居間のフローリングに正座し、ガラス戸へ首を回すと、そこに相変わらず一糸まとわぬ姿の僕が移っていた。
ガラス越しには、雨上がりの草木が生き生きと輝いているように見えた。僕は命じられた仕事、古雑誌の十文字縛りを終えたところだった。おば様のご用済みとなった沢山の雑誌、地域情報誌や流行雑誌などを積んだ束が五つほど、居間と玄関をつなぐドアの近くに並べてある。
「なんで浮かない顔してんのよ。もうすぐ服が着れるのにさ」
Y美が僕のおでこをツンと突いて、冷やかした。午前十時に鷺丸君の家に集合し、マジックショーの練習をすることになっていた。もちろんメライちゃんも来る。Y美から許可が下りて、僕は衣服を身に着けられることになった。実に一週間ぶりだった。
でも、まだ服はお預け。僕はガラス戸の近くに立ち、手を頭の後ろで組み、胸をやや反らすポーズを強要された。素っ裸でポーズを取る僕の体の各部をY美とおば様が点検するように眺め、触る。体の成長具合を確かめるのが目的らしい。
特に念を入れてチェックされたのはおちんちんとその周りだった。毛が生えてくる感じはしないのかとおば様に聞かれて、いいえと答える。脇の下のツルツルした部分にY美が鼻を近づけ、石鹸の香りがすると言った。
お尻をがっしりと掴まれ、揉まれる。おば様の手だった。Y美のそれよりも温かくてたくましい。お尻の弾力が一段とよくなったようね、と感心している。
「ほんとに私と同い年なの?」と、Y美がおちんちんの皮を摘まみ、上下左右に揺すりながら質問した。「こんなにちっちゃいんですけど」
「まだ小学三年生くらいかもね、おちんちんを見る限りはね」
口ごもる僕に代わっておば様が答え、あんまり乱暴に扱っては駄目よ、とY美をやんわりとたしなめる。Y美はおちんちんの皮をそっと剥き、また被せた。
敏感な部分をいじられても同じポーズを保たなければならない。肉体チェックは乳首にまで及んだ。いじくり回される。感じやすいのね、子供のくせに、とおば様が小さく笑った。Y美は電話応答中だった。おば様の性的ないたずらは続いた。
直接おちんちんを扱かれてしまったら、どうにもならない。電話を終えたY美が戻ってきて、「何やっちゃってんの、お前」と呆れる。完全に硬くなったおちんちんがツンと上向きになっていた。
「ま、そう責めないのよ。見られているうちに興奮しちゃったみたいなんだから」
嘘、おば様が手でこすって刺激を与えたからなのに。でも、この真実は口に出せない。射精寸前で止められて悶える僕に、おば様が鋭い一瞥を投げかけた。
「ヘー、見られただけで興奮するんだ。バッカみたい」
硬くなったおちんちんを上から指で押して、放す。ピンとばねのようにおちんちんが跳ね起きる。Y美はフンと顔を背けて「シャワー浴びてくる」と言って立ち去った。僕の頭の後ろで組んだ腕も、足もぶるぶる震えて、切なかった。
夏休みに入ってY美の背は伸び、体の曲線がいっそう丸みを帯びてきて、ウエストの締まり具合を際立たせるようになった。服の上からでもそれがはっきり感じられ、いつも裸で性的な刺激を一方的に受ける僕には、ひどく眩しかった。服の下は覗いたことがないので想像するしかないけれど、恐らくおば様も同年代と比べて成熟度の著しく進行した娘の肉体に軽い驚きを覚えたことと思われる。その反動か、成長の遅い、身長が四月の測定時と変わらない僕は、Y美だけでなくおば様からも嘲りの対象になった。
「だいたい食事の量からしてY美とは違うわね」と、おば様は人差し指で僕の背骨をなぞりながら切り出した。「今朝だって小さな丸パン一つしか食べないでしょ」
もっと食べたいのに、いつもわずかな量しか食べさせてくれないのはおば様ではないか。それなのに、まるで僕が欲していないかのような物言い。これには胸を塞がれるような悲しみに襲われ、泣きそうになった。どうせ反論したところで生意気だと叱られるだけだろう。悔しさに涙を滲ませ、「食べようと思えばもう少し食べられるんですが」と、控え目に抗議するのが精一杯だった。
「何言ってるのよ、あなたは」と、呆れるおば様は、僕がこの家に住まわせてもらうようになって間もない頃の話をした。夕食をほとんど食べられなかった僕はこんなに食べられません、もっと少なくていいです、とベソをかきながら申し出たというのだった。
確かにそんなことを言った覚えはある。でも、その時は家の中では洋服を脱ぎ、パンツ一枚しか身に着けてはならないという約束事を言いつけられたばかりだったし、Y美やおば様に素っ裸を見られ、おちんちんをいじられたショックが生々しく残っていたから、食事もろくに喉を通らなかった。
あの時以来、僕に提供される食事の量はめっきり少くなった。性的な苛めにより自尊心を傷つけられて食が細くなってしまうということはあるけれども、体が慣れてくると、時に足りないと思うこともある。そう訴えると、おば様はうるさそうに顔をしかめた。
「あんた一体どういうつもり。タダで生活させてもらってるんでしょ。感謝されこそすれ、食事が少ないなどと文句を言われるとはね。恩を仇で返された気分だよ。まさか、あんたがそんな風に思ってたとはね」
怒りモードになったおば様は怖い。いきなり手の甲で頬をぶたれた。後ろへよろめき、倒れそうになるところを更に一発、今度は別の手の甲が反対の頬を直撃した。
フローリングに倒れた僕の股間におば様の手が伸び、おちんちんをぎゅっと引っ張った。まるでIさんのようなやり方で僕を立たせる。
「私ね、実は男って大嫌いなのよ」そう言うと、おば様はおちんちんを袋ごと手のひらに包み込み、ぎゅっと握り締めた。激痛、内臓を素手でいじられるような痛みに呻き声が漏れる。おば様がおちんちんを持ち上げた。つま先立ちになって悶える僕の顔を見下ろすおば様の冷たい目は、Y美にそっくりだった。
「自分の産んだ子が女で良かったと思ってるわ。男が嫌いで、許せないの。ねえ、このおちんちん切ってしまいなさいよ。あんたが女の子になるんだったら、もう少し食事のことも考えてあげていいわよ。ねえ、おちんちん切ってしまいなさいよ」
真顔で問う。どんな考えなのか、判断できない。とにかく、おちんちんの袋を握り締められている苦悶から解放されるためなら大抵のことは承知するはずなのに、今回の問いかけはその大抵の中に含まれていないようだった。おば様は本気でおちんちんを切り落とそうとしている。
うぐぐ、うぐぐ、と悶える僕は、握り締められたおちんちんを更に引き上げられたため、足の親指でなんとか体重を支えた。おば様の肩を掴む手に力が入らず、ついに滑り落ちてしまった。
「このおちんちん、もうたくさんの女の子たち見られちゃったのよね。でも、あんたは彼女たちの裸を見たことあるの? ないわよね。いつも一方的に裸を見られ、おちんちんを弄ばれて、挙げ句には何度も射精させられてきたのよ。はっきり言ってもう男としてはおしまいでしょ。根元からバッサリ切ったほうがよくない?」
ぎゅっと力が込められる。おちんちんの袋の中の玉が完全に逃げ場を失ったようだった。直接、玉に力が加わっているようなジンジンと響いてくる痛みに僕はもう、ただ「許して、許してください」と泣き叫ぶばかり。
何事かと風呂場から駆け込んできたY美は、なんとバスタオルを一枚体に巻いただけの格好だった。これまで見た中で肌の露出度が一番高い。しなやかな肢体がガラス戸の光を受けて、眩しかった。
「ちょっと、何やってるのよ、お母さん」
左手から右手に持ち替えたおば様によって一段と引き上げられ、足が床から離れてしまった。再び両手でおば様の肩を掴んでバランスを取る。
「Y美、はしたない。早く着替えてきなさい」
鋭い一声が響いた瞬間、おば様の手がおちんちんから離れた。僕はおば様の体にすがるようにしてずるずると床に滑り落ちた。Y美の水滴を拭き取ったばかりのような白い脛と裸足がこちらに来る。きれいに揃えた膝が曲がり、「お母さん、怒らせたんだね」と僕の泣き濡れた顔を覗き込んだ。
バスタオルを巻いた胸元の膨らみがシャツを着ている時よりもはっきりしていて、何かこれまでのY美とは違うような雰囲気だった。首から肩にかけてのつるつるした感じは、手で触れてその肌触りを直接確かめたい欲望を起こさせるものだけれど、もちろん僕はそんな不作法はしない。それよりもおちんちんの袋がおば様の手から逃れた今も激しく痛み、Y美の問いかけにもしっかり応答できなかった。
「ちょっと手ェ、どかしてみ」と、僕の股を割るようにして体を入れ、そっと当てている僕の手を横へずらす。おちんちんを摘まんで下腹部へ移動させると、おちんちんの袋を広げるようにしてから、目を近づける。
「早く着替えてきなさい、Y美」
「ちょっと待ってよ。なんか少し赤みがかってるよ。お母さん、これやばくない?」
二人の女の人の手がおちんちんの袋をいじり、じっくりと調べる。その際、上へ動いたY美の手がおちんちんに当たって、本人はそのつもりはないのかもしれないが、根元から先端にかけて振動を与える。
おちんちんの痛みはまだズキズキと続いていたけれど、ふと下半身の方へ目を転じると、バスタオルを巻いただけのY美が僕のおちんちんに顔を被せるような、挑発的な姿勢を取っているのが見えた。バスタオルと胸元の隙間に広がる濃い闇の世界。闇からうっすらと白い桃のようなものが浮かんできた。
「Y美、何度も言わせないで。早く着替えてきなさい。なんです、その格好は。この子、しっかり反応してるじゃないの」
気づいたらおちんちんが起っていた。Y美が慌てておちんちんに当たっていた手をどかせた。「なんだ、ほんとにお前って奴はさあ」とY美は腰を上げると、溜め息をついた。「どうしてこんなに変態なの。金玉痛めつけられた状態でも私の体、エッチな目で見てる余裕はあるんだね。許せないよ、これって」
いきなり鋭い痛みが今度は硬くなったおちんちんに走った。ビシッと鋭い音がしておちんちんが下腹部に当たった。裸足の足の甲が弧を描き、振り下ろされたのだ。仰向けの僕は、タオルの下から入ってきた光のおかげで太腿の奥まで見えたかのように思った。その瞬間だった。新たな激痛でのたうち回る羽目になり、Y美の内股の奥は再び神秘のヴェールに包まれてしまった。
「心配して損した」
そう言い捨てると、Y美は二階の自分の部屋へ駆け足で戻っていった。
熱を帯びたおちんちんは冷やした方がよいというおば様のアドバイスにより、僕は強制的に水風呂に入れられた。シャンプーを頭から流す時だけお湯の使用が認められ、体の石鹸を洗い落すのも全部普通の水だった。
冷たい水に肩まで浸かっても、浴室から出ると徐々に体温で体が熱を帯びる。脱衣所で一通り体を拭き終えた僕はタオルを所定の位置に戻し、素っ裸のまま廊下へ出た。人の気配がない廊下を静々と進む。玄関には僕の服が用意されているはずだった。
果たして、籠の中には待望の衣類があった。やっと服をまとうことができる。
服を着ようとするまさにその直前にストップが掛けられるなんてこともないとは限らない。Y美やおば様の気が変わらないうちにさっさと着込んでしまおうと思った僕は、よほど慌てていたのだろう、パンツに穴、おしっこの時におちんちんを出すあの穴がないことにすぐに気づかず、しっかり腰まで引き上げたあとに「あれ?」と思ったのだった。色はブリーフと同じ白ながら足を出す穴の縁には小さなフリルのようなものが付いている。掴んだ時、何か軽いなとは思った。まさか女性用のショーツだったとは。
急いで籠の中の衣類を確かめると、僕のシャツやズボンは入ってなかった。代わりにタンクトップとスカートがあった。与えられた衣類を身に着けるしかない僕は、恐る恐るタンクトップに手を伸ばし、これを被った。肩に掛けるストラップが背中で十字に交差し、女の人らしいお洒落な感じがした。このストラップは優美な曲線を持つ胸元から伸びるような作りで、僕に胸の膨らみが全くないせいか、普通の丸首のシャツと比べると、随分と涼しい感じがする。
次はスカートだった。丈が驚くほど短い。太腿の半分までしか届かなかった。腰に巻いてフックで留める。下から外の空気が直接入ってくる。これではあまり足を広げられないなと思った。
「あら、かわいいじゃない」
居間から出てきたおば様が後ろ手でドアを閉めながら、嬉しそうに目を細めた。
「とってもよく似合ってるわよ」
褒められて、なんと答えていいか分からず、もじもじしてしまう。二階から下りてきたY美も「女の子みたいだよ」と、感心して腕を組んだ。
スカートを捲りなさい、とY美が命じる。僕はスカートの端を持って、ゆっくり上げた。恥ずかしくて、顔がポッと熱くなる。
「あ、ちゃんと女の子のパンツ、穿いてるね」とY美が確かめた。「おちんちんがちっちゃいよね。女の子用のパンツでも、ほとんど形が浮かび出てないよ」と笑う。
「だからこそ女の子の服が似合うんでしょう」
そう言うと、おば様は僕の背中に手を回し、ストラップのねじれを直してくれた。
どうしたんですか、この服、と質問した僕の顔に喜色めいたものが浮かんでいたのだろうか、おば様に苦笑されてしまった。大勢の女子に囲まれておちんちんをいじられるのとは別種の、自分の心がめくられたような恥ずかしさを覚えて、質問に答えてくれるおば様の声が途中からしか入ってこなかった。それによると、タンクトップとスカートは、Y美が小学三年生の時に知り合いから譲り受けたものらしい。
「やっぱり私には似合わないよ。だいたいこのスカート、短すぎるし」
これらの衣装を身に着けた僕をまじまじと見て、Y美は、サイズはぴったりだったにもかかわらず一度も着用することなく箪笥の奥に仕舞い込んだ当時の自分の判断が正しかったことを改めて確信したようだった。
「このショーツ、まだ新しいみたいだけど、これは」と、おば様は無造作に僕のスカートの襞をつまんで引っ張り上げ、首を傾けた。「もしかしてY美、あんたの?」
「まさか、私のじゃないよ。私はこんなの穿かない」
確かにそうだった。これはY美の持っているパンツではない。Y美がどんなパンツを好むのか、昨日偶然知ってしまった僕は黙って顔を伏せた。
「ねえ、私のはこんなんじゃないよね」
いきなりドンと肩を押された。昨日のお仕置きがフラッシュバックし、緊張と恐怖で口をパクパクさせる僕を見て、すごんだY美の顔が見る見るうちに崩れた。「おもしろいわあ、こいつ。すぐ怖がるんだからさあ」と、朗らかな笑い声を立てる。結局、どこで入手したのかは明かしてくれなかった。
「まあとにかく、晴れてお洋服を着ることができて、良かったねえ。でもね、お前は男の子なんだからね。恥ずかしいおちんちんの付いた男の子。くれぐれも女子のつもりにならないでね。そこんとこ、勘違いしないように」
玄関の外へ僕を押し出すと、Y美はさっさとドアを閉めた。と、すぐに「ちょっと待ちなさい」と呼び止める声とともにドアが開いて、おば様が出てきた。
「あのね、あなた、今日の予定分かってるの」と、問い質す。
鷺丸君の家でマジックショーの練習をし、終わったら、その足で町役場に行き、夏祭りのイベント実行委員会の面接を受ける。イベントに出演する人たちは全員、委員会の面接を受ける決まりになっていた。指定の時間までに到着していないと出演が認められなくなる。絶対に遅刻しないように、とおば様が念押しする。
「二時よ、二時に集合だからね。くれぐれも遅刻しないように、あなたからも鷺丸君にしっかり伝えるのよ」
分かりました、と頭を下げた僕は、おば様に見送られて鉄扉の外へ出た。女の子の服という恥ずかしさはあるけれど、今まで散々素っ裸で道路を歩かされてきたのだ。それを思えば、全く比較にならない。
夏の強い日差しの中、塀の陰や木陰の道を選んで歩く。走ったあとだから、よけいに暑さがこたえる。公園に立ち寄って蛇口を捻り、冷たい水で顔や首筋を濡らした。
タンクトップとミニスカートは風通しがよくて涼しいのだけれど、やはり丈の短いスカートは、なんとなくソワソワした気分にさせられる。
どうして僕に女の子の格好をさせたのだろう。よく分からなかった。服だけでなく、揃えてくれた靴まで女子用だった。
靴といっても、学校用の使い古したような上履きで、先端のピンク色が女子用であることを示している。男子用と女子用を分けるのは、ただそのゴム製の上履きに入っているラインの色でしかないけれど、ピンク色の上履きはやはり女の子のものという気がして、タンクトップやミニスカートと同じように、僕が今女子の身なりをしていることを意識させるものだった。
それにしてもこの上履き、僕の足に合うことからして、Y美の物でないことは確かだった。それともずっと昔にY美が履いていたものだろうか。いや、Y美だったら使用済みのものはさっさと捨てるだろう。どんな女子の足が嵌っていたのだろうと思いつつ、裸足で直に足を入れている。全体的に汚れていて、だいぶ使い込んだ上履きだった。どこかで拾ってきたものかもしれない。あれこれ考えて歩いているうちに、鷺丸君の家の六角形のアトリエの屋根が見えてきた。
チャイムを鳴らす。鷺丸君のお母さんとお姉さんが笑顔で迎えてくれた。二人とも、僕の姿を見るなり目を丸くした。
「どうしたのよ、その格好は」
「今日はこれ着なさいって、言われて」
「まあ、あなた、女の子みたいじゃないの。その格好でここまで来たの?」
「すごいな、変な人みたいだよ。途中で誰にも見られなかった?」
変な人。言葉に詰まった僕をお姉さんが怪訝な顔で見た。確かに男子なのに女子の格好して、わざわざピンク色の学校用上履きまで履いているのだから、変な人に違いない。でも、これまでは最低限の衣服すら与えられず、全裸裸足で時には後ろ手に縛られ、おちんちんをロープでつながれたりした状態で歩かされていたのだから、僕としては、完全にではないにしても、少しは普通の域に近づいたかなと思っていたところだった。そこへ来ていきなり「変な人」と笑われたのだから、バシッと心をぶたれた気がした。
