目が覚めると、板敷の床に月の光が射していた。閉め切った板張りの雨戸はだいぶ古びた代物らしく、ところどころに隙間があり、暗い部屋を淡い光で満たすのだった。体を動かすと床が軋んだ。
麻縄は解かれ、両手も両足も自由に動かすことができた。しかし、相変わらず一糸まとわぬ素っ裸のままだった。
ここがみなみ川教の集会所の二階であることに気づくまで、少し時間がかかった。昨日、僕はみなみ川教の儀式を中断させ、幾つもの小さな木像を倒してしまった。その罪を償うまで、この家屋に監禁されることになったのだった。
あれからY美たちはすぐに帰宅した。後手高手に縛られて鴨居につながれた僕を性的に嬲り、射精させたIさんは、女子には罪がないと言った。僕は背中に回した両腕を麻縄で固く縛られたまま、縄尻を取られ、玄関から外に出て、道路まで見送りに出された。
解放するに当たって、IさんはY美たちに条件を出した。
「毎日、ですか?」面倒くさそうにY美が訊き返した。
「そうよ、毎日。ナオス君がここにいる間は、午後三時にここに集まるの」
「みんな?」
「もちろん。あなたたち八人全員揃わなくちゃ駄目よ」
清めの儀を行ずる僕を確認し、手伝う義務があるからだ、とIさんがその理由を説明した。同級生の女の人たちは、がっかりしたようだった。
帰る間際になって、それまでどこかよそよそしい態度を取っていたメライちゃんが僕のところに来た。何か言いたいのだけれどもうまく言葉にできない、そんな感じだった。もじもじして、僕と目が合うとすぐに面を伏せる。両手を縛られて隠すことができないおちんちんが目に入っても、メライちゃんは動揺することなく、何か思い詰めたように溜息をついた。
みんなが帰るのに一人だけ素っ裸のまま残され、罰を受けなくてはならない。そんな僕に対して、さすがに同情を覚えるらしかった。
「あしたになったら、私、絶対行くからね。頑張ってね」
それだけ言うと、背中を向けてせっせと歩き出した。Y美は何か後ろめたいところがあるのか、僕の方を見ようとせず、ミューが僕の剥き出しの肩を撫でて慰めるのをやめさせ、帰宅を急かした。
とうとう女の人たちは帰ってしまった、素っ裸の僕を一人残して。一人になると、やり心細くなった。なんで僕だけ、という思いが胸の中で激しく渦を巻く。
がらんとした家の中、Iさんと大柄な坊主頭のターリさんは、僕を様々な格好で緊縛した。僕は縛られては解かれ、また新たな姿勢で縛られた。天井から吊るされた時は腕と足の付け根がきりきりと痛んで耐え難かった。座卓に仰向けに寝かされた状態で縛られた時には、筆のようなものでおちんちんと首筋、乳首を撫でられた。
両手両足をがんじがらめに縛られ、股間にも縄を通された格好で放置された。お尻に食い込んだ麻縄がじりじりと締め上げられる。おちんちんの袋にも容赦なく縄が掛けられ、下手に動くとおちんちんに痛みが走った。
作務衣を着た職人のようなターリさんという人は、Iさんによると、縛りの名人とのことだった。どんな格好の縛りでもIさんがリクエストすると、たちどころにその通りに僕を縛り上げた。そして、縛られて身動きできない僕がもがいて体をくねらせるのを面白そうに眺め、体をよじった時にできる脇腹の皺とか浮き出る背骨などに興味を示し、指を自分の唾で湿らせてからゆっくりとなぞったりした。
呼び鈴が鳴り、玄関の引き戸をあけようとする音がした。僕が緊縛された体を横たえ、Iさんに匙で夕食のスープを口に運んでもらっている時だった。引き戸に鍵が掛かっていることが分かると、まるで苛々したかのように呼び鈴が二度三度立て続けに鳴らされた。ターリさんが「はい、只今」と一声発して、玄関に向かった。
夜九時を過ぎてからの訪問者は、おば様だった。Y美から事情を聞き、すぐに駆け付けたと言う。いかにも会社から直接来たようなスーツ姿だった。僕はターリさんに縄尻を取られ、二階に移動させられた。
座卓を囲んだおば様とIさんの話し合いは、かなり長く続いた。きつい口調でまくし立てるおば様の声が聞こえると、ターリさんがにやりと笑った。
「やるじゃん、あの人。うちの巫女さんも相当な弁舌だけど、それ以上だな。俺たち男と違って女は賢いからな」
座卓をどんどん叩く音がした。おば様は理屈に合わないことをされた時、説明を求める。納得のいく回答が得られない、または相手がお茶を濁そうとすると、おば様はよく机を拳で叩いた。ヌケ子さんによると、職場の人たちはその音を聞くだけで震え上がるという。Iさんがなんとか満足してもらえるように言葉を選び選び、答える。おば様のそれに比べて、ずっと小さい、か細い声だった。
ターリさんが僕の緊縛された体を起こして、壁に寄りかかれるようにしてくれた。二階は板敷がすぐに軋むので、ただてさえ聞き取りづらいIさんの言い訳がしばしばかき消された。おば様の笑い声がして、一階からIさんのターリさんを呼ぶ声が続いた。僕を連れて下りてくるようにとのことだった。
もうおば様が来たからには解放されるのだろうとばかり思っていたけれど、違った。おば様はさわやかな顔をして僕の頬を撫で、麻縄がきれいに食い込んでいる僕の体を眺め、目を細めた。
「じゃ、頑張っていい子で耐えるのよ。清めの儀って、たった三日で済むみたいよ」
事もなげにおば様が言い、にっこりと笑い、今度はおちんちんを軽く撫でた。
「嘘でしょ、三日もかかるんですか? なんで僕が」
突然ターリさんに口を塞がれた。Iさんが僕を怖い目で睨み、縮み上がったおちんちんの皮を引っ張って、ぐるぐる回した。縄尻ではなく、おちんちんの皮を引っ張られ、玄関から外に出る。緊縛された素っ裸の身に夜の涼しい風が吹きつけてきた。
玄関脇に付けた車におば様が乗り込み、キーを差し込んで捻った。エンジンの音が僕のお腹にまで響いてくる。おば様は僕をここに置いて帰る決心を翻すことはなさそうだった。Iさんが布施を要求したが、おば様はきっぱりと断り、話し合いは平行線に終わったという。Iさんはおちんちんの皮をいつまでも放さなかった。僕はそのまま、おば様の走り去った車の赤いテールランプが交差点の角に消えるまで見送った。
当然もらえると見込んだ布施が入らなったということで、Iさんは不機嫌この上なかった。感情的に高ぶり、僕への打擲も激しくなって、立ったまま大の字に縛りつけた僕の背中やお尻を、お風呂の湯を混ぜる時に使うような、先が杓文字の形をした平たい棒を振るって散々に打った。
うつ伏せに寝る僕の背中やお尻をターリさんが濡れタオルで冷やしてくれた。相当手加減してるから痛くない筈だとターリさんが言う。ヒステリックに打ちまくる場合でも、肉体を痛めつけるよりは心に付着した汚れを払うのが目的だから、そんなに思いっきり力任せに棒を振り回すことはないのだと説明する。
人間ならぬ物たちに選ばれた人だよ、とターリさんがIさんのことを話し出した。だから崇めるしかない、自分たちのような力のない人間は、と熱心に物語る。疲れ切っていた僕は、ターリさんのお喋りに耳を傾けながら、意識が遠くなるのをどうすることもできない。別に眠っても叱られることはなかった。ふっと意識が返ると、ターリさんがまだIさんの話をしている。ターリさんがIさんに助けられたエピソードだった。僕は話半分に聞いている。程なく、深い眠りの淵に落ちた。
ふと目が覚めると、僕は二階の板敷の間に寝ていたという訳だった。棒で散々に叩かれた体を濡れタオルで冷やしてくれたターリさんが運んでくれたのだろう。途切れ途切れだった記憶の糸をつなげた僕は、相変わらず一糸まとわぬ格好ではあるものの、腕や足が自由に動くのを幸いとして、すっと立ち上がると、忍び足で廊下に出て、階段を下りた。
