畑の土の上に、僕は全裸のまま正座させられている。
昨夜までの雨を含んで、土が柔らかい。足の裏が真っ黒に汚れていることを後ろのフェンスに寄りかかっているおば様が指摘して、くすくす笑った。東の上空から照りつける光が粘々として頭や胸、腹部をなぶり、今日一日の真夏日の暑さを予告していた。
ヘルパーのIさんは僕に正座をさせると、肩から腕にかけてのところと、乳首の辺り、脇腹などが紫に変色しているのを時折指で押しながら確かめ、ふんふんと一人で頷きながら背後に回った。「背中が一番ひどく打たれたのかもしれない。継ぎ接ぎのように痣がいっぱいある。私は紀州の実家を思い出す。酔った父が障子を破り、私と弟は白い紙がなかったから別の色の紙で継ぎ接ぎをさせられた。この子の背中は忌々しい」
正面の農道には、立ち止まってこちらを見ている四人の女子高生がいた。話し声はするものの、とても聞き取れないほどの距離があった。僕は顔をあげることができず、ずっと俯いていた。おちんちんは閉じ合わせた太ももの下に隠している。
「ずいぶん打たれたみたいだから、精液の検査をする必要がある。あの子たちにも手伝ってもらう」
すでにおば様の許可は得たと言って、Iさんは向こうの女子高生へ顎をしゃくり、大きく腕を振った。しかし、女子高生たちは身を寄せ合ったまま、動こうとしない。しばらく間を置いてから、Iさんが両手を口に当てて、ハムスターが激怒した時のような大きな声を出した。すると、四人の中で一番小柄な子が精一杯の大きな声で答えた。
「私たち、行けません」
「怖くないよ。面白いから来て」
「畑の中に入ると、靴が汚れちゃうから」
なんだそういうことか、とIさんは呟いて、僕の肩を叩いた。あの女子高生たちのとこまで僕を歩かせようとするのだった。僕は首を横に振った。と、いきなり平手打ちを一発、頬に食らわせる。それでも立ち上がろうとしない僕の顎を手で押し上げ、ぴかぴかの靴を履いた女子高生たちの方へ顔を向けさせる。黒い鳥が四羽、旋回しているのが見えた。獲物を狙っている、と思った。
「あなたは、みなみ川教に預けられたのに、私の指示に対して拒否の態度を示した。それはそれでよい。あなたにはその自由があるから。同時に私にも自由がある。それは、あなたの小さな自我感情に囚われた自由意志を飲み込む、より大きな自由。大きく、清浄なみなみ川が雨粒を飲み込んで、なお蕩蕩と流れるような、自由。あなたは、みなみ川に落ちた一滴の雨粒。おのれを知りなさい」
二発目の平手打ちが僕の頬を鳴らした。黒い鳥が旋回しながら、ゆっくりと下りてくる。あの女子高生たちは、もしかすると偶然通りかかったのではないかもしれない。通学の途中なら、いつまでも立ち止まっている筈がない。表の道も朝の通学時間帯のピークを過ぎて、通勤の人影がまばらに通るだけとなった。黒い鳥が頭上の近くを旋回している。後ろでおば様の声がした。
「いらっしゃい。お待ちしてましたわ」
ひらりと地上に降り立った黒い鳥が土を踏む乾いた靴音を立てて、僕の前に集まった。四人の老人だった。いずれもみなみ川教信者の家で僕に恥辱の思いを味わわせた、忘れることのできない顔だった。ごま塩頭の老人がIさんに「これを運べばいいのかな」と言った。Iさんが「はい」と答える。
「またすっぽんぽんにさせられているんじゃな。これも修行と思って諦めよ。恥ずかしくても我慢するんだ。いいな」
脇の下に腕を差し入れて強引に僕を立たせると、ごま塩頭の老人が耳元で囁いた。四人の老人が僕の腕と両足をそれぞれ一本ずつ持つ。素っ裸の僕は仰向けの姿勢で老人たちに担ぎ上げられた。
「では、Iさん。私、そろそろ仕事に行くから。あとはよろしくお願いしますよ」
僕はおば様の方へ首を曲げた。庭のフェンスに置いた手を離して、背中を向けるところだった。僕は大の字に広げられた姿のまま、大きな声を出した。
「待ってください。おば様、行かないで。僕を置いていかないでください」
「あらあら」おば様は苦笑して、再び向き直った。
「困ったことを言うのね。おちんちんに毛が生えていないからって、いつまでも子どもみたいな振る舞いが許される訳じゃないのよ。私は仕事があるし、休めないの。いい子だからIさんの言うことをよく聞いて、おとなしく精液の検査を受けなさい。夜にはちゃんと帰ってくるから」