「ええと、まあ、大丈夫でした」
途中、顔見知りの小学生たちに囲まれたけれど、スカートをめくられただけで済んだ。裸の時とは違い、靴を履いているから、隙かあれば逃げ出せるのだった。
農家のおばさんやおじさんたちにも小突かれた。「あれやだ、いつも裸んぼでうろうろしてるボクちゃんじゃないの」「珍しく服着てるわ」「何だお前、女の子の格好してさ」と、後ろからスカートをめくられ、危うくスカートが取れてしまうところだった。女の子用のパンツを見たおじさんたちが笑い転げる中、走って逃げた。
すれ違う人たちからは、奇異な目でじろじろと見られた。僕のことを性的な倒錯者と見て、嫌悪感も露わに顔を背け、小走りに過ぎる人もいた。
「でも良かったじゃない、お洋服が着れて」と、お姉さんは屈託のない笑顔を見せた。「いつも裸だったもんね。裸のまま引き回されてた時は可哀想な男の子だったけど、今は普通に女の子の服を着てて、単に変な人だよ」
庭を通ってアトリエに向かうお姉さんがちらとこちらを振り向いて、笑った。前回はアトリエに入る前に洋服を脱がされた。池の近くにある屋根付きのベンチのところでパンツ一枚にさせられたのだけれど、今、お姉さんはベンチを素通りした。せっかく僕が女子の格好をしているのだから、鷺丸君やメライちゃんにも見せようとお姉さんは恥ずかしがる僕の腕を取って、アトリエに引き入れた。
ぽかんとした一呼吸分の間を置いて、くすくすと笑い声が起こった。
「なんだ、お前かよ。どこの女子が来たのかと思ったよ」
このやろ、と鷺丸君が僕を殴る真似をする。
少しはにかむようにして笑っているメライちゃんは、すでにスクール水着姿だ。鷺丸君の背中に隠れるような位置にいるけれど、その手が素早く肩紐の捩れを直すのを僕は見過ごさなかった。
濃密だったアトリエ内の空気がお姉さんと僕の侵入によって、急速に薄められたようだった。それを恨めしく思うのか、上目遣いで僕を見るメライちゃんの瞳がしっとりと潤んでいる。鷺丸君は白けた空気を補おうとするかのように、変に力のこもった笑いを引き伸ばした。Y美の画策とはいえ、メライちゃんは鷺丸君と付き合っている。この事実がチクリと僕の胸を刺す痛みは、ある程度の日数が経過した今でも、減じない。
冷房のガンガン効いているアトリエは、服を着ていても涼し過ぎるくらいだった。暑がりの鷺丸君に合わせた設定なのだろうけれど、ここで裸にならなければならない僕のことは、全く考慮されていない。
「じゃ、とりあえずお洋服脱ぎましょうか」
お姉さんはそう言うと、僕のタンクトップの裾を摘まんで引っ張り上げ、抜き取った。スカートのホックもいつのまにか外され、ストンと足元に落ちた。アトリエに上がる前にゴム靴を脱いだから、僕はいとも簡単に裸足でパンツ一枚という、マジックショーに出演する時の格好になってしまった。
「あらら、何かな、そのパンツは」
最初に気づいたのはお姉さんだった。
「これ、女の人用のパンツじゃないの。ショーツでしょ?」
非難するような目で僕を見る。お姉さんの感覚では、女子用のタンクトップ、スカートまではご愛敬で済むけれど、下着まで女子用を身に着けるとなると、これは冗談のレベルを超えるらしい。背筋がゾゾーだわ、と憎々しげに口をゆがめて、
「なんでこんなのまで穿いてるのよ。しっかり答えてね」と、攻撃の手を緩めない。
「ごめんなさい」
ごめんなさいじゃなくてさあ、とお姉さんは僕の伏せた顔に指を差し入れ、顎の下に当てると、一本の指の力で僕を上向かせた。
「あんたさ、ほんとは自分が好きで女性用のパンツを穿いてるんじゃないの。自分の変態性欲を満足させるために」
「違います」
拳を握って、強めに言った途端、目から涙がこぼれそうになった。百歩譲ってそうだとしても、なぜよりにもよってパンツ一枚の裸にならなければならないマジックショーの練習でそれを穿こうとするだろうか。しかもそこにはメライちゃんもいるというのに。Y美とおば様が出してくれた衣類はこれしかなかったのだから、僕に選択の余地はなかった。これも自分が世話になっている家で決められたことなのだと、そう説明しても、誰も納得した風には見えなかった。
メライちゃんの強張った、青白い顔は、痛々しかった。心の苦痛に懸命に耐えながら、辛い現実から目を背けない強い意志を持って、じっとショーツ一枚の恥ずかしい姿で抗弁する僕を見つめている。僕は不意に、もう駄目だ、メライちゃんにはなんと言い訳しても信じてもらえないだろう、という絶望感に襲われた。最後の力を振り絞るようにして、自分から穿いた訳ではないこと、強制されて仕方なく身に着けたことを訴える。
「ねえ、ナオス君」と、これまで黙っていたメライちゃんが僕に一歩詰め寄った。「そのパンツ、誰のものなの」
「知らない。Y美さんが出してくれたから」
「Y美さん? 自分が持ってたんじゃないの」更に一歩、僕に近づく。
「まさか。僕は持ってないよ、こんなの」
「こんなのとは何よ。随分失礼じゃないの」
メライちゃんは、お互いの体がくっ付いてしまいそうなくらい、うんと僕との距離を縮めてから、語気を強めた。ショーツを穿いていたことが余程気に入らなかったのだろうか。その剣幕に圧倒されて、「ごめん。そんなつもりじゃなくて」としか返せない。
「どうしたの、このショーツに何かあるの?」と、お姉さんが割って入った。この場にいる誰もが思ったであろう質問だった。メライちゃんはお姉さんのところへ行き、背伸びをしてお姉さんの耳に口を寄せた。ほんとなの、とお姉さんが真顔でたずねると、こくりと頷く。
「ナオス君、ちょっとそのショーツ、脱ごうか」
え、と思った刹那、僕はお姉さんに腕を背中へ回された。お姉さんのもう片方の手がショーツのゴムにかかる。やめて、いや、何するんですか、と叫び、腰を捻って抵抗する僕に手こずったお姉さんは、「メライちゃん、あなた自分の手で脱がして。自分のかどうか、確かめて」と、声を掛けた。
両手をお姉さんにがっしりと背中で固定されてしまった。お姉さんは指が食い込むほど強く僕の手首を握っている。もう少しで腕が折れてしまいそうな痛みに耐える僕は、動きを封じられた状態で、正面のメライちゃんに許しを乞うのだった。
僕の前に来たメライちゃんはムスッとした顔でしゃがみ込むと、腰を捻るようにして抗う僕をちらと見上げてから、ショーツのゴムに両手を掛けた。
いや、と鋭く叫んだ僕の声がむなしくアトリエに響いた。メライちゃんは黙って僕の足首からショーツを抜き取った。
もう必要ないのに、お姉さんはなかなか手首を放してくれない。おかげで、これ以上晒されたくないおちんちんが、お茶を持って入ってきた鷺丸君のお母さんにまで見られてしまった。素っ裸にされたばかりの僕を見て、鷺丸君のお母さんは、おやおやという顔をした。「可哀想に。パンツいっちょうになるのも恥ずかしいのに。全部脱がす必要があるのかしらね」と、一人でぶつぶつ呟いている。
脱がせたショーツを広げて点検し、内側の小さなタグを見たメライちゃんは、恥ずかしそうに「いや、信じられない」と言って、手で顔を覆った。間違いないのね、とお姉さんが念を押してもメライちゃんは答えず、首を横に振るばかり。
何がなんだか分からないのは鷺丸君と僕だった。
「もう、なんでこう男ってのは鈍感なんだかね」と、お姉さんが溜め息を吐いた。
鷺丸君はともかく、僕には事態を察する余裕なんかなかった。なんといってもまたもやメライちゃんにおちんちんを見られてしまったのだ。散々見られてきたから、それどころかメライちゃんの手で射精、浣腸までさせられたのだから、今更ショーツを脱がされるくらいどうってことないのではないか。そう考えたいところだけれど、やっぱりそれは無理だ。そんな具合に納得できれば悩んだり苦しんだりせずに済むのに、と思う。でも、事実として、どんな考えをしたところで、僕は今のこの理不尽な体験を受け入れることができない。この、僕一人だけが素っ裸を晒しているという今の状況に納得できない。つまり、何度見られようと、いじられようと、裸の姿は見られずに済むのなら見られたくない。
今日はマジックショーの練習だし、素っ裸に剥かれることはないと思っていた。僕が穿いているのはいつもの白のブリーフではなく女子の下着で、これはこれで恥ずかしいけれど、みそぎの生活の時みたいに常に全裸を晒しているよりは全然よいと思っていた。それがどういう理由からか、あっさり脱がされてしまった、しかもメライちゃんの手で。もう何度も見られ、いじられたおちんちんを再び至近距離でしっかり見られる。
当のメライちゃんは、もうすっかりおちんちんに慣れたようだった。ショーツを引き下ろした瞬間も、普通におちんちんを見ていたし、足首から抜き取る時もおちんちんから顔を背けなかった。一番の関心事はおちんちんではなくショーツにある筈なのに、ショーツを確認するよりも先に、なぜか間近にあるおちんちんをじっくり見入るのだった。
ショックと恥ずかしさで打ちひしがれている僕に、追い打ちをかけるような詰問がメライちゃんとお姉さんの口から飛び出した。二人は、このショーツを僕が盗んだのではないか、と疑っているのだった。
どうもこのショーツは、夏休みに入る直前、メライちゃんが学校で盗まれたものらしい。プールでの授業が終わって着替えようとした時、ないことに気づいた。ショーツだけが消えていたという。級友たちには適当に言い繕って更衣室をくまなく探したけれど、見つからない。メライちゃんはショーツなしで昼の休憩をやり過ごし、午後の授業を受けた。
もしもスカートがめくれて下着を穿いていないことがばれたらどうしようと、そればかり気になって、休み時間も自分の席から離れず、静かに過ごしたという。
「正直に言おうね。女子の更衣室に忍び込んでメライちゃんのパンツを盗んだのは、あんたじゃないのかな」
お姉さんはすっかりメライちゃんに同情して、僕に疑いの目を向けている。全く身に覚えがなく、どうして僕に疑いがかかるのかも分からない。確かにショーツを穿いてはいた。しかしこれがメライちゃんのものだなんて知る由もない。僕はただ強制されて身に着けていたに過ぎない。
知らない、の一点ばりでは説得力に欠けるのかもしれないけれど、あらぬ疑いをかけられた僕は頭に血が上ってしまい、身の潔白を証明するいかなる言葉も手繰り寄せることができなかった。
「気をつけ、でしょ。ほら、ちゃんと気をつけの姿勢で正直に答えようよ」
お姉さんはにっこり笑い、おちんちんを隠す僕の手の甲をぴしゃりと叩いた。鷺丸君のお母さんがお盆を抱きしめるようにして、心配そうに見守っている。
なぜ僕がメライちゃんのショーツを盗まなければならないのだろう。何よりも当のメライちゃんに疑われたことが悲しい。
「早く手をどかして、気をつけ。ね、金玉潰されたい?」
「やだ。それだけは許して」
僕はしゃくりあげながら、おちんちんから手を放し、言われた通り気をつけの姿勢を取った。
「すっごく怖がってるみたいね。このおちんちん」と、鷺丸君のお母さんがしゃがみ込んで、おちんちんに人差し指を向けた。
こんなに怯えているのだから、これ以上追い詰める必要はないということを伝えたかったのだろうと思うけれど、お姉さんは別の意味で受け取ったようだった。「ほんとだ、ちっちゃい。すっごくちっちゃいね」
小指の先っぽを示して無邪気に笑うお姉さんに同意を求められたメライちゃんは、元気のない目をおちんちんに向けた。僕のショーツのゴムを突かんで引きずり下ろした時よりも小さく縮んでいるのを認めたのか、強張った顔が少し緩んだ。
「受けるよ、これ。ほんとにちっちゃい。もうなくなりそうじゃん」と、お姉さんはいかにも愉快でたまらないかのように、おちんちんをピンと指で弾いた。
下着泥棒と疑われ、おちんちんの袋を痛めつけると脅かされたのだから、おちんちんが縮んでしまうのも自然の道理だった。こういう自分の意思ではどうにもならない、生理現象について笑われたり馬鹿にされたりするのもまた辛いことだった。勃起してしまったのを嘲笑されるのと同じだった。
「ちゃんと明かしてくれたら、あんまり痛い目に遭わなくて済むよ。ね、ほんとはナオス君が盗んだんだよね」
「違います」
「だったら教えて。なんでナオス君がメライちゃんの下着を穿いてたのかな」
「だから、さっきから何度も言ってるようにこれは」
「Y美さんの家で命令されて穿いたっていうんでしょ」
しゃくりあげて言葉が詰まった僕に代わって、質問したお姉さんが言葉を継いだ。
「はい」と、答えた僕は、素っ裸のまま気をつけの姿勢を取らされ、全てを晒している僕の体を、鷺丸君が醒めた目で見ていることに気づいた。同性なのに、僕への共感や同情を全く欠いた、軽蔑の視線が僕の頭から爪先までを舐めるように這っている。
恥ずかしい。不意にこの場から立ち去りたくなって、おちんちんや胸に自分の腕を巻きつけてしまう。もうこれ以上全裸姿を見られたくない、隠したいという気持ちから出た振る舞いだった。
「気をつけェー、だよね。何度も言わせないでよね、お願いだから」
ギュッとお姉さんに乳首を捻られる。僕は激痛に悲鳴を上げ、急いで気をつけの姿勢に戻った。
尋問は続いた。このショーツを出したのはY美に間違いないか、と問われ、はいと返事をしたものの、よく考えると、分からなくなってきた。初めから籠の中に入っていたので、Y美が出したところを目撃した訳ではない。
「あんた、さっきはY美さんたちに無理矢理穿かされたって言ったじゃないの。ほんとに命令されて女物のショーツを穿いたの?」
言葉に詰まり、俯いてしまった僕の顎の下にお姉さんは指を入れた。すっと顎を上げさせる。涙が一筋、頬を伝った。着用を許された衣類の入った竹籠の中にショーツが含まれていた。だから穿いた。それだけだった。
「それって要するに、あなたが勝手に籠の中の衣類を身に着けたってことだよね」
お姉さんがまとめる。うんうん、とメライちゃんも、鷺丸君のお母さんも頷いている。鷺丸君はパイプ椅子にだらしなく腰かけて、興味なさそうだった。早くマジックの練習を始めたくて仕方がないように、苛々と組んだ足を揺すった。
「だけど、籠の中の衣類は、着ていいってことになってたんです」
「そこ、あやしいんだよねえ。ナオス君が自分で勝手にそう思ってただけなんじゃないの?」
お姉さんは僕の目とおちんちんを交互に見て、言った。少しでも嘘や隠し事が混じったら、すぐにこれらの器官に現れると信じているようだった。
そんなことないです、と僕が答えた時、誰かがアトリエのドアを叩いた。立て付けの悪いドアの軋む音に続いて、お母さんの「まあ、いらっしゃい」という明るい声が合唱の練習にも使用するアトリエに響いた。ちぇっ来やがった、と舌打ちして、鷺丸君がかったるそうにパイプ椅子から腰を上げ、出迎える。
入ってきたのは、同じクラスの男子3人だった。びっくりした僕は、お姉さんに叱られるのも忘れて、慌てておちんちんに手を当てた。これまで、クラスの女子には何人にも裸を見られてしまったけれど、鷺丸君とみっくん以外の男子にこんな情けない姿を目撃されるのは初めてだった。羞恥で顔が真っ赤に染まってしまった僕に、驚いた男子たちが声を掛けてくる。僕一人だけ素っ裸で立たされているのだから、驚くのも無理はない。
曖昧に、言葉少なにごまかしていると、お姉さんが笑って、説明した。男子たちは「嘘、まじかよ」「下着泥棒はやべえよ」と騒いだ。
男子たちはインターホンを押しても誰もいないからアトリエまで来てみた、と言った。アトリエには基本的に人は入れないんだよ、と苦虫を潰したような顔をする鷺丸君に、レーシングカーの模型を渡し、「貸してくれてありがとな。俺たち、楽しんだから」と礼を述べ、「かっこいいよな、すっげえ速いし」「写真もたくさん撮ったよ。俺も欲しいよ」などと褒めるのだけれど、鷺丸君は全然嬉しそうではなかった。
「あ、メライさんもいる」と、一人がマジックショーの仕掛けボックスの裏に隠れたスクール水着姿のメライちゃんに気づいてしまった。
「こんにちは、メライさん」
「こんにちは」と、メライちゃんは仕方なさそうに皆の前に出てきて、小さく答えた。
「なんで、そんな格好してんの。ナオスは真っ裸だし、何か面白いね」
「こいつに下着盗まれたって、ほんと?」と、一人が素っ裸の身をくねらせている僕の方を顎でしゃくった。
「なんかメライさんの水着、サイズが小さくない? 窮屈そうだけど」
「お前ら、うるさい」と、鷺丸君が一喝した。男子たちはキョトンとして、辺りを見回した。その間抜けな姿を見てクスッと笑ったお母さんは、「ごゆっくり」と一言残して、アトリエから出て行った。
「ナオス君、気をつけだって。すぐに忘れるんだね」
予想していたこととはいえ、お姉さんに叱られた。三人の男子たちが何事かと僕の方を見る。彼らの前で気をつけの姿勢を取るのは非常な抵抗があった。おちんちんが丸出しになってしまう。
「気をつけ。まだ尋問は終わってないんだよ。気をつけが基本でしょ」と、お姉さんは一糸まとわぬ身を朱に染めて強張らせる僕に命じた。「いや、もういいよ。気をつけはしなくていい」と、急に前言撤回したかと思ったら、「手を頭の後ろで組もうか」と、更に過酷な命令を下す。
体が言うことを聞かない。足を開いて、頭の後ろで手を組む、そのポーズを取ることができない。こんな恥ずかしい、屈辱的なポーズを取らなくてはいけない理由はない。ただ、下着泥棒の疑いをかけられている以上、従わなくてはならなかった。お姉さんの気紛れに付き合わされる僕は、たまったものではなかった。それにしても質問を受けるのに、なぜこんな格好でなければならないのか、気をつけだって納得できないのに。
「早くしようよ。それとも、金玉蹴られたいの?」と、お姉さんの口調が厳しくなった。「やべえよ」「痛いよ」と、男子たちが色めき立った。僕は観念した。まるで罪人扱いだ、と思うと、ついしゃくりあげてしまう。
