縁側の雑巾掛けは、二往復目を終えたところだった。縁側の雑巾掛けは必ず三往復以上という決まりに従い、息をついてからもう一度方向転換をする。みなみ川教の集会所で過ごすみそぎの生活も四日目に入った。僕は相変わらず素っ裸だった。この家に入った時から今に至るまで、布切れ一枚与えられていない。
「こんにちは。よろしくお願いします」
体重を掛けた雑巾を両手で前へ押し進める僕の目に、門から庭に回り込んできたメライちゃんの明るい色のシャツが見えた。思わず俯いてしまう。伸ばした足と足の間で丸出しになっているおちんちんがぷるんぷるんと揺れていた。
「今日は随分早くない?」
バケツの中で雑巾を注ぎながら、僕は訊いた。どうでもよい質問だっだけれど、全裸で過ごすことを余儀なくされている今の状況で、沈黙はばつが悪かった。
「そんなことないよ」
びっくりするくらい大きな声を出して否定したメライちゃんは、上半身を家の内側へ傾けて壁の時計に目をやった。「だって、もう三時だよ」
「そうだったね」
正確には五分前だったけれど、確かに早すぎるという時間ではなかった。ただ、初日からしてY美たちは時間を守らなかったし、昨日は四時近くになってやっと到着したくらいだから、約束の時間前に来ていると、それだけで早いと思ってしまうのだった。
「Y美さんたち、まだ来てないんだねえ」
一人だけ時間前に着いて変に思われることを心配しているのか、メライちゃんはそわそわしながら庭を見渡した。砂利を敷き詰めただけの殺風景な庭だった。門の近くと柵沿いに草花がまばらに生えている。
「ねえ、どうなの?」
縁側に腰かけたメライちゃんが返事を促した。家屋の端に茂るドクダミの草に向かって雑巾掛けに使った水をぶちまけた僕は、空になったバケツで前を隠しながら縁側に戻り、メライちゃんの物思いに耽るような横顔を見た。
取りあえず、「うん」と答える。メライちゃんはこちらを向いて首を傾げた。小さくて丸っこい爪先に引っ掛けたサンダルがぶらぶら揺れて、今にも落ちそうだった。僕は急いで言葉を継いだ。
「まだ来てないみたいだね」
縁側の廊下を磨いた雑巾で丁寧に足の裏を拭い、家の中に入って冷蔵庫から麦茶を、食器棚からコップを一つ出すと、お盆に乗せてメライちゃんに運んだ。逆光で陰影深い顔になったメライちゃんが一瞬こちらを見て、目のやり場に困ったように視線をまた庭の砂利に戻した。
「ありがと。もう一杯くれる?」
よほど喉が渇いていたらしく、メライちゃんは立て続けに麦茶を三杯飲んだ。
「今日もなんだか暑い、暑い。でも、この家は風通しがよくて涼しいね」
縁側についた手を突っ張り棒のように伸ばし、メライちゃんは上体を後方へ傾けた。庭から吹きつけてくる風を浴びて、涼しそうに目を細める。
「ずっと裸なんだね、ナオス君」
縁側で正座する僕をちらりと見てメライちゃんは言い、すぐに目を伏せた。床に座る時は正座がみそぎ期間中の規則だった。股間に手を置き、おちんちんを見られないようにしていたけれども、僕が日常的に一糸まとわぬ格好でいることに、メライちゃんは今更ながら驚いたという顔をする。
二階からターリさんが下りてきてメライちゃんに会釈すると、メライちゃんはびっくりして、ひれ伏すかのように頭を下げた。
続いてIさんが縁側に顔を出した。弾むような足取り、ノースリーブのシャツに短パンという格好からして、宗教的な行事から離れているのが分かる。そういう時のIさんは、気さくで、ちょっと神経質なところがあるけれど、まあ普通の部類に入るお姉さんという印象を受ける。
「いらっしゃい。あなたが一番ね」
笑顔で挨拶され、メライちゃんはターリさんの時以上に時間をかけて頭を下げた。Iさんは「大袈裟ねえ」と軽く笑って、すぐに引っ込む。今朝、近所の農家から段ボール箱いっぱいのジャガイモが届いた。隣の部屋でそれを分ける作業をターリさんと再開したようだった。
みそぎの期間中、メライちゃんとY美、S子、ルコ、ミュー、風紀委員、N川さん、エンコの八人は、午後三時にこのみなみ川教の集会所に来て、僕のみそぎを手伝うことになっているのに、Iさんは、時間厳守についてはさほどうるさくないものだから、Y美たちは自然と時間にルーズになっていた。
僕は僕で一応決められた仕事、風呂場洗い、水撒き、拭き掃除を終えたところで、指示待ちの状態。珍しく手持ち無沙汰だった。改めて、この建物の中には僕の居場所がないんだなと思う。寝る場所である二階の板敷の間は、Iさんかターリさんの許可がなければ入れない。何か理由を付けてこもってしまうことのできる部屋がどこにもない。そして、縁側にはメライちゃんがいる。
こんな災難に遭う前だったら、しかも僕が裸でなかったら、これはとても嬉しい機会だったのに、と思う。
メライちゃんにはおちんちんを扱かれ、射精する瞬間を見られた。しかも一度ならずときている。Y美たちに唆されたとはいえ、おちんちんの袋を蹴られ、電気あんままでかけられた。そのせいで、二日経った今も時折おちんちんの袋が思い出したようにキーンと痛くなる。昨晩は夜中に突然、激しい痛みで目が覚めた。
なんでこんな目に遭わなければいけないんだろう。大勢の女の人の前でオナニーさせられ、メライちゃんには最前列でしっかり見られた。飛び出した精液をシャーレで受け止めたメライちゃんの、僕のことを軽蔑しきった顔は、忘れようとしてもなかなか忘れられるものではない。それを思い出させるという意味からだけでも、今はメライちゃんと話をする気にはなれなかった。
そんな僕の気持ちは、しかし今のメライちゃんには全く伝わっていないようだ。まだY美たちが来ず、裸の僕と二人だけで縁側にいることの不安を紛らわせたいのか、珍しくやたらと僕に話し掛けてくる。
やっかいなのは、それが多く質問の形を取ることだった。
夜はどんなことをされているのか、縛られる時は痛くないのか、他にどんな恥ずかしいことをさせられているのか、などと答えにくい、できれば喋りたくないことをズバズバ訊いてくる。適当に言葉を濁しても、そっと胸の奥に封印しておきたい僕の気持ちを察することなく、次々と質問を浴びせてくる。