それだけ言うと、叫び続ける僕を無視しておば様は立ち去るのだった。老人たちがお御輿のように僕を運び始めた。あの女子高生のところまで僕の仰向けの体を大の字に広げて、ゆっくり運ぶ。
「やめてください。下ろして。いやです。許して。いやだ、いやだ」
ごま塩頭の老人をはじめとする四人の老人にがっしりと掴まれた手足は、全く自由がきかなかった。大きく広げられた股を前にして運ばれる僕は、腰を左右に捻って、女子高生たちにおちんちんを見られる恥ずかしさから少しでも逃れようとした。もはや距離は、彼女たちのくすくす笑う声や交わす会話がはっきり聞き取れるほどまでになった。
「この子、小学何年生ですか」
四人の女子高生の中で一番小柄な人がIさんに尋ねた。
「小学四年生」
「小さすぎますよ。こんなかわいいおちんちんじゃ、私たちの研究の対象にならない」
「間違いました。この子は中学一年生です」
「嘘でしょ。私の妹と同じじゃん。でも、これじゃまだ精液出ないでしょ」
「だから、それをあなたたちに試してもらいたいのです」
Iさんが微笑んだ。老人たちは農道のアスファルトの上に僕を下ろして、立たせた。二人の老人が両腕を掴んでいる。僕が足をもじもじさせているので、ごま塩頭の老人が素足を踏みつけ、お尻を拳で殴った。観念しておとなしくしていろ、と一喝浴びせるのだった。僕は痛みと悔しさから、涙を流してうなだれた。
「なんか、この子、可哀想。泣いてるよ。しかも、体じゅう痣だらけじゃない」
小柄な、といっても僕よりは10cm近く高いが四人の中では一番背が低い女子高生が僕の胸のあたりを撫でて、哀れむような目をした。この人のショートカットの髪型やくりくりとよく動く大きな目は、メライちゃんによく似ている。メライちゃんが高校生になったら、こんな感じだろう。僕としては、白日の農道で一糸まとわぬ裸をさらしているのが、よけいに悲しく思われてくるのだった。
「すごいよ。お尻なんか、真っ赤に腫れあがってるよ」
小太りの女子高生が後ろに回って、驚きの声を上げた。痩せて背の高い女子高生がおちんちんを指で摘まんで、そこにも変色した部分があるのを発見した。
「ずいぶん激しく叩かれたみたいですね。リンチですか」
ひとしきり観察した眼鏡の女子高生がIさんに話し掛けた。
「家庭内の出来事だから、事情はよく分からないけど、折檻を受けました」
知っていることならなんでも話す勢いでIさんが返答する。
「この人は、なんで裸にされているのですか。私たちの興味は男性の性器にあって、ズボンから出してもらえればそれで足りるのです。このように完全に生まれたままの姿にならなくても、構わないのですが」
「折檻を受ける時に裸にされて、ずっとそのままなんだと思います」
制服に白い大きなリボンが付いていることから、この女子高生たちは市内唯一の私立の女子高の生徒と知られた。進学組と普通組の二つに分かれていて、両者には偏差値50以上の開きがあるという。彼女たちがどちらに属しているのかは、分からない。
メライちゃんに似た女子高生が僕の前に立って、ぽきぽきと指の関節を鳴らした。
「じゃ、そろそろ始めさせてもらうね」
その指がおちんちんに触れた。身悶えする僕を両腕をがっしり掴んでいる左右の老人が諌める。怒りを孕んだ目つきで僕を睨みつけるのだった。ごま塩頭の老人がメライちゃん似の女子高生の後ろに立って、彼女のぎこちない手の動きを見ていた。
「やりにくそうだのう」
「だって、こんな小さいおちんちんは初めてだもん。皮かぶってるし。ねえねえIさん、これじゃ最初の話と違うんじゃないの。私たちは、もっと大きなのが欲しかったのに」
口を尖らせて、不満の捌け口をごま塩頭の老人からIさんに向ける。Iさんは小太りの女子高生と会話をしていて聞いていなかった。痩せて背の高い女子高生に言われて初めて気づいたIさんは、「別に大きなおちんちんとは言ってない。一口におちんちんたって、いろいろあるんですよ」と、つっけんどんに答えるのだった。
「つまんない。こんなの」
不満を聞き入れてもらえないメライちゃん似の女子高生は、しごくのをやめて、皮を引っ張り始めた。
「おもしろい。結構伸びるんだね」
「ほんとだ。私もやってみよ」