悔しさと羞恥に苛まれた体を意識をして、動かす。頭の後ろで手を組み、足を肩幅よりもやや広く開く。お姉さんが男子たちへ衣類を放った。鳩に餌をやるような仕草だった。「マジかよ、お前」「こんなの着て歩いてきたのかよ」「変態じゃん、変態」と、男子たちは僕がここへ着てきたタンクトップやミニスカートを広げ、自分の体に当てたりして、喜んでいる。
「ねえ、同じ男の子に裸見られるのって、どんな気分」と、お姉さんが僕の首筋にふっと息を吹きかけて小声で訊ねた。「おちんちん、じっくり見られてるんだよ。同じクラスの男の子たちだよね。プライド傷つくでしょ?」
腕や足をぶるぶる震わせて立つ僕は、「もう許してください。ほんとに僕じゃないんです」と答えるのが精一杯だった。「おめえ、こんなチンポちっちゃかったんだ」「女子に見せちゃ駄目だよ、これは」「情けねえなあ、丸裸にされてよ」と男子たちは嘲笑し、呆れた目で僕を見つめる。
スクール水着をまとったメライちゃんは、男子たちの前で開脚させられた。鷺丸君が「こいつ、体柔らかいんだぜ」と、自分の彼女を自慢するのだった。フローリングにぺたりとお尻を着けたメライちゃんはそのまま足を水平に広げ、鷺丸君に押されて上体を前へ倒した。「おお、すごい」「スクール水着がちっちゃいよ」「股が千切れそうじゃん」と喚く男子たちの声がいやでも耳に入ってくる。僕は屈辱のポーズを保った。
「早く白状しちゃいなよ。でないと、いつまでもこんな恥ずかしい格好だよ」
お姉さんは不機嫌そうに呟くと、僕の耳の裏側をペロリと舐めた。背中に胸の膨らみを押しつけてくる。
メライちゃんのむずがる声がした。「メライさん、ホントに柔らかいんだな」「スゲエ」「やわらけえ」と、男子たちが感嘆している。あろうことか、鷺丸君は彼らにメライちゃんの体を触らせているようだった。
「やめて、くすぐったいよ」
半泣きになりながらも、メライちゃんは鷺丸君の命令に従って、されるがままになっている。僕でさえ触れたことのないメライちゃんの胸やお尻をクラスの大してメライちゃんと親しくもない男子たちが触っている。その様子がメライちゃんの悩ましげな声から伝わってくる。鷺丸君が言った。「もう少し水着を引き下ろしてみろよ」
ちゃんと前を見て、動いちゃ駄目でしょ、と叱責するお姉さんを僕は無視した。とてもじっとしていられない。くるりと体を回すと、「いやあー、やめて」と叫ぶメライちゃんに群がる男子たちの襟首を掴みにかかった。彼らを一刻も早くメライちゃんから引き離したかったのだけれど、あっけなく突き飛ばされ、弾みで床に頭を打ちつけてしまった。
「素っ裸のくせに生意気だぞ」「邪魔すんなよな」「メライさんだって喜んでんだよ」と、お楽しみを邪魔立てされた三人の男子たちに罵られ、お尻や背中を蹴られる。メライちゃんは僕が助けに入ったわずかな隙を突いて、マジックで使う仕掛けボックスの中に隠れた。それにしても大人しい、どちらかと言うと目立たない性格だった彼らがここまで乱暴になるとは意外だった。僕を取り囲み肉体を痛めつけたところで、一度火の付いた彼らの性的欲求はどうせ解消できやしないのに。
「動くなって言ったのに、なんで言うこときかないかな」
お姉さんは腕を組んだまま、溜め息をついた。歩み寄ってきたお姉さんに気づいて、男子たちが急いでスペースを空けた。床で海老のように体を折り曲げている僕の情けない泣き顔を見下ろすのに適した位置だった。
薄いピンクのマニュキュアを施した足の指が横に動いたと思ったら、抱き起こされた。男子たちを手伝わせてお姉さんは僕を合唱の練習をする方へ運んだ。照明の届かない奥には黒光りするグランドピアノ、その横には舞台を作る台が積まれてあった。天井近くの窓から射し込む光がこれらの周囲に浮遊する埃の結構な量を明らかにしている。
ハンドルをお姉さんの指示によって男子の一人が回すと、舞台用のカーテンを吊るす棒が下りてきた。
「できればこんな手は使いたくないんだけどね。いつまでも強情張るつもりなら、こっちにも考えはあるからねえ」
僕を下着泥棒の犯人だと思い込んでいるお姉さんは、男子たちに「君たちも手伝ってね」と声を掛けて、左右に広げさせた僕の腕を棒に固定させた。お姉さんにぎゅっとおちんちんの袋を掴まれてしまったので、下手に動けない。手首に細いロープが食い込んで痛いことに気づいたのは、お姉さんの手がおちんちんの袋を離れたあとだった。
大欠伸した鷺丸君がパイプ椅子にどっかと腰を下ろした。素っ裸の僕が四肢を広げた状態で固定されるのを退屈そうに眺めている。お姉さんから鉄製の重い棒を受け取った男子たちは、棒の穴にロープを通して輪っかを作ると、そこに僕の足を嵌めてぎゅっと締めつけた。男子たちは面白半分に僕のおちんちんをいじってふざける。
いやだ、お願いだから許して、と体を大の字で拘束された素っ裸の身を動かせる動かして、訴える。腰をどう捻っても、一糸まとわぬ体のどの個所も隠すことができない。男子たちは僕の肌に日焼けの差がほとんどないことに驚いていた。
ハンドルが回され、棒に括りつけられた僕の体が宙を浮く。両腕を引っ張られて苦悶する僕をよそに、お姉さんと男子たちはおちんちんを下から眺めるのが新鮮で面白いと盛り上がった。鷺丸君が仕掛けボックスにこもったメライちゃんを引っ張り出して、「お前もこいつの裸はくまなく見て知ってるだろうけど、金玉袋とかちんちんとか、こういう角度だとまた違って見えるだろ」と言い、指示棒のような物で下からおちんちんの袋やおちんちんを突いたり揺すったりした。
「さ、みんないることだし、はっきり言ってもらおうかな」
お姉さんは、吊り上げた棒を元の位置に戻すと、腕の痛みから解放されたばかりで荒い呼吸を繰り返す僕に向かって、メライちゃんの下着を盗んだことを認めるよう迫った。「おう、お前ら、いいよ」と鷺丸君が合図を送った。
まるで飼い主の許可を得て犬が餌に食らいつくみたいだった。男子たちは一斉にメライちゃんのスクール水着に包まれた体を揉みしだき始めた。
「ほんとに僕、知らないんです。盗んでません」
四肢をしっかり固定されて、もうさっきみたいにメライちゃんを助けに行くことができない。聞こえてくるのは男子たちの上ずった声ばかりだった。「すっげー」「次、俺の番」「いい、メライさん、いい」と、何本もの手が無言で耐えるメライちゃんのスクール水着の上を這い回っている。
「やめて、メライちゃんの体をこれ以上彼らに触らせないで」
「あんたね、人のことより自分の心配をしなよ。あんたが女の下着に執着する変態だって知ってんだよ。あんたがこっちに向かう途中、Y美さんから電話あってね。あんたきのう、Y美さんの下着を漁ったんだってね。聞いたよ」
そんな、酷いです、と口にするのが精一杯だった。Y美の悪知恵ぶりに胸が潰れそうな不安を覚える。僕に女装させ、メライちゃんのショーツを穿かせただけでは足りず、もっととことん僕が苛められるように仕向けている。
「あんたが犯人だって証拠に、メライちゃんのショーツのにおいを嗅げば、おちんちんが反応するからね」
お姉さんは、僕がここへ来るまで穿いていたショーツをポケットから取り出すと、僕の目の前で広げてみせた。男子の一人が水着を引き下ろしてよいか、鷺丸君に問いかけた。なぜか敬語だった。
「お前らも好きだな。こんなチビ女、どこがいいんだか。勝手にしな」
すすり泣きが聞こえた。メライちゃんだった。やめて、やめて、と繰り返し首を横に振っても男子たちの水着のかかった手は容易には離れない。肩のストラップがずり下げられていく。
「ほら、しっかり嗅ぎなよ。あんたの好きな女物のショーツだよ」
男子たちの背中に隠れて、スクール水着を下げられていくメライちゃんの白い体が首元辺りまでしか見えない。背中と背中の隙間から露出した胸が見えるかと思った瞬間、ショーツに顔を覆われてしまった。触らないで、いや、舐めないでそんなとこ、とメライちゃんが喘ぐような、切ない声を上げて訴える。ピチャピチャと音が聞こえる。
「ほうれ、やっぱりね、これが証拠だよ。ね、あんたが下着盗んだ犯人」と、お姉さんが勝ち誇った声で断言する。「おちんちん、起ってるよね。なんで硬くしてんのかな」
ショーツを顔から外された僕は、違う、違うんです、と弁解を試みるものの、全く説得力を欠いていることを自覚せざるを得なかった。お姉さんがにやにや笑いながら、上から指で硬化したおちんちんを押さえつけている。指を外すと、ピンと跳ね上がったおちんちんが下腹部を打った。
「下着を嗅がされたくらいで勃起するってことは、やっぱりあんたが犯人てことだよね」
待って、ほんとにそれは違う、と言いかけたところでお姉さんのしようとしていることが分かって、恐怖に身が縮んだ。なんとお姉さんは片足をすっと僕の股間に入れて、足の甲でおちんちんの袋を下から擦るのだった。両足もまた両腕同様、棒に括りつけられているので、股を閉じられない。おちんちんを丸出しにしたまま、いかなる防御の姿勢も取ることができない。恐怖の脂汗が背中から内股を伝って垂れる。
「お願いです。ちょっと話を聞いて」
「黙りなよ。この変態下着泥棒」もう聞く耳を持たないとばかり、お姉さんが冷たく言い放った。「お仕置きをするから、覚悟しなさい」
お姉さんのおちんちんの袋を圧迫していた足の甲が下がった。その足が後方へゆっくりと弧を描き、足裏がお姉さんの肩越しに見えたところで止まった。
許して、僕じゃない、と叫んだけれど遅かった。「ごめんなさい、違うの」とメライちゃんの悲鳴に似た声が重なって聞こえたような気がした。
鋭い痛みがおちんちんの袋に発生し、爆発したように波動が内臓から首まで伝わる。頭のてっぺんまでもズキズキと痛む。声が出なかった。口から涎がツーンと垂れて、鷺丸君に「きたねえな、おめえは」と叱られた。おちんちんの袋から下腹部周辺までに及ぶ激しく鋭い痛みが時間の感覚を失わせるまで長く続く。その間、僕は力が全然入らなかった。ずっと両手で吊るされていた。
蹴り上げられて元に戻った時もおちんちんの袋がぶるぶる震えていた、ゴムのように伸びたのを見た、などと男子たちのひそひそ話す声が聞こえた。さすがに僕を気の毒に思ったかのようだった。
棒に縛られていた手足を解かれて、床に倒れ込んだ僕は、なかなか退かない激痛のために少しも動くことができなかった。メライちゃんがずっと付き添ってくれていることは、肩や背中に感じる手の温もりから認識できたけれど、それ以外の変化については全く気付かなかった。男子たちが帰ったこと、お母さんが来て、冷たいタオルでおちんちんの袋を冷やしてくれたことは、後で知った。
「ショーツをかがせて、勃起したから、つい犯人だって思ったんだけどさ」と、お姉さんの話す声がする。「悪かったわ。違ったみたいね。すっかり騙されたよ」
「変だよ、姉ちゃん。ショーツのにおいで勃起したからイコール下着泥棒って、ちょっと無理ありすぎだろ」
鷺丸君の突っ込みにお姉さんも「そうだよね、ハハハ」と、にこやかに同意する。
「でも、なんでその、ナオス君のおち、おちんちんが…」と、メライちゃんが口を挟む。
「それはね、私も気づかなかったんだけど、丁度私の後ろであなたが男の子たちにぺたぺた体触られてたでしょ、水着半分脱がされてさ」
「いやだわ、そんなんでおち、おちんちんを硬く、硬くするなんて」
「でもこいつ見てないんだぜ、ショーツ被らされてたからな。音だけ聞いて反応してんだからさ。びっくりだよな」と、メライちゃんを安心させるかのようなフォローを入れたのは、鷺丸君だった。
「ありがと。でも、一番悪いのは私なんです」と、メライちゃんがふと肩の力を抜いたように息を吐き、鼻をすすった。寝返りを打って目を上げた僕は、スクール水着姿のメライちゃんが床に正座して、がっくりと首を前へ垂らしているのを見た。膝に置いた手の甲に涙が次々と落ちていた。
予定よりもうんと遅れてマジックショーの練習が始まった。下着泥棒に疑われ、精神的にも肉体的にも痛い目に遭わされた僕に対して、メライちゃんもお姉さんも、それから茶菓子を運んでくれたお母さんも、すごく親切だった。
ことにメライちゃんの気遣い、優しさ、親密な態度は驚くほどで、やたらと僕の手を握ったり、肩や腰に腕を回したりして、まるでメライちゃんと僕は彼女彼氏の関係だった。このまま鷺丸君から僕に鞍替えすればよいのにと胸がときめいたけれど、メライちゃんの手が僕の肌、背中や腰回りに直接触れると、甘い電流のようなものが走り、うっとりしてしまうとともに、やはりどうしても自分が一糸もまとわぬ裸体であることを意識せざるを得なくなる。
いかに恋人どうしのように振る舞ったとしても、一方はスクール水着姿であり、もう一方は全裸であれば、この時点で対等な関係は成り立たなくなる。メライちゃんと僕がいかに睦まじく見えたとしても、それは上っ面だけのことに過ぎない。全裸でいることを強要されている者とメライちゃんのような女の子が付き合うなどとは、誰も考えない。
そう確信するからこそ、メライちゃんは安心して、親しみと優しさのこもった態度で僕と接することができるのだろう。でも、そのための条件として、僕は衣類をまとってはならなかった。二人が対等な関係にならないよう、常に僕は素っ裸でいなければならない。僕が穿いていたショーツをメライちゃんはもう僕に渡そうとしなかった。僕が何度懇願しても、「ごめん、これ私の物だから、貸せないの」と、メライちゃんは拒絶した。
そのため、僕は前回の時みたいに素っ裸のまま練習に参加しなければならなかった。何もかも丸出しでいると、どうしても動きがぎこちなくなり、鷺丸君に叱られる。それにしてもメライちゃんはなぜ、こうもじろじろと僕の体を、不必要と思われるまでに眺めるのだろう。幸いだったのは、合唱団の子供たちが今日は練習に来ていないことだった。
昼食を母屋で済まし、町役場へ向かう。出掛けるのはメライちゃんと僕の二人だけだった。
夏祭りステージショーの出演者は、町役場でイベント実行委員会の面接を受けることになっているのだけれど、鷺丸君は特別枠としての出演が決まっている。つまり、主催者から依頼を受けて出演する側だった。当然、面接の必要はない。
「だったらさ、同じ演目に出る僕たちも免除してくれればいいのにね」
家を出る直前になってようやく渡されたタンクトップとミニスカートを身に着けた僕は、自分がメライちゃんと同じ女子の格好をしていることに改めて気づかされた。なんとも居心地が悪くて、黙ってバスを待っているのが苦痛だった。
「そんな訳にはいかないのよ」と、メライちゃんが大人びた口調で答えた。「だって私たちがステージに出ることは主催者の人たちの知らないことなんだから」
乗り込んだバスは満席だった。メライちゃんと僕は並んで立つ。二人とも、うんと腕を伸ばしてやっと届く高さにある吊り革につかまった。ショーツを穿いていないので、落ち着かない。スカートがめくれたらお尻やおちんちんが丸出しになってしまう。
「面接って何を聞かれるのかな。質問にうまく答えられなかったら、ショーに出られなくなるのかな」
ソワソワした気持ちを落ち着かせる意味からも、僕には会話が必要だった。
「あ、そう言えば鷺丸君のお母様が話してくださった時、ナオス君はいなかったもんね。おいしい炊き込みご飯だったのよ」
小さな塩おにぎりを一つしか与えられなかった僕は、早々に食事が済んでしまい、お姉さんに連れられてアトリエで待機させられたのだった。僕は小柄で小食だから食事はそれだけで充分であるとおば様から鷺丸君の家へ電話があった。それしか与えないのが自分たちの教育方針だから、とおば様に言われたお母さんは、その通りにしないと逆に恨まれるかもしれないと考え、僕には椎茸の炊き込みご飯を食べさせてくれなかった。
食事の間、お母さんがメライちゃんの質問に答えてくれたところによると、メライちゃんと僕が一緒に受ける面接は、名前と生年月日、どんなことをするのか説明するだけの簡単なものらしい。演目の説明はメライちゃんがすることになっていて、僕はただ自分の名前と生年月日を言えばいいだけ。
一銭もお金を持たず、ハンカチもない、着の身着のままの僕は、メライちゃんにバス代など必要な経費を払ってもらうことになっていた。面接を受ける際に提出する書類もメライちゃんの手提げ鞄の中にある。何も心配ないよ、私のそばにいればいいだけなんだから、とメライちゃんは言い、にっこり笑う。
それでもまだ一抹の不安を拭えない。僕は今、女の子の格好をしている。バスの乗客たちが好奇に満ちた視線を僕に向けているのがはっきり分かる。しかもスカートの下はノーパン。この格好で面接を受けて、大丈夫だろうか。
「ちょっと、そこの子」と、後ろの席から中年女性の怒鳴るような声が聞こえた。「あんたよ、違う、ワンピースの子じゃなくて、その隣のミニスカートの子。ちょっとこっちに来なさい、ほら、早く」
有無を言わせぬ迫力で、手招きする。呼ばれたのは僕だけど、メライちゃんも付いてきてくれた。
「あんた、ほんとに女の子なの? 私たち、さっきから話し合ってんだけどさ、私は女の子と思ってんだけど、他の人は男の子よって言い張るのよ」
ごめんなさい、男の子です、と白状しようとした矢先、いきなりメライちゃんが「女の子ですよ」と、答えた。
女性たちはどよめいた。五十がらみの女性の一人は、賭けに負けて小銭を取られたのが悔しいらしく、「ほんとに女の子なの?」となおも疑いの目を向けた。
「はい」と、僕は余計な嘘を強いられる原因を作ったメライちゃんを恨めしく思いながら、力なく答えた。
「証明してみなさいよ」と、一人が声を荒げた。たちまち、それに同調する「そうよ、そうよ」という声があちこちから聞こえてきた。顔を上げると、後方の席は同じ話題を共有する中高年の女性たちで埋まっていた。
証明と言われて戸惑う僕に一人が声を掛けた。「ちょっとタンクトップ脱げないかしら、すぐ済むからね」