「だからさ、昨日は何回出させられたのって、分かるでしょ、質問の意味」
赤らんだ顔で問うメライちゃんにまともに向くことができず、僕は正座の姿勢を崩さないまま、もじもじと体を動かした。もちろん股間にしっかり手を当てて、腕を交差させ、上半身の裸もなるべく隠すようにしている。
「よく覚えてないよ、そんなの」
ただ場を持たせるだけの質問にしては重い。メライちゃんはなぜそんなに知りたがるのか。単なる好奇心かもしれないけれど、僕の気持ちももう少し考えて欲しかった。もっと人の気持ちを察する繊細な女の子だったのに・・・ 早くY美たちが来てくれないかな、などと自分でも意外なことを思ってしまう。
「そうなんだね。覚えてないんだね。思い出してみてよ。まず朝でしょ?」
昨日は朝食の後、Iさんに扱かれて一回、午後、天井の梁からうつ伏せの格好で吊るされたまま、みぞきの手伝いに来ていた女の人たちに嬲られて一回、夜にはIさんとターリさんに自慰を強制されたけれど、射精寸前のところで止められたので、結局計二回精液を出したのだった。僕は、正直に二回と答えた。
「確かなの?」
「そうだよ。でも、なんでそんなこと訊くの?」
「今日はもう出したの? 今朝はどんなみそぎを受けたの?」
僕の質問を完全スルーして、質問を重ねる。質問に答えなかったり、いい加減な返答でお茶を濁したりするのを許さないような気迫を感じる。メライちゃんの機嫌を損ねると、Y美たちとは別の意味で、面倒なことになる予感がした。
「まだだよ」と、僕が答えると、メライちゃんは「そう」と言って、安心したように息をついた。麦茶をもう一杯所望する。僕は空のコップを受け取って立ち上がると、台所に向かった。今度はお盆を使わず、麦茶をなみなみと注いだコップを直接手渡す。メライちゃんはコップにちびちびと口を付けた。僕は続けて、今朝は四つん這いでお尻を叩かれたこと、麻縄で手足を一つに縛られ吊るされたことを話した。
「そうなんだ。ごめんね、変な質問ばっかりして。私もね、すごく恥ずかしいことさせられたんだよ」
今まで質問するばかりだったメライちゃんがおもむろに自分のことを話し始めた。
それは、僕と二人でごみ拾いをさせられた日のことだった。メライちゃんは麦わら帽の男に襲われ、着ていた白いワンピースを破られた。その前にも藪の中をくぐり抜けた時に腰のあたりに大きな穴をあけていたので、着ている物は、ぼろぼろの布切れも同然だった。僕が大勢の女の人たちが見ている前での強制オナニーを終えると、Y美たちはメライちゃんを連れて、場所を移した。
そこでメライちゃんを待っていたのは、恥ずかしい苛めだった。ゴミ拾いを中途半端に終わらせたという理由で、ぼろぼろのワンピースに鋏を入れられ、少しずつ体から布が落ちていった。
麦わら帽の男に襲われたところを助けだされたばかりの時は、Y美はすごく優しかったし、慰めてくれたのに、いつのまにかいつもの性悪なY美に戻っていた。周りを畑に囲まれた空き地でメライちゃんはブラジャーとパンツだけという格好にさせられ、Y美の仲間たちから次々と蹴られた。
意外だったのは、僕には比較的同情的な態度で接してくれるミューがメライちゃんに対しては、冷酷だったということだ。ブラジャーをたくし上げられ、乳首が外界の空気に直接触れると、ミューはその乳首を捻り上げたという。ブラジャーの肩紐が二つとも切られた。メライちゃんは全身をがくがく震わせて、ベソをかきながらやめるように訴えたが、風紀委員に「大人しくしていた方がいいよ」と忠告された。
ジョキジョキと鋏を鳴らして、S子がメライちゃんのパンツの布を切り裂く。手足をしっかり押さえられているので、全く抵抗できず、気がつけばお風呂に入る時と同じ格好、素っ裸に剥かれていた。やだ、と叫んで胸に手を当ててしゃがみ込むものの、後ろ髪を掴まれ、引っ張り上げられる。そばに置き捨てられていたポリ袋をN川さんが拾ってきてY美に手渡した。Y美はそれをメライちゃんの裸の胸に押し当てて、ゴミ拾いの続きを命じるのだった。
もう日没して薄暗い時間帯だった。高台の道路からは、下の空き地で素っ裸のままゴミ拾いをさせられているメライちゃんに気づかれる心配はなかった。もし昼間の明るさだったら、周囲の人も黙っていなかっただろう。
やかで公園に引き上げられたメライちゃんは、四つん這いで歩かされた。泥沼の中を這い、背中を踏まれて胸からお腹にかけて泥にまみれる。汗にあえながら砂場に着くと、そこで足蹴にされ、泥と砂が全身の肌にこびり付いた。
泣きながら土下座をし、なんとか理不尽な暴力から解放されたメライちゃんは、相変わらず素っ裸だった。立ち上がることができず、服を返してほしいとY美たちに頼み込んでも、みんな、にやにや笑って答えない。そのうち、S子が口をひらいた。
「もうこれじゃ着たくても着れないんじゃない?」
地面にヒラヒラと舞い落ちたのは、メライちゃんの衣類の残骸だった。S子が偏執的な情熱で切り刻み、ワンピース、ブラジャー、パンツは小指の爪ほどの小片と化していた。「すごい。こんな細切れにしたんだ」とミューは感嘆し、そのうちの幾つかを手のひらに取って、息で吹き飛ばした。と同時に一陣の風が巻き起こり、かつてメライちゃんの衣類であった布の切れ端は、たちまち夜の闇が広がる畑の方へ飛ばされた。
「酷い。こんな格好でどうやって帰ればいいのよ」
「知らないよ、そんなの」
胸と股間をしっかり手で隠して茫然とするメライちゃんを取り囲み、女の人たちは嘲笑した。裸で帰ればいい、と一人が言うと、みんなが一斉に頷き、「裸、裸」と囃した。メライちゃんはこの日何度目になるのか分からないけれど、嗚咽を漏らした。
「そうだ、忘れてた。これ、返してあげるよ」
N川さんが鞄から取り出したのは、メライちゃんの運動靴と白い靴下だった。僕と組んでゴミ拾いをさせられることになった時、Iさんの命令でメライちゃんは裸足にさせられた。その時に脱いだ物をN川さんが預かっていたのだった。