小太りの女子高生が反対方向に引っ張る。
「やめて、痛い、痛い、やめて」
千切れるような痛みが走った。僕は泣き声を上げながらIさんに救いを求めた。Iさんはしばらく黙って見ていたが、やっと口をひらいてくれた。
「あなたたちには、この子から精液を出してもらいたかったんだけど、無理そうですね」
「精液なんか、出ないよ」
皮を引っ張って遊んでいるメライちゃん似の女子高生が吐き捨てるように言った。
「もし出たらどうするの」
「どうもしません。私たちは見るだけですから」眼鏡の女子高生が分厚いレンズの奥の目を輝かせた。
Iさんとごま塩頭の老人が相談していた。眉毛の濃い老人が僕の前に立った。この人が僕から精液を出す役割を引き受けたようだった。二人の老人に代わって、痩せて背の高い女子高生が僕の腕を掴むことになった。彼女は、片腕だけを背中に回して曲げると、「動かないでね。下手に動くと折れるから。あんたみたいなおちびちゃんの腕をへし折るなんて、すごく簡単なんだから」と脅して、ぐいと上方に引っ張った。思わず爪先立ちになって、苦痛に耐える。その不自由な姿勢のまま、眉毛の濃い老人におちんちんをしごかれるのだった。その動きは機械的だった。おば様のような緩急のリズムがなく、ひたすら一定の速度で往復運動を続ける。
四人の女子高生と四人の老人、それにIさんと、全部で9人の人がいる。僕はしごかれて朦朧とする頭の中で、この人たちの前で射精させられるのだろうと思った。どんなに感じまいとしても、無駄だ。眉毛の濃い老人の手の運動によって、だんだん気持ちよくなってくる。見られたくないし、見世物になる恥ずかしさに全身を火照らすのは、勘弁してほしかった。でも、もう逃れられない。この人たちの見ている前で、僕は絶頂を迎えることになるのだろう。そうでなければIさんは納得しない。なにしろIさんは、検査が目的で僕から精液を採取するのだと言っていたのだから。
ほどなく快感の波がせり上がってきて、爪先立ちの足を震わせた。
「行きそうな時は、ちゃんと言うのですよ。黙って行ったら…」
思案顔のIさんに、痩せて背の高い女子高生が僕の後ろから、「腕をへし折る」と合いの手を入れて、腕を少しだけ捻り上げた。
「痛い。行きそうです。ああ」
爪先で体重を支えている僕は、苦痛と快感の波に一挙にさらされて、喘いだ。大きく膨らんだおちんちんから、白い液体が飛び出し、弧を描く。
射精後もしばらくは腕を放してくれなかった。僕は爪先立ちの苦しい姿勢のまま、数歩前進させられた。もう少しで精液を踏むところだった。痩せて背の高い女子高生がやっと腕を解放してくれた。僕は捻り上げられた腕で小さくなったおちんちんを隠し、もう片方の手でその腕をさすった。
小太りの女子高生と眼鏡の女子高生が腰を落として、アスファルトに落ちた精液をじっと見ていた。その後ろから痩せて背の高い女子高生が覗く。メライちゃん似の女子高生だけが精液には目もくれず、全裸の僕を睨むのだった。
「小さくても出るものは出るんだね。なんか、急に忌々しくなってきたよ。やっぱりこの手のおちんちんは、射精させるよりも皮を引っ張って遊ぶほうが、私は好き」
「でも、それじゃあ私たちの研究にならないよ」
眼鏡の女子高生が生真面目な眼差しで言うと、メライ似の女子高生はきゅっと下唇を噛んだなり、黙ってしまうのだった。
「ごめんなさい。私としたことが」
満面に笑みを浮かべてIさんがみんなに聞こえるように言った。
「肝心な精液を取るのを忘れていました」
プラスチックの容器を僕に見せて、Iさんが声を上げて笑う。日差しが強くなってきた。農作業の人、会社勤めの人たちが僕たちのそばを足早に通った。9人もの人たちに囲まれて、痣だらけの素っ裸のまま震えながら立っている僕を不思議そうに見て過ぎるのだった。
「悪いんだけど、もう一度、射精してくれるかしら」
わっと女子高生たちの間で歓声が起こった。痩せて背の高い女子高生が僕の背後に回って、今度は反対の腕を捻り上げるのだった。
「痛い。折れちゃう。やめてください」
「おちんちんから手をどけなさい」
「折れちゃう。やめて」
「早くどけなさい」