「いやです、無理」と、僕は即座に答えた。服装、声だけでは、僕が女の子なのか男の子なのか判然しないらしい。でも、だからと言って服を脱ぐのはいやだった。人を勝手に賭けの対象にして、裸になれだなんて、あまりに理不尽すぎる。
メライちゃんが申し訳なさそうな顔をして僕の手を握り締めてきて、
「女の子なのに服を脱がせるなんて、酷くないですか」と、一方的に押し寄せてくる中高年女性のパワーに負けじと反撃を試みた。
「何言ってんのよ。ほんとは男の子のくせに。脱げないんだったら、男の子なのに女の子の格好してる変態だって教育委員会に連行するわよ」
教育委員会と聞いて周囲から軽い笑いが起こった。この町では警察よりも教育委員会の方が懲罰の厳しいことで知られている。
「だってほんとに女の子ですもの」と、メライちゃんが恐怖と羞恥のあまり舌のうまく回らなくなった僕に代わって反論した。「女の子なのに服を脱がせるなんて、それこそ教育委員会に通報だわ。女児虐待だもん」
「私はね、さっきバスの中であんたがこの子にナオス君て呼びかけたのを聞いたんだよ。それって男の子の名前だよね。どうしても女の子だって言い張るなら、上だけでもいいから脱いでごらんなさいよ。もしほんとに女の子だったら迷惑料として一万円、あんたに払うからさ」
バスの中は異様な雰囲気になった。乗客全員がこちらを見ているような気がする。僕を女の子と見たのはごく少数だったようで、大半は賭けに負けた側だった。「女の子です」と言い張るだけでは到底収まりそうになかった。今更ながらメライちゃんを恨めしく思う。最初から正直に男の子ですと答えれば良かったのに、女の子で通した方が余計なトラブルに遭わなくて済むと思ったのだろうか。
ごめん、ちょっと脱いであげてよ、とメライちゃんが囁いた。上半身だけだったら、女の子と誤魔化すことができ、迷惑料一万円が貰えると踏んだのだろうか。六十がらみの女性たちの手が僕の着ているタンクトップの裾に掛かり、引っ張る。いやがる僕の腕を上げさせ、あっという間に上半身を裸にしてしまった。
反射的に腕を交差させて乳首を隠した僕は、女性たちの手で胸を露わにさせられた。胸と乳首に彼女たちの視線が集まる。板そのものの胸、全く起伏のない胸を見て、女性たちは「男の子よ、これは」と叫んだ。
「まだ子供なのよ。膨らむ前かもしれないわ」と反論する女性もいて、彼女たちは入れ替わり立ち替わり、僕の胸をじっくり観察した。乳首を押したり、弾いたりする。恥ずかしい。なんでこんな目に遭わなくてはいけないのだろう。泣きたくなってくる。
「少し膨らみかけてると思いませんか」と、メライちゃんが僕の下から胸をむんずと掴んで、同意を求めると、すかさず「同じくらいの背丈のあんただってもう少し膨らんでるじょ。これは男の子の胸よ、絶対そうよ」と、反論される。
ふと、お尻に涼しい風が入った。女性の一人が後ろからミニスカートをめくったのだった。いや、と叫んで急いでスカートの裾を押さえる。「この子、パンツ穿いてないわよ」と、素っ頓狂な声がバス内に響き渡り、爆笑を起こした。
お尻を見られた。幸い、股を完全に閉じていたので、おちんちんには気付かれずに済んだ。「パンツを穿いてないなんて、ますます怪しい。変態は男性が多いんだから」と、中高年の女性たちはいよいよ僕に疑惑の目を向けた。僕を女の子に賭けて小銭をせしめた女性たちまでも、今では本当に僕が女の子かどうか疑っているようだった。
六十がらみの女性は、僕にスカートの前をめくるように求めた。反射的にスカートの裾を押さえ、「勘弁してください」と懇願するものの、「上だけ脱いでもはっきりしないんだから、仕方ないじゃないの」と、全然聞き入れてくれない。タンクトップを脱ぐように促したメライちゃんも、さすがにこれには当惑し、「なんでこんなことしなくちゃいけないんですか」と頬を膨らませた。しかし女性は、「いいから、めくりなさい。ノーパンなんだから調べやすいじゃないの」と、威圧的な調子で迫るばかりだった。
一瞬でいい、ほんの一瞬で、という言葉を信じて、僕はスカートの前の部分だけを上げることにした。泣きたい気持ちを堪えて、そっと上げる。上げた瞬間、手首を掴まれ、別の人の手がスカートの裾を摘まんだ。スカートを上げた状態を保持される。女の人たちが押し合うようにして、剥き出しになった股間を一斉に覗き込んだ。
「あらやだ、ほんとに女の子だったのね」
信号待ちするバスのエンジン音に混じって、失望の溜め息が聞こえた。身を乗り出した女性たちはがっかりして、お尻をずしんと座席に落とした。
「ごめんね、もう一度まくってもらっていい」
スカートを下ろして、股を開いた時だった。最初に僕に声を掛けた、お腹に脂肪のたっぷり付いた女性が僕の上気した顔を見ながら、せがんだ。
仕方がない、二度目を渋ると逆に疑われるかもしれない。僕は内股になってから股を閉じ、求められた通り、スカートの前の部分の裾をめくった。
「ふうん、確かに女の子ねえ」
顎に手を当てて、感心する。でも、その目はどこか疑わしげだった。何人もの女性が前の人に覆い被さるようにして、視線を向ける。
「もう、いいですか。恥ずかしい」
「次は後ろを向いてくださいますかしら」
上品な言葉でお願いしてくる。僕はスカートの裾を一旦放し、言われた通り回れ右をすると、手でスカートの裾を直す振りをしておちんちんとおちんちんの袋を前面に出してから内股を閉じた。めくるわよ、と断って、女性たちがスカートをまくった。
「お尻なんか見たって女の子か男の子か分かる訳ないじゃないですか」
メライちゃんは呆れた顔をして、太った女性を睨み付けた。
「まあ、いいから。可愛いお尻ねえ。あんたも見てごらんなさい」
「別にいいです。私、もう何度も見てるし・・・」
「あら、そんなに見てるの」と、女性の一人がくすりと口に手を当てて笑った。メライちゃんはしまったという顔をして、ぽかんと口を開けた。
「もう一回前を向いて、めくって」と、今度は別の女性に要求された。内股になってからミニスカートの裾を上げる。と、すぐにお尻を見せてと言われる。前を見たいといったそばからお尻を見せろと言いつける。その間隔が次第に短くなってきた。
バスの中で上半身裸のまま、前を向いたり後ろを向いたりして、スカートの中身を晒しす僕は、その度に股を開いたり閉じたりして、おちんちんを後ろや前へ移動させて押し込んだ。その動作が何かおかしいと女性たちは気付いたようだった。
町役場までもう少しだった。「あなた、ほんとに女の子だったのね」と、中高年の女性たちはようやく納得したような顔を見せた。迷惑料の一万円はメライちゃんが受け取った。床に落ちて、複数の足に踏まれたタンクトップを拾おうとした時、紫色に髪を染めた六十がらみの女の人が僕の手を取って、「あんた、女の子の胸じゃないねえ」と言った。
ちょうど疑惑が晴れて、ホッと息を抜いたところだった。その女の人は僕の手をいきなりメライちゃんの胸に押しつけた。
「女の子の胸ってのは、こんな感じなんだよ」
メライちゃんは短い悲鳴を上げ、僕の手を払おうとして体を背けるのだけれど、紫に髪を染めた女性は、僕の手を強くメライちゃんの胸に押し当てて放さない。
「やめて、何すんのよ」
「これが女の子の胸だよ、どんなに発育が遅くてもね。いかがかな、自分の胸とは全然違うだろうに」と、紫色の髪の女性がしわがれた声で笑う。
一方的に押し当てられただけではなく、僕自身の手が動いて、ぎゅっとその膨らみを手の中に収めた。柔らかな起伏で、果実の硬い皮のような触り心地だった。ワンピースの薄い生地越しに掴んだ発育中の胸を通して、息遣いまで伝わってくる。手の窪みのところにポツンと当たったのは乳首だった。上から押されて形を崩した乳首が僕の手のひらをくすぐる。
勢いよく頬を平手打ちされて、自分の手をメライちゃんの胸に押しつける力はもう存在していないことに初めて気づいた。ただ、自らの意思でメライちゃんの胸を揉んでいる。頬を赤らめたメライちゃんの目にうっすらと涙が溜まっていた。僕は急いで手を放したけれど、性的な興奮は容易には収まらない。メライちゃん、ブラジャーを着けていなかった。ピクンと反応して、おちんちんは完全な硬化状態だった。
あれ、なんかスカートの前がふくらんでるわよ、何かしら、と笑いを押し殺した声がした。もう内股になったところで意味がなかった。中高年の女性たちの手で盛大にスカートがめくり上げられると、バスの中は一瞬にして嬌声と笑い声に包まれ、この公共の空間がたちまちパーティー会場のようになった。
「おちんちん、おちんちん、しかも何これ、起ってる」
キャーという悲鳴が幾層にも重なり、女性たちは笑い転げた。座席や窓を叩いて騒ぎ、「信じられない、おちんちん起ってる」と、はしゃぐ。見せて、もっと見せて、と叫ぶ声がして、スカートが目いっぱい上げられ、そのままの状態で後方に移動させられ、じっくり観察された。何人もの手が硬くなったおちんちんを指で突っついたり、擦ったりした。
腰回りが妙に涼しくなったかと思ったら、スカートのホックが外されていた。とうとう僕はゴム靴を履いただけの裸に剥かれてしまった。おちんちんを必死に隠そうとしても手を後ろに回される。
お願いです、やめてください、と嘆願し、裸身をくねらせる。彼女たちはおちんちんを摘まんだり扱いたりすることをなかなかやめてくれなかった。バスの前方にいる人たちは、後方の人たちと比べて幾らか静かだったけれど、僕がこうして裸に剥かれて晒し者、慰み者になっていることに対して少しも同情的ではなく、むしろいい気味だとせせら笑うような、冷たい視線を投げかけてきた。
女の子の振りをしていたけれど、結局は男の子だったということで、メライちゃんと僕は、後方の二人掛けの席を占める中高年の女性たちに向かって土下座させられることになった。メライちゃんと並んでバスの汚い床に正座する。僕はタンクトップもスカートも取られた裸の状態で、ゴム靴だけを身に着けていた。騙してしまい申し訳ございませんでした、と床に何度も頭をこすりつけて詫びる。メライちゃんは詐欺師呼ばわりされ、迷惑料として受け取った一万円を返しなさいよ、と太った女の人に詰め寄られた。
べそをかいたメライちゃんが一万円を返すと、すぐに髪を紫に染めた女の人がメライちゃんに千円札を握らせた。「とっときなさい。あんたも汚らわしい男の子に胸を触られていやな思いをしたんだろ。私が触らせたんだからね、迷惑料だよ」
メライちゃんは無言で頷き、涙を拭うと、しっかりした声で礼を述べ、頭を下げた。
「ナオス君の股のところに余計な物が付いてるからいけないのよ」
町役場前という停留所にバスが到着し、多くの乗客に混じって下車する時、メライちゃんがこう囁いた。僕はまだゴム靴以外は何もまとわない裸のままだった。タンクトップとミニスカートは、バスを降りてから着ることを条件に返してもらったのだった。女の子の振りをしてみんなを騙した罰だよ、と太った女性はその条件に不服を示した僕に言った。タンクトップとミニスカートは僕にではなく、メライちゃんの手に渡された。「いいね、バスから降りるまで渡したら駄目だよ、絶対にね」と、わざわざ釘を刺す始末だった。
バス停の人々にじろじろ見られながらも、急いで灌木の密集する茂みへ裸体を忍ばせた。バスが走り去って完全に見えなくなるまで、メライちゃんは僕に服を渡すつもりはないようだった。
茂みの中に服が投げ込まれたのは、しばらくしてからだった。
集合時間である二時の少し前に町役場に到着した。ロビーはイベント出演者と思われる人たちでごった返していた。スタッフの腕章を付けた人たちがあちこちで人々に囲まれ、何か説明をしていた。メライちゃんと僕は近くの輪に加わった。
身振りを交えて詫びながら説明するスタッフは、低姿勢だった。途中から聞いた僕たちはよく理解できなかったので、「すみません」と声を掛けると、振り向いたスタッフの顔つきが急に険しくなった。それまでずっと引き気味だった顎がすっと前に出てきて、まるで顎の先に目があるかのように僕たちを見下ろした。大人の男性にしては小柄で、メライちゃんと僕が背伸びした時と同じくらいの背丈だったけれど、胸を反らすようにして立つので、実際以上に大きく見えた。
「なんだよ、おめえら説明聞いてなかったのかよ、めんどくせえな」
と、うんざりしたように大きな溜め息をつく。ごめんなさい、と直ちに謝る僕をメライちゃんが悲しそうに見つめた。スタッフは舌打ちをし、夏祭りイベント実行委員会の会議が長引いていること、面接開始が予定よりも遅くなるということを、かったるそうに、うんざりしたような口調で話した。
「で、いつ始まるんですか」
そう聞いた僕は、いきなり「馬鹿野郎」と怒鳴りつけられた。ロビーにいる人たちの視線が一斉にこちらに集まる。大丈夫、服を着ている、ミニスカートを穿いた女の子の格好だけど、裸ではない、と自分に言い聞かせる。
面接の始まる時間になったら館内放送で知らせると聞いて、僕たちは町役場の外に出た。強風が起こってめくれてしまったスカートを慌てて押さえる。ノーパンだ、と叫ぶ若い男の人の声が聞こえた。僕の前に回り込んで、にやにや笑いを浮かべる男の横をメライちゃんと僕は黙ってすり抜けた。と、後ろからスカートをめくられた。男の高笑いを背にして、走って逃げる。
角を曲がり、町役場の建物に沿って配置されたベンチの一つに腰を下ろした。ここなら窓から館内放送が聞こえる。メライちゃんが手提げ鞄から財布を取り出すと、自動販売機から缶ジュースを買ってきた。一本だけだった。
「ほんとは二本買いたかったんだけど、お金がなかったの。二人で半分こね」
プルトップを引いて、メライちゃんがまず口を付けた。さっきバスの中で迷惑料として千円を受け取ったのに、僕と缶ジュースを分かち合いたいためにとぼけているのかと思うと、メライちゃんがいっそう愛おしくなる。
「さっきのスタッフの人、ひどくない? 私たち、何も悪いことしてないのに」
メライちゃんの缶を持つ手がかすかに震えた。
「そうだよね」
「そうだね、じゃなくてさ。ナオス君、すぐ謝ったでしょ。何か謝るような悪いことしたの? 説明で聞き取れなかったところを確認したかっただけでしょ。なんで、あんな風に簡単に謝るのよ」
「うん、そう思うよ。ごめんね」
「また謝ってる」
ぷいと顔を背け、また缶ジュースを口元へ運ぶ。僕と半々に飲むという約束は忘れているのかもしれない。メライちゃんの喉が小さな鈴のような音を鳴らした。
女の子の格好させられてどんな気分なの、とメライちゃんに聞かれた。僕は女の子がポシェットを掛ける理由が分かったと答えた。タンクトップにしろ、このミニスカートにしろ、とにかく物を入れる場所がない。ズボンだったらポケットがあって、何でも入れられるけど、女の子はズボンのポケットにもあんまり物を入れたがらないね、せいせい丁寧に折り畳んだ薄いハンカチが入ってるぐらいだよね、と言うと、メライちゃんは笑って、膨らんだポケットなんて男の人みたいでかっこ悪いよ、と返した。
「でもさ、僕、女の子の格好で面接を受けるなんて、変に思われるよね」
「何言ってんの、ナオス君。面接は、ステージに立つ時の衣装で受けるんだよ」
知らなかったの、とメライちゃんが驚いた顔をした。ということは、メライちゃんはスクール水着に、僕はパンツ一枚にならなければならない。僕は急に自分が今、スカートの下は何も穿いていないことを思い出した。
メライちゃんは最初、僕が穿いていたショーツを水泳の授業の時に盗まれたものだと言った。しかし、実際は盗まれたのではなかった。更衣室から出ようとしたところをY美たちに取り囲まれ、没収させられたのだった。鼻をすすりながらスカートの中のショーツに手を掛けたメライちゃんに、Y美は「早く脱ぎなよ」と急かした。
「私が正直に言えなかったせいで、ナオス君が盗んだって疑われちゃったんだよね。ほんとにごめんね。ショーツ貸すからさ、これ穿いて面接受けなよ」
手提げ鞄から出された白いショーツを受け取った僕は、ありがと、と礼を言った。メライちゃんを恨む気持ちよりも、よかった、これで素っ裸にならなくて済むという安心感が優った。
「ショーツ、もう返さなくていいからね。どうせ嫌な思い出しかないんだし。でも、その上履きは返して。これもY美さんたちに取り上げられものなの」
メライちゃんは言い、僕が今足を入れているピンクのラインが入ったゴム靴を指した。もう上履きとしては使えないけど、と微笑しながら缶ジュースを僕に渡す。缶の中身はほとんど空っぽだった。
ガラス越しには、雨上がりの草木が生き生きと輝いているように見えた。僕は命じられた仕事、古雑誌の十文字縛りを終えたところだった。おば様のご用済みとなった沢山の雑誌、地域情報誌や流行雑誌などを積んだ束が五つほど、居間と玄関をつなぐドアの近くに並べてある。
「なんで浮かない顔してんのよ。もうすぐ服が着れるのにさ」
Y美が僕のおでこをツンと突いて、冷やかした。午前十時に鷺丸君の家に集合し、マジックショーの練習をすることになっていた。もちろんメライちゃんも来る。Y美から許可が下りて、僕は衣服を身に着けられることになった。実に一週間ぶりだった。
でも、まだ服はお預け。僕はガラス戸の近くに立ち、手を頭の後ろで組み、胸をやや反らすポーズを強要された。素っ裸でポーズを取る僕の体の各部をY美とおば様が点検するように眺め、触る。体の成長具合を確かめるのが目的らしい。
特に念を入れてチェックされたのはおちんちんとその周りだった。毛が生えてくる感じはしないのかとおば様に聞かれて、いいえと答える。脇の下のツルツルした部分にY美が鼻を近づけ、石鹸の香りがすると言った。
お尻をがっしりと掴まれ、揉まれる。おば様の手だった。Y美のそれよりも温かくてたくましい。お尻の弾力が一段とよくなったようね、と感心している。