「よかったねえ。これで安心して帰れるじゃない」
Y美が皮肉たっぷりに言った。踝までも届かない丈の短い白い靴下と運動靴を履いたメライちゃんは、しかし、裸であることに変わりはない。膝から上は完全な裸状態。よろよろと立ち上がったメライちゃんを風紀委員が感心しながら見回した。
「エッチな恰好だね。裸をわざわざ見せたい人みたいだよ」
「知らなった。メライって露出狂だったんだ」
口さがない女の人たちに好き勝手なことを言われても黙って耐えるメライちゃんの腕をY美とS子が取り、公園から公道に出た。そのまま住宅街に向かって歩かされる。車が通る時はY美たちが囲んで隠し、歩行者とすれ違う時は、メライちゃん自身が走って電信柱に隠れたり、ゴミ置き場のネットの中に潜り込んだりした。
靴を履いているだけあって、メライちゃんは敏捷な動きで人目を凌いだ。Y美が僕のことを引き合いに出して、「あんたはまだ恵まれてるほうだよ」と、言った。
「あの子は頭の先から爪先まで素っ裸だよ。素足で歩かされてるんだからね」
「あの、Y美さん、ちょっと、そんな、やめてください、やめて、指を伸ばさないで・・・当たってる・・・いや、そんなこと・・・」
Y美に丸出しのお尻を撫で回され、掠れた声で抗議する。
後ろから自転車が来た。メライちゃんはウサギのように跳ねて、向かいの家の門の中に隠れた。やり過ごして出てきたところ、今度は車がいきなり角を曲がってきた。この時ばかりはさしものメライちゃんもその煌々と太い光の束を投げかけるヘッドライトの網から逃れることはできなかった。急ブレーキが夜を迎えたばかりの住宅街に響いた。
車から降りてきたのは、大柄な、ずんぐりむっくりの体型をした男だった。
「危ないじゃないかよお」
低くこもった、聞き取りづらい声で男は言い、すぐにニタニタ笑いながら裸のメライちゃんに大股で近づいた。メライちゃんが危険を感じ、くるりときびすを返して走り出したのと、ずんぐりむっくりの男がダッシュをかけたのは、ほぼ同時だった。
男は、その体型からは想像できない程に速く動き、メライちゃんはたちまちに腕を掴まれてしまった。
「だめ。放して、いやあ・・・」
「いいからいいから。それよりさ、あんた、なんで裸なんだよ」
「触らないでください、やめて。触らないで・・・ダメーッ・・・」
腕を背中に回され、自由を拘束されたメライちゃんは、体をひねったり腰を引いたりして男のべたべた触れてくる手から少しでも逃れようと奮闘するのだけれど、それは男の色情を煽るだけだった。男の呼吸が異様に荒いのは、走ったせいばかりではなかった。小刻みにねっとりとした息をメライちゃんの外気に触れた肌へ吹きかけてくる。
乳首を吸われた。下品な音を立てて、男は二つの乳首を交互に吸った。
「いやあ…やめて…」両手を後ろで掴まれているメライちゃんが不自由な体をくねらせる。
股間の柔らかい部分へ男のぶよぶよした手が伸びてきた。「助けて、お願い、Y美さん…もういや…」
その時、男の口から言葉にならない声が漏れた。突然の痛みに衝撃を受け、眼鏡の分厚いレンズの向こうにある小さな黒目が上を向いて、そのまま眼球の裏側に回ってしまいそうだった。男はがっくりと膝を追って地面に倒れた。
最初何が起こったのか分からなかった。Y美とS子が二人して子供用の自転車を持ち上げ、背後から男の頭に向けて投げつけたらしいと察した時には、メライちゃんはY美に引っ張られるようにしてその場を離れていた。
「逃げて、ばらばらになって」
Y美の一声で、これまで唖然として事態を見守っていた女子たちの体が動き出した。立ち上がった男は、怒りの叫び声を発し、すぐに追いかけてきた。Y美たちは三々五々に散った。裸のメライちゃんはY美、S子と一緒だった。三人とも男から逃げることに必死だったので、どこをどう走ったのか覚えていない。
気がつくと、家の方角とは全然違う場所にいた。
住宅街を抜けるのは、まだあの男が潜んでいるかもしれず危険だから、うんと遠回りにはなるけれど、雑木林の向こう、人の気配のない道を選んで帰ることにした。Y美とS子は、道々、裸のメライちゃんに恥ずかしい苛めをいっぱい加えた。棒切れでお尻を叩いたり、明るい街灯の下で一分以上気をつけの姿勢を保つよう命じたりした。
男をぶちのめすのに使った自転車は、近くの家の庭から勝手に引っ張り出したのだった。Y美が「よくあの自転車に目がいったね」と感心すると、S子が照れ笑いを浮かべながら、「もうとにかく必死だった、メライが襲われては大変だと思って」と、メライちゃんの方をチラリと見て、恩着せがましく答えた。
改めて礼を述べるメライちゃんに、Y美は「ほんとに感謝してるんだったら、その恩を一生忘れたら駄目だよ。私たちの言うことは絶対だからね」と、念を押した。メライちゃんはアスファルトの小石がいっぱい散らばった舗装路に膝をつき、土下座をした。Y美とS子がそうするように命じる以上、靴と靴下以外は何も身に付けていないメライちゃんとしては、これに従う以外のどんな選択肢も残されていなかった。
「このたびは危ないところを助けてくださって、誠にありがとうございました。メライはこれから一生、Y美さん、S子さんの言うことに従います」
強制されたとはいえ、こう宣言してしまったメライちゃんは、もうY美たちに逆らう気力が自分の中にそれほど残っていないことに気づいたと、僕に白状した。メライちゃんの潤んだ瞳がじっと僕を見つめている。
僕が「いいよ」と応じたので、メライちゃんは、その翌日の話をした。つまり、昨日のことだった。昨日は一日雨だった。ここへ僕のみそぎを手伝いに来て、帰り時にはS子のお母さんが車で迎えにきた。S子に誘われ、その車にY美と乗り込んだメライちゃんは、そのまま鷺丸君の家に連れて行かれた。
鷺丸君のお姉さんが門まで出迎えてくれた。お姉さんの美術作品の制作にメライちゃんが協力する約束だった。車の中でY美に言われるまで、その約束のことはすっかり忘れていた。
