしっこしたいんじゃないの?」
 面倒なことはしたくないというようにミイミイが顔をしかめた。僕は拘束された手足をくねらせながら、縄をほどいて自由にしてほしいとお願いした。
「そりゃできるものなら、とっくにそうしてあげてるわよ。でも、現実問題として、できないの。縄があんまりがっちり固く結ばれてるから、私たち女の手じゃほどけないのよ。誰か来るまで、もう少し我慢してなさい。丸裸で、ちっちゃなおちんちんをみんなに笑われて、恥ずかしいかもしれないけど、今さら仕方ないでしょうから」
 ゆっくりと諭すようにリーダーが説得を試みる。全身から汗が噴き出た。この公園の中で僕だけが衣類を何一つまとっていないのに、一番体温が高いのは僕かもしれなかった。
「おしっこが漏れそうなんです。お願いです。おしっこをさせてください」
 全身をぶるぶる震わせて哀願する僕を、ミイミイが奇妙な生き物に遭遇でもしたような目で見て、雪ちゃんに何やら耳打ちをした。
「トイレに行きたいのなら勝手に行けば?」
「縄を、縄をほどいてください」
「私たちじゃほどけないって言ってんだよ。男の子なんだから、自分でほどきなさいよ」
 痒みと尿意の限界に耐えて悶える僕の裸身からミイミイが顔をそむけた。もう相手にするのもうんざりといった感じだ。
「おしっこ、したいんです。我慢できない」
 そのただならぬ様子に感づいて、それまで滑り台の脇の雑草を素手で引き抜いていたリーダーがふと顔を上げた。立ち上がり、ゆっくりと僕に近づく。
「あんた、まさかここでおしっこをするつもりじゃないでしょうね」
 膀胱が破裂しそうだった。体を激しく捻って、首を左右に振るのが精一杯だった。
「私たちはボランティアでこの公園をきれいにしようと努力しているのに、小さな子どもたちが安心して気持ち良く遊べる公園にしたいと思っているのに、あなたがここでおしっこを撒き散らすということは、私たちの仕事をこれ以上ないやり方で馬鹿にするものよ。どういうつもりなの?」
「お願いします。おしっこさせてください」
 必死の叫びに、他のお母さんたちもごみ拾いや拭き掃除の手を止めて、僕の周りを囲み始めた。一人のお母さんが黄色いバケツを差し出した。女の子たちがじゃんけんをしていて、負けた一人がバケツを受け取ると、おちんちんの前にあてがった。夕べ僕が水汲みさせられた時に使ったバケツだった。
「ちよっと待って」
 今しもおしっこを放出しようとするところへ、雪ちゃんの鋭い声が割って入った。
「みんな、おちんちんの先を見て。この状態でおしっこすると、うまく出ないのよ。剥いてあげないと、駄目なの」
「皮を被ったままだと不便なのねえ」
「早く毛が生えて立派なおちんちんになるといいね」
 皮をだらりと垂らしているおちんちんを雪ちゃんが指した。みんなが感心したように頷いている。雪ちゃんは僕のお尻をパシンと叩くと、
「チャコ兄ちゃんも、自分で言わなきゃ。ちゃんとお願いしなよ。おちんちんの皮を剥いてくださいって」
 と言い、僕の頬を引っ張った。
「早くお願いしなさいよ。僕の皮を被った小さなおちんちんの皮を剥いて、おしっこさせてくださいって。しっかり言えるまでバケツあてがわないからね」
 一言一句間違えずに復唱できるかどうか、腕を組んだミイミイがじっと耳を澄ましている。一刻の猶予もない僕は何度かやり直しさせられ、やっとミイミイが望む通りにお願いすることができた。ミイミイが目で合図すると、女の子が僕の前にしゃがんで、おちんちんの皮を指でするすると根元の方へ移動させる。亀頭が剥き出しになる。黄色いバケツがおちんちんの前に差し出された。
 この公園にいる全ての人が集まって、じっと視線を注ぐ。この視線に抗うことはできない。「見ないでください」などとはあえて口にせず、大きく息を一つつくと、溜まりに溜まっていたおしっこを一気に迸らせた。
「臭い」
「やだ、すごい臭い」
 女の子たちが鼻をつまんでその場を離れた。バケツをあてがっている女の子は、この役を引き受けた不運を悔しがるように顔を背けた。お母さんたちもこの臭いは何事かとざわめき立っている。