「ほんとに私と同い年なの?」と、Y美がおちんちんの皮を摘まみ、上下左右に揺すりながら質問した。「こんなにちっちゃいんですけど」
「まだ小学三年生くらいかもね、おちんちんを見る限りはね」
口ごもる僕に代わっておば様が答え、あんまり乱暴に扱っては駄目よ、とY美をやんわりとたしなめる。Y美はおちんちんの皮をそっと剥き、また被せた。
敏感な部分をいじられても同じポーズを保たなければならない。肉体チェックは乳首にまで及んだ。いじくり回される。感じやすいのね、子供のくせに、とおば様が小さく笑った。Y美は電話応答中だった。おば様の性的ないたずらは続いた。
直接おちんちんを扱かれてしまったら、どうにもならない。電話を終えたY美が戻ってきて、「何やっちゃってんの、お前」と呆れる。完全に硬くなったおちんちんがツンと上向きになっていた。
「ま、そう責めないのよ。見られているうちに興奮しちゃったみたいなんだから」
嘘、おば様が手でこすって刺激を与えたからなのに。でも、この真実は口に出せない。射精寸前で止められて悶える僕に、おば様が鋭い一瞥を投げかけた。
「ヘー、見られただけで興奮するんだ。バッカみたい」
硬くなったおちんちんを上から指で押して、放す。ピンとばねのようにおちんちんが跳ね起きる。Y美はフンと顔を背けて「シャワー浴びてくる」と言って立ち去った。僕の頭の後ろで組んだ腕も、足もぶるぶる震えて、切なかった。
夏休みに入ってY美の背は伸び、体の曲線がいっそう丸みを帯びてきて、ウエストの締まり具合を際立たせるようになった。服の上からでもそれがはっきり感じられ、いつも裸で性的な刺激を一方的に受ける僕には、ひどく眩しかった。服の下は覗いたことがないので想像するしかないけれど、恐らくおば様も同年代と比べて成熟度の著しく進行した娘の肉体に軽い驚きを覚えたことと思われる。その反動か、成長の遅い、身長が四月の測定時と変わらない僕は、Y美だけでなくおば様からも嘲りの対象になった。
「だいたい食事の量からしてY美とは違うわね」と、おば様は人差し指で僕の背骨をなぞりながら切り出した。「今朝だって小さな丸パン一つしか食べないでしょ」
もっと食べたいのに、いつもわずかな量しか食べさせてくれないのはおば様ではないか。それなのに、まるで僕が欲していないかのような物言い。これには胸を塞がれるような悲しみに襲われ、泣きそうになった。どうせ反論したところで生意気だと叱られるだけだろう。悔しさに涙を滲ませ、「食べようと思えばもう少し食べられるんですが」と、控え目に抗議するのが精一杯だった。
「何言ってるのよ、あなたは」と、呆れるおば様は、僕がこの家に住まわせてもらうようになって間もない頃の話をした。夕食をほとんど食べられなかった僕はこんなに食べられません、もっと少なくていいです、とベソをかきながら申し出たというのだった。
確かにそんなことを言った覚えはある。でも、その時は家の中では洋服を脱ぎ、パンツ一枚しか身に着けてはならないという約束事を言いつけられたばかりだったし、Y美やおば様に素っ裸を見られ、おちんちんをいじられたショックが生々しく残っていたから、食事もろくに喉を通らなかった。
あの時以来、僕に提供される食事の量はめっきり少くなった。性的な苛めにより自尊心を傷つけられて食が細くなってしまうということはあるけれども、体が慣れてくると、時に足りないと思うこともある。そう訴えると、おば様はうるさそうに顔をしかめた。
「あんた一体どういうつもり。タダで生活させてもらってるんでしょ。感謝されこそすれ、食事が少ないなどと文句を言われるとはね。恩を仇で返された気分だよ。まさか、あんたがそんな風に思ってたとはね」
怒りモードになったおば様は怖い。いきなり手の甲で頬をぶたれた。後ろへよろめき、倒れそうになるところを更に一発、今度は別の手の甲が反対の頬を直撃した。
フローリングに倒れた僕の股間におば様の手が伸び、おちんちんをぎゅっと引っ張った。まるでIさんのようなやり方で僕を立たせる。
「私ね、実は男って大嫌いなのよ」そう言うと、おば様はおちんちんを袋ごと手のひらに包み込み、ぎゅっと握り締めた。激痛、内臓を素手でいじられるような痛みに呻き声が漏れる。おば様がおちんちんを持ち上げた。つま先立ちになって悶える僕の顔を見下ろすおば様の冷たい目は、Y美にそっくりだった。
「自分の産んだ子が女で良かったと思ってるわ。男が嫌いで、許せないの。ねえ、このおちんちん切ってしまいなさいよ。あんたが女の子になるんだったら、もう少し食事のことも考えてあげていいわよ。ねえ、おちんちん切ってしまいなさいよ」
真顔で問う。どんな考えなのか、判断できない。とにかく、おちんちんの袋を握り締められている苦悶から解放されるためなら大抵のことは承知するはずなのに、今回の問いかけはその大抵の中に含まれていないようだった。おば様は本気でおちんちんを切り落とそうとしている。
うぐぐ、うぐぐ、と悶える僕は、握り締められたおちんちんを更に引き上げられたため、足の親指でなんとか体重を支えた。おば様の肩を掴む手に力が入らず、ついに滑り落ちてしまった。
「このおちんちん、もうたくさんの女の子たち見られちゃったのよね。でも、あんたは彼女たちの裸を見たことあるの? ないわよね。いつも一方的に裸を見られ、おちんちんを弄ばれて、挙げ句には何度も射精させられてきたのよ。はっきり言ってもう男としてはおしまいでしょ。根元からバッサリ切ったほうがよくない?」
ぎゅっと力が込められる。おちんちんの袋の中の玉が完全に逃げ場を失ったようだった。直接、玉に力が加わっているようなジンジンと響いてくる痛みに僕はもう、ただ「許して、許してください」と泣き叫ぶばかり。
何事かと風呂場から駆け込んできたY美は、なんとバスタオルを一枚体に巻いただけの格好だった。これまで見た中で肌の露出度が一番高い。しなやかな肢体がガラス戸の光を受けて、眩しかった。
「ちょっと、何やってるのよ、お母さん」
左手から右手に持ち替えたおば様によって一段と引き上げられ、足が床から離れてしまった。再び両手でおば様の肩を掴んでバランスを取る。
「Y美、はしたない。早く着替えてきなさい」
鋭い一声が響いた瞬間、おば様の手がおちんちんから離れた。僕はおば様の体にすがるようにしてずるずると床に滑り落ちた。Y美の水滴を拭き取ったばかりのような白い脛と裸足がこちらに来る。きれいに揃えた膝が曲がり、「お母さん、怒らせたんだね」と僕の泣き濡れた顔を覗き込んだ。
バスタオルを巻いた胸元の膨らみがシャツを着ている時よりもはっきりしていて、何かこれまでのY美とは違うような雰囲気だった。首から肩にかけてのつるつるした感じは、手で触れてその肌触りを直接確かめたい欲望を起こさせるものだけれど、もちろん僕はそんな不作法はしない。それよりもおちんちんの袋がおば様の手から逃れた今も激しく痛み、Y美の問いかけにもしっかり応答できなかった。
「ちょっと手ェ、どかしてみ」と、僕の股を割るようにして体を入れ、そっと当てている僕の手を横へずらす。おちんちんを摘まんで下腹部へ移動させると、おちんちんの袋を広げるようにしてから、目を近づける。
「早く着替えてきなさい、Y美」
「ちょっと待ってよ。なんか少し赤みがかってるよ。お母さん、これやばくない?」
二人の女の人の手がおちんちんの袋をいじり、じっくりと調べる。その際、上へ動いたY美の手がおちんちんに当たって、本人はそのつもりはないのかもしれないが、根元から先端にかけて振動を与える。
おちんちんの痛みはまだズキズキと続いていたけれど、ふと下半身の方へ目を転じると、バスタオルを巻いただけのY美が僕のおちんちんに顔を被せるような、挑発的な姿勢を取っているのが見えた。バスタオルと胸元の隙間に広がる濃い闇の世界。闇からうっすらと白い桃のようなものが浮かんできた。
「Y美、何度も言わせないで。早く着替えてきなさい。なんです、その格好は。この子、しっかり反応してるじゃないの」
気づいたらおちんちんが起っていた。Y美が慌てておちんちんに当たっていた手をどかせた。「なんだ、ほんとにお前って奴はさあ」とY美は腰を上げると、溜め息をついた。「どうしてこんなに変態なの。金玉痛めつけられた状態でも私の体、エッチな目で見てる余裕はあるんだね。許せないよ、これって」
いきなり鋭い痛みが今度は硬くなったおちんちんに走った。ビシッと鋭い音がしておちんちんが下腹部に当たった。裸足の足の甲が弧を描き、振り下ろされたのだ。仰向けの僕は、タオルの下から入ってきた光のおかげで太腿の奥まで見えたかのように思った。その瞬間だった。新たな激痛でのたうち回る羽目になり、Y美の内股の奥は再び神秘のヴェールに包まれてしまった。
「心配して損した」
そう言い捨てると、Y美は二階の自分の部屋へ駆け足で戻っていった。
熱を帯びたおちんちんは冷やした方がよいというおば様のアドバイスにより、僕は強制的に水風呂に入れられた。シャンプーを頭から流す時だけお湯の使用が認められ、体の石鹸を洗い落すのも全部普通の水だった。
冷たい水に肩まで浸かっても、浴室から出ると徐々に体温で体が熱を帯びる。脱衣所で一通り体を拭き終えた僕はタオルを所定の位置に戻し、素っ裸のまま廊下へ出た。人の気配がない廊下を静々と進む。玄関には僕の服が用意されているはずだった。
果たして、籠の中には待望の衣類があった。やっと服をまとうことができる。
服を着ようとするまさにその直前にストップが掛けられるなんてこともないとは限らない。Y美やおば様の気が変わらないうちにさっさと着込んでしまおうと思った僕は、よほど慌てていたのだろう、パンツに穴、おしっこの時におちんちんを出すあの穴がないことにすぐに気づかず、しっかり腰まで引き上げたあとに「あれ?」と思ったのだった。色はブリーフと同じ白ながら足を出す穴の縁には小さなフリルのようなものが付いている。掴んだ時、何か軽いなとは思った。まさか女性用のショーツだったとは。
急いで籠の中の衣類を確かめると、僕のシャツやズボンは入ってなかった。代わりにタンクトップとスカートがあった。与えられた衣類を身に着けるしかない僕は、恐る恐るタンクトップに手を伸ばし、これを被った。肩に掛けるストラップが背中で十字に交差し、女の人らしいお洒落な感じがした。このストラップは優美な曲線を持つ胸元から伸びるような作りで、僕に胸の膨らみが全くないせいか、普通の丸首のシャツと比べると、随分と涼しい感じがする。
次はスカートだった。丈が驚くほど短い。太腿の半分までしか届かなかった。腰に巻いてフックで留める。下から外の空気が直接入ってくる。これではあまり足を広げられないなと思った。
「あら、かわいいじゃない」
居間から出てきたおば様が後ろ手でドアを閉めながら、嬉しそうに目を細めた。
「とってもよく似合ってるわよ」
褒められて、なんと答えていいか分からず、もじもじしてしまう。二階から下りてきたY美も「女の子みたいだよ」と、感心して腕を組んだ。
スカートを捲りなさい、とY美が命じる。僕はスカートの端を持って、ゆっくり上げた。恥ずかしくて、顔がポッと熱くなる。
「あ、ちゃんと女の子のパンツ、穿いてるね」とY美が確かめた。「おちんちんがちっちゃいよね。女の子用のパンツでも、ほとんど形が浮かび出てないよ」と笑う。
「だからこそ女の子の服が似合うんでしょう」
そう言うと、おば様は僕の背中に手を回し、ストラップのねじれを直してくれた。
どうしたんですか、この服、と質問した僕の顔に喜色めいたものが浮かんでいたのだろうか、おば様に苦笑されてしまった。大勢の女子に囲まれておちんちんをいじられるのとは別種の、自分の心がめくられたような恥ずかしさを覚えて、質問に答えてくれるおば様の声が途中からしか入ってこなかった。それによると、タンクトップとスカートは、Y美が小学三年生の時に知り合いから譲り受けたものらしい。
「やっぱり私には似合わないよ。だいたいこのスカート、短すぎるし」
これらの衣装を身に着けた僕をまじまじと見て、Y美は、サイズはぴったりだったにもかかわらず一度も着用することなく箪笥の奥に仕舞い込んだ当時の自分の判断が正しかったことを改めて確信したようだった。
「このショーツ、まだ新しいみたいだけど、これは」と、おば様は無造作に僕のスカートの襞をつまんで引っ張り上げ、首を傾けた。「もしかしてY美、あんたの?」
「まさか、私のじゃないよ。私はこんなの穿かない」
確かにそうだった。これはY美の持っているパンツではない。Y美がどんなパンツを好むのか、昨日偶然知ってしまった僕は黙って顔を伏せた。
「ねえ、私のはこんなんじゃないよね」
いきなりドンと肩を押された。昨日のお仕置きがフラッシュバックし、緊張と恐怖で口をパクパクさせる僕を見て、すごんだY美の顔が見る見るうちに崩れた。「おもしろいわあ、こいつ。すぐ怖がるんだからさあ」と、朗らかな笑い声を立てる。結局、どこで入手したのかは明かしてくれなかった。
「まあとにかく、晴れてお洋服を着ることができて、良かったねえ。でもね、お前は男の子なんだからね。恥ずかしいおちんちんの付いた男の子。くれぐれも女子のつもりにならないでね。そこんとこ、勘違いしないように」
玄関の外へ僕を押し出すと、Y美はさっさとドアを閉めた。と、すぐに「ちょっと待ちなさい」と呼び止める声とともにドアが開いて、おば様が出てきた。
「あのね、あなた、今日の予定分かってるの」と、問い質す。
鷺丸君の家でマジックショーの練習をし、終わったら、その足で町役場に行き、夏祭りのイベント実行委員会の面接を受ける。イベントに出演する人たちは全員、委員会の面接を受ける決まりになっていた。指定の時間までに到着していないと出演が認められなくなる。絶対に遅刻しないように、とおば様が念押しする。
「二時よ、二時に集合だからね。くれぐれも遅刻しないように、あなたからも鷺丸君にしっかり伝えるのよ」
分かりました、と頭を下げた僕は、おば様に見送られて鉄扉の外へ出た。女の子の服という恥ずかしさはあるけれど、今まで散々素っ裸で道路を歩かされてきたのだ。それを思えば、全く比較にならない。
夏の強い日差しの中、塀の陰や木陰の道を選んで歩く。走ったあとだから、よけいに暑さがこたえる。公園に立ち寄って蛇口を捻り、冷たい水で顔や首筋を濡らした。
タンクトップとミニスカートは風通しがよくて涼しいのだけれど、やはり丈の短いスカートは、なんとなくソワソワした気分にさせられる。
どうして僕に女の子の格好をさせたのだろう。よく分からなかった。服だけでなく、揃えてくれた靴まで女子用だった。
靴といっても、学校用の使い古したような上履きで、先端のピンク色が女子用であることを示している。男子用と女子用を分けるのは、ただそのゴム製の上履きに入っているラインの色でしかないけれど、ピンク色の上履きはやはり女の子のものという気がして、タンクトップやミニスカートと同じように、僕が今女子の身なりをしていることを意識させるものだった。
それにしてもこの上履き、僕の足に合うことからして、Y美の物でないことは確かだった。それともずっと昔にY美が履いていたものだろうか。いや、Y美だったら使用済みのものはさっさと捨てるだろう。どんな女子の足が嵌っていたのだろうと思いつつ、裸足で直に足を入れている。全体的に汚れていて、だいぶ使い込んだ上履きだった。どこかで拾ってきたものかもしれない。あれこれ考えて歩いているうちに、鷺丸君の家の六角形のアトリエの屋根が見えてきた。
チャイムを鳴らす。鷺丸君のお母さんとお姉さんが笑顔で迎えてくれた。二人とも、僕の姿を見るなり目を丸くした。
「どうしたのよ、その格好は」
「今日はこれ着なさいって、言われて」
「まあ、あなた、女の子みたいじゃないの。その格好でここまで来たの?」
「すごいな、変な人みたいだよ。途中で誰にも見られなかった?」
変な人。言葉に詰まった僕をお姉さんが怪訝な顔で見た。確かに男子なのに女子の格好して、わざわざピンク色の学校用上履きまで履いているのだから、変な人に違いない。でも、これまでは最低限の衣服すら与えられず、全裸裸足で時には後ろ手に縛られ、おちんちんをロープでつながれたりした状態で歩かされていたのだから、僕としては、完全にではないにしても、少しは普通の域に近づいたかなと思っていたところだった。そこへ来ていきなり「変な人」と笑われたのだから、バシッと心をぶたれた気がした。
「ええと、まあ、大丈夫でした」
途中、顔見知りの小学生たちに囲まれたけれど、スカートをめくられただけで済んだ。裸の時とは違い、靴を履いているから、隙かあれば逃げ出せるのだった。
農家のおばさんやおじさんたちにも小突かれた。「あれやだ、いつも裸んぼでうろうろしてるボクちゃんじゃないの」「珍しく服着てるわ」「何だお前、女の子の格好してさ」と、後ろからスカートをめくられ、危うくスカートが取れてしまうところだった。女の子用のパンツを見たおじさんたちが笑い転げる中、走って逃げた。
すれ違う人たちからは、奇異な目でじろじろと見られた。僕のことを性的な倒錯者と見て、嫌悪感も露わに顔を背け、小走りに過ぎる人もいた。
「でも良かったじゃない、お洋服が着れて」と、お姉さんは屈託のない笑顔を見せた。「いつも裸だったもんね。裸のまま引き回されてた時は可哀想な男の子だったけど、今は普通に女の子の服を着てて、単に変な人だよ」
庭を通ってアトリエに向かうお姉さんがちらとこちらを振り向いて、笑った。前回はアトリエに入る前に洋服を脱がされた。池の近くにある屋根付きのベンチのところでパンツ一枚にさせられたのだけれど、今、お姉さんはベンチを素通りした。せっかく僕が女子の格好をしているのだから、鷺丸君やメライちゃんにも見せようとお姉さんは恥ずかしがる僕の腕を取って、アトリエに引き入れた。