「駄目じゃん、約束忘れてちゃ」S子に髪の毛を引っ張られ、顔が上向きになったところで頬を張られた。
玄関を入ったところで、いきなり服を脱ぐように命じられた。
「え、ここで脱ぐんですか・・・どうして・・・」
「いちいち質問しない。ここで脱いで。全部」
芸術作品を制作することで頭がいっぱいのお姉さんは、厳しい眼差しをメライちゃんに向けて、着ている物を全て脱ぐように苛々した口調で繰り返した。
鷺丸君もそこにいた。鷺丸君とはすでに唇を重ね合った仲だった。裸もくまなく見られ、四つん這いの姿勢を取らされた時には、後ろから触られた。今更恥ずかしがることはないだろうとお姉さんは思っていたのかもしれないけれど、皆が見つめる中、自分だけが洋服を一枚一枚脱いでゆくのはとても恥ずかしく、ブラウスをどうにか脱いてからは、スカートのホックを外す手が震えてうまく動かなかった。
結局、Y美とS子、鷺丸君が恥ずかしがるメライちゃんの体から半ば力ずくで洋服を剥ぎ取り、下着、靴下も脱がせて、一糸まとわぬ格好にしてしまった。外出先から帰ってきたお母さんが玄関先で丸裸のまま立っているメライちゃんを見て目を丸くしたけれど、お姉さんの美術作品のモデルになるのだと聞いて、ほっとしたように息をつき、「あなたならかわいい、きれいな体だからきっと立派に務まるわよ」と、励ました。
招じ入れられたのは、マジックショーの練習をするアトリエではなく、母屋の二階だった。透明なビニールシートが床一面に敷かれてあった。気になったのは、鷺丸君まで同行したことだった。美術作品制作の部屋には、お姉さんと二人しか入らないと思っていたメライちゃんは、そこにY美やS子はおろか、鷺丸君まで立ち会っていることに納得できなかった。
「仕方ないでしょ。鷺丸にはいてもらわないと困るのよ」
お姉さんが言い、三脚スタンドの撮影用ライトを付けた。胸と股間に手を当てて、恥ずかしそうに体をくねらせているメライちゃんの白い体が照らされた。
「メライは俺の彼女だから、しっかり見守る必要がある、なんてカッコイイこと言ってんだよ。自分の弟ながら、えらいじゃんと思ったわけ。それでね、ちょっとこいつにも協力してもらおうと思ってさ」
そう言ってお姉さんが取りだしたのは、大きなシャンプー容器だった。中見は透明なジェルで、鷺丸君の手によってこれがメライちゃんの全身にくまなく塗られた。Y美とS子が暴れるメライちゃんの手足を封じた。
「いやだよお、こんなの。何するんですか…」
顔、耳の裏側までジェルを塗られ、強烈な照明を浴びたメライちゃんの裸体は、全身がぬらぬら妖しく光って、同性のY美やS子までもが何度も生唾を飲み込む程だった。泣きっ面のメライちゃんをお姉さんが「泣くんじゃないの」と叱咤し、四つん這いになってお尻を高く上げ、腰を振るように命じた。
まずはメライちゃんの動きをチェックするのが今回のお姉さんの目的だった。三脚スタンド付きの撮影用ライトが強い光を当てる中、お姉さんの構えるポラロイドカメラはビニールシートの上で悶えるように動くメライちゃんの恥ずかしい姿を捉え、何枚も写真を吐き出した。
白いテーピングをお姉さんから受け取った鷺丸君は、それでメライちゃんの手首を後ろで一つにまとめてぐるぐる巻きにした。メライちゃんが力を込めてテープを引き千切ろうとするのだけれど、とても叶わなかった。部屋の戸がノックされ、お母さんがちょっと顔を出した。メライちゃんのぬるぬるした体を見て、にっこり笑って頷くと、とろろをたっぷり盛った鉢を鷺丸君に渡した。
シートの上でぬるぬるした裸体を滑らせながら、後ろ手に巻かれたテープを解こうと悪戦苦闘するメライちゃんに、細いすりこぎ棒で山芋とろろをかき回す鷺丸君が近づいた。気づいたメライちゃんが顔を強張らせた。
「やめて。お願いだから変なことしないで」
「心配すんなよ」
「言うことはなんでも聞きます。だから変なことはしないで」
「変なことじゃないよ。姉ちゃんに協力するんだろ」
メライちゃんのことを好きだと言い、恋人にしてもよいなどと言ったものだから、メライちゃんは意に反して鷺丸君と男女の交際をすることになってしまった。それなのに、鷺丸君はちっともメライちゃんのことを大切に思っていないようだった。お姉さんの指示するがまま、何かとてもいやことを実行しようとしている。全身にジェルを塗られ、両手を後ろで縛られたメライちゃんの全裸姿をにやにやしながら見つめている。羞恥に苦しむ彼女を労わろうとする気持ちは、微塵も感じられなかった。とても好きな女性に対する態度とは思われない。
「いやあ、やめて・・」
体を仰け反らせて喘いだメライちゃんの体を撮影用ライトの光があまねく照らす。鷺丸君が山芋のたっぷり付いたすりこぎ棒をメライちゃんの股間に挿し入れ、前後に軽く揺すった。お姉さんに言われ、山芋とろろをかき回してから、もう一度同じことを繰り返した。小さな乳首の上にも白い山芋とろろが盛られた。
「ねえ、乳首の色が濃くなってない?」と、S子がぼそりと呟いた。
「ほんとだ。かわいいピンク」
山芋とろろに見え隠れする乳首をじっと見つめて、Y美はにんまりと笑う。
「平べったい胸のくせに、何よ、あの乳首は」
不愉快そうに吐き捨てるS子の声を聞きながら、メライちゃんは股をきつく閉じて、くっ付けた足を擦り合わせる。じわじわと痒くなってきて、すぐに強烈な痒みに達した。強烈な痒みが全身を小刻みに震わせる。
Y美とS子がお姉さんからメライちゃんをモデルにする美術作品について話を聞いている時だった。ただならぬ呻き声が聞こえて、その方に目を向けると、羞恥に全身の肌を朱に染めながら、のたうち回るメライちゃんの姿があった。
ヒイイ、という悲鳴に似た喘ぎが絶えずメライちゃんの口から漏れていた。
「痒い…痒いわ…お願い…痒いの…」
縛られた手がテープを引き千切らんばかりに動き、全身を打ち震わせ、か細い喉から引きつった声を上げる。誰もメライちゃんに手を差し伸べようとしなかった。ただ、冷徹に見つめる視線の矢がメライちゃんの一糸まとわぬ体のあちこちに刺さっただけだった。お姉さんはポラロイドカメラを手に取り、次々とシャッターを切った。