「チャコ兄ちゃんたら、Y美さんたちに自分のおしっこ飲まされてるでしょ。だから、チャコ兄ちゃんのおしっこ、臭いんだよ」
 なんでこんなに臭いのかと問うミイミイに雪ちゃんが答えると、ミイミイが驚いて、「やだ、この子、自分のおしっこ飲んでるの?」と問い返す。
「飲んでるっていうか、無理矢理飲まされてるんだけどね。可哀そうなんだよ、チャコ兄ちゃんは。いつも女の子に服を脱がされて、いじめられて」
 おしっこで今にも溢れそうになっている黄色いバケツの底から、おしっこがぽたぽたと垂れている。底にひびが入っていたことを僕は思い出した。バケツを支えている女の子は、泣きそうな顔をして、これをどうしたらよいのか、誰かの指示を待っている。垂れたおしっこが自分にかからないように、女の子はバケツを僕の体に押し付けた。滴るおしっこが僕の腰から太ももを濡らした。
「体に塗ってあげるといいんじゃないかしら」
 きっぱりとした口調でリーダーが提案し、お母さんたちが口々に「そうね」「それがいいかもね」と、賛意を表明する。僕の肩の高さまでバケツを上げた女の子は、バケツの縁を僕の肩に当てて、リーダーの顔を見ながら、合図を待つ。おしっこの臭いがツーンと鼻に迫ってくる。
「肩からではなく、首から垂らしてあげるといいわ、少しずつね。おしっこのアンモニアは虫刺されに効くって本で読んだことがあるの。それに、こんなに強く臭うから、虫除けにもなること請け合いよ」
 おしっこが蚊の痒みに効くなんて、まったくの出鱈目に過ぎない。でも、その時には、そんなものかと思ってしまったし、そう信じないと、自分のおしっこを体中に浴びせられるという理不尽な行為を納得して受け止めることができなかった。今まで数々の屈辱的な、恥ずかしい目に遭わされながら、その理由がまるで思い当たらない僕の胸の中には、災難の一言では済ませられない悲しみが山積していた。これ以上その悲しみが増えるならば、僕の中にある、自分という人間を形成している最も重要な何かが確実に壊れてしまうだろう。蚊に刺された痒みを消し、これ以上蚊に血を吸われないために、今、僕は縛られた全裸の体に、みんなの前で放尿させられた液体をこぼされている。そのためだけに、僕はこの気持ち悪さに耐えている。
 途中でミイミイや雪ちゃんが女の子に代わって、バケツを傾ける役割を担った。蚊に刺された箇所におしっこをかけるのだから、結局全身おしっこまみれになってしまった。ミイミイとリーダーにお尻を広げられ、ここも蚊に刺されたのではないかと肛門をじっと観察された。別に刺された訳でもないのに、念のためとミイミイがお尻の穴までもおしっこで濡らすのだった。

 がっくりと首を垂れて耐え忍んでいる僕の耳にY美の声が届いたのは、僕の頭上でバケツが振られ、すっかりバケツが空になった時だった。Y美は走ってきたらしく、呼吸が乱れ、額に前髪が汗で張り付いていた。相変わらずエックスの形に縛られたままでいる僕が、清掃のお母さんたちやその娘たちに取り囲まれているの見て、少し緊張しているようだった。雪ちゃんに事情を聞いたY美は、呆れた表情をして僕のおしっこに濡れた裸を睨んだが、すぐにジーンズのポケットからアウトドア用の飛び出しナイフを取り出した。
「遅くなってごめんね」
 ナイフが僕の両腕両足を左右に引っ張っている縄を切った。一晩中拘束されていた手足がようやく自由になって、僕はその場に膝を落とし、両腕を地面に着けた。蚊に刺された痒みは、いつのまにかずっと軽減していた。
 すぐに家に戻りたい僕は、疲れた体に鞭打つように立ち上がり、膝の砂を払った。お母さんの一人が縄の切れ端を回収していた。お母さんや女の子たちが事の意外な成り行きをじっと見守っている。雪ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。素っ裸でいることが今更ながら恥ずかしくなった僕は、自由になった手でおちんちんを隠した。
「ごめんね。すぐに迎えに行くつもりだったんだけど、S子が眠いからちょっとだけ休みたいって言うから、夜中だし人も来ないだろうと思って、私も五分だけ横になるつもりだったの。それなのに、気づいたら朝の七時半を過ぎているから、もうびっくり。慌てて飛び出して来たんだけど」