ぽかんとした一呼吸分の間を置いて、くすくすと笑い声が起こった。
「なんだ、お前かよ。どこの女子が来たのかと思ったよ」
このやろ、と鷺丸君が僕を殴る真似をする。
少しはにかむようにして笑っているメライちゃんは、すでにスクール水着姿だ。鷺丸君の背中に隠れるような位置にいるけれど、その手が素早く肩紐の捩れを直すのを僕は見過ごさなかった。
濃密だったアトリエ内の空気がお姉さんと僕の侵入によって、急速に薄められたようだった。それを恨めしく思うのか、上目遣いで僕を見るメライちゃんの瞳がしっとりと潤んでいる。鷺丸君は白けた空気を補おうとするかのように、変に力のこもった笑いを引き伸ばした。Y美の画策とはいえ、メライちゃんは鷺丸君と付き合っている。この事実がチクリと僕の胸を刺す痛みは、ある程度の日数が経過した今でも、減じない。
冷房のガンガン効いているアトリエは、服を着ていても涼し過ぎるくらいだった。暑がりの鷺丸君に合わせた設定なのだろうけれど、ここで裸にならなければならない僕のことは、全く考慮されていない。
「じゃ、とりあえずお洋服脱ぎましょうか」
お姉さんはそう言うと、僕のタンクトップの裾を摘まんで引っ張り上げ、抜き取った。スカートのホックもいつのまにか外され、ストンと足元に落ちた。アトリエに上がる前にゴム靴を脱いだから、僕はいとも簡単に裸足でパンツ一枚という、マジックショーに出演する時の格好になってしまった。
「あらら、何かな、そのパンツは」
最初に気づいたのはお姉さんだった。
「これ、女の人用のパンツじゃないの。ショーツでしょ?」
非難するような目で僕を見る。お姉さんの感覚では、女子用のタンクトップ、スカートまではご愛敬で済むけれど、下着まで女子用を身に着けるとなると、これは冗談のレベルを超えるらしい。背筋がゾゾーだわ、と憎々しげに口をゆがめて、
「なんでこんなのまで穿いてるのよ。しっかり答えてね」と、攻撃の手を緩めない。
「ごめんなさい」
ごめんなさいじゃなくてさあ、とお姉さんは僕の伏せた顔に指を差し入れ、顎の下に当てると、一本の指の力で僕を上向かせた。
「あんたさ、ほんとは自分が好きで女性用のパンツを穿いてるんじゃないの。自分の変態性欲を満足させるために」
「違います」
拳を握って、強めに言った途端、目から涙がこぼれそうになった。百歩譲ってそうだとしても、なぜよりにもよってパンツ一枚の裸にならなければならないマジックショーの練習でそれを穿こうとするだろうか。しかもそこにはメライちゃんもいるというのに。Y美とおば様が出してくれた衣類はこれしかなかったのだから、僕に選択の余地はなかった。これも自分が世話になっている家で決められたことなのだと、そう説明しても、誰も納得した風には見えなかった。
メライちゃんの強張った、青白い顔は、痛々しかった。心の苦痛に懸命に耐えながら、辛い現実から目を背けない強い意志を持って、じっとショーツ一枚の恥ずかしい姿で抗弁する僕を見つめている。僕は不意に、もう駄目だ、メライちゃんにはなんと言い訳しても信じてもらえないだろう、という絶望感に襲われた。最後の力を振り絞るようにして、自分から穿いた訳ではないこと、強制されて仕方なく身に着けたことを訴える。
「ねえ、ナオス君」と、これまで黙っていたメライちゃんが僕に一歩詰め寄った。「そのパンツ、誰のものなの」
「知らない。Y美さんが出してくれたから」
「Y美さん? 自分が持ってたんじゃないの」更に一歩、僕に近づく。
「まさか。僕は持ってないよ、こんなの」
「こんなのとは何よ。随分失礼じゃないの」
メライちゃんは、お互いの体がくっ付いてしまいそうなくらい、うんと僕との距離を縮めてから、語気を強めた。ショーツを穿いていたことが余程気に入らなかったのだろうか。その剣幕に圧倒されて、「ごめん。そんなつもりじゃなくて」としか返せない。
「どうしたの、このショーツに何かあるの?」と、お姉さんが割って入った。この場にいる誰もが思ったであろう質問だった。メライちゃんはお姉さんのところへ行き、背伸びをしてお姉さんの耳に口を寄せた。ほんとなの、とお姉さんが真顔でたずねると、こくりと頷く。
「ナオス君、ちょっとそのショーツ、脱ごうか」
え、と思った刹那、僕はお姉さんに腕を背中へ回された。お姉さんのもう片方の手がショーツのゴムにかかる。やめて、いや、何するんですか、と叫び、腰を捻って抵抗する僕に手こずったお姉さんは、「メライちゃん、あなた自分の手で脱がして。自分のかどうか、確かめて」と、声を掛けた。
両手をお姉さんにがっしりと背中で固定されてしまった。お姉さんは指が食い込むほど強く僕の手首を握っている。もう少しで腕が折れてしまいそうな痛みに耐える僕は、動きを封じられた状態で、正面のメライちゃんに許しを乞うのだった。
僕の前に来たメライちゃんはムスッとした顔でしゃがみ込むと、腰を捻るようにして抗う僕をちらと見上げてから、ショーツのゴムに両手を掛けた。
いや、と鋭く叫んだ僕の声がむなしくアトリエに響いた。メライちゃんは黙って僕の足首からショーツを抜き取った。
もう必要ないのに、お姉さんはなかなか手首を放してくれない。おかげで、これ以上晒されたくないおちんちんが、お茶を持って入ってきた鷺丸君のお母さんにまで見られてしまった。素っ裸にされたばかりの僕を見て、鷺丸君のお母さんは、おやおやという顔をした。「可哀想に。パンツいっちょうになるのも恥ずかしいのに。全部脱がす必要があるのかしらね」と、一人でぶつぶつ呟いている。
脱がせたショーツを広げて点検し、内側の小さなタグを見たメライちゃんは、恥ずかしそうに「いや、信じられない」と言って、手で顔を覆った。間違いないのね、とお姉さんが念を押してもメライちゃんは答えず、首を横に振るばかり。
何がなんだか分からないのは鷺丸君と僕だった。
「もう、なんでこう男ってのは鈍感なんだかね」と、お姉さんが溜め息を吐いた。
鷺丸君はともかく、僕には事態を察する余裕なんかなかった。なんといってもまたもやメライちゃんにおちんちんを見られてしまったのだ。散々見られてきたから、それどころかメライちゃんの手で射精、浣腸までさせられたのだから、今更ショーツを脱がされるくらいどうってことないのではないか。そう考えたいところだけれど、やっぱりそれは無理だ。そんな具合に納得できれば悩んだり苦しんだりせずに済むのに、と思う。でも、事実として、どんな考えをしたところで、僕は今のこの理不尽な体験を受け入れることができない。この、僕一人だけが素っ裸を晒しているという今の状況に納得できない。つまり、何度見られようと、いじられようと、裸の姿は見られずに済むのなら見られたくない。
今日はマジックショーの練習だし、素っ裸に剥かれることはないと思っていた。僕が穿いているのはいつもの白のブリーフではなく女子の下着で、これはこれで恥ずかしいけれど、みそぎの生活の時みたいに常に全裸を晒しているよりは全然よいと思っていた。それがどういう理由からか、あっさり脱がされてしまった、しかもメライちゃんの手で。もう何度も見られ、いじられたおちんちんを再び至近距離でしっかり見られる。
当のメライちゃんは、もうすっかりおちんちんに慣れたようだった。ショーツを引き下ろした瞬間も、普通におちんちんを見ていたし、足首から抜き取る時もおちんちんから顔を背けなかった。一番の関心事はおちんちんではなくショーツにある筈なのに、ショーツを確認するよりも先に、なぜか間近にあるおちんちんをじっくり見入るのだった。
ショックと恥ずかしさで打ちひしがれている僕に、追い打ちをかけるような詰問がメライちゃんとお姉さんの口から飛び出した。二人は、このショーツを僕が盗んだのではないか、と疑っているのだった。
どうもこのショーツは、夏休みに入る直前、メライちゃんが学校で盗まれたものらしい。プールでの授業が終わって着替えようとした時、ないことに気づいた。ショーツだけが消えていたという。級友たちには適当に言い繕って更衣室をくまなく探したけれど、見つからない。メライちゃんはショーツなしで昼の休憩をやり過ごし、午後の授業を受けた。
もしもスカートがめくれて下着を穿いていないことがばれたらどうしようと、そればかり気になって、休み時間も自分の席から離れず、静かに過ごしたという。
「正直に言おうね。女子の更衣室に忍び込んでメライちゃんのパンツを盗んだのは、あんたじゃないのかな」
お姉さんはすっかりメライちゃんに同情して、僕に疑いの目を向けている。全く身に覚えがなく、どうして僕に疑いがかかるのかも分からない。確かにショーツを穿いてはいた。しかしこれがメライちゃんのものだなんて知る由もない。僕はただ強制されて身に着けていたに過ぎない。
知らない、の一点ばりでは説得力に欠けるのかもしれないけれど、あらぬ疑いをかけられた僕は頭に血が上ってしまい、身の潔白を証明するいかなる言葉も手繰り寄せることができなかった。
「気をつけ、でしょ。ほら、ちゃんと気をつけの姿勢で正直に答えようよ」
お姉さんはにっこり笑い、おちんちんを隠す僕の手の甲をぴしゃりと叩いた。鷺丸君のお母さんがお盆を抱きしめるようにして、心配そうに見守っている。
なぜ僕がメライちゃんのショーツを盗まなければならないのだろう。何よりも当のメライちゃんに疑われたことが悲しい。
「早く手をどかして、気をつけ。ね、金玉潰されたい?」
「やだ。それだけは許して」
僕はしゃくりあげながら、おちんちんから手を放し、言われた通り気をつけの姿勢を取った。
「すっごく怖がってるみたいね。このおちんちん」と、鷺丸君のお母さんがしゃがみ込んで、おちんちんに人差し指を向けた。
こんなに怯えているのだから、これ以上追い詰める必要はないということを伝えたかったのだろうと思うけれど、お姉さんは別の意味で受け取ったようだった。「ほんとだ、ちっちゃい。すっごくちっちゃいね」
小指の先っぽを示して無邪気に笑うお姉さんに同意を求められたメライちゃんは、元気のない目をおちんちんに向けた。僕のショーツのゴムを突かんで引きずり下ろした時よりも小さく縮んでいるのを認めたのか、強張った顔が少し緩んだ。
「受けるよ、これ。ほんとにちっちゃい。もうなくなりそうじゃん」と、お姉さんはいかにも愉快でたまらないかのように、おちんちんをピンと指で弾いた。
下着泥棒と疑われ、おちんちんの袋を痛めつけると脅かされたのだから、おちんちんが縮んでしまうのも自然の道理だった。こういう自分の意思ではどうにもならない、生理現象について笑われたり馬鹿にされたりするのもまた辛いことだった。勃起してしまったのを嘲笑されるのと同じだった。
「ちゃんと明かしてくれたら、あんまり痛い目に遭わなくて済むよ。ね、ほんとはナオス君が盗んだんだよね」
「違います」
「だったら教えて。なんでナオス君がメライちゃんの下着を穿いてたのかな」
「だから、さっきから何度も言ってるようにこれは」
「Y美さんの家で命令されて穿いたっていうんでしょ」
しゃくりあげて言葉が詰まった僕に代わって、質問したお姉さんが言葉を継いだ。
「はい」と、答えた僕は、素っ裸のまま気をつけの姿勢を取らされ、全てを晒している僕の体を、鷺丸君が醒めた目で見ていることに気づいた。同性なのに、僕への共感や同情を全く欠いた、軽蔑の視線が僕の頭から爪先までを舐めるように這っている。
恥ずかしい。不意にこの場から立ち去りたくなって、おちんちんや胸に自分の腕を巻きつけてしまう。もうこれ以上全裸姿を見られたくない、隠したいという気持ちから出た振る舞いだった。
「気をつけェー、だよね。何度も言わせないでよね、お願いだから」
ギュッとお姉さんに乳首を捻られる。僕は激痛に悲鳴を上げ、急いで気をつけの姿勢に戻った。
尋問は続いた。このショーツを出したのはY美に間違いないか、と問われ、はいと返事をしたものの、よく考えると、分からなくなってきた。初めから籠の中に入っていたので、Y美が出したところを目撃した訳ではない。
「あんた、さっきはY美さんたちに無理矢理穿かされたって言ったじゃないの。ほんとに命令されて女物のショーツを穿いたの?」
言葉に詰まり、俯いてしまった僕の顎の下にお姉さんは指を入れた。すっと顎を上げさせる。涙が一筋、頬を伝った。着用を許された衣類の入った竹籠の中にショーツが含まれていた。だから穿いた。それだけだった。
「それって要するに、あなたが勝手に籠の中の衣類を身に着けたってことだよね」
お姉さんがまとめる。うんうん、とメライちゃんも、鷺丸君のお母さんも頷いている。鷺丸君はパイプ椅子にだらしなく腰かけて、興味なさそうだった。早くマジックの練習を始めたくて仕方がないように、苛々と組んだ足を揺すった。
「だけど、籠の中の衣類は、着ていいってことになってたんです」
「そこ、あやしいんだよねえ。ナオス君が自分で勝手にそう思ってただけなんじゃないの?」
お姉さんは僕の目とおちんちんを交互に見て、言った。少しでも嘘や隠し事が混じったら、すぐにこれらの器官に現れると信じているようだった。
そんなことないです、と僕が答えた時、誰かがアトリエのドアを叩いた。立て付けの悪いドアの軋む音に続いて、お母さんの「まあ、いらっしゃい」という明るい声が合唱の練習にも使用するアトリエに響いた。ちぇっ来やがった、と舌打ちして、鷺丸君がかったるそうにパイプ椅子から腰を上げ、出迎える。
入ってきたのは、同じクラスの男子3人だった。びっくりした僕は、お姉さんに叱られるのも忘れて、慌てておちんちんに手を当てた。これまで、クラスの女子には何人にも裸を見られてしまったけれど、鷺丸君とみっくん以外の男子にこんな情けない姿を目撃されるのは初めてだった。羞恥で顔が真っ赤に染まってしまった僕に、驚いた男子たちが声を掛けてくる。僕一人だけ素っ裸で立たされているのだから、驚くのも無理はない。
曖昧に、言葉少なにごまかしていると、お姉さんが笑って、説明した。男子たちは「嘘、まじかよ」「下着泥棒はやべえよ」と騒いだ。
男子たちはインターホンを押しても誰もいないからアトリエまで来てみた、と言った。アトリエには基本的に人は入れないんだよ、と苦虫を潰したような顔をする鷺丸君に、レーシングカーの模型を渡し、「貸してくれてありがとな。俺たち、楽しんだから」と礼を述べ、「かっこいいよな、すっげえ速いし」「写真もたくさん撮ったよ。俺も欲しいよ」などと褒めるのだけれど、鷺丸君は全然嬉しそうではなかった。
「あ、メライさんもいる」と、一人がマジックショーの仕掛けボックスの裏に隠れたスクール水着姿のメライちゃんに気づいてしまった。
「こんにちは、メライさん」
「こんにちは」と、メライちゃんは仕方なさそうに皆の前に出てきて、小さく答えた。
「なんで、そんな格好してんの。ナオスは真っ裸だし、何か面白いね」
「こいつに下着盗まれたって、ほんと?」と、一人が素っ裸の身をくねらせている僕の方を顎でしゃくった。
「なんかメライさんの水着、サイズが小さくない? 窮屈そうだけど」
「お前ら、うるさい」と、鷺丸君が一喝した。男子たちはキョトンとして、辺りを見回した。その間抜けな姿を見てクスッと笑ったお母さんは、「ごゆっくり」と一言残して、アトリエから出て行った。
「ナオス君、気をつけだって。すぐに忘れるんだね」
予想していたこととはいえ、お姉さんに叱られた。三人の男子たちが何事かと僕の方を見る。彼らの前で気をつけの姿勢を取るのは非常な抵抗があった。おちんちんが丸出しになってしまう。
「気をつけ。まだ尋問は終わってないんだよ。気をつけが基本でしょ」と、お姉さんは一糸まとわぬ身を朱に染めて強張らせる僕に命じた。「いや、もういいよ。気をつけはしなくていい」と、急に前言撤回したかと思ったら、「手を頭の後ろで組もうか」と、更に過酷な命令を下す。
体が言うことを聞かない。足を開いて、頭の後ろで手を組む、そのポーズを取ることができない。こんな恥ずかしい、屈辱的なポーズを取らなくてはいけない理由はない。ただ、下着泥棒の疑いをかけられている以上、従わなくてはならなかった。お姉さんの気紛れに付き合わされる僕は、たまったものではなかった。それにしても質問を受けるのに、なぜこんな格好でなければならないのか、気をつけだって納得できないのに。
「早くしようよ。それとも、金玉蹴られたいの?」と、お姉さんの口調が厳しくなった。「やべえよ」「痛いよ」と、男子たちが色めき立った。僕は観念した。まるで罪人扱いだ、と思うと、ついしゃくりあげてしまう。
悔しさと羞恥に苛まれた体を意識をして、動かす。頭の後ろで手を組み、足を肩幅よりもやや広く開く。お姉さんが男子たちへ衣類を放った。鳩に餌をやるような仕草だった。「マジかよ、お前」「こんなの着て歩いてきたのかよ」「変態じゃん、変態」と、男子たちは僕がここへ着てきたタンクトップやミニスカートを広げ、自分の体に当てたりして、喜んでいる。
「ねえ、同じ男の子に裸見られるのって、どんな気分」と、お姉さんが僕の首筋にふっと息を吹きかけて小声で訊ねた。「おちんちん、じっくり見られてるんだよ。同じクラスの男の子たちだよね。プライド傷つくでしょ?」
腕や足をぶるぶる震わせて立つ僕は、「もう許してください。ほんとに僕じゃないんです」と答えるのが精一杯だった。「おめえ、こんなチンポちっちゃかったんだ」「女子に見せちゃ駄目だよ、これは」「情けねえなあ、丸裸にされてよ」と男子たちは嘲笑し、呆れた目で僕を見つめる。
スクール水着をまとったメライちゃんは、男子たちの前で開脚させられた。鷺丸君が「こいつ、体柔らかいんだぜ」と、自分の彼女を自慢するのだった。フローリングにぺたりとお尻を着けたメライちゃんはそのまま足を水平に広げ、鷺丸君に押されて上体を前へ倒した。「おお、すごい」「スクール水着がちっちゃいよ」「股が千切れそうじゃん」と喚く男子たちの声がいやでも耳に入ってくる。僕は屈辱のポーズを保った。