どんなに注意を払っても、階段は素足をおろす度にギーギーと軋んでしまう。小さな音かもしれないが、深夜の静寂に包まれた家屋の中では、十分に目立つ。しかし、僕はあまり気にしないことにした。もしもIさんかターリさんに気付かれたら、トイレだと答えればよい。実際、僕は尿意を催していた。
ふらふらと、まるで夢遊病のように土間におりて引き戸を開ける。涼しい夜の空気に素肌が包まれる。そのまま何も考えずに敷石を踏んで門に向かったところを呼び止められた。Iさんがサンダルを突っ掛けて玄関から出てきた。
裾の短いキャミソールが白くて、夜の闇の中に妖しく浮かび上がった。僕の腕が冷たい手でしっかり掴まれた。白檀の香りがした。腰が動くとキャミソールにたくさんの皺ができて、消えた。その下からは限りなく肌の色に近いパンツがちらちらと見える。
「どこへ行こうとしたの? 逃げようとしたんじゃないでしょうね?」
怒気を含んだ顔が月明かりに照らされた。僕はかねて用意していた答えを口にしようとしたけど、緊張して言葉がうまく出なかった。Iさんが鋭く聞き返す。しどろもどろになりながらも、お手洗いに行こうとしたのだとなんとか告げたものの、Iさんは腑に落ちないようだった。
「なんで外へ出るのかしら。トイレって普通、家の中でしょ?」
「はい。確かにそうなんですけど」
自分が居候しているY美の家では、家の中のトイレは女性専用であり、男の人は使用が許されていない。まずそのことを伝える。Iさんの目つきは怖かったけれど、キャミソールの薄くて今にも切れてしまいそうな肩紐に視線を向けることで、少し落ち着きを取り戻せた。庭に設えられたトイレ小屋で用を足す習慣なので、ここでもつい、トイレを探しに外へ出たのだと、割合スムーズに話すことができた。
「なるほどね。そういうものかもしれないわね」
あっさりとIさんが納得すると、僕の手を引っ張って、門の外に出た。びっくりして、Iさんの体にぴったり貼りついたようなキャミソールと小さなパンツを見る。どうもブラジャーは付けていないようだった。
「いいんですか、そんな格好で外に出て」
どきどきして、息と一緒に言葉まで弾んでしまう。
「何言ってんのよ。あなたなんか、真っ裸じゃないの」
こんな挑発的な下着姿で外に出たというのに、Iさんは全然平気のようだった。気遣う僕を憐れむように見つめる。
「それはそうですけど、でも、Iさんは恥ずかしくないのかな、と思って」
言ってすぐ、しまったと思った。ずっと素っ裸でいることを強いられている僕が口にすることではない。不意に羞恥で体がかっと熱くなる。手でおちんちんを隠した。
「あなたこそ恥ずかしくないの? 少なくとも私は衣類をまとってるのよ」
乾いた笑い声がして、Iさんが歩き出した。歩道には涼しい風が吹いて、Iさんは髪を束ねる紐を外した。艶々しい髪が風にそよいで、水のように波打つ。腕を広げて大きく深呼吸するIさんの後ろ姿を見ると、何か変に胸がドキドキして仕方がなかった。Iさんの白くて細い足とか肩のつるりとした肌、パンツからはみ出た大腿部が月の光を浴びて、それぞれに呼吸しているように見える。
両手を組んでぐっと上に持ち上げるIさんの若々しい肢体が縦に伸びた。先程おば様とIさんは、一階の和室でこんなやり取りをしていた。「あなた、もう三十を過ぎたの?」とおば様。「まだです。Y美ちゃんたちが中三になる頃、三十を迎えます」。すると、Iさんは今二十八歳ということになる。おば様は「まだまだ若いわね」と羨ましそうだったけれど、四捨五入しても二十歳に満たない僕にはその意味がよく分からなかった。「二十八歳? おばさんですね」というのが率直な感想。でも、こうしてIさんが夜の道をブラジャーも付けないキャミソールとパンツだけの姿で歩く姿を見ていると、おば様の言う「まだまだ若い」の意味が分かるような気がした。
自由に伸び伸びと、何にも囚われずに歩く姿には、僕自身に本当のところを気づかせる効果があった。そうだ、本当のところ、僕もまた外に出たかったのだった。できればあの家、みなみ川教信者の集会所から逃げてしまいたかった。Y美とおば様の住む家からも逃げ出したいのだけれど、他に行き場がないから我慢している。母と一緒に暮らせるようになれば、もう裸で屈辱的な思いを我慢しながら生活させられることもない。そういう思いが知らず知らずに高まって、夜中に目覚めた時、衣服を全く身に付けていない状態であるにもかかわらず、ふらふらと外へ出る行動につながったのだろう。
「おしっこしたかったんだよね?」
十字路交差点にさしかかった時、Iさんが振り向いて、にっこり笑った。キャミソールに女物のパンツを一枚穿いただけの妙齢の女の人と素っ裸の僕という異様な二人連れは、真夜中ということもあって誰にも目撃されずにここまで歩いてこれた。しかし、もし誰かに見つかったら、Iさんは何と言い訳をするのだろう。僕がIさんの立場だったら、この辺りで戻るところだった。
「はい。どこか茂みに隠れてしてもいいですか」
「駄目よ、そんなの。この交差点を右に曲がったところの公園に公衆トイレがあるから、そこで用を足すのよ」
顎でしゃくって、公園の方向を指す。
「いやです。誰かに見られちゃいます」
「馬鹿ねえ、あなた。今更何言ってんのよ。素っ裸でバスにも乗ったくせに。それにしても、あなた、ほんとにY美ちゃんと同じ中学一年生なのかしら。私はあなたが服を着たところを見たことがないから、あなたが制服を着て中学校の門をくぐる姿を想像すると、なんだか笑ってしまうの。ほんとはランドセルをしょってるんでしょ?」
馬鹿にしたように笑って、背中を叩く。僕は諦めて、Iさんの指示に従うことにした。これまで何度も明るい日差しの中を素っ裸で歩かされてきたので、人の気配がしない真夜中の公道を一糸まとわぬ格好で歩くのは、実はそれほどの抵抗を覚えることではなかった。人に見られる心配が昼間と比べると断然低いし、見られてもどうせ一人が二人の、夜中にふらふら出歩く訳ありな人だろうから、それほどこだわる必要はない。まあ見られないに越したことはないけれども、よし目撃されたとしても簡単に仕方がないと忘れることができた。もう僕は散々いろんな人に裸を晒し、おちんちんを見られてきたから、今更この程度のことでは、格別苦しい思いをしない。ただ、裸という無防備な姿でいることから、危険な目に遭わないように注意を払うばかりだった。
きょろきょろと辺りをうかがいながら小走りで公園へ忍び入る。遊具施設のない、広場とベンチがあるだけのシンプルな公園は、トイレを設置したことでその存在価値を高めた。この公園の造成整備事業に係わったおば様は、性的奉仕を終えて横たわる僕にこんなよもやま話をしてくれたことがあった。
「公園の造成前に実施した地域住民へのアンケートでは、公園に何を求めるかという設問に対して、八割以上がトイレ設備の充実を第一位に挙げたのよ。信じられる? 住民の皆さん、変わってるのよ。遊具施設なんか、全然求めてないの」
こうして宮殿の形をしたトイレが設置され、これといって特徴のない公園のシンボルになった。深夜の二時過ぎに素っ裸で公園に入る僕も、この宮殿の訪問者だった。
おしっこ用の便器に向かっていると、さっと何かが後ろを通り過ぎた。猫だった。しばらく行きつ戻りつしてから、ちょこんと座って僕のお尻をじっと見る。ほっとしたのも束の間、すぐに公園の外で騒ぐ声がして、猫は素早く去った。
若い男女の集団が公園に入ってきた。酔っ払っているようで、近隣に人家がないのを良いことに叫んだり喚いたりして、やりたい放題。誰かが空き缶を蹴っ飛ばした。けたたましい女の人の笑い声がトイレの中にまで入ってきて響いた。
そっと覗いてみる。高校生の不良グループだった。ここにじっと隠れていても見つかるのは時間の問題のような気がして、僕は思い切って、全速力で走って逃げることにした。彼らは奥のベンチに落ち付いて、ぐでんぐでんに酔っ払った体を休ませている。