その手を腰に当てると、僕は丸出しのまま、メライちゃん似の女子高生の前に押し出された。もう皮を引っ張って遊ぶのはやめて、ちゃんとしごいて射精させるように小太りの女子高生に言われた彼女は、ためらっていたが、どんと背中を叩かれ、深呼吸してからおちんちんに指を絡ませた。
「小さくてやりにくくても、そのうち大きくなりますから」
暑い日差しの中、ソフト帽を被ったIさんは涼しげな顔でアドバイスをする。老人たちも首に巻いたタオルでしきりに汗を拭っていた。小太りの女子高生が、暑いから早く終りにして木陰で休みたいと言った。他の女子高生もうんうんと頷き、無言の内にメライちゃん似の女子高生を急かした。彼女は上気した顔で必死におちんちんをしごいている。性的な関心よりも、僕から精液を出さないと逆に彼女自身がいじめに遭う恐れから、行為に没頭しているようだった。彼女の鼻の頭に汗の粒が光っていた。
「大きくなってきたね」
「もう少しだよ。かんばって」
仲間の声援を受けて、メライちゃん似の女子高生は、手で拭った汗を僕のお腹やお尻になすりつけながら、汗ばんだ指を小刻みに動かしている。眉毛の濃い老人が彼女の指の動かし方を誉めた。快感が不意にせり上がってきた。
おちんちんの袋の下あたりにぴんと張った快感の糸があり、まずこの糸の張りを身に感じると、だんだんこれが上昇してくる。充分に引っ張られた糸が体を通過する。思わず身を反らして、この通過する時間を永遠にとどめようとする。快感の糸が乳首のあたりまで上昇すると、スイッチが入り、おちんちんの末端神経が一挙に倍増する。その末端神経の一つ一つが、外へ出ようとする精液に抗する一大勢力となって、これに立ち向かう。しかし、押し流されるのは時間の問題だ。
「だめ。行きそうです」
採取するなら早くしてくれ。そんな気持ちでIさんの名を呼ぶ。返事がない。老人たちが口々にIさんIさんと叫ぶ。あろうことか、Iさんは農道の先の通りにぶつかるT字路で、立ち話をしているのだった。
「まだ行ってはいけないぞ」
末端神経を総動員して精液の流れに抗している僕に向かってごま塩頭の老人がそう命じると、Iさんに向かってプラスチックの容器を投げるように言うのだった。
三人の老人が走って中継に入る。おば様が空中に放り投げた容器を眉毛の濃い老人がジャンプして受け取り、すかさずもう一人の老人にパスする。受け取った老人が投げた容器は、あやまたずごま塩頭の老人の手の中にすっぽりと収まった。
「行きそうです。もう我慢できない」
後ろ手に腕を捻じ曲げられながら、僕は叫んだ。メライちゃん似の女子高生は、我を忘れたかのように、黙々としごき続けている。
「メライちゃん」
「誰よ、メライちゃんて」
思わず洩らしてしまった一言に女子高生たちが笑う。間一髪。ごま塩頭の老人が容器の蓋をあけるのに多少手間取ったが、それでもなんとか間に合った。容器をおちんちんの先に当てるのがあと少し遅れたら、僕は三度目の射精を強制されていたことだろう。
精液の採取に成功したヘルパーのIさんの後ろを、僕は素っ裸のまま歩かされていた。おちんちんに手を当てて、俯いて歩く。アスファルトが足の裏に熱かった。畑をよぎって庭から戻ればよいのに、Iさんはそれはおば様の許可がないとできないと言って、農道から通りに出て、表の門から家に行こうとしているのだった。
学校にも行かず、一糸まとわぬ裸体をお日様のもとに晒して歩いている僕を人々が見てIさんに話し掛けた。Iさんが一言二言返すと、みな納得して、薄笑いを浮かべるのだった。軽トラックが後ろから通り抜けて行く。素っ裸で歩いている僕を認めて、クラクションを鳴らした。Iさんが振り返って、微笑む。黒い鳥が四羽、頭上を越えて南の空へ飛んで行った。
ようやく家の門まで着いた。庭のトイレ小屋の前でIさんが、一日この中で待っているように言うのだった。戸をあけると、和式便器が真ん中にあって、残りの狭いスペースに洗面器と小さな水瓶、おにぎりを載せた小皿があった。
Y美が帰るまで、しばらくこのトイレの中で過ごすのか。僕は観念して中に入った。
「元気でいてください。また会いましょう」
南京錠を閉めて、Iさんが去ってゆく。僕は便器の陶器に背中を当てて、痛む体を横たえた。長い一日になりそうだと思った。