痒みに悶え、喘ぐ姿をたっぷり観察された。しまいにはすりこぎ棒が鷺丸君の手で股間の秘所にぎゅっと押し当てられ、グリグリと回された。執拗だった。メライちゃんはぬるぬるした体を床に滑らせ、抵抗する。
必死に抵抗しているのに、時間は遅々として進まなかった。それは、とてつもなく長い時間だった。強い痒みは思考力はもちろん、感覚も麻痺させる。
気がつけば、メライちゃんは素っ裸のまま車の後部座席に乗せられていた。仕事帰りのおば様が車で鷺丸君の家まで寄ってくれたのだった。隣にはS子がいて、両手が自由になったメライちゃんの手首をしげしげと見ては、テーピングで巻かれた跡が痛々しいね、と言った。髪の毛の湿りから冷たい水を浴びせられたことを思い出す。全身が火照っていた。自宅の前でS子に押され、素っ裸のまま外に出されたメライちゃんは、車の中にいるY美に向かって、服の返却を願った。助手席のシートを後ろへ傾けたまま窓をあけて、Y美が聞き返す。メライちゃんが手で胸と股間を隠しながら、切羽詰った調子で服を、身を隠す衣類を求めた。
運転席のおば様にY美が何事が確認した。おば様は苦々しい顔をして首を横に振った。その光景を車の外から見たメライちゃんは、すぐにY美の口からその意味を聞かされた。服はまだ返すことができないとのことだった。お姉さんの部屋でY美はメライちゃんの脱いだ服の上に炭酸飲料をこぼしてしまった。その責任から洗って返すと言い張るのだった。「糖分でベトベトする服なんか気持ち悪いでしょ、じゃまた明日」と言うとY美は、もう何も話すことはないと告げるように窓を締め切った。呆然とする全裸のメライちゃんを置いて、車は走り去った。
とにかく、こんな酷い話をメライちゃんは淡々と僕に語るのだった。でも、なんのためにだろう。僕には分からなかった。僕がいつも裸で苛められていることに同情して、自分も似たような目に遭ったと知らせて慰めようとしたのだろうか。でも、なんか違う気がする。もしも僕を慰めたり励ましたりする考えなら、こんな風に自分の身に起こった恥ずかしい出来事を語るだろうか。それは、僕の知っているメライちゃんのやり方ではない。では、なんのために。
深夜、衣類を取り上げられ、靴下も靴もない、一糸まとわぬ裸のまま帰宅したメライちゃんを、彼女の家族はどんな風に迎えたのだろうか。メライちゃんは長女で、妹や弟がいっぱいいたはずだった。誰にも感づかれないように家に入ったとして、弟たちに「あれ、どうしたの? お姉ちゃん裸じゃん」と騒がれなかっただろうか。全裸のメライちゃんが爪先立ちで歩いてもなおミシミシ鳴ってしまう床板の音に、小さな妹たち弟たちは目を覚まさなかっただろうか。
でもその前に、とメライちゃんが僕の想像を見抜いたかのように口を挟んだ。家に入る前に近所のお兄さんに見つかっちゃった、とぺろりと舌を出した。散歩に出ていたお兄さんは「いいからいいから。誰にも黙っといてやるからよお」と約束してくれ、その代わりにしゃがみ込んだメライちゃんにズボンから出した物を口に含ませた。
口を大きく開いて物を入れ、首を前後に動かした、とまた妙に細かく説明をする。僕はもう聞きたくなかった。耳を塞いでしまいたかった。と突然、「いやだ、何よ」とメライちゃんが荒げた声を出した。
縁側から離れて、メライちゃんが顔を両手で覆った。声を聞きつけて、隣の部屋からIさんとターリさんも何事かと出てきた。僕はおちんちんを正座中の股の下に押し込めようとして必死だった。不覚にも勃起していた。
「なんで、おちんちん、大きくなっているわけ?」
強い抗議、不満の意を込めたのだろうか、メライちゃんが唇を尖らした。縁側で目を丸くしているIさんにメライちゃんが説明した。「この人、私のつらかった体験を話せというから、話してたら、まさか、こんな風に…」と、勃起したおちんちんを見ては、汚らわしいと言わんばかりに顔を背ける。この人、とメライちゃんは僕のことを言った。
門の前に車の止まる音がした。ドアをあいて、礼を述べる元気な声が庭にまで聞こえてきた。悪いタイミングは重なる。Y美たちが到着したのだった。
「一体、どういうつもりよ、ナオス君」
こんなにヒステリックになったメライちゃんを僕はこれまで見たことがなかった。顔を赤くしているのは、性的に興奮してしまったおちんちんを見たためなのか、強い怒りが生じたためなのか、判然としない。僕はおちんちんを元に戻すべく必死に冷静になろうとした。だけれど、僕の意思に反して、それは別の生き物のようにピンと屹立するのだった。手で股の間に押し込めようとしても、手のひらが剥き出しになった亀頭の敏感な部分に当たり、ヒリヒリしてうまく隠すことができない。
想像の中で不覚にも膨らんでしまった、全裸四つん這いで泥水の中を歩かされるメライちゃん、全身にジェルを塗られた全裸のメライちゃんが後ろ手に縛られて、山芋のとろろを秘めやかな個所に塗られて痒い痒いと悶える姿、自宅の玄関先で男の人の物を咥えさせられているメライちゃんの淫らな姿が頭の中をぐるぐる回り、それに呼応するかのように先日、マジックショーの練習で狭い隠し箱の中に二人で素っ裸のまま閉じ込められた時のメライちゃんの肉体の感触までもがまざまざとよみがえった。
「ごめん。僕も知らないの。分からないんだよ」
おちんちんを大きくさせてしまったという、隠しようのない事実を晒して、僕はどんな弁解も思いつかなかった。弁解そのものが更に自分を惨めにするだけだった。顔を上げると、庭先にY美が来ていて、呆れた顔をして腕を組んでいた。その横にはS子、ルコ、ミューがいた。怒りを露わにしたメライちゃんを見て、Y美は僕が粗相をしたと思い込んでいるようだった。
「あんたさあ、何してんの?」
Y美が一歩縁側に近づいて、詰問する。曖昧な答えは一切許さないという構えだ。
「いえ、別にその、つまり」
「つまり、なんだよ」
「いえ、あの、そういう意味ではなく、その」