「何今の? トイレから裸の子が出てきたよ。怖い」
目敏く見つけたらしい女の人が緊迫した調子で叫んだ。すぐに三人四人の影が立ち上がって追い掛けてきた。待てコラ、待て、と口々に怒鳴る。とても酒に酔っているとは思えない機敏さだった。酔っ払っているのはほんの二人か三人で、それ以外は全員素面なのかもしれなかった。
アスファルトの上を裸足のまま走る。すぐに足の裏が痛くなる。追いかけてくる人たちの硬い靴音が間近に聞こえてきた。いかにも走りやすそうで、生まれたままの姿で走る僕とは条件が違いすぎる。
交差点を曲がったところで待っている筈のIさんの姿が見えなかった。事態を察してとっとと帰ったのか、桑畑に隠れたのかもしれない。いずれにせよ、Iさんに追っ払ってもらうつもりだった僕は、あっけなく不良高校生たちにつかまってしまった。
「なんだ、男じゃねえか」
「嘘、女だろ?」
「違う。男の子だよ。追い掛けている時は絶対、あれは女だと思ってだけどね」
高校生たちは僕を引き連れて公園に戻った。両側からがっしりと腕を掴まれて、おちんちんを丸出しにした僕を見て、女の人たちが声を上げて笑った。酔い崩れてベンチに仰向けに寝ていた一人が頭を持ち上げて、「なんだ、お前か」と呟いた。
素っ裸で苛められている僕をこれまで何度も目撃したことがあると言う。女の人たちはほとんど全員が僕のことを見知っていた。僕が全裸のままバスに乗せられた時、この人たちも居合わせて、射精させられたところもしっかり目撃したばかりか、中にはおちんちんを直接扱いたという人もいた。
「で、お前、なんでいつも裸なの?」
眉毛を剃った大柄な男の人が僕に真顔で質問する。
「意地悪な女の人たちに洋服を取り上げられたんです」
正直に答えた僕は、手が自由になったので急いでおちんちんを隠した。もうつくづく裸はいやだった。小さなパンツでも得ることができるなら、この人たちを満足させる努力は、それが多少性的なものであっても、惜しまない気分だった。
「そうか、そいつは可哀想にな。知ってるよ。あのでかいけど細い、ツンとした感じの女の子だろ、目が細くて吊り上がってる。あの子がいつもお前の洋服を脱がせて、こんな風にして裸にして外へほっぽり出すのね」
眉毛のない大男が感心すると、酔いから醒めようとするみたいにこめかみの辺りを手でがんがん叩いた。女の人たちは、バスの時みたいに僕にいろんなことをさせたいと言い、男の人たちも賛成した。
こうして僕は、高校生たちが囃す中、彼らのオーディオ機器から流れるアイドル歌手の歌に合わせて、踊りを踊らされることになった。以前にY美に教わった踊りだった。もちろん素っ裸のままだった。
「もっとおちんちんを振りなさいよ」
「そうそう。もっとしっかり」
恥ずかしくて、動きがぎこちなくなる。なるべく見られないように、踊りの手が許す限りおちんちんを隠そうとしたり、腰をひねったりしていたけれど、踊りの中でどうしても腰を上下左右に動かすところがあって、手は腰に当てなくてはならない。緊張して縮んでいるおちんちんが丸出しのまま揺れる。高校生たちは下品な声を立てて笑った。女の人たちが僕を引き寄せて、勃起させようと試みた。
「ねえねえ、きみ、ナオス君て言うんだよね」
女の人の一人が言った。曖昧に答えると、いきなり頬を張られた。
「はっきり答えなさいよ。あんたのことはだいたい分かってんだよ」
観念して名前を言い、Y美の家に居候の身であることを問われるままに語ると、女の人はうって変わって優しくなり、いきなり自分のシャツの裾をめくって、大きなブラジャーを見せてくれた。
「特別サービスだよ。カワイソーでかわいいボクちゃんのため」
唇の間から、かすれたような声を出して、フッと小さく息を吐いた。街灯の淡い光の中、水色のブラジャーがぽっこりとお椀の形に膨らんでいる。背丈の低い僕のために女の人はしゃがみ込んでくれた。胸の谷間が見える。頭がくらっとするような噎せるような香りが広がり、肉と肉がぷるんと弾ける。と、めくられたシャツの裾がするすると下りてきて、まるで幕だった。時間切れ。女の人の、別人のような嘲笑が聞こえた。
「馬鹿みたい。ブラジャー見ただけで勃起してるよ、こいつ」
ツンと硬くなったおちんちんを指で突く。ブラジャーの中も見せてくれるのだろうか、揉ませてくれるのだろうかと期待した僕が浅はかだった。女の人はおちんちんが勃起するかどうかだけを確かめ、大きくなったらもうこれ以上見せる必要を認めないのだった。
こうして僕は、おちんちんを硬くさせられたまま、再び踊らされた。踊りはそれなりに体力を要し、疲労とともにおちんちんが元の大きさに近づく。そうすると、女の人たちに扱かれた。射精寸前まで追い詰められ、勃起した状態で何度も踊らされるのだった。
公園の街灯に照らされて、素っ裸のまま踊る。女の人たちがキャッキャッと喜ぶ声がする。高校生の集団と思っていたけれど、女の人の中にはもっと若い人も交じっているようであり、明らかに幼い笑い声や話し振りが聞こえた。
とにかく、みんなに一糸まとわぬ姿をじろじろ見られながら踊らされるという、羞恥と人格否定による精神的な苦痛から逃れるには、頭の中を空っぽにして踊りに意識を集中するしかなかった。以前、Y美に強制的に叩き込まれた通りに体が勝手に動くようにする。
「もっと振って。振るのよ」
ブラジャーを見せてくれた女の人が叱咤した。
硬化したおちんちんが両側の太腿へ交互にぴしぴしと当たる。その肉と肉のぶつかる音を聞こうと、一人の女の人が前に出て腰を屈めた。また別の女の人は、缶ビール片手におちんちんを指して大笑いして、眉毛のない男の人の胸にもたれかかった。
少し離れた地点から野太い怒鳴り声がして、大きな人影がずんずん近づいてきた。聞き取りづらかった声が次第にはっきりしてくる。
「こら、お前たち、何やってんのか」
高校生たちの動きが止まり、再生中の音楽がプチッと途絶えた。ターリさんだった。その後ろにはIさんもいた。
「げ、あの人だ。マジでやばい」
眉毛を剃った大柄な男子生徒がそう呟くと、しだれかかっている女の人を起こした。この中で一番肝が据わって腕力のありそうな男子生徒が真っ先に逃げる様子を見せたので、他の高校生たちはたちまち酔いから醒めたようだった。作務衣を着た大きな男からただならぬ妖気が漂っている。男と自分たちの距離が縮まるのを見て取ると、高校生たちは僕を置いて一目散に逃げ出した。
少し遅れて、音楽再生の機材を持った男子生徒が大きく腕を振って走り出した。僕の横を通過する時、機材がおちんちんの袋に当たった。衝撃で地面に倒れる。
激痛にしゃくり上げる僕をターリさんとIさんが両側から立たせた。
「男の敵は男だね。わざとじゃないかしら」
上機嫌のIさんは相変わらずブラジャー無しのキャミソールにパンツ一枚だけの格好だった。不良高校生たちに僕が捕まったのを見て、ターリさんの助けを求めに一旦帰ったのだと言う。Iさんは僕が射精させられていないかをしきりに気にしていた。僕が精液は出していないと言っても信用せず、おちんちんをいじる。
「やっぱり精液を出したんじゃないの? なかなか大きくならないじゃないの」
「勃起はさせられましたけど、射精はしてません」
「じゃ、なんで大きくならないの? さっき陰嚢をぶつけたせい?」
Iさんが指の位置を変え、おちんちんを挟んで本格的に扱き始めた。おちんちんの袋がきゅっと締まる。気持ちいい。たちまちにおちんちんが硬くなる。
「ごめん、扱き方が悪かっただけか。うん、精液は出してないのね。信じるわ」
大きくなったおちんちんの亀頭の部分を指の腹で押しつけて、付着した精液を舐め、Iさんはようやく納得したようだった。