「服は?」
「ごめん。忘れた」
 くるりと向きを変えて公園から出て行こうとするY美の後ろに僕も続いた。
「ちょっと待ちなさいよ、あんたたち。外したブランコを元通りにしなさい」
 後ろでリーダーが怒鳴った。Y美は振り返り、ブランコを外したのは、みなみ川教信者の老人たちだと伝えた。「みなみ川教の信者」が効いたのか、「それなら別に行って構いません」と、リーダーはそれ以上追及しなかった。
 足の裏の砂地がコンクリートに、そしてアスファルトに変わった。表の通りは、真夜中とは全く異なる様相を呈している。そういえばいつだったか、おば様がぼやいていた。田舎の農村地帯なのに、町への抜け道として最近車の通行量が増えたらしい。日曜だから路上に通勤通学の群れは見当たらなかったものの、それでもたちどころに二十人は数えられる。僕はおちんちんを隠した体をわななかせながら、Y美を見上げ、助けを求めた。
「行くしかないでしょ。ためらっている時間が長いほど、通りの通行量は増えるよ」
 もうY美の考えは決まっていて、僕の力では変えることは無理なようだ。Y美が通りに出て、道路脇の歩道を小走りで進む。僕も思い切ってY美の後を追う。素足なので走ると痛いが、全裸でいることの恥ずかしさに比べれば、物の数ではない。
 両手でおちんちんを隠して前屈みに走る僕の全身に、ちらちらと視線のヤリが突き刺さる。「何やってんだ」と言うおじさんの声、「やだ、変態かしら」と言う女の人の声、その他何かぼそぼそ呟くいろんな人の声が耳に入ってくる。僕はY美の大きな背中を唯一の盾として、懸命に追いすがった。と、いきなりY美が立ち止まるので、ぶつかって、すでにじりじりと初夏の日差しが照りつける朝の歩道にお尻をペタンと落としてしまった。
「やばいよ。シラトリがいる。なんであいつが」
 信号のない交差点の手前でY美が前方に見たのは、シラトリという今年の春に僕たちの中学に赴任したばかりの音楽の先生だった。学校出たての新米教師とのことだったけど、ヒステリックに怒鳴り、体罰も辞さないので、生徒に恐れられていた。Y美は、音楽の教科書を忘れたばかりに、授業が終わるまで教室の後ろに立たされたことがある。教科書を忘れた生徒は他にも三人いたのだが、Y美だけが素直に謝らず、忘れた理由も言わなかったための罰だった。その日の晩、Y美は、僕が家で唯一身にまとうことが許されているパンツすらも脱ぐように命じると、そのことを蒸し返しながら、「忘れた理由なんかある訳ないじゃん、バーカ」と、シラトリ先生本人に対するように僕のおちんちんを蹴り、面と向かって言えない悔しみをぶつけるのだった。
 そのシラトリ先生本人がジャージのズボンに半袖の白いシャツを着て、こちらに向かって歩いている。
「やだな、もう。悪いけど、少し遠回りするよ」
 Y美は僕の手首を取ると、交差点を右に曲がって走り出した。橋を渡る。と、パタパタと追いかける足音がした。
 Y美は舌打ちすると、僕を前に回して、先を走らせた。方向は指示するから、とにかく走れと言う。後ろから迫るシラトリ先生に裸の僕を気づかれてはいけない。Y美の高い背丈で隠さなくてはならない。
「待ちなさい。あなた、Y美さんでしょ。待ちなさい」
 黄色い声で呼びとめるシラトリ先生を無視して、僕たちは走った。
 交差点を右に曲がったのはいいけど、そこにもリアカーを引いているおじさんとか農作業姿のおばさんがいっぱいいて、立ち止まってポカンとした顔で素っ裸の僕を見ている。走る振動でくるくる回るように動くおちんちんを指して、ぷっと吹き出しているおばさんがいた。逃げる僕たちを追って、シラトリ先生がぐんぐん近づいてくる。
 左に曲がれとY美の指示が飛んだ。砂利道の遊歩道に入った。丈高い草が道の両側に生えていて、くねくね曲がった一本道がずっと奥まで続いている。素足なので舗装された道のようには走れない。僕の速度がぐっと遅くなった。と、Y美は僕の両肩をぐっと掴んで、雑草の中に押し込んだ。何か言おうとする僕を睨みつけて黙らせると、Y美は道の真ん中で立ち止まり大きく背伸びをした。