なんと返答するのが一番よいのか思いつかないまま、僕は曖昧にやり過ごそうとするかのような態度を取ってしまった。Y美の顔つきが変わった。
「お前、ばかだろ」
地面を蹴って僕を睨み付ける。傍らでS子がにやりと笑った。僕は一刻も早くおちんちんを元の大きさにしたくて、必死に冷静になろうとするのだけれど、なぜか体の方が感じやすくなっている。庭から吹いてくる微風にも全身剥き出しの肌は嬲られ、これを性的官能に変換してしまう。これだから衣類をまとわない状態というのは苦しい。全裸生活を強いられて何日も経つのに、未だに裸でいることに慣れない自分の体が呪わしい。
自転車が何台か門から入ってきた。庭に回り込んできたのは、風紀委員、N川さん、エンコだった。
「遅くなってごめん」
「ごめん。エンコが待ち合わせになかなか来ないもんで…」
口々に遅くなったことを詫びる。これでみそぎ手伝いのメンバーが全員揃ったことになる。遅れてきた彼女たちは、僕が昨日と同じ全裸の姿でありながら、Y美に叱られて緊張した面持ちで縁側に正座せられているのを見て、興味しんしんという顔をした。
「なんで座り込んだままなんだよ。お前、叱られてるんだろ。立ちなさいよ」Y美が冷たく言い放った。「早く」
いやだ、立ちたくない。でも、Y美は立てと言う。恐る恐る腰を上げた僕は、庭にいるY美たちに背中を向けてしまいたかったけれど、我慢して正面を向いた。硬くなったままのおちんちんを両手で隠す。
「なに手で隠してんだよ。気をつけの姿勢だろ」Y美が苛々した口調で命令する。「早くしろよ、このグズが。気をつけだよ」
怒られ、みんなにじっと見られているのに、まだおちんちんが元に戻らない。だけど、もうこのまま隠し続けることはできない。僕は目をつむり、観念した。
そっと手をおちんちんから外し、震える指先をなだめるようにして体の側面に密着させる。屹立したおちんちんを見て、庭先にいる女の人たちはぽかんと口を開き、心持ち顎を上げた。これまで散々馬鹿にされ、弄ばれてきたおちんちんが全くの偶然により、縁側という一段高いところから、女の人たちを見下ろしている。まるで彼女たちの支配者として君臨しているみたいだ。しかし、そんな妄想はすぐに哄笑によって消え、現実に引き戻される。
支配者なんて、とんでもなかった。どう考えても罪人として、蔑みの対象として、硬化したおちんちんという器官が晒されているに過ぎない。それを目の当たりにして、横にいるターリさんまでも野太い声で笑い出した。気を付けの姿勢を保つ僕をちらちら見つめ、庭石の突っ掛けに足を入れて、庭に降り立つ。
「お前さあ、なんだそれ。何見て興奮してんだよ」
体に触れるばかりの近さにY美はいて、斜め四十五度上方を向いたおちんちんをピンと指で弾いた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないんだよ」
いきなりY美にお尻を平手打ちされ、腰を前に突き出してしまった。どっと笑いが起こる。Y美は僕の手首を掴むと、縁側から庭に引っ張り下ろした。あまり突然だっから、僕はバランスを崩し、前に倒れそうになった。「よろけてんな、ばか」と、膝でお尻を蹴られる。その拍子に誰かの手がおちんちんを握った。
僕は改めて立たされ、詰問された。庇の影が傾いて砂利の上は裸足でもさほど熱くはなかった。頭の後ろで両手を組まされた僕は、なぜおちんちんを大きくさせてしまったのか、その理由をぽつぽつと語った。S子が「信じられない」と声を上げた。
「メライが苛めを受けたって話だけで、こいつ、エッチな気分になってんのか」
風紀委員は首を横に振って、僕の説明を嘘だと断じた。
「絶対そんなのあり得ないと思う。いくらメライがいやらしい目に遭ったって、話だけでここまで興奮できるものなの? 男の子って。絶対自分でいじってたんだよ。そうでなきゃ、こんなに大きくならないって」
すると、メライちゃんが「そういえば」と、思案顔になって口を挟む。
「私が話してる間、ナオス君、ずっと正座だったんだけど、やたらとモゾモゾしてたんだよね。で、股の間に手を入れて、なんかしきりに押し込んでるような感じだった」
「何を?」Y美が向きを変えてメライちゃんに問うた。
「何をって…」
「だから、何を押し込んでるような感じだったんだよ」
「いや、だからその、男の子の…、…おちんちん…です」
「ふうん、そうなんだ。よく見てるんだね」
勝ち誇ったような顔をして、夏休みに入って一段と背の高くなったY美がメライちゃんを見下ろした。小柄な、僕と同じくらいの背丈のメライちゃんは顔を赤くし、俯いてますます小さくなる。
おちんちんが大きくなった理由を探る話し合いは、ねちねちと執拗に続いた。勃起が収まろうとすると、すかさず手が伸びてきて、刺激を加えた。その手の持ち主は風紀委員だったり、ルコだったり、エンコだったりした。肝心のおちんちんが元の状態に戻っては真実は見つからなくなるだろうというIさんのご託宣に従ってのことだった。
みそぎの期間中、勝手な射精は厳禁だったから、Iさんたちの預かりしらぬところで、しかも何ら許可を得ないまま、射精に至るような状態におちんちんがなっていたというのは、厳重注意を要することなのだった。徹底的に理由を解明しなければならないとIさんは考え、その任をY美たちに託したのであったが、見張り役のターリさんがいかつい入道の頭をひときわ高く抜き出して睥睨しているにもかかわらず、Y美は僕を辱め、苛める格好の機会を得たとばかり、驚くほどの奔放さ、気楽さで僕に様々な質問を浴びせ、勃起の理由とは関連性のまるでないような、メライちゃんには聞かせたくないようなことまで、次々と僕に語らせるのだった。