僕がこの集会所に住み込むことになったのは、一重に罪を払う清めの儀を行ずるためだった。だから、深夜に出歩いて高校生たちに苛められたとしても、朝寝は許されなかった。二階の板敷の間に寝ていた僕は、大きな杓文字のような棒を持ったIさんに六時に叩き起こされた。
まず顔を洗い、朝の支度を整える。バケツに水を汲み、運ぶ。雑巾が渡される。朝食前に課せられた仕事は、床の雑巾掛けだった。
お粥だけの簡単な朝食を済ませると、白い着物に着替えたIさんに二階の応接室に呼ばれ、真っ赤なカーペットの上に正座させられる。清めの儀について、改めてIさんから詳しい説明があった。
儀の期間は三日であると聞いたのに、Iさんは首を横に振って、昨晩、僕が無許可で外に出たことによって、五日に延長されたことをやんわりと告げる。
「そんな。三日だって言ったじゃないですか。なんで五日なんですか?」
「無許可の外出は厳禁なのよ」
「知らないです、そんなの。お願いですから三日で僕を返してください」
「駄目よ。知らなかったのは気の毒だけど、厳守するべき決まり事を破ったのだから諦めなさい。あなたの滞在期間は二日延長され、五日になったからね」
清めの儀を行ずる間は、必ず決まり事を守らなければいけない、とIさんが釘を刺した。それを破ると、儀が完了せず、滞在期間がいたずらに延びるだけだと言う。
決まり事は三つあった。一つ目は、僕が知らずに破った外出禁止だった。但し、Iさんやターリさんが許可する場合はこの限りではない。それどころか、二人のどちらかによって全く僕の意思とは関係なく、力ずくで外へ連れ出されることもあると思うが、このような時は罰の一つだと思って頑張って耐えて欲しいとIさんが淡々と補足する。
二つ目は、期間中における着衣厳禁だった。いかなる時、いかなる場合においても布切れ一つ身に付けてはならず、常に全裸でいることを約束させられた。
「もっともあなた、この家に入った時から裸だったわよね」
口籠ってしまって、なかなか「はい」と答えられない。
「あなたの大好きなおば様に聞いたわよ。裸で過ごすのは、慣れてるみたいね」
「そんなこと、ありません」
微笑するIさんの馬鹿にし切ったような視線が僕の露わな肌という肌に突き刺さり、思わず項垂れてしまう。あと三日は素っ裸で過ごさなくてはいけない。途中で何か衣類を身に付けようものなら、監禁の期間がまた延長し、それだけ裸で過ごす時間が長くなる。
続けて三つ目、最後の決まり事についての説明に入った。それは無断射精の厳禁だった。Iさんかターリさんが精液を出せさる場合と二人のいずれかの許可を得られた場合を除き、射精は厳禁とのことだった。
「もっとも自分でこっそりオナニーしようなんて思わない程搾り取るつもりだから、この決まり事については心配無用かもね」
顔は笑っているのに目はずっと僕を睨みつけていた。僕が承知し、三つの決まり事を絶対に守る旨を誓わされると、昨日と同じ作務衣姿のターリさんが麻縄を持って入ってきて、後手高手に僕を縛り上げた。複雑に縄が交差し、幾重にも巻き付ける複雑な縛りなのに、慣れた手つきであっという間に僕の両腕はがっちりと動きを封じられた。縄尻を取ったターリさんに一階の和室へ連れて行かれる。
これから何をされるのか分からない不安と恐怖で緊張する僕のお尻をIさんがぴしゃぴしゃと叩いて、「リラックスリラックス」と笑った。とてもリラックスなんかできる雰囲気ではない。Iさんが僕の体を押さえた。縛るのはターリさんの役目だ。ターリさんが両手に山のような縄を抱えて戻ってきた。
一旦解かれると、手首だけでなく腕全体に縄が掛けられる。僕は、鴨居から垂れた麻縄に両腕を広げた状態で拘束され、青竹を膝の裏側から通して、青竹に膝部分を縄で縛り付けられた。青竹の両端は縄で繋がれていて、天井の滑車を通って、ターリさんの足元に垂れていた。
腰を屈めて縄尻を手に取ったターリさんがそれを引くと、天井の滑車がゆっくりと回り、僕の膝頭が上昇を始めた。膝が頭よりもやや上の位置まで持ち上げられ、おちんちんだけでなくお尻の穴までもがすっかり丸出しになった。
持ち上げられた両足の間に入ったIさんの着物の袖が垂れて、太腿の内側を撫でた。白くて清潔な着物だった。Iさんは、おちんちんを指に挟んで左右に激しく振り、おちんちんの袋を揉んだ。揉む力が段々強くなる。痛みを訴える僕を無視して、ぎゅっとおちんちんの袋を握り続ける。悶え苦しむ僕をじっと観察しているようだった。もう片方の手でおちんちんの皮を剥いたり引っ張ったりする。ひたすら痛い。
庭に面したガラス戸から晴天の日差しが降り注いで、観察するIさんのうっすらと白粉を塗った顔が不気味に生々しく迫ってくる。Iさんは、ゴム管の付いた注射器をターリさんから受け取った。水を張った洗面器で指を濡らし、お尻の穴に石鹸を塗り、軽く揉んでから、ゴム管の先端を挿入させ、ゆっくりと中に押し込んだ。
いや、何をするんですか、とずぶずぶと入る長いチューブに喘ぎながら抗議する。それを無視してIさんが注射器のピストンを押した。ぬるま湯の液体がどくどくと入り込んでくる。縛り付けられた四肢をくねらせ、腰を上げたり下げたりして、悶える。
液体は大量だったような気がしたけれど、Iさんの後ろで様子を見守っていたターリさんに言わせると、全然少ないとのことだった。信じられなかった。もうお腹が液体で重くなっている。これ以上注入されたら、お尻の穴から液体がこぼれ出るだろう。早くもお尻の先がむずむずしてきた。
便意に襲われた僕にIさんが厳かに告げたのは、許しが出るまでうんちをしてはならないというものだった。とても我慢できる苦しみではないと訴えると、Iさんはターリさんにあれを持ってくるように言った。
あれ、というのは栓のことだった。トランプのスペードの形をしたその栓は、お尻の中に挿入する時はすぼみ、ぐいと押し込むと、中に入るにつれて元の形になって、うんちを塞ぐ仕組みだった。
これではうんちを出したくても出せない。僕は、便意がもたらす苦しみに全身汗まみれになって悶えた。腰から脚、背中にかけて、体じゅうが苦悶に震える。まだまだ我慢しなさい、というIさんの声が聞こえる度に激しく首を横に振り、助けを求める。もう外してください、うんちをさせてください、と懇願し、泣き叫んだ。
このままでは腸が破裂する。汗まみれになって喘ぎ、悶える。どれくらいの長い時間が経ったか分からないけれど、ターリさんが栓の輪っかに紐を括りつけて、少し離れたところから引っ張ることになった。この栓が抜けると同時に、僕をさんざん苦しめるうんちが放出される。
Iさんがカウントダウンし、ターリさんが紐を引いた。お尻の穴を塞ぐ栓はなかなか抜けなかったが、ついにポンと音がしたような気がして取れると、今までお腹の中を逆流していたうんちが一気に噴出した。Iさんとターリさんはその瞬間をしっかり見たようで、頻りにエネルギーのことを言っては感心していた。
吊るされ、両足を広げた格好でうんちをさせられた僕は、これまで何度も女の人たちの前でうんちをさせられてきたにもかかわらず、どうにも悔しくて恥ずかしくて堪らず、まるで初めて浣腸された時のように、しゃくり上げた。そんな僕を尻目にIさんとターリさんはせっせと後片付けをし、ガラス戸を開け放して空気を入れ替えた。
縄の拘束から自由になった僕は、庭に出された。裏にある井戸で水浴びをすることになった。汚れた体を清めなくてはいけない、とターリさんが言った。僕は素直に従い、井戸から汲んだ冷たい水を素っ裸の身に被った。石鹸とタオルを持ってきてくれたターリさんが、ずっと吊るされて痛くなった僕の腕をマッサージしてくれた。
小さなおにぎり一つだけの昼食を済ますと、二階の板敷の間に連れて行かれた。そこでは木像を清める仕事が待っていた。きれいな白い木綿が渡され、小さな木像を一つ一つ丁寧に拭く。これらの木像は全てターリさんが彫ったものだという。