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昨夜までの雨を含んで、土が柔らかい。足の裏が真っ黒に汚れていることを後ろのフェンスに寄りかかっているおば様が指摘して、くすくす笑った。東の上空から照りつける光が粘々として頭や胸、腹部をなぶり、今日一日の真夏日の暑さを予告していた。
ヘルパーのIさんは僕に正座をさせると、肩から腕にかけてのところと、乳首の辺り、脇腹などが紫に変色しているのを時折指で押しながら確かめ、ふんふんと一人で頷きながら背後に回った。「背中が一番ひどく打たれたのかもしれない。継ぎ接ぎのように痣がいっぱいある。私は紀州の実家を思い出す。酔った父が障子を破り、私と弟は白い紙がなかったから別の色の紙で継ぎ接ぎをさせられた。この子の背中は忌々しい」
正面の農道には、立ち止まってこちらを見ている四人の女子高生がいた。話し声はするものの、とても聞き取れないほどの距離があった。僕は顔をあげることができず、ずっと俯いていた。おちんちんは閉じ合わせた太ももの下に隠している。
「ずいぶん打たれたみたいだから、精液の検査をする必要がある。あの子たちにも手伝ってもらう」
すでにおば様の許可は得たと言って、Iさんは向こうの女子高生へ顎をしゃくり、大きく腕を振った。しかし、女子高生たちは身を寄せ合ったまま、動こうとしない。しばらく間を置いてから、Iさんが両手を口に当てて、ハムスターが激怒した時のような大きな声を出した。すると、四人の中で一番小柄な子が精一杯の大きな声で答えた。
「私たち、行けません」
「怖くないよ。面白いから来て」
「畑の中に入ると、靴が汚れちゃうから」
なんだそういうことか、とIさんは呟いて、僕の肩を叩いた。あの女子高生たちのとこまで僕を歩かせようとするのだった。僕は首を横に振った。と、いきなり平手打ちを一発、頬に食らわせる。それでも立ち上がろうとしない僕の顎を手で押し上げ、ぴかぴかの靴を履いた女子高生たちの方へ顔を向けさせる。黒い鳥が四羽、旋回しているのが見えた。獲物を狙っている、と思った。
「あなたは、みなみ川教に預けられたのに、私の指示に対して拒否の態度を示した。それはそれでよい。あなたにはその自由があるから。同時に私にも自由がある。それは、あなたの小さな自我感情に囚われた自由意志を飲み込む、より大きな自由。大きく、清浄なみなみ川が雨粒を飲み込んで、なお蕩蕩と流れるような、自由。あなたは、みなみ川に落ちた一滴の雨粒。おのれを知りなさい」
二発目の平手打ちが僕の頬を鳴らした。黒い鳥が旋回しながら、ゆっくりと下りてくる。あの女子高生たちは、もしかすると偶然通りかかったのではないかもしれない。通学の途中なら、いつまでも立ち止まっている筈がない。表の道も朝の通学時間帯のピークを過ぎて、通勤の人影がまばらに通るだけとなった。黒い鳥が頭上の近くを旋回している。後ろでおば様の声がした。
「いらっしゃい。お待ちしてましたわ」
ひらりと地上に降り立った黒い鳥が土を踏む乾いた靴音を立てて、僕の前に集まった。四人の老人だった。いずれもみなみ川教信者の家で僕に恥辱の思いを味わわせた、忘れることのできない顔だった。ごま塩頭の老人がIさんに「これを運べばいいのかな」と言った。Iさんが「はい」と答える。
「またすっぽんぽんにさせられているんじゃな。これも修行と思って諦めよ。恥ずかしくても我慢するんだ。いいな」
脇の下に腕を差し入れて強引に僕を立たせると、ごま塩頭の老人が耳元で囁いた。四人の老人が僕の腕と両足をそれぞれ一本ずつ持つ。素っ裸の僕は仰向けの姿勢で老人たちに担ぎ上げられた。
「では、Iさん。私、そろそろ仕事に行くから。あとはよろしくお願いしますよ」
僕はおば様の方へ首を曲げた。庭のフェンスに置いた手を離して、背中を向けるところだった。僕は大の字に広げられた姿のまま、大きな声を出した。
「待ってください。おば様、行かないで。僕を置いていかないでください」
「あらあら」おば様は苦笑して、再び向き直った。
「困ったことを言うのね。おちんちんに毛が生えていないからって、いつまでも子どもみたいな振る舞いが許される訳じゃないのよ。私は仕事があるし、休めないの。いい子だからIさんの言うことをよく聞いて、おとなしく精液の検査を受けなさい。夜にはちゃんと帰ってくるから」