例えばこれまで何人くらいの人に射精を見られたのかとか、おちんちんの袋を打たれるとどんな風に痛むのか、女の自分たちにも分かるように説明しろなどの興味本位な質問を、服を着た女の人たちに混じって一人だけ素っ裸の、しかもおちんちんを大きくさせた状態で両手を頭の後ろに組まされている僕に浴びせ、曖昧に答えようものなら、おちんちんの袋をぎゅっと握りしめたり、乳首を抓ったり、お尻を叩いたりして、容赦なかった。 その一方、絶えず女の人たちの手が伸びてきて、おちんちんを射精寸前まで追い込んだ。射精の波がぐんと高まると、まるでそのタイミングを見計らったかのように、手を引っ込める。僕は理不尽な性的快楽に悶えながら、時に切ない声を上げてみんなに呆れられながら、質問に具体的に答えさせられていった。
もうとっくに軽蔑されていることは重々承知しているにもかかわらず、それでもメライちゃんからあからさまな軽蔑の視線、見下すような視線をこの一糸まとわぬ体に浴びると、たまらなく辛くなって、どうにもならない羞恥で体がカッと熱くなった。
結局、勃起した原因は、僕がメライちゃんの話に耳を傾けているうちに淫らな妄想に耽り、ついには彼女と性的な関係を結びたいと欲望してしまったことにある、と結論されることになった。Y美がまとめると、みんなは一斉に拍手した。
「信じられないね。馬鹿だね、男って」
「興奮したらすぐに分かるから面白いね。自分が裸だって意識しないのかな」
原因を究明した満足感に浸りながら、S子とルコが僕を見て、大袈裟に溜め息をついてみせる。メライちゃんも晴れやかな顔をして、皆と一緒に家屋へ移動する。頭の後ろで手を組む姿勢から解放された僕は、おちんちんに手を当てて、もう片方の腕で抓られた乳首を労わるように覆い、じっと砂利の上に立っていた。虚脱して力が入らないのだった。後ろからN川さんに耳たぶを引っ張られて、移動を促される。
家の中に入った僕を待っていたのは、Iさんの怒りだった。Y美の報告を聞いたIさんは、間違いはないかと僕の目をじっと覗き込んで質した。間違いはございません、と頭を下げて答えると、いきなり太腿に蹴りを浴びせられた。メライちゃんの一身上に起こった辛い体験を勝手に自分の性的妄想に利用したこと、それは個人の尊厳を侮辱するものであると言って、立ち上がったばかりの僕に更にもう一発、今度は反対の足で蹴りを浴びせた。畳の上に倒れた僕のおちんちんを掴んで引っ張り、無理矢理立たせると、Iさんは怒気を含んだ声でターリさんを呼び付けた。
雷鳴が鳴り響くかのような足音を立てて二階から駆け下りてきたターリさんは、Iさんの命令に従い、僕の腕を取り、背中に回すと、捩った。関節を外されそうな痛みが走る。爪先立ちになって痛みに耐える素っ裸の僕を、居間のテーブルで冷たい麦茶を飲んでいたルコたちが見て、キャッキャッと笑い声を立てた。小さく縮んで震えているおちんちんがおかしいようだった。「さっきまであんなに威勢よく勃起してたのに」などと言う。
背中に回した両の手首を縄で一つに括り、縄尻を鴨居に引っかけて、引く。ターリさんが僕を縄で縛りつけて固定するまでにかかる所要時間は、僕が抵抗しても抵抗しなくても、ほとんど差がないように思われた。足首にも縄が掛けられ、Y美よりも大柄なS子でもくぐれる程度に股を開いた状態で両足を拘束された。
一体何をされるんだろうか。おちんちんを無防備に晒して、隠すことも守ることもできない状態の僕は、とにかくじっとしているのが怖くて、拘束された体をくねらせ、縄から自由になろうとむなしくあがいた。
「セルフサービスだよ。給仕人はこれからちょっと辛い罰を受けるんだからね」
麦茶のお代わりを所望したエンコにIさんは顎をしゃくって台所の冷蔵庫を示すと、Y美とS子に囲まれて作り笑いを浮かべているメライちゃんを呼び付けた。後ろ手に縛られて立ったまま鴨居に繋がれている僕を遠巻きにちらちら見ながら、Iさんがメライちゃんに懇懇と説いているのだけれど、テーブルを囲んだ風紀委員たちの話し声に妨げられて、その内容を聞き取ることはできない。
エンコのけたたましい笑い声が響いた。Y美は興味なさそうにすっと立ち上がり、ゆっくりと僕の前に来て、後ろを振り返る。Iさんに背中を押されるようにして、メライちゃんが僕の前に来た。
あなたはもっとおちんちんというものを知る必要がある、よく見て、手で触れて、馴染まなければいけない、とメライちゃんはIさんに諭されたのだった。自分の身に起こった不幸な話を聞いて淫らな欲望を起こし、勃起してしまった僕という男の子に対して、侮辱された思いを晴らさなければならない。このように吹き込まれたメライちゃんのサポート役を買って出たY美は、メライちゃんを僕の後ろへ回らせた。
ぐっと力強く手がお尻を掴み、左右に広げた。「これがお尻の穴だよ。よく見な」と、Y美が説明する。Iさんからピンクのゴム手袋を受け取ったS子が鴨居に繋がれている僕の後ろに回った。「こんなに広がるの」と驚くメライちゃんにY美は、「私たちが訓練を施しているからね」と、こともなげに応える。
腰を落としてお尻を突き出すよう、Y美に命じられる。すぐに従ったのに、お尻を何度も平手打ちされて、ピシッピシッと痛みをもたらす肉の音が響いた。
開帳されたお尻の穴にY美とメライちゃんの息遣いを感じて、羞恥に身を捩じる僕は、やめて、お願いだから、と訴えるのだけれど、声は掠れて、おまけに敏感な部分をいじられているので、不覚にも喘いでしまう。言葉にならない声を一段と高めてしまったのは、ビニール手袋に包まれた指先がお尻の穴に挿入された時だった。
すごい、こんなに入る、と感嘆するメライちゃんを恨めしく思いながら、切なくなった体をくねらせると、足首、後ろの手首にキリキリと縄が食い込むような気がした。ズブズブと指の出し入れをして、お尻の穴が更に広げられる。
痛みに悶え、今一度許しを乞う僕の目に映ったのは、誰もいない居間だった。楕円形の座卓にはコップが雑然と並んで、真ん中にサクランボを盛った硝子の器がある。ついさっきまで人々のいた気配を濃厚に漂わせていた。
どっと沸いた爆笑で、僕は気付いた。みんなは後ろに回って、僕のお尻が広げられているのを観察していたのだった。お尻への異物挿入により、喘ぎ、悶え、おちんちんがピクンと反応していた。太い棒のようなものまで入れて、お尻の穴がこんなに広がるのをひとしきり確かめると、Y美とメライちゃんは僕の前へ移動した。