ターリさんが拭き方を細かく教えてくれた。最初は優しい口調だったけれど、一度教えたことを間違えると不機嫌になり、舌打ちが聞こえた。二回目は怒声になった。とても有難い木像だけあって、拭き方一つにも注意事項が多かった。拭き終わった木造の並べ方も手順が複雑で難しかった。なかなか一度で頭に入るものではないけれど、機嫌を損じたターリさんが怖いから必死に覚えようとする。
緊張して手順を間違えることもあった。同じ注意が三回に及ぶと、とうとう手が飛んできた。頬を張られ、体が飛んだ。
手順通りに木像を清め、手のひらに乗るサイズの木像を教わった通りに並べていく。ターリさんは僕の背中をさすり、やっと笑顔を見せた。
「その調子だよ。頑張れ。あと八十体あるぞ」
「これ、全部やるんですか?」
「当たり前だろ。でないとお前、いつまでも素っ裸のままだぞ」
ということは、この仕事が終わったら服を着せてもらえるのだろうか。先程のIさんの話では、期間中は着衣厳禁だった。なんだろうと思いつつ、「はい」と生返事をする。
「あ、木綿の拭いた面を返さないで、次のを拭いたな。返せって言っただろうが。もう忘れたのか」
いきなり頬を張られて、続けて腰を蹴られた。廊下に出された僕の前にターリさんが仁王立ちしている。鬼の形相だった。僕は震える体のまま土下座をして謝ったけれど、横から鋭い蹴りを入れられ、階段を転げ落ちた。
「あなた、ターリを怒らせないほうがいいわよ」
Iさんが一階の廊下に倒れ込んだ僕を見下ろしていた。
「あの人ね、激昂すると何するか分からない。人を殺したこともあるのよ」
しゃがみ込んだIさんは、体の節々が痛くてなかなか起き上がれない僕の顔を心配そうに覗いた。人を殺したことがある、と言ったIさんの声が僕のがらんとした頭の中で静かにエコーする。
「あら、私ったら余計なこと喋ったわね。今のは聞かなかったことにして」
おちんちんを摘まみ、引っ張る。僕を立たせる時、Y美もおば様も脇から腕を通すのに、Iさんだけはなぜかいつもこのやり方だった。僕としては辛く、できればやめてほしいのだけれど、立たせる側としては、一番手っ取り早いのかもしれなかった。とにかく、おちんちんの皮を引っ張られると、どんなに体が重く、疲れていても、すぐに立たざるを得ない。女の人であるIさんには到底理解してもらえない痛みだった。
いくら教えても覚えない、これでは任せられない、とターリさんがIさんに報告した。これも真剣に儀を行ずる気持ちが足りないからだと見なされ、僕は裏庭の井戸の前に連れて行かれた。後手高手に縛られる。Iさんが麻縄をせっせと滑車に通している。ターリさんに軽々と持ち上げられた僕の体は、井戸の縁を越えて、宙吊りにされた。井戸の中で反省するのよ、とIさん。縄がするすると下がった。
やだ、ごめんなさい、許して、と泣き叫んでも、むなしく自分の声が反響するばかりだった。得体の知れない闇の世界へ降ろされてゆく。恐怖と不安のあまり、縛られた腕の部分に体重がかかる痛みもそれほどに感じられなかった。太陽の光がどんどん少なくなり、薄闇に包まれる。足先が井戸の水に触れた。冷たくて、すぐに膝を曲げる。
冷水の中に足先から入り、お尻と太腿がほぼ同時に沈んだ。お腹の辺りで一旦止まったと思ったら、また下がり、とうとう首から上を残してすっぽりと井戸の水に浸かってしまった。水にぎゅっと体を固められた感じだった。内壁に腰を掛けられる程度にはみ出た石があって、そこで体勢を保った。
井戸の深いところから円形の青空を見上げる。時折覗き込んでは声掛けしてくれたターリさんも用事があるのか、もう顔を見せなくなった。冷水に全身の肌がぴりぴりと震える。空気もまたどんよりとして、ずっと昔からそこに淀んでいるかのようだった。
腰をもぞもぞと動かしていたら、お尻が石の出っ張りから離れてしまった。体が井戸水の中に沈む。僕を繋いだ縄はしっかり固定されていなかったようで、再び落下した僕の重みとともに縄もまたするすると滑車を回した。後手高手に縛られた体で必死にもがいて、なんとか顔を水面から出すと、助けを求めて叫んだ。声だけがむなしく反響する。
落ちるとは思っていなかったので、びっくりしてたっぷり水を飲んでしまった僕は、うまく呼吸ができず、足を開いて内壁のはみ出た石で体を支えようとした。ぬるぬると足が滑って、バランスが取りづらい。ターリさんが気づいてくれたのは全くの幸運だった。井戸から身を乗り出して縄を引いてくれた。出っ張りに腰を下ろせた僕に、この井戸はまだまだ深いとターリさんが言った。
髪の毛からぽたぽたと水滴が落ちて、暗緑色の水面にたくさんの波紋を作る。その下には不気味な水域が垂直に広がっているのだと思うと、僕はもう一刻も早くここから出してもらいたくて堪らなくなった。涙を流しながら許しと助けを乞う。
井戸を覗き込むターリさんの坊主頭がくっきりと見えた。逆光になって表情が見えない。分かった、という声が聞こえたような気がした。井戸のやたらと声が反響する中では、言葉が大変聞き取りづらいのだけれど、確かに「分かった」と言ったような気がした。
果たして、僕の体は井戸から引っ張り上げられた。井戸の縁に足を掛けて、ようやく地上に戻った。白い着物姿のIさんが暗い目をしてじっと僕を見ていた。
縄を解かれて、両腕が自由になった。ターリさんが縄を扱いていた。縛られていた両腕を摩る僕を横目で見て、Iさんがにっこりと笑った。緊縛から解放されたのは束の間だった。僕はまた縛られた。
「もういやだ。許してください」
暴れ、もがいても無駄だった。今度は両手首、両足首を別々にがっちりとくっ付けた形で縄を括られた。足首を縛った縄尻には大きな煉瓦が結ばれている。全てはIさんの指示だった。
再び井戸に入れられる。今度は足の先に重たい煉瓦を括られていて、落ちる速度が前より速かった。冷たい井戸水が足の先から順々に浸かり、首のところで止まる。真上を向いてかろうじて呼吸ができる程度だった。と、突然ガクンとストッパーが外れたかのように落とされ、素っ裸の身が完全に水中に沈む。
呼吸を止める。ずんずんと僕の体が沈み、指の先まで冷水の中に入った。しっかり空気を吸い込んでいなかったので、すぐに苦しくなる。落とされた瞬間に飲み込んでしまった水がお腹に下った。もしも両手首を結んでいる縄が外れたら、僕は足先に括られたとともに、二度と浮かび上がることはないだろう。
井戸は底無しの深さだった。いくら沈んでも足がつかない。上下の感覚が薄れそうになった水の中でやっと体を引っ張られ、伸び切った両腕がぴりぴりと痛んだ。縄が手首を抜けた場合に備えて、括られた不自由な手でしっかり縄を握る。まず手から水面を上がり、頭髪、額、目の順に水中から出る。ようやく待望の呼吸ができた。
びしょ濡れの体が滑車まで巻き上げられた。おちんちんが井戸の縁よりも上に出て、Iさんが「まあ」と呆れた顔をした。冷水に浸かったおかげで小指の先っぽくらいのサイズに縮んでいるのだった。
足元の石を持ち上げて、地面に叩きつけるIさんをターリさんが宥めた。Y美たちが約束の時間を過ぎた今も集まらない。このことにIさんは腹を立てているのだった。儀の期間中は毎日三時に集まることを約束してY美たちの帰宅を許したのに、時間になっても誰一人顔を見せない。どういうことかしら、とIさんが僕の頬を手で挟んで、詰る。
こんな風に僕を吊るして、足首を縛った縄尻に煉瓦を括りつけるのは、見せしめなのだった。Y美たちが集まるまで、僕は井戸の中に吊るされることになった。
井戸に落とされ、頭上の指の先まで井戸水に浸かっても、まだ止まらずに底へ沈み続ける。全身の肌を例水が圧迫する。苦しくなって腰を揺する。ゴンと音がして、重しの煉瓦が内壁にぶつかる。