それだけ言うと、叫び続ける僕を無視しておば様は立ち去るのだった。老人たちがお御輿のように僕を運び始めた。あの女子高生のところまで僕の仰向けの体を大の字に広げて、ゆっくり運ぶ。
「やめてください。下ろして。いやです。許して。いやだ、いやだ」
ごま塩頭の老人をはじめとする四人の老人にがっしりと掴まれた手足は、全く自由がきかなかった。大きく広げられた股を前にして運ばれる僕は、腰を左右に捻って、女子高生たちにおちんちんを見られる恥ずかしさから少しでも逃れようとした。もはや距離は、彼女たちのくすくす笑う声や交わす会話がはっきり聞き取れるほどまでになった。
「この子、小学何年生ですか」
四人の女子高生の中で一番小柄な人がIさんに尋ねた。
「小学四年生」
「小さすぎますよ。こんなかわいいおちんちんじゃ、私たちの研究の対象にならない」
「間違いました。この子は中学一年生です」
「嘘でしょ。私の妹と同じじゃん。でも、これじゃまだ精液出ないでしょ」
「だから、それをあなたたちに試してもらいたいのです」
Iさんが微笑んだ。老人たちは農道のアスファルトの上に僕を下ろして、立たせた。二人の老人が両腕を掴んでいる。僕が足をもじもじさせているので、ごま塩頭の老人が素足を踏みつけ、お尻を拳で殴った。観念しておとなしくしていろ、と一喝浴びせるのだった。僕は痛みと悔しさから、涙を流してうなだれた。
「なんか、この子、可哀想。泣いてるよ。しかも、体じゅう痣だらけじゃない」
小柄な、といっても僕よりは10cm近く高いが四人の中では一番背が低い女子高生が僕の胸のあたりを撫でて、哀れむような目をした。この人のショートカットの髪型やくりくりとよく動く大きな目は、メライちゃんによく似ている。メライちゃんが高校生になったら、こんな感じだろう。僕としては、白日の農道で一糸まとわぬ裸をさらしているのが、よけいに悲しく思われてくるのだった。
「すごいよ。お尻なんか、真っ赤に腫れあがってるよ」
小太りの女子高生が後ろに回って、驚きの声を上げた。痩せて背の高い女子高生がおちんちんを指で摘まんで、そこにも変色した部分があるのを発見した。
「ずいぶん激しく叩かれたみたいですね。リンチですか」
ひとしきり観察した眼鏡の女子高生がIさんに話し掛けた。
「家庭内の出来事だから、事情はよく分からないけど、折檻を受けました」
知っていることならなんでも話す勢いでIさんが返答する。
「この人は、なんで裸にされているのですか。私たちの興味は男性の性器にあって、ズボンから出してもらえればそれで足りるのです。このように完全に生まれたままの姿にならなくても、構わないのですが」
「折檻を受ける時に裸にされて、ずっとそのままなんだと思います」
制服に白い大きなリボンが付いていることから、この女子高生たちは市内唯一の私立の女子高の生徒と知られた。進学組と普通組の二つに分かれていて、両者には偏差値50以上の開きがあるという。彼女たちがどちらに属しているのかは、分からない。
メライちゃんに似た女子高生が僕の前に立って、ぽきぽきと指の関節を鳴らした。
「じゃ、そろそろ始めさせてもらうね」
その指がおちんちんに触れた。身悶えする僕を両腕をがっしり掴んでいる左右の老人が諌める。怒りを孕んだ目つきで僕を睨みつけるのだった。ごま塩頭の老人がメライちゃん似の女子高生の後ろに立って、彼女のぎこちない手の動きを見ていた。
「やりにくそうだのう」
「だって、こんな小さいおちんちんは初めてだもん。皮かぶってるし。ねえねえIさん、これじゃ最初の話と違うんじゃないの。私たちは、もっと大きなのが欲しかったのに」
口を尖らせて、不満の捌け口をごま塩頭の老人からIさんに向ける。Iさんは小太りの女子高生と会話をしていて聞いていなかった。痩せて背の高い女子高生に言われて初めて気づいたIさんは、「別に大きなおちんちんとは言ってない。一口におちんちんたって、いろいろあるんですよ」と、つっけんどんに答えるのだった。
「つまんない。こんなの」
不満を聞き入れてもらえないメライちゃん似の女子高生は、しごくのをやめて、皮を引っ張り始めた。
「おもしろい。結構伸びるんだね」
「ほんとだ。私もやってみよ」
小太りの女子高生が反対方向に引っ張る。