「早く白状しちゃいなよ。でないと、いつまでもこんな恥ずかしい格好だよ」
お姉さんは不機嫌そうに呟くと、僕の耳の裏側をペロリと舐めた。背中に胸の膨らみを押しつけてくる。
メライちゃんのむずがる声がした。「メライさん、ホントに柔らかいんだな」「スゲエ」「やわらけえ」と、男子たちが感嘆している。あろうことか、鷺丸君は彼らにメライちゃんの体を触らせているようだった。
「やめて、くすぐったいよ」
半泣きになりながらも、メライちゃんは鷺丸君の命令に従って、されるがままになっている。僕でさえ触れたことのないメライちゃんの胸やお尻をクラスの大してメライちゃんと親しくもない男子たちが触っている。その様子がメライちゃんの悩ましげな声から伝わってくる。鷺丸君が言った。「もう少し水着を引き下ろしてみろよ」
ちゃんと前を見て、動いちゃ駄目でしょ、と叱責するお姉さんを僕は無視した。とてもじっとしていられない。くるりと体を回すと、「いやあー、やめて」と叫ぶメライちゃんに群がる男子たちの襟首を掴みにかかった。彼らを一刻も早くメライちゃんから引き離したかったのだけれど、あっけなく突き飛ばされ、弾みで床に頭を打ちつけてしまった。
「素っ裸のくせに生意気だぞ」「邪魔すんなよな」「メライさんだって喜んでんだよ」と、お楽しみを邪魔立てされた三人の男子たちに罵られ、お尻や背中を蹴られる。メライちゃんは僕が助けに入ったわずかな隙を突いて、マジックで使う仕掛けボックスの中に隠れた。それにしても大人しい、どちらかと言うと目立たない性格だった彼らがここまで乱暴になるとは意外だった。僕を取り囲み肉体を痛めつけたところで、一度火の付いた彼らの性的欲求はどうせ解消できやしないのに。
「動くなって言ったのに、なんで言うこときかないかな」
お姉さんは腕を組んだまま、溜め息をついた。歩み寄ってきたお姉さんに気づいて、男子たちが急いでスペースを空けた。床で海老のように体を折り曲げている僕の情けない泣き顔を見下ろすのに適した位置だった。
薄いピンクのマニュキュアを施した足の指が横に動いたと思ったら、抱き起こされた。男子たちを手伝わせてお姉さんは僕を合唱の練習をする方へ運んだ。照明の届かない奥には黒光りするグランドピアノ、その横には舞台を作る台が積まれてあった。天井近くの窓から射し込む光がこれらの周囲に浮遊する埃の結構な量を明らかにしている。
ハンドルをお姉さんの指示によって男子の一人が回すと、舞台用のカーテンを吊るす棒が下りてきた。
「できればこんな手は使いたくないんだけどね。いつまでも強情張るつもりなら、こっちにも考えはあるからねえ」
僕を下着泥棒の犯人だと思い込んでいるお姉さんは、男子たちに「君たちも手伝ってね」と声を掛けて、左右に広げさせた僕の腕を棒に固定させた。お姉さんにぎゅっとおちんちんの袋を掴まれてしまったので、下手に動けない。手首に細いロープが食い込んで痛いことに気づいたのは、お姉さんの手がおちんちんの袋を離れたあとだった。
大欠伸した鷺丸君がパイプ椅子にどっかと腰を下ろした。素っ裸の僕が四肢を広げた状態で固定されるのを退屈そうに眺めている。お姉さんから鉄製の重い棒を受け取った男子たちは、棒の穴にロープを通して輪っかを作ると、そこに僕の足を嵌めてぎゅっと締めつけた。男子たちは面白半分に僕のおちんちんをいじってふざける。
いやだ、お願いだから許して、と体を大の字で拘束された素っ裸の身を動かせる動かして、訴える。腰をどう捻っても、一糸まとわぬ体のどの個所も隠すことができない。男子たちは僕の肌に日焼けの差がほとんどないことに驚いていた。
ハンドルが回され、棒に括りつけられた僕の体が宙を浮く。両腕を引っ張られて苦悶する僕をよそに、お姉さんと男子たちはおちんちんを下から眺めるのが新鮮で面白いと盛り上がった。鷺丸君が仕掛けボックスにこもったメライちゃんを引っ張り出して、「お前もこいつの裸はくまなく見て知ってるだろうけど、金玉袋とかちんちんとか、こういう角度だとまた違って見えるだろ」と言い、指示棒のような物で下からおちんちんの袋やおちんちんを突いたり揺すったりした。
「さ、みんないることだし、はっきり言ってもらおうかな」
お姉さんは、吊り上げた棒を元の位置に戻すと、腕の痛みから解放されたばかりで荒い呼吸を繰り返す僕に向かって、メライちゃんの下着を盗んだことを認めるよう迫った。「おう、お前ら、いいよ」と鷺丸君が合図を送った。
まるで飼い主の許可を得て犬が餌に食らいつくみたいだった。男子たちは一斉にメライちゃんのスクール水着に包まれた体を揉みしだき始めた。
「ほんとに僕、知らないんです。盗んでません」
四肢をしっかり固定されて、もうさっきみたいにメライちゃんを助けに行くことができない。聞こえてくるのは男子たちの上ずった声ばかりだった。「すっげー」「次、俺の番」「いい、メライさん、いい」と、何本もの手が無言で耐えるメライちゃんのスクール水着の上を這い回っている。
「やめて、メライちゃんの体をこれ以上彼らに触らせないで」
「あんたね、人のことより自分の心配をしなよ。あんたが女の下着に執着する変態だって知ってんだよ。あんたがこっちに向かう途中、Y美さんから電話あってね。あんたきのう、Y美さんの下着を漁ったんだってね。聞いたよ」
そんな、酷いです、と口にするのが精一杯だった。Y美の悪知恵ぶりに胸が潰れそうな不安を覚える。僕に女装させ、メライちゃんのショーツを穿かせただけでは足りず、もっととことん僕が苛められるように仕向けている。
「あんたが犯人だって証拠に、メライちゃんのショーツのにおいを嗅げば、おちんちんが反応するからね」
お姉さんは、僕がここへ来るまで穿いていたショーツをポケットから取り出すと、僕の目の前で広げてみせた。男子の一人が水着を引き下ろしてよいか、鷺丸君に問いかけた。なぜか敬語だった。
「お前らも好きだな。こんなチビ女、どこがいいんだか。勝手にしな」
すすり泣きが聞こえた。メライちゃんだった。やめて、やめて、と繰り返し首を横に振っても男子たちの水着のかかった手は容易には離れない。肩のストラップがずり下げられていく。
「ほら、しっかり嗅ぎなよ。あんたの好きな女物のショーツだよ」
男子たちの背中に隠れて、スクール水着を下げられていくメライちゃんの白い体が首元辺りまでしか見えない。背中と背中の隙間から露出した胸が見えるかと思った瞬間、ショーツに顔を覆われてしまった。触らないで、いや、舐めないでそんなとこ、とメライちゃんが喘ぐような、切ない声を上げて訴える。ピチャピチャと音が聞こえる。
「ほうれ、やっぱりね、これが証拠だよ。ね、あんたが下着盗んだ犯人」と、お姉さんが勝ち誇った声で断言する。「おちんちん、起ってるよね。なんで硬くしてんのかな」
ショーツを顔から外された僕は、違う、違うんです、と弁解を試みるものの、全く説得力を欠いていることを自覚せざるを得なかった。お姉さんがにやにや笑いながら、上から指で硬化したおちんちんを押さえつけている。指を外すと、ピンと跳ね上がったおちんちんが下腹部を打った。
「下着を嗅がされたくらいで勃起するってことは、やっぱりあんたが犯人てことだよね」
待って、ほんとにそれは違う、と言いかけたところでお姉さんのしようとしていることが分かって、恐怖に身が縮んだ。なんとお姉さんは片足をすっと僕の股間に入れて、足の甲でおちんちんの袋を下から擦るのだった。両足もまた両腕同様、棒に括りつけられているので、股を閉じられない。おちんちんを丸出しにしたまま、いかなる防御の姿勢も取ることができない。恐怖の脂汗が背中から内股を伝って垂れる。
「お願いです。ちょっと話を聞いて」
「黙りなよ。この変態下着泥棒」もう聞く耳を持たないとばかり、お姉さんが冷たく言い放った。「お仕置きをするから、覚悟しなさい」
お姉さんのおちんちんの袋を圧迫していた足の甲が下がった。その足が後方へゆっくりと弧を描き、足裏がお姉さんの肩越しに見えたところで止まった。
許して、僕じゃない、と叫んだけれど遅かった。「ごめんなさい、違うの」とメライちゃんの悲鳴に似た声が重なって聞こえたような気がした。
鋭い痛みがおちんちんの袋に発生し、爆発したように波動が内臓から首まで伝わる。頭のてっぺんまでもズキズキと痛む。声が出なかった。口から涎がツーンと垂れて、鷺丸君に「きたねえな、おめえは」と叱られた。おちんちんの袋から下腹部周辺までに及ぶ激しく鋭い痛みが時間の感覚を失わせるまで長く続く。その間、僕は力が全然入らなかった。ずっと両手で吊るされていた。
蹴り上げられて元に戻った時もおちんちんの袋がぶるぶる震えていた、ゴムのように伸びたのを見た、などと男子たちのひそひそ話す声が聞こえた。さすがに僕を気の毒に思ったかのようだった。
棒に縛られていた手足を解かれて、床に倒れ込んだ僕は、なかなか退かない激痛のために少しも動くことができなかった。メライちゃんがずっと付き添ってくれていることは、肩や背中に感じる手の温もりから認識できたけれど、それ以外の変化については全く気付かなかった。男子たちが帰ったこと、お母さんが来て、冷たいタオルでおちんちんの袋を冷やしてくれたことは、後で知った。
「ショーツをかがせて、勃起したから、つい犯人だって思ったんだけどさ」と、お姉さんの話す声がする。「悪かったわ。違ったみたいね。すっかり騙されたよ」
「変だよ、姉ちゃん。ショーツのにおいで勃起したからイコール下着泥棒って、ちょっと無理ありすぎだろ」
鷺丸君の突っ込みにお姉さんも「そうだよね、ハハハ」と、にこやかに同意する。
「でも、なんでその、ナオス君のおち、おちんちんが…」と、メライちゃんが口を挟む。
「それはね、私も気づかなかったんだけど、丁度私の後ろであなたが男の子たちにぺたぺた体触られてたでしょ、水着半分脱がされてさ」
「いやだわ、そんなんでおち、おちんちんを硬く、硬くするなんて」
「でもこいつ見てないんだぜ、ショーツ被らされてたからな。音だけ聞いて反応してんだからさ。びっくりだよな」と、メライちゃんを安心させるかのようなフォローを入れたのは、鷺丸君だった。
「ありがと。でも、一番悪いのは私なんです」と、メライちゃんがふと肩の力を抜いたように息を吐き、鼻をすすった。寝返りを打って目を上げた僕は、スクール水着姿のメライちゃんが床に正座して、がっくりと首を前へ垂らしているのを見た。膝に置いた手の甲に涙が次々と落ちていた。
予定よりもうんと遅れてマジックショーの練習が始まった。下着泥棒に疑われ、精神的にも肉体的にも痛い目に遭わされた僕に対して、メライちゃんもお姉さんも、それから茶菓子を運んでくれたお母さんも、すごく親切だった。
ことにメライちゃんの気遣い、優しさ、親密な態度は驚くほどで、やたらと僕の手を握ったり、肩や腰に腕を回したりして、まるでメライちゃんと僕は彼女彼氏の関係だった。このまま鷺丸君から僕に鞍替えすればよいのにと胸がときめいたけれど、メライちゃんの手が僕の肌、背中や腰回りに直接触れると、甘い電流のようなものが走り、うっとりしてしまうとともに、やはりどうしても自分が一糸もまとわぬ裸体であることを意識せざるを得なくなる。
いかに恋人どうしのように振る舞ったとしても、一方はスクール水着姿であり、もう一方は全裸であれば、この時点で対等な関係は成り立たなくなる。メライちゃんと僕がいかに睦まじく見えたとしても、それは上っ面だけのことに過ぎない。全裸でいることを強要されている者とメライちゃんのような女の子が付き合うなどとは、誰も考えない。
そう確信するからこそ、メライちゃんは安心して、親しみと優しさのこもった態度で僕と接することができるのだろう。でも、そのための条件として、僕は衣類をまとってはならなかった。二人が対等な関係にならないよう、常に僕は素っ裸でいなければならない。僕が穿いていたショーツをメライちゃんはもう僕に渡そうとしなかった。僕が何度懇願しても、「ごめん、これ私の物だから、貸せないの」と、メライちゃんは拒絶した。
そのため、僕は前回の時みたいに素っ裸のまま練習に参加しなければならなかった。何もかも丸出しでいると、どうしても動きがぎこちなくなり、鷺丸君に叱られる。それにしてもメライちゃんはなぜ、こうもじろじろと僕の体を、不必要と思われるまでに眺めるのだろう。幸いだったのは、合唱団の子供たちが今日は練習に来ていないことだった。
昼食を母屋で済まし、町役場へ向かう。出掛けるのはメライちゃんと僕の二人だけだった。
夏祭りステージショーの出演者は、町役場でイベント実行委員会の面接を受けることになっているのだけれど、鷺丸君は特別枠としての出演が決まっている。つまり、主催者から依頼を受けて出演する側だった。当然、面接の必要はない。
「だったらさ、同じ演目に出る僕たちも免除してくれればいいのにね」
家を出る直前になってようやく渡されたタンクトップとミニスカートを身に着けた僕は、自分がメライちゃんと同じ女子の格好をしていることに改めて気づかされた。なんとも居心地が悪くて、黙ってバスを待っているのが苦痛だった。
「そんな訳にはいかないのよ」と、メライちゃんが大人びた口調で答えた。「だって私たちがステージに出ることは主催者の人たちの知らないことなんだから」
乗り込んだバスは満席だった。メライちゃんと僕は並んで立つ。二人とも、うんと腕を伸ばしてやっと届く高さにある吊り革につかまった。ショーツを穿いていないので、落ち着かない。スカートがめくれたらお尻やおちんちんが丸出しになってしまう。
「面接って何を聞かれるのかな。質問にうまく答えられなかったら、ショーに出られなくなるのかな」
ソワソワした気持ちを落ち着かせる意味からも、僕には会話が必要だった。
「あ、そう言えば鷺丸君のお母様が話してくださった時、ナオス君はいなかったもんね。おいしい炊き込みご飯だったのよ」
小さな塩おにぎりを一つしか与えられなかった僕は、早々に食事が済んでしまい、お姉さんに連れられてアトリエで待機させられたのだった。僕は小柄で小食だから食事はそれだけで充分であるとおば様から鷺丸君の家へ電話があった。それしか与えないのが自分たちの教育方針だから、とおば様に言われたお母さんは、その通りにしないと逆に恨まれるかもしれないと考え、僕には椎茸の炊き込みご飯を食べさせてくれなかった。
食事の間、お母さんがメライちゃんの質問に答えてくれたところによると、メライちゃんと僕が一緒に受ける面接は、名前と生年月日、どんなことをするのか説明するだけの簡単なものらしい。演目の説明はメライちゃんがすることになっていて、僕はただ自分の名前と生年月日を言えばいいだけ。
一銭もお金を持たず、ハンカチもない、着の身着のままの僕は、メライちゃんにバス代など必要な経費を払ってもらうことになっていた。面接を受ける際に提出する書類もメライちゃんの手提げ鞄の中にある。何も心配ないよ、私のそばにいればいいだけなんだから、とメライちゃんは言い、にっこり笑う。
それでもまだ一抹の不安を拭えない。僕は今、女の子の格好をしている。バスの乗客たちが好奇に満ちた視線を僕に向けているのがはっきり分かる。しかもスカートの下はノーパン。この格好で面接を受けて、大丈夫だろうか。
「ちょっと、そこの子」と、後ろの席から中年女性の怒鳴るような声が聞こえた。「あんたよ、違う、ワンピースの子じゃなくて、その隣のミニスカートの子。ちょっとこっちに来なさい、ほら、早く」
有無を言わせぬ迫力で、手招きする。呼ばれたのは僕だけど、メライちゃんも付いてきてくれた。
「あんた、ほんとに女の子なの? 私たち、さっきから話し合ってんだけどさ、私は女の子と思ってんだけど、他の人は男の子よって言い張るのよ」
ごめんなさい、男の子です、と白状しようとした矢先、いきなりメライちゃんが「女の子ですよ」と、答えた。
女性たちはどよめいた。五十がらみの女性の一人は、賭けに負けて小銭を取られたのが悔しいらしく、「ほんとに女の子なの?」となおも疑いの目を向けた。
「はい」と、僕は余計な嘘を強いられる原因を作ったメライちゃんを恨めしく思いながら、力なく答えた。
「証明してみなさいよ」と、一人が声を荒げた。たちまち、それに同調する「そうよ、そうよ」という声があちこちから聞こえてきた。顔を上げると、後方の席は同じ話題を共有する中高年の女性たちで埋まっていた。
証明と言われて戸惑う僕に一人が声を掛けた。「ちょっとタンクトップ脱げないかしら、すぐ済むからね」
「いやです、無理」と、僕は即座に答えた。服装、声だけでは、僕が女の子なのか男の子なのか判然しないらしい。でも、だからと言って服を脱ぐのはいやだった。人を勝手に賭けの対象にして、裸になれだなんて、あまりに理不尽すぎる。
メライちゃんが申し訳なさそうな顔をして僕の手を握り締めてきて、
「女の子なのに服を脱がせるなんて、酷くないですか」と、一方的に押し寄せてくる中高年女性のパワーに負けじと反撃を試みた。
「何言ってんのよ。ほんとは男の子のくせに。脱げないんだったら、男の子なのに女の子の格好してる変態だって教育委員会に連行するわよ」
教育委員会と聞いて周囲から軽い笑いが起こった。この町では警察よりも教育委員会の方が懲罰の厳しいことで知られている。
「だってほんとに女の子ですもの」と、メライちゃんが恐怖と羞恥のあまり舌のうまく回らなくなった僕に代わって反論した。「女の子なのに服を脱がせるなんて、それこそ教育委員会に通報だわ。女児虐待だもん」
「私はね、さっきバスの中であんたがこの子にナオス君て呼びかけたのを聞いたんだよ。それって男の子の名前だよね。どうしても女の子だって言い張るなら、上だけでもいいから脱いでごらんなさいよ。もしほんとに女の子だったら迷惑料として一万円、あんたに払うからさ」