体が引き上げられては、また落とされる。この連続だった。時には顔が出ただけのところで止まった。地上から引っ張られることを期待して上を向くと、括られた手首の間から光に溢れた青空と雲が見えた。あそこまで昇っていきたい、と切に願った途端、足を引っ張られた感じがした。体が沈み、青空に水が被さった。
聞き覚えのある女の人たちの声がした時、僕の体は冷え切って、体の震えが止まらなかった。井戸の深いところから引き上げられ、昼の明るさに眩暈を感じる。井戸の縁には、Y美がいた。ターリさんは何度も僕を引っ張り上げたおかげで、さすがに腕が痛くなったらしい。肩をぐるぐる回しながら機嫌よくY美に話し掛けるが、Y美はそれを無視してS子を呼んだ。庭を横切ってS子が来た。
ルコ、ミュー、風紀委員、エンコ、N川さんも一緒だった。メライちゃんがIさんと話をしながら来た。昨日のようなお洒落なポロシャツではなく、いつもの白いワンピースを着て、靴も普通の運動靴だった。
滑車から吊り下げられたままの僕の体をじっくりと見て、Y美たちがいろんなことを言う。彼女たちは、なぜ僕がこんな酷い目に遭わされているのか、理解していないようだった。ターリさんが質問に答えて、「こんな風に落とした」と実演した。僕はまた井戸に落とされ、ずんずんと体を沈められた。
縛られた両手の縄が滑車の最上部まで巻き上げられて、どこも隠すことができず、頭のてっぺんから爪先まで全身びしょ濡れの素っ裸の体を女の人たちにまじまじと見られた。胸から腰にかけて鳥肌が立ち、唇が紫色になっているのを見て、メライちゃんが顔を背ける。ミューがメライちゃんの肩にそっと手を置いた。
「ちょっと酷すぎない?」
ミューが呟くと、Y美がにっこりと笑った。
「どうせ粗相をしたんでしょ。いい気味だよ」
Y美は僕がお仕置きを受けていると思っているのだった。寒さと悔しさで体がぶるっと震えた。
許しを得てようやく縄を解かれた僕は、そのまま風呂場に連れて行かれ、ぬるま湯に肩まで浸かることができた。体が温まってくると、引き戸から顔を出したIさんが僕にすぐに出るように命じた。脱衣所ではターリさんが待っていた。タオルも与えられないので、ぽたぽたと水滴を落としながら廊下を歩く。ターリさんに背中を押され、和室に入らず、玄関に向かう。土間に下りると、下駄を引っ掛けたターリさんによって問答無用に明るい戸外に出されてしまった。
そこではY美たちが待ち構えていた。隅っこには、身を竦めるメライちゃんの青ざめた顔があった。Iさんが「これからナオス君の行ずる儀は、あなたたちの手伝いが必要不可欠」と、Y美たちに語りかけた。麻縄を持ったターリさんが僕に襲い掛かり、あっという間に僕を後手高手に縛り上げた。がっちりと縄で縛られた僕の恥ずかしい姿をメライちゃんが怯えた目で見つめる。
縄尻をS子が取って、道路へ出た。
「全裸緊縛で歩かされるって、どんな気分なの?」
「ねえ、みんなが見てるよ、びっくりしてるよ。恥ずかしくない?」
女の人たちが次々と僕を冷やかした。実際、ちょっとした大名行列だった。白い着物に紫の上衣をまとったIさんを先頭にY美、縄尻を取るS子、僕が続き、他の女の人たちは僕の横に来たり後ろに回ったりした。しんがりはターリさんだった。これだけの人数で歩いて、しかも素っ裸で緊縛された僕が混じっているのだから、目立たない筈がなかった。脇を通行する車という車が速度を緩めて見物した。
列の先頭と後方にIさんとターリがいるのを見て、人々はこれがみなみ川教の宗教行事であると察するようだった。家や畑から、ぞろぞろと沿道に出てくる。Iさんやターリさんに挨拶する人も少なくなかった。やはり日中だけある。深夜に僕がIさんに連れられて歩いた時とは大違いだった。
桑畑のある十字路を右に曲がって、公園に入った。昨晩、僕が高校生たちに捕まった公園だった。宮殿の形をしたトイレの屋根が金色に輝いていた。
硬い地面にざらざらした砂をまぶした空間が楕円の形に広がっている。ターリさんが縄を解いてくれた。両手が自由になると、この何も身を隠すことができない、草一つ生えていない平らな場所から逃げ出したくなった。自分だけが素っ裸でここにいる。思わずしゃがみ込んだ僕をY美が腕を組んで見下ろした。
犬のように歩け、とY美が言った。四つん這いになると、すぐ目の前にメライちゃんの靴と細い脚があった。S子が縄で裸の背中を打つ。膝をつけずにお尻を高く上げて、楕円の形をした広場を一周させられた。
こんな風にお尻の穴丸出しにして歩かされるのが鷺丸だったらどうするの、とY美がメライちゃんに話し掛けた。二人は、僕のすぐ後ろを付いてくる。メライちゃんは返答に窮したようだった。
「ちゃんと答えろよ」
「いやです。そうなったら別れます。こんな恥ずかしいことする人が彼氏だなんて」
一呼吸置いて、メライちゃんが答えた。きっぱりと決意を伝えるような口調だった。ざらざらした地面が手のひらと足の指に鋭い痛みを一瞬伝えた。
Iさんとターリさんが座るベンチの前を通りかかった。Iさんが話をし、ターリさんが不動の姿勢で話を聞いている。ベンチの後ろには信者の中年女性たちがいて、四つん這いで歩かされている素っ裸の僕をじっと見つめる。
下からIさんの足が伸びてきて、すっと上げた。サンダルを脱いだIさんの素足が僕のお腹に当たり、腸を圧迫した。四つん這い歩行が一瞬止まる。足はすぐに下に移動して足の甲でおちんちんを軽く叩いた。
「立ち上がるのよ。手は頭の後ろで組んでね」
少し間を置いてからIさんが言った。間髪を入れずにY美にお尻を叩かれた。信者の女の人たちは厳粛な宗教行事に参列しているような真面目な顔をして、命令に従う僕の体を上から下までじろじろ眺めた。
少しでも腰を捻らせたり、頭の後ろで組んだ手を動かしたり、足をもじもじさせたりすると、じっとしてなさい、動かないで、とIさんに注意された。ターリさんや信者の中年女性たちに向けて話をするIさんの口から、魂の浄化とか生命のエキスとか精霊とか、普通には聞かない単語が頻発した。困ったような顔をしてS子が笑うと、すぐにY美がS子を睨みつけた。S子はびっくりしてたちまち真顔に戻る。Iさんの指示を受けたターリさんがベンチから立ち上がり、麻縄を持って僕に近づいた。
街灯の支柱と広場の外側にある若木に縄を結ぶ。僕を立ったまま大の字に体を広げた格好で縛りつけるらしい。縛る直前、ターリさんが僕を唆した。本気で抵抗して、もしもターリさんの手を逃れることができたのなら、この理不尽な儀式から今すぐ僕を解放してくれるというのだった。僕はその言葉に偽りがないことを確信し、一瞬の隙をついて後方へ飛び、そのまま回れ右をした。足を踏み出した途端、両足をターリさんに抱きかかえられ、上半身から地面に倒れた。
必死に抵抗する僕をY美たちは無駄なあがきと見て、冷笑した。転ばされ、背中やお尻に小さな石の粒が付着した僕をメライちゃんがじっと見ている。無表情だった。ターリさんの屈強な力で地面に押さえつけられた僕の手首、足首に縄がきゅっと締まる。
「残念だったな」
ターリさんが勝ち誇った笑顔を見せて、僕の背中をバシンと叩いた。
腕、足を伸ばし切った状態で拘束された僕の正面にIさんがメライちゃんの手を引いてきた。アシスタントとしてY美がメライちゃんを指名したのだった。メライちゃんはIさんからシャーレを渡されると、僕の顔を見て、謝るように小さく頭を下げた。じっと僕の体へ視線を向けたまま、ゆっくりと腰を下ろす。
「ごめんね、ナオス君。私だってこんなこと、したくないんだけど」
それだけ言うと、メライちゃんはおちんちんに触れ、皮を剥いた。亀頭のひりひりする部分に指を当て、皮をしっかり剥いた時に現れる亀頭の下の部分を指でなぞった。