「やめて、痛い、痛い、やめて」
千切れるような痛みが走った。僕は泣き声を上げながらIさんに救いを求めた。Iさんはしばらく黙って見ていたが、やっと口をひらいてくれた。
「あなたたちには、この子から精液を出してもらいたかったんだけど、無理そうですね」
「精液なんか、出ないよ」
皮を引っ張って遊んでいるメライちゃん似の女子高生が吐き捨てるように言った。
「もし出たらどうするの」
「どうもしません。私たちは見るだけですから」眼鏡の女子高生が分厚いレンズの奥の目を輝かせた。
Iさんとごま塩頭の老人が相談していた。眉毛の濃い老人が僕の前に立った。この人が僕から精液を出す役割を引き受けたようだった。二人の老人に代わって、痩せて背の高い女子高生が僕の腕を掴むことになった。彼女は、片腕だけを背中に回して曲げると、「動かないでね。下手に動くと折れるから。あんたみたいなおちびちゃんの腕をへし折るなんて、すごく簡単なんだから」と脅して、ぐいと上方に引っ張った。思わず爪先立ちになって、苦痛に耐える。その不自由な姿勢のまま、眉毛の濃い老人におちんちんをしごかれるのだった。その動きは機械的だった。おば様のような緩急のリズムがなく、ひたすら一定の速度で往復運動を続ける。
四人の女子高生と四人の老人、それにIさんと、全部で9人の人がいる。僕はしごかれて朦朧とする頭の中で、この人たちの前で射精させられるのだろうと思った。どんなに感じまいとしても、無駄だ。眉毛の濃い老人の手の運動によって、だんだん気持ちよくなってくる。見られたくないし、見世物になる恥ずかしさに全身を火照らすのは、勘弁してほしかった。でも、もう逃れられない。この人たちの見ている前で、僕は絶頂を迎えることになるのだろう。そうでなければIさんは納得しない。なにしろIさんは、検査が目的で僕から精液を採取するのだと言っていたのだから。
ほどなく快感の波がせり上がってきて、爪先立ちの足を震わせた。
「行きそうな時は、ちゃんと言うのですよ。黙って行ったら…」
思案顔のIさんに、痩せて背の高い女子高生が僕の後ろから、「腕をへし折る」と合いの手を入れて、腕を少しだけ捻り上げた。
「痛い。行きそうです。ああ」
爪先で体重を支えている僕は、苦痛と快感の波に一挙にさらされて、喘いだ。大きく膨らんだおちんちんから、白い液体が飛び出し、弧を描く。
射精後もしばらくは腕を放してくれなかった。僕は爪先立ちの苦しい姿勢のまま、数歩前進させられた。もう少しで精液を踏むところだった。痩せて背の高い女子高生がやっと腕を解放してくれた。僕は捻り上げられた腕で小さくなったおちんちんを隠し、もう片方の手でその腕をさすった。
小太りの女子高生と眼鏡の女子高生が腰を落として、アスファルトに落ちた精液をじっと見ていた。その後ろから痩せて背の高い女子高生が覗く。メライちゃん似の女子高生だけが精液には目もくれず、全裸の僕を睨むのだった。
「小さくても出るものは出るんだね。なんか、急に忌々しくなってきたよ。やっぱりこの手のおちんちんは、射精させるよりも皮を引っ張って遊ぶほうが、私は好き」
「でも、それじゃあ私たちの研究にならないよ」
眼鏡の女子高生が生真面目な眼差しで言うと、メライ似の女子高生はきゅっと下唇を噛んだなり、黙ってしまうのだった。
「ごめんなさい。私としたことが」
満面に笑みを浮かべてIさんがみんなに聞こえるように言った。
「肝心な精液を取るのを忘れていました」
プラスチックの容器を僕に見せて、Iさんが声を上げて笑う。日差しが強くなってきた。農作業の人、会社勤めの人たちが僕たちのそばを足早に通った。9人もの人たちに囲まれて、痣だらけの素っ裸のまま震えながら立っている僕を不思議そうに見て過ぎるのだった。
「悪いんだけど、もう一度、射精してくれるかしら」
わっと女子高生たちの間で歓声が起こった。痩せて背の高い女子高生が僕の背後に回って、今度は反対の腕を捻り上げるのだった。
「痛い。折れちゃう。やめてください」
「おちんちんから手をどけなさい」
「折れちゃう。やめて」
「早くどけなさい」