まずはいじって、よく見ること、とY美に勧められるまま、メライちゃんはすでに半分硬くなっているおちんちんへ手を伸ばした。柔らかい指がおちんちんを挟む。
皮をゆっくりと動かし、亀頭を露出させ、そっと指先を当てる。おちんちんの根元を持ち、軽く揉み、直径を測るように、摘まんだ時の親指と人差し指の距離を確かめる。次におちんちんを持ち上げ、裏側を見る。筋の部分を指でなぞり、再び皮を剥くと、おしっこの出る穴を広げて、片目をつむって覗き込む。
何が見えるのよ、とたった今お尻側からおちんちん側へ移動したルコに笑われて、メライちゃんは急に恥ずかしくなったのか、その恥ずかしさを打ち消すように、おしっこの出る割れ目のような穴に向かって、フーッと息を吐いた。みんながどっと笑う。いつのまにか多くの人がおちんちんの側へ回っていた。
精液の出る穴をY美に教えられたメライちゃんは、その部分を指でこすったり、広げたり、覗き込んだりした。両足を開いた状態で拘束されている僕は、後ろで縛られている手をしきりに動かして、この羞恥責めから意識を逸らそうと必死だったけれど、効果ははかばかしくなかった。ずっとメライちゃんの柔らかい手でいじられ続けて、感じないようにしてきた気持ちよさが形になってあらわれてしまった。
完全な勃起状態になっていた。
「いやだ、なんで硬くなるのよ」不満顔してメライちゃんが僕を詰った。「またエッチなこと考えたんじょ。私が酷い目に遭ったのが、そんなに楽しいの?」
「違うよ。知らないんだよ」
自由の利かない裸身を揺さぶって弁解する僕を上目遣いで見ながら、メライちゃんはおちんちんの袋を優しく手のひらで包み込み、硬くなったおちんちんをつまんだ。Y美もS子も笑いを押し殺して成り行きを見守っている。
「こいつ、感じちゃったみたいだね。最低」
S子が頭をもたげたおちんちんをツンと上から叩いて、言った。「でも、大きくなったっていっても、せいぜいこの程度だし」と貶して、おちんちんを今度は横からツンとはじく。うう、と声を漏らす僕を見下ろして、Y美は「でも、気持ちよくなってもらう場合じゃないんだよね」と、ぼそりと呟いた。そして、ふと顔を上げると、
「ねえ、Iさん。ここは私たちに任せて、どうぞ二階で勤めに励んでください」と言い、じっとIさんの顔を見つめた。
「分かったわ。お願いね」
しばらく間をおいてからそう答えたIさんは、ターリさんを連れて二階へ行った。Y美はメライちゃんの横に腰を下ろし、おちんちんの袋を両手で触るように指示した。袋の中に玉が入っているでしょ、と言い、メライちゃんに確かめさせる。ビクッと体が反応してしまう。メライちゃんのそっと探る指がおちんちんの袋の中の玉に当たった。
あった、と答えるメライちゃんに、「それを指で押さえつけてみて」と続ける。
難しいな、とメライちゃんが呟いた。袋の中にあるそれは、押さえようとするメライちゃんの意に反してするりと逃れてゆく。袋を挟む指の間を玉が抜けると、僕の全身がぐっとのけ反る。それだけでキリッとした痛みが脳天へ突き抜けてゆく。やめて、と僕は泣きそうになって訴えた。
左右の袋の中に玉が一つずつ入っている、その意味、役割などをY美が保健の先生のように話しているのをメライちゃんだけでなく、周りの女子も真面目くさった顔をして聞いている。Y美は常日頃から僕の体をいじって、その方面の知識を深めたようだった。女の人たちが何よりも不思議そうに、興味を持って眺めるのは、玉を掴まれると、僕が呻き声を漏らして悶絶することだった。
「かわいそう、ナオス君」と、ミューが嘆息した。「おちんちん、こんなに縮んじゃって皮の中に引っ込んでる」
そんなに痛いの、とメライちゃんは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった僕の顔を上目遣いで見て、あどけなく訊ねる。その手は、袋の中の二つの玉をしっかり押さえることに成功していた。玉が逃げないよう、相応の力が加えられている。僕はもう膝に力が入らず、後ろで縛られている縄に鴨居から吊るされる格好になった。
「私たち、女だから分からないよね」きっぱりとY美が言った。「私たち、女だから。どんだけ痛がっても、分からない。分かりたくもないけど。もしかすると、大袈裟に痛がってるだけかもしれないし」
Y美は、お尻をぺたりと畳に付けておちんちんの袋の中の玉を掴んでいるメライちゃんの肩をポンと叩いて、私たち女だからね、と繰り返した。女という括りでY美に仲間のように扱われたのがメライちゃんには存外の喜びをもたらしたようで、玉を掴む手にいっそうの力がこもった。うぐぐ、と漏らす僕の呻きをエンコが口真似して笑う。脂汗と涙がぽたりぽたりと畳の縁に落ちる。
メライちゃんも辛い目に合わされているんですね…
Y美達の行動は罪に問われるべきだと思うのですが、誰もY美に対して言及する者がいないので不思議です。
メライの事を虐めながらも悪漢に襲われると助ける辺りが、Y美の過去と関係ありそうだな……
何か段々、メライがナオスきゅんを責める事に躊躇いが無くなって来てる……
好きな男の子をストレス解消のサンドバッグ代わりにしてるのか……?
か様
ああああ様
早々とコメントいただき、ありがとうございます。
少しずつ状況が変わっていきます。
ゆっくりした展開ですが、確実に進めていきたいと思います。
俺はcfnmの中にcmnfを混ぜたり、ターリや鷺丸がナオスきゅんやメライを責める今の方が大好きだけど
これから、メライが苛められるのも楽しみにしてます
メライちゃんの考えがわかりませんね。
Y美はメライちゃんと待遇は区別しつつも、
ナオス君に何か執着してるように感じます。
ともあれ御祓編が終わったらいよいよ夏祭り本番でしょうか。
どうか無理せずマイペースに続けてください。
今回も非常に良かったです。
次の更新心待ちにしております。