麻縄は解かれ、両手も両足も自由に動かすことができた。しかし、相変わらず一糸まとわぬ素っ裸のままだった。
ここがみなみ川教の集会所の二階であることに気づくまで、少し時間がかかった。昨日、僕はみなみ川教の儀式を中断させ、幾つもの小さな木像を倒してしまった。その罪を償うまで、この家屋に監禁されることになったのだった。
あれからY美たちはすぐに帰宅した。後手高手に縛られて鴨居につながれた僕を性的に嬲り、射精させたIさんは、女子には罪がないと言った。僕は背中に回した両腕を麻縄で固く縛られたまま、縄尻を取られ、玄関から外に出て、道路まで見送りに出された。
解放するに当たって、IさんはY美たちに条件を出した。
「毎日、ですか?」面倒くさそうにY美が訊き返した。
「そうよ、毎日。ナオス君がここにいる間は、午後三時にここに集まるの」
「みんな?」
「もちろん。あなたたち八人全員揃わなくちゃ駄目よ」
清めの儀を行ずる僕を確認し、手伝う義務があるからだ、とIさんがその理由を説明した。同級生の女の人たちは、がっかりしたようだった。
帰る間際になって、それまでどこかよそよそしい態度を取っていたメライちゃんが僕のところに来た。何か言いたいのだけれどもうまく言葉にできない、そんな感じだった。もじもじして、僕と目が合うとすぐに面を伏せる。両手を縛られて隠すことができないおちんちんが目に入っても、メライちゃんは動揺することなく、何か思い詰めたように溜息をついた。
みんなが帰るのに一人だけ素っ裸のまま残され、罰を受けなくてはならない。そんな僕に対して、さすがに同情を覚えるらしかった。
「あしたになったら、私、絶対行くからね。頑張ってね」
それだけ言うと、背中を向けてせっせと歩き出した。Y美は何か後ろめたいところがあるのか、僕の方を見ようとせず、ミューが僕の剥き出しの肩を撫でて慰めるのをやめさせ、帰宅を急かした。
とうとう女の人たちは帰ってしまった、素っ裸の僕を一人残して。一人になると、やり心細くなった。なんで僕だけ、という思いが胸の中で激しく渦を巻く。
がらんとした家の中、Iさんと大柄な坊主頭のターリさんは、僕を様々な格好で緊縛した。僕は縛られては解かれ、また新たな姿勢で縛られた。天井から吊るされた時は腕と足の付け根がきりきりと痛んで耐え難かった。座卓に仰向けに寝かされた状態で縛られた時には、筆のようなものでおちんちんと首筋、乳首を撫でられた。
両手両足をがんじがらめに縛られ、股間にも縄を通された格好で放置された。お尻に食い込んだ麻縄がじりじりと締め上げられる。おちんちんの袋にも容赦なく縄が掛けられ、下手に動くとおちんちんに痛みが走った。
作務衣を着た職人のようなターリさんという人は、Iさんによると、縛りの名人とのことだった。どんな格好の縛りでもIさんがリクエストすると、たちどころにその通りに僕を縛り上げた。そして、縛られて身動きできない僕がもがいて体をくねらせるのを面白そうに眺め、体をよじった時にできる脇腹の皺とか浮き出る背骨などに興味を示し、指を自分の唾で湿らせてからゆっくりとなぞったりした。
呼び鈴が鳴り、玄関の引き戸をあけようとする音がした。僕が緊縛された体を横たえ、Iさんに匙で夕食のスープを口に運んでもらっている時だった。引き戸に鍵が掛かっていることが分かると、まるで苛々したかのように呼び鈴が二度三度立て続けに鳴らされた。ターリさんが「はい、只今」と一声発して、玄関に向かった。
夜九時を過ぎてからの訪問者は、おば様だった。Y美から事情を聞き、すぐに駆け付けたと言う。いかにも会社から直接来たようなスーツ姿だった。僕はターリさんに縄尻を取られ、二階に移動させられた。
座卓を囲んだおば様とIさんの話し合いは、かなり長く続いた。きつい口調でまくし立てるおば様の声が聞こえると、ターリさんがにやりと笑った。
「やるじゃん、あの人。うちの巫女さんも相当な弁舌だけど、それ以上だな。俺たち男と違って女は賢いからな」
座卓をどんどん叩く音がした。おば様は理屈に合わないことをされた時、説明を求める。納得のいく回答が得られない、または相手がお茶を濁そうとすると、おば様はよく机を拳で叩いた。ヌケ子さんによると、職場の人たちはその音を聞くだけで震え上がるという。Iさんがなんとか満足してもらえるように言葉を選び選び、答える。おば様のそれに比べて、ずっと小さい、か細い声だった。
ターリさんが僕の緊縛された体を起こして、壁に寄りかかれるようにしてくれた。二階は板敷がすぐに軋むので、ただてさえ聞き取りづらいIさんの言い訳がしばしばかき消された。おば様の笑い声がして、一階からIさんのターリさんを呼ぶ声が続いた。僕を連れて下りてくるようにとのことだった。
もうおば様が来たからには解放されるのだろうとばかり思っていたけれど、違った。おば様はさわやかな顔をして僕の頬を撫で、麻縄がきれいに食い込んでいる僕の体を眺め、目を細めた。
「じゃ、頑張っていい子で耐えるのよ。清めの儀って、たった三日で済むみたいよ」
事もなげにおば様が言い、にっこりと笑い、今度はおちんちんを軽く撫でた。
「嘘でしょ、三日もかかるんですか? なんで僕が」
突然ターリさんに口を塞がれた。Iさんが僕を怖い目で睨み、縮み上がったおちんちんの皮を引っ張って、ぐるぐる回した。縄尻ではなく、おちんちんの皮を引っ張られ、玄関から外に出る。緊縛された素っ裸の身に夜の涼しい風が吹きつけてきた。
玄関脇に付けた車におば様が乗り込み、キーを差し込んで捻った。エンジンの音が僕のお腹にまで響いてくる。おば様は僕をここに置いて帰る決心を翻すことはなさそうだった。Iさんが布施を要求したが、おば様はきっぱりと断り、話し合いは平行線に終わったという。Iさんはおちんちんの皮をいつまでも放さなかった。僕はそのまま、おば様の走り去った車の赤いテールランプが交差点の角に消えるまで見送った。
当然もらえると見込んだ布施が入らなったということで、Iさんは不機嫌この上なかった。感情的に高ぶり、僕への打擲も激しくなって、立ったまま大の字に縛りつけた僕の背中やお尻を、お風呂の湯を混ぜる時に使うような、先が杓文字の形をした平たい棒を振るって散々に打った。
うつ伏せに寝る僕の背中やお尻をターリさんが濡れタオルで冷やしてくれた。相当手加減してるから痛くない筈だとターリさんが言う。ヒステリックに打ちまくる場合でも、肉体を痛めつけるよりは心に付着した汚れを払うのが目的だから、そんなに思いっきり力任せに棒を振り回すことはないのだと説明する。
人間ならぬ物たちに選ばれた人だよ、とターリさんがIさんのことを話し出した。だから崇めるしかない、自分たちのような力のない人間は、と熱心に物語る。疲れ切っていた僕は、ターリさんのお喋りに耳を傾けながら、意識が遠くなるのをどうすることもできない。別に眠っても叱られることはなかった。ふっと意識が返ると、ターリさんがまだIさんの話をしている。ターリさんがIさんに助けられたエピソードだった。僕は話半分に聞いている。程なく、深い眠りの淵に落ちた。
ふと目が覚めると、僕は二階の板敷の間に寝ていたという訳だった。棒で散々に叩かれた体を濡れタオルで冷やしてくれたターリさんが運んでくれたのだろう。途切れ途切れだった記憶の糸をつなげた僕は、相変わらず一糸まとわぬ格好ではあるものの、腕や足が自由に動くのを幸いとして、すっと立ち上がると、忍び足で廊下に出て、階段を下りた。
どんなに注意を払っても、階段は素足をおろす度にギーギーと軋んでしまう。小さな音かもしれないが、深夜の静寂に包まれた家屋の中では、十分に目立つ。しかし、僕はあまり気にしないことにした。もしもIさんかターリさんに気付かれたら、トイレだと答えればよい。実際、僕は尿意を催していた。