その手を腰に当てると、僕は丸出しのまま、メライちゃん似の女子高生の前に押し出された。もう皮を引っ張って遊ぶのはやめて、ちゃんとしごいて射精させるように小太りの女子高生に言われた彼女は、ためらっていたが、どんと背中を叩かれ、深呼吸してからおちんちんに指を絡ませた。
「小さくてやりにくくても、そのうち大きくなりますから」
暑い日差しの中、ソフト帽を被ったIさんは涼しげな顔でアドバイスをする。老人たちも首に巻いたタオルでしきりに汗を拭っていた。小太りの女子高生が、暑いから早く終りにして木陰で休みたいと言った。他の女子高生もうんうんと頷き、無言の内にメライちゃん似の女子高生を急かした。彼女は上気した顔で必死におちんちんをしごいている。性的な関心よりも、僕から精液を出さないと逆に彼女自身がいじめに遭う恐れから、行為に没頭しているようだった。彼女の鼻の頭に汗の粒が光っていた。
「大きくなってきたね」
「もう少しだよ。かんばって」
仲間の声援を受けて、メライちゃん似の女子高生は、手で拭った汗を僕のお腹やお尻になすりつけながら、汗ばんだ指を小刻みに動かしている。眉毛の濃い老人が彼女の指の動かし方を誉めた。快感が不意にせり上がってきた。
おちんちんの袋の下あたりにぴんと張った快感の糸があり、まずこの糸の張りを身に感じると、だんだんこれが上昇してくる。充分に引っ張られた糸が体を通過する。思わず身を反らして、この通過する時間を永遠にとどめようとする。快感の糸が乳首のあたりまで上昇すると、スイッチが入り、おちんちんの末端神経が一挙に倍増する。その末端神経の一つ一つが、外へ出ようとする精液に抗する一大勢力となって、これに立ち向かう。しかし、押し流されるのは時間の問題だ。
「だめ。行きそうです」
採取するなら早くしてくれ。そんな気持ちでIさんの名を呼ぶ。返事がない。老人たちが口々にIさんIさんと叫ぶ。あろうことか、Iさんは農道の先の通りにぶつかるT字路で、立ち話をしているのだった。
「まだ行ってはいけないぞ」
末端神経を総動員して精液の流れに抗している僕に向かってごま塩頭の老人がそう命じると、Iさんに向かってプラスチックの容器を投げるように言うのだった。
三人の老人が走って中継に入る。おば様が空中に放り投げた容器を眉毛の濃い老人がジャンプして受け取り、すかさずもう一人の老人にパスする。受け取った老人が投げた容器は、あやまたずごま塩頭の老人の手の中にすっぽりと収まった。
「行きそうです。もう我慢できない」
後ろ手に腕を捻じ曲げられながら、僕は叫んだ。メライちゃん似の女子高生は、我を忘れたかのように、黙々としごき続けている。
「メライちゃん」
「誰よ、メライちゃんて」
思わず洩らしてしまった一言に女子高生たちが笑う。間一髪。ごま塩頭の老人が容器の蓋をあけるのに多少手間取ったが、それでもなんとか間に合った。容器をおちんちんの先に当てるのがあと少し遅れたら、僕は三度目の射精を強制されていたことだろう。
精液の採取に成功したヘルパーのIさんの後ろを、僕は素っ裸のまま歩かされていた。おちんちんに手を当てて、俯いて歩く。アスファルトが足の裏に熱かった。畑をよぎって庭から戻ればよいのに、Iさんはそれはおば様の許可がないとできないと言って、農道から通りに出て、表の門から家に行こうとしているのだった。
学校にも行かず、一糸まとわぬ裸体をお日様のもとに晒して歩いている僕を人々が見てIさんに話し掛けた。Iさんが一言二言返すと、みな納得して、薄笑いを浮かべるのだった。軽トラックが後ろから通り抜けて行く。素っ裸で歩いている僕を認めて、クラクションを鳴らした。Iさんが振り返って、微笑む。黒い鳥が四羽、頭上を越えて南の空へ飛んで行った。
ようやく家の門まで着いた。庭のトイレ小屋の前でIさんが、一日この中で待っているように言うのだった。戸をあけると、和式便器が真ん中にあって、残りの狭いスペースに洗面器と小さな水瓶、おにぎりを載せた小皿があった。
Y美が帰るまで、しばらくこのトイレの中で過ごすのか。僕は観念して中に入った。
「元気でいてください。また会いましょう」
南京錠を閉めて、Iさんが去ってゆく。僕は便器の陶器に背中を当てて、痛む体を横たえた。長い一日になりそうだと思った。
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