 草が密集する中に押し込まれた僕は、文字通り足の踏み場もなく、何本かの草を踏み倒して体勢を整えた。背中や胸にも細くて長く伸びた草が倒れかかる。踏み倒した草の束が足の位置をわずかにずらした途端、バサッと立ち上がり、股間を打った。

 追いかけてきたシラトリ先生は、遊歩道の真ん中で立ち止まっていたY美を捕まえ、「裸の子がいたけど、あれは何なの?」と、問い詰めるのだった。Y美の答えが要領を得ないので苛々したシラトリ先生が怒声を発した。Y美の反抗的な態度は、いつか音楽の教科書を忘れて授業の最後まで立たされた時と同じだった。シラトリ先生は自分と同じくらいの背丈のY美を鬼の形相で睨みつけていた。しばらくY美も負けじと睨み返していたが、とうとう視線を横に外して、丈高い草の密集地帯に生まれたままの姿で身を縮ませている僕に出てくるように目で合図をした。
 Y美が向ける視線の方向へシラトリ先生が首を曲げる。草の中に挟まれている中腰の僕を見つけて、半分口を開きかけたシラトリ先生は、声を出すよりも先に手を伸ばし、僕の腕を引っ張り、前のめりになった僕の首を背後から掴んだ。
 有無を言わせぬ力で僕はY美の隣りに立たされた。これまでシラトリ先生は、きちんと制服を着て真面目に授業に取り組む僕を叱ったことがなかった。でも今は、あきれ果てたというより、心底失望したという気色で大きく溜め息をつく。先生は、目の前に全裸でいるのがほんとに僕なのか、歩道をこの格好で歩いていたのがほんとに僕なのか確認するように僕の顔を覗き込み、それが間違いなく僕であることを認めると、もう一度大きく溜め息をついた。僕は、先生に対して、かねがね香水の香をほのかに放つ大人の女の人のイメージを抱いていた。その先生の前で素っ裸のまま立たされていることが堪らなく恥ずかしく、両手でしっかりおちんちんを隠し、先生と目が合わないように地面を向いて、身を硬直させていた。
「ちゃんと答えなさい。なんでこの子はフルチンなの?」
 返事のしようによっては平手打ちが容赦なく飛んでくる気配を漂わせてシラトリ先生がY美に尋ねる。普段から強気の姿勢を崩さないY美も答えに窮していた。自分が裸に剥いて連れ回したなんてことが知れたら、大きな問題に発展しかねない。
 もしかしたらこれはチャンスかもしれない。僕がY美の家で理不尽な性的いじめに遭っていることを知らせ、学校とか教育委員会とか、そういう外部の団体に助けを求める又とない機会ではないか。一瞬、そんな考えが心に浮かんだ。だが、この田舎の狭い社会で、おば様が地元の有力者たちとつながっていることを僕は知ってる。僕の訴えなど揉み消すのは造作もないだろう。下手をすると自分だけでなく、おば様の肝入りで職を与えられている母にまで被害が及ぶ。借金返済のため会社の独身寮に住み込みで働いている母が仕事を失えば、僕の家族は莫大な借金だけを残して、離散することになる。
「でも、先生、この子が丸裸なのは、私がいじめたからじゃないんです」
「それだったらなおのこと、きっちり説明しなさいよ。なんでフルチンなの、この子は?」
 口を尖らせてシラトリ先生は僕の方へ顎をしゃくった。僕に直接尋ねず、あくまでもY美の口から聞き出すつもりらしい。外で糸くず一つ身にまとっていないのは動物と同じだから、動物には話し掛けても無駄と思っているのかもしれない。
「それがこの子、朝の散歩で川沿いの道を歩いていたら、突然泳ぐとか言い出したんです。私が水着もないのにって言うと、別にいらないって暑いからとにかく泳ぎたいって。それで私が止めるのも聞かず、服を脱ぎ始めて、もうびっくりなんですけど、普通中学生にもなったらこういう真似はしないんですけど、この子、まだ毛も生えていないし、小さい子と同じだから、丸裸になっても社会的に許されるかなと思って、私この子がパンツまで脱いで川に入るのを認めることにしたんです。ほんとは見ているこっちの方がずっと恥ずかしいんですけど」
「ふうん、それで?」
「そしたらやっぱり罰が当たったのかな。流れの速いに入って、流されちゃったんです。なんとか助けて岸に上げて、元の場所に戻ったんですけど、そしたら今度はびっくり、なんと服がなくなってる」