ふらふらと、まるで夢遊病のように土間におりて引き戸を開ける。涼しい夜の空気に素肌が包まれる。そのまま何も考えずに敷石を踏んで門に向かったところを呼び止められた。Iさんがサンダルを突っ掛けて玄関から出てきた。
裾の短いキャミソールが白くて、夜の闇の中に妖しく浮かび上がった。僕の腕が冷たい手でしっかり掴まれた。白檀の香りがした。腰が動くとキャミソールにたくさんの皺ができて、消えた。その下からは限りなく肌の色に近いパンツがちらちらと見える。
「どこへ行こうとしたの? 逃げようとしたんじゃないでしょうね?」
怒気を含んだ顔が月明かりに照らされた。僕はかねて用意していた答えを口にしようとしたけど、緊張して言葉がうまく出なかった。Iさんが鋭く聞き返す。しどろもどろになりながらも、お手洗いに行こうとしたのだとなんとか告げたものの、Iさんは腑に落ちないようだった。
「なんで外へ出るのかしら。トイレって普通、家の中でしょ?」
「はい。確かにそうなんですけど」
自分が居候しているY美の家では、家の中のトイレは女性専用であり、男の人は使用が許されていない。まずそのことを伝える。Iさんの目つきは怖かったけれど、キャミソールの薄くて今にも切れてしまいそうな肩紐に視線を向けることで、少し落ち着きを取り戻せた。庭に設えられたトイレ小屋で用を足す習慣なので、ここでもつい、トイレを探しに外へ出たのだと、割合スムーズに話すことができた。
「なるほどね。そういうものかもしれないわね」
あっさりとIさんが納得すると、僕の手を引っ張って、門の外に出た。びっくりして、Iさんの体にぴったり貼りついたようなキャミソールと小さなパンツを見る。どうもブラジャーは付けていないようだった。
「いいんですか、そんな格好で外に出て」
どきどきして、息と一緒に言葉まで弾んでしまう。
「何言ってんのよ。あなたなんか、真っ裸じゃないの」
こんな挑発的な下着姿で外に出たというのに、Iさんは全然平気のようだった。気遣う僕を憐れむように見つめる。
「それはそうですけど、でも、Iさんは恥ずかしくないのかな、と思って」
言ってすぐ、しまったと思った。ずっと素っ裸でいることを強いられている僕が口にすることではない。不意に羞恥で体がかっと熱くなる。手でおちんちんを隠した。
「あなたこそ恥ずかしくないの? 少なくとも私は衣類をまとってるのよ」
乾いた笑い声がして、Iさんが歩き出した。歩道には涼しい風が吹いて、Iさんは髪を束ねる紐を外した。艶々しい髪が風にそよいで、水のように波打つ。腕を広げて大きく深呼吸するIさんの後ろ姿を見ると、何か変に胸がドキドキして仕方がなかった。Iさんの白くて細い足とか肩のつるりとした肌、パンツからはみ出た大腿部が月の光を浴びて、それぞれに呼吸しているように見える。
両手を組んでぐっと上に持ち上げるIさんの若々しい肢体が縦に伸びた。先程おば様とIさんは、一階の和室でこんなやり取りをしていた。「あなた、もう三十を過ぎたの?」とおば様。「まだです。Y美ちゃんたちが中三になる頃、三十を迎えます」。すると、Iさんは今二十八歳ということになる。おば様は「まだまだ若いわね」と羨ましそうだったけれど、四捨五入しても二十歳に満たない僕にはその意味がよく分からなかった。「二十八歳? おばさんですね」というのが率直な感想。でも、こうしてIさんが夜の道をブラジャーも付けないキャミソールとパンツだけの姿で歩く姿を見ていると、おば様の言う「まだまだ若い」の意味が分かるような気がした。
自由に伸び伸びと、何にも囚われずに歩く姿には、僕自身に本当のところを気づかせる効果があった。そうだ、本当のところ、僕もまた外に出たかったのだった。できればあの家、みなみ川教信者の集会所から逃げてしまいたかった。Y美とおば様の住む家からも逃げ出したいのだけれど、他に行き場がないから我慢している。母と一緒に暮らせるようになれば、もう裸で屈辱的な思いを我慢しながら生活させられることもない。そういう思いが知らず知らずに高まって、夜中に目覚めた時、衣服を全く身に付けていない状態であるにもかかわらず、ふらふらと外へ出る行動につながったのだろう。
「おしっこしたかったんだよね?」
十字路交差点にさしかかった時、Iさんが振り向いて、にっこり笑った。キャミソールに女物のパンツを一枚穿いただけの妙齢の女の人と素っ裸の僕という異様な二人連れは、真夜中ということもあって誰にも目撃されずにここまで歩いてこれた。しかし、もし誰かに見つかったら、Iさんは何と言い訳をするのだろう。僕がIさんの立場だったら、この辺りで戻るところだった。
「はい。どこか茂みに隠れてしてもいいですか」
「駄目よ、そんなの。この交差点を右に曲がったところの公園に公衆トイレがあるから、そこで用を足すのよ」
顎でしゃくって、公園の方向を指す。
「いやです。誰かに見られちゃいます」
「馬鹿ねえ、あなた。今更何言ってんのよ。素っ裸でバスにも乗ったくせに。それにしても、あなた、ほんとにY美ちゃんと同じ中学一年生なのかしら。私はあなたが服を着たところを見たことがないから、あなたが制服を着て中学校の門をくぐる姿を想像すると、なんだか笑ってしまうの。ほんとはランドセルをしょってるんでしょ?」
馬鹿にしたように笑って、背中を叩く。僕は諦めて、Iさんの指示に従うことにした。これまで何度も明るい日差しの中を素っ裸で歩かされてきたので、人の気配がしない真夜中の公道を一糸まとわぬ格好で歩くのは、実はそれほどの抵抗を覚えることではなかった。人に見られる心配が昼間と比べると断然低いし、見られてもどうせ一人が二人の、夜中にふらふら出歩く訳ありな人だろうから、それほどこだわる必要はない。まあ見られないに越したことはないけれども、よし目撃されたとしても簡単に仕方がないと忘れることができた。もう僕は散々いろんな人に裸を晒し、おちんちんを見られてきたから、今更この程度のことでは、格別苦しい思いをしない。ただ、裸という無防備な姿でいることから、危険な目に遭わないように注意を払うばかりだった。
きょろきょろと辺りをうかがいながら小走りで公園へ忍び入る。遊具施設のない、広場とベンチがあるだけのシンプルな公園は、トイレを設置したことでその存在価値を高めた。この公園の造成整備事業に係わったおば様は、性的奉仕を終えて横たわる僕にこんなよもやま話をしてくれたことがあった。
「公園の造成前に実施した地域住民へのアンケートでは、公園に何を求めるかという設問に対して、八割以上がトイレ設備の充実を第一位に挙げたのよ。信じられる? 住民の皆さん、変わってるのよ。遊具施設なんか、全然求めてないの」
こうして宮殿の形をしたトイレが設置され、これといって特徴のない公園のシンボルになった。深夜の二時過ぎに素っ裸で公園に入る僕も、この宮殿の訪問者だった。
おしっこ用の便器に向かっていると、さっと何かが後ろを通り過ぎた。猫だった。しばらく行きつ戻りつしてから、ちょこんと座って僕のお尻をじっと見る。ほっとしたのも束の間、すぐに公園の外で騒ぐ声がして、猫は素早く去った。
若い男女の集団が公園に入ってきた。酔っ払っているようで、近隣に人家がないのを良いことに叫んだり喚いたりして、やりたい放題。誰かが空き缶を蹴っ飛ばした。けたたましい女の人の笑い声がトイレの中にまで入ってきて響いた。
そっと覗いてみる。高校生の不良グループだった。ここにじっと隠れていても見つかるのは時間の問題のような気がして、僕は思い切って、全速力で走って逃げることにした。彼らは奥のベンチに落ち付いて、ぐでんぐでんに酔っ払った体を休ませている。
「何今の? トイレから裸の子が出てきたよ。怖い」
目敏く見つけたらしい女の人が緊迫した調子で叫んだ。すぐに三人四人の影が立ち上がって追い掛けてきた。待てコラ、待て、と口々に怒鳴