バスの中は異様な雰囲気になった。乗客全員がこちらを見ているような気がする。僕を女の子と見たのはごく少数だったようで、大半は賭けに負けた側だった。「女の子です」と言い張るだけでは到底収まりそうになかった。今更ながらメライちゃんを恨めしく思う。最初から正直に男の子ですと答えれば良かったのに、女の子で通した方が余計なトラブルに遭わなくて済むと思ったのだろうか。
ごめん、ちょっと脱いであげてよ、とメライちゃんが囁いた。上半身だけだったら、女の子と誤魔化すことができ、迷惑料一万円が貰えると踏んだのだろうか。六十がらみの女性たちの手が僕の着ているタンクトップの裾に掛かり、引っ張る。いやがる僕の腕を上げさせ、あっという間に上半身を裸にしてしまった。
反射的に腕を交差させて乳首を隠した僕は、女性たちの手で胸を露わにさせられた。胸と乳首に彼女たちの視線が集まる。板そのものの胸、全く起伏のない胸を見て、女性たちは「男の子よ、これは」と叫んだ。
「まだ子供なのよ。膨らむ前かもしれないわ」と反論する女性もいて、彼女たちは入れ替わり立ち替わり、僕の胸をじっくり観察した。乳首を押したり、弾いたりする。恥ずかしい。なんでこんな目に遭わなくてはいけないのだろう。泣きたくなってくる。
「少し膨らみかけてると思いませんか」と、メライちゃんが僕の下から胸をむんずと掴んで、同意を求めると、すかさず「同じくらいの背丈のあんただってもう少し膨らんでるじょ。これは男の子の胸よ、絶対そうよ」と、反論される。
ふと、お尻に涼しい風が入った。女性の一人が後ろからミニスカートをめくったのだった。いや、と叫んで急いでスカートの裾を押さえる。「この子、パンツ穿いてないわよ」と、素っ頓狂な声がバス内に響き渡り、爆笑を起こした。
お尻を見られた。幸い、股を完全に閉じていたので、おちんちんには気付かれずに済んだ。「パンツを穿いてないなんて、ますます怪しい。変態は男性が多いんだから」と、中高年の女性たちはいよいよ僕に疑惑の目を向けた。僕を女の子に賭けて小銭をせしめた女性たちまでも、今では本当に僕が女の子かどうか疑っているようだった。
六十がらみの女性は、僕にスカートの前をめくるように求めた。反射的にスカートの裾を押さえ、「勘弁してください」と懇願するものの、「上だけ脱いでもはっきりしないんだから、仕方ないじゃないの」と、全然聞き入れてくれない。タンクトップを脱ぐように促したメライちゃんも、さすがにこれには当惑し、「なんでこんなことしなくちゃいけないんですか」と頬を膨らませた。しかし女性は、「いいから、めくりなさい。ノーパンなんだから調べやすいじゃないの」と、威圧的な調子で迫るばかりだった。
一瞬でいい、ほんの一瞬で、という言葉を信じて、僕はスカートの前の部分だけを上げることにした。泣きたい気持ちを堪えて、そっと上げる。上げた瞬間、手首を掴まれ、別の人の手がスカートの裾を摘まんだ。スカートを上げた状態を保持される。女の人たちが押し合うようにして、剥き出しになった股間を一斉に覗き込んだ。
「あらやだ、ほんとに女の子だったのね」
信号待ちするバスのエンジン音に混じって、失望の溜め息が聞こえた。身を乗り出した女性たちはがっかりして、お尻をずしんと座席に落とした。
「ごめんね、もう一度まくってもらっていい」
スカートを下ろして、股を開いた時だった。最初に僕に声を掛けた、お腹に脂肪のたっぷり付いた女性が僕の上気した顔を見ながら、せがんだ。
仕方がない、二度目を渋ると逆に疑われるかもしれない。僕は内股になってから股を閉じ、求められた通り、スカートの前の部分の裾をめくった。
「ふうん、確かに女の子ねえ」
顎に手を当てて、感心する。でも、その目はどこか疑わしげだった。何人もの女性が前の人に覆い被さるようにして、視線を向ける。
「もう、いいですか。恥ずかしい」
「次は後ろを向いてくださいますかしら」
上品な言葉でお願いしてくる。僕はスカートの裾を一旦放し、言われた通り回れ右をすると、手でスカートの裾を直す振りをしておちんちんとおちんちんの袋を前面に出してから内股を閉じた。めくるわよ、と断って、女性たちがスカートをまくった。
「お尻なんか見たって女の子か男の子か分かる訳ないじゃないですか」
メライちゃんは呆れた顔をして、太った女性を睨み付けた。
「まあ、いいから。可愛いお尻ねえ。あんたも見てごらんなさい」
「別にいいです。私、もう何度も見てるし・・・」
「あら、そんなに見てるの」と、女性の一人がくすりと口に手を当てて笑った。メライちゃんはしまったという顔をして、ぽかんと口を開けた。
「もう一回前を向いて、めくって」と、今度は別の女性に要求された。内股になってからミニスカートの裾を上げる。と、すぐにお尻を見せてと言われる。前を見たいといったそばからお尻を見せろと言いつける。その間隔が次第に短くなってきた。
バスの中で上半身裸のまま、前を向いたり後ろを向いたりして、スカートの中身を晒しす僕は、その度に股を開いたり閉じたりして、おちんちんを後ろや前へ移動させて押し込んだ。その動作が何かおかしいと女性たちは気付いたようだった。
町役場までもう少しだった。「あなた、ほんとに女の子だったのね」と、中高年の女性たちはようやく納得したような顔を見せた。迷惑料の一万円はメライちゃんが受け取った。床に落ちて、複数の足に踏まれたタンクトップを拾おうとした時、紫色に髪を染めた六十がらみの女の人が僕の手を取って、「あんた、女の子の胸じゃないねえ」と言った。
ちょうど疑惑が晴れて、ホッと息を抜いたところだった。その女の人は僕の手をいきなりメライちゃんの胸に押しつけた。
「女の子の胸ってのは、こんな感じなんだよ」
メライちゃんは短い悲鳴を上げ、僕の手を払おうとして体を背けるのだけれど、紫に髪を染めた女性は、僕の手を強くメライちゃんの胸に押し当てて放さない。
「やめて、何すんのよ」
「これが女の子の胸だよ、どんなに発育が遅くてもね。いかがかな、自分の胸とは全然違うだろうに」と、紫色の髪の女性がしわがれた声で笑う。
一方的に押し当てられただけではなく、僕自身の手が動いて、ぎゅっとその膨らみを手の中に収めた。柔らかな起伏で、果実の硬い皮のような触り心地だった。ワンピースの薄い生地越しに掴んだ発育中の胸を通して、息遣いまで伝わってくる。手の窪みのところにポツンと当たったのは乳首だった。上から押されて形を崩した乳首が僕の手のひらをくすぐる。
勢いよく頬を平手打ちされて、自分の手をメライちゃんの胸に押しつける力はもう存在していないことに初めて気づいた。ただ、自らの意思でメライちゃんの胸を揉んでいる。頬を赤らめたメライちゃんの目にうっすらと涙が溜まっていた。僕は急いで手を放したけれど、性的な興奮は容易には収まらない。メライちゃん、ブラジャーを着けていなかった。ピクンと反応して、おちんちんは完全な硬化状態だった。
あれ、なんかスカートの前がふくらんでるわよ、何かしら、と笑いを押し殺した声がした。もう内股になったところで意味がなかった。中高年の女性たちの手で盛大にスカートがめくり上げられると、バスの中は一瞬にして嬌声と笑い声に包まれ、この公共の空間がたちまちパーティー会場のようになった。
「おちんちん、おちんちん、しかも何これ、起ってる」
キャーという悲鳴が幾層にも重なり、女性たちは笑い転げた。座席や窓を叩いて騒ぎ、「信じられない、おちんちん起ってる」と、はしゃぐ。見せて、もっと見せて、と叫ぶ声がして、スカートが目いっぱい上げられ、そのままの状態で後方に移動させられ、じっくり観察された。何人もの手が硬くなったおちんちんを指で突っついたり、擦ったりした。
腰回りが妙に涼しくなったかと思ったら、スカートのホックが外されていた。とうとう僕はゴム靴を履いただけの裸に剥かれてしまった。おちんちんを必死に隠そうとしても手を後ろに回される。
お願いです、やめてください、と嘆願し、裸身をくねらせる。彼女たちはおちんちんを摘まんだり扱いたりすることをなかなかやめてくれなかった。バスの前方にいる人たちは、後方の人たちと比べて幾らか静かだったけれど、僕がこうして裸に剥かれて晒し者、慰み者になっていることに対して少しも同情的ではなく、むしろいい気味だとせせら笑うような、冷たい視線を投げかけてきた。
女の子の振りをしていたけれど、結局は男の子だったということで、メライちゃんと僕は、後方の二人掛けの席を占める中高年の女性たちに向かって土下座させられることになった。メライちゃんと並んでバスの汚い床に正座する。僕はタンクトップもスカートも取られた裸の状態で、ゴム靴だけを身に着けていた。騙してしまい申し訳ございませんでした、と床に何度も頭をこすりつけて詫びる。メライちゃんは詐欺師呼ばわりされ、迷惑料として受け取った一万円を返しなさいよ、と太った女の人に詰め寄られた。
べそをかいたメライちゃんが一万円を返すと、すぐに髪を紫に染めた女の人がメライちゃんに千円札を握らせた。「とっときなさい。あんたも汚らわしい男の子に胸を触られていやな思いをしたんだろ。私が触らせたんだからね、迷惑料だよ」
メライちゃんは無言で頷き、涙を拭うと、しっかりした声で礼を述べ、頭を下げた。
「ナオス君の股のところに余計な物が付いてるからいけないのよ」
町役場前という停留所にバスが到着し、多くの乗客に混じって下車する時、メライちゃんがこう囁いた。僕はまだゴム靴以外は何もまとわない裸のままだった。タンクトップとミニスカートは、バスを降りてから着ることを条件に返してもらったのだった。女の子の振りをしてみんなを騙した罰だよ、と太った女性はその条件に不服を示した僕に言った。タンクトップとミニスカートは僕にではなく、メライちゃんの手に渡された。「いいね、バスから降りるまで渡したら駄目だよ、絶対にね」と、わざわざ釘を刺す始末だった。
バス停の人々にじろじろ見られながらも、急いで灌木の密集する茂みへ裸体を忍ばせた。バスが走り去って完全に見えなくなるまで、メライちゃんは僕に服を渡すつもりはないようだった。
茂みの中に服が投げ込まれたのは、しばらくしてからだった。
集合時間である二時の少し前に町役場に到着した。ロビーはイベント出演者と思われる人たちでごった返していた。スタッフの腕章を付けた人たちがあちこちで人々に囲まれ、何か説明をしていた。メライちゃんと僕は近くの輪に加わった。
身振りを交えて詫びながら説明するスタッフは、低姿勢だった。途中から聞いた僕たちはよく理解できなかったので、「すみません」と声を掛けると、振り向いたスタッフの顔つきが急に険しくなった。それまでずっと引き気味だった顎がすっと前に出てきて、まるで顎の先に目があるかのように僕たちを見下ろした。大人の男性にしては小柄で、メライちゃんと僕が背伸びした時と同じくらいの背丈だったけれど、胸を反らすようにして立つので、実際以上に大きく見えた。
「なんだよ、おめえら説明聞いてなかったのかよ、めんどくせえな」
と、うんざりしたように大きな溜め息をつく。ごめんなさい、と直ちに謝る僕をメライちゃんが悲しそうに見つめた。スタッフは舌打ちをし、夏祭りイベント実行委員会の会議が長引いていること、面接開始が予定よりも遅くなるということを、かったるそうに、うんざりしたような口調で話した。
「で、いつ始まるんですか」
そう聞いた僕は、いきなり「馬鹿野郎」と怒鳴りつけられた。ロビーにいる人たちの視線が一斉にこちらに集まる。大丈夫、服を着ている、ミニスカートを穿いた女の子の格好だけど、裸ではない、と自分に言い聞かせる。
面接の始まる時間になったら館内放送で知らせると聞いて、僕たちは町役場の外に出た。強風が起こってめくれてしまったスカートを慌てて押さえる。ノーパンだ、と叫ぶ若い男の人の声が聞こえた。僕の前に回り込んで、にやにや笑いを浮かべる男の横をメライちゃんと僕は黙ってすり抜けた。と、後ろからスカートをめくられた。男の高笑いを背にして、走って逃げる。
角を曲がり、町役場の建物に沿って配置されたベンチの一つに腰を下ろした。ここなら窓から館内放送が聞こえる。メライちゃんが手提げ鞄から財布を取り出すと、自動販売機から缶ジュースを買ってきた。一本だけだった。
「ほんとは二本買いたかったんだけど、お金がなかったの。二人で半分こね」
プルトップを引いて、メライちゃんがまず口を付けた。さっきバスの中で迷惑料として千円を受け取ったのに、僕と缶ジュースを分かち合いたいためにとぼけているのかと思うと、メライちゃんがいっそう愛おしくなる。
「さっきのスタッフの人、ひどくない? 私たち、何も悪いことしてないのに」
メライちゃんの缶を持つ手がかすかに震えた。
「そうだよね」
「そうだね、じゃなくてさ。ナオス君、すぐ謝ったでしょ。何か謝るような悪いことしたの? 説明で聞き取れなかったところを確認したかっただけでしょ。なんで、あんな風に簡単に謝るのよ」
「うん、そう思うよ。ごめんね」
「また謝ってる」
ぷいと顔を背け、また缶ジュースを口元へ運ぶ。僕と半々に飲むという約束は忘れているのかもしれない。メライちゃんの喉が小さな鈴のような音を鳴らした。
女の子の格好させられてどんな気分なの、とメライちゃんに聞かれた。僕は女の子がポシェットを掛ける理由が分かったと答えた。タンクトップにしろ、このミニスカートにしろ、とにかく物を入れる場所がない。ズボンだったらポケットがあって、何でも入れられるけど、女の子はズボンのポケットにもあんまり物を入れたがらないね、せいせい丁寧に折り畳んだ薄いハンカチが入ってるぐらいだよね、と言うと、メライちゃんは笑って、膨らんだポケットなんて男の人みたいでかっこ悪いよ、と返した。
「でもさ、僕、女の子の格好で面接を受けるなんて、変に思われるよね」
「何言ってんの、ナオス君。面接は、ステージに立つ時の衣装で受けるんだよ」
知らなかったの、とメライちゃんが驚いた顔をした。ということは、メライちゃんはスクール水着に、僕はパンツ一枚にならなければならない。僕は急に自分が今、スカートの下は何も穿いていないことを思い出した。
メライちゃんは最初、僕が穿いていたショーツを水泳の授業の時に盗まれたものだと言った。しかし、実際は盗まれたのではなかった。更衣室から出ようとしたところをY美たちに取り囲まれ、没収させられたのだった。鼻をすすりながらスカートの中のショーツに手を掛けたメライちゃんに、Y美は「早く脱ぎなよ」と急かした。
「私が正直に言えなかったせいで、ナオス君が盗んだって疑われちゃったんだよね。ほんとにごめんね。ショーツ貸すからさ、これ穿いて面接受けなよ」
手提げ鞄から出された白いショーツを受け取った僕は、ありがと、と礼を言った。メライちゃんを恨む気持ちよりも、よかった、これで素っ裸にならなくて済むという安心感が優った。
「ショーツ、もう返さなくていいからね。どうせ嫌な思い出しかないんだし。でも、その上履きは返して。これもY美さんたちに取り上げられものなの」
メライちゃんは言い、僕が今足を入れているピンクのラインが入ったゴム靴を指した。もう上履きとしては使えないけど、と微笑しながら缶ジュースを僕に渡す。缶の中身はほとんど空っぽだった。
ありがとうございます。
このようなリクエストは初めてです。
承知しました。
お応えできるかは分かりませんが。
いつもありがとうございます。
どんどん展開しないといけませんね。
少しスピードアップしたいところです。
やっと更新しました。
個人的にはナオスくんが、色んな人の前でじゃんじゃん発射させられ、メライちゃんも未成熟な身体を剥き出しにされて、辱しめられるシーンが増えることを期待しています。ナオスくんのつるつる短小包茎おちんちん同様、メライちゃんがぺったんこおっぱいや、つるんつるんのワレメちゃんを指摘されたり触られたり、強制されて、みんなの前で互いの恥ずかしいところを舐めあったりする場面があったらいいと思います。
さらに…ナオスくんのお母さんや、メライちゃんの兄妹たちが、二人の恥ずかしい姿を見たり、同じようにY美たちに辱しめられる展開があったりしたら、もうたまらないでしょうね。
なんだか好き勝手な リクエストを書いてしまいまして申し訳ありません(__) 今後もご自分のペースで、ナオスくんの物語を綴っていってください。続き、楽しみにしています。
たまにY美がナオスさんをいじめてる人やメライちゃんを襲おうとした人を懲らしめる話がありますよね?
まずは二人きりになるところから始めたいですね。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
X様だけでなく、ストーリーの一部(大部分?)に不快な思いをされる方が少なくないようです。
どうぞお許しください。
ストーリーの流れ上仕方ないことなのですが、男子生徒や男の人がナオスさんやメライちゃんを虐めるシーンは読んでいて嫌気がさしますね…
逆にそういう部分があるからいじめという行為がリアルに感じでしまうのですが…
いつもありがとうございます。
女装ってそんなに恥ずかしく感じなかったというぼくの経験が出てしまいましたね(笑い)。
女装はいつかは来ると思ってましたが、
普段服を着せてもらえないナオスくんには
あまり羞恥心を刺す効果はないように思えますね。ただ段々同級生への露出が増えてるようですが、Y美はクラス単位でのいじめに移行しようとしているのでしょうか。
これからの展開に期待しています。
どうぞお身体にお気をつけ下さい。
いつもありがとうございます。
長い絵巻のようなものをイメージして書いています。
前話のY美の過去に続いて、今度はおば様が男嫌いという事がわかった回でしたね!
過去にY美の家で何が起きたのでしょうか?
今回はY美のバスタオル一枚姿でナオスさんを心配して駆けつけてくるシーンが良かったです。
Y美とナオスさんの体格差が更に広がった事もわかった回でしたね…