「全部?」
「はい、脱いだ物全部。靴まで見当たらない。盗まれたみたいです。それから小学生の男の子たちに見つかって、全身におしっこをかけられたんですよ、可哀そうに。で、私が付き添って家に帰るところだったんです」
 口から出任せに創作話を繰り広げるY美の声が悪魔の笑いになって、頭の中に響き渡る。シラトリ先生は、僕の体に顔を近づけ、鼻を鳴らした。
「ほんとだ。ナオス君、臭い。おしっこを浴びせられたのね。それにしてもナオス君、その姿勢は何? 先生の話を聞く時は、気をつけの姿勢って校則にもあるでしょ。Y美さんは、ちゃんと気をつけの姿勢でいるでしょ。あなたも手を体の側面に当てて、しっかり伸ばしなさい。ほら、いつまで手を前に当てているのよ」
「先生、許してください」
「駄目。気をつけ」
「だって僕、その、は、裸だし・・・」
「そんなの関係ありません。あなたが勝手に脱いだんでしょ。早く気をつけ」
「いやです。許してください」
「気をつけ、気をつけ、気をつけ」
 僕の耳たぶを引っ張り上げて、鼓膜に直接怒鳴りつける。生徒を一瞬にして「やばい、本気だ」と怖がらせる、シラトリ先生独特の叱り方だった。僕は体を震わせながら、おちんちんを隠していた手を恐る恐る横に移動させ、気をつけの姿勢を取った。すでに高くのぼった午前の太陽がおちんちんを白い光線で包み込む。
 すでにたくさんの人に見られたおちんちんとはいえ、知っている人、しかも学校の先生に見られるのは、切ない。あろうことかシラトリ先生は、しゃがんで、おちんちんにじっと視線を向けるのだった。
「こんな小さいの、隠したって仕方ないでしょ」
 思わず僕が身をよじって抵抗したのは、シラトリ先生がおちんちんを摘み上げたからだった。裏側まで覗き込んで、おちんちんの袋をぎゅっと掴む。ツーンと走る痛みのあまり気をつけの姿勢を崩した僕を、シラトリ先生は激しく叱りつけた。

 初夏の日差しが細長くくねった砂利道の上に照り、真夏のような暑さを生み出していた。シラトリ先生、僕、Y美の順に歩いている。シラトリ先生は、来た方向とは反対の、更に奥へ向かって歩き出した。しばらく進むと、右側に大きな池が出現した。
 風がなく、池は濁ったまま、どんよりと淀んでいた。水面に藻が死んだようにたくさん浮いている。池の水は茶色で、真ん中の辺りが太陽光を受けて白く反射していた。誰も泳ごうとしない、汚れた池なのは一目瞭然だった。それなのにシラトリ先生は、僕にこの池に入って、体を洗うように命じるのだった。
 ためらっているうちに背中を押され、池に片足を突っ込んでしまった。底は泥で、ずぶずぶと素足が沈んでゆく。膝まで泥に漬かった僕は、シラトリ先生から草の陰に木製の小さな舟が浮いているから、ここまで押して来るように命じられた。
 ぬるい水をじゃぶじゃぶ弾きながら、舟を運ぶと、シラトリ先生はY美を誘って、舟に乗り込むのだった。そして、岬のように突き出た草に覆われた陸地を指し、その反対側の岸まで舟を押すように言いつける。

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3 コメント

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Unknown (Gio)
2008-10-02 20:51:37
更新嬉しいです。無理はせずに自分のペースで書いて欲しいです。あと居候の期間は3ヶ月でしたがこの話の時点でどのくらい過ぎたのでしょうか?
返信する
Unknown (Unknown)
2008-10-13 16:48:39
次の展開が気になるw
返信する
まだまだ (naosu)
2008-10-28 11:12:52
Gio様
今の時点でまだ一か月も経っていないですね。三週間くらいです。もうすぐ夏休みに入ります。
なかなか進まないです。
返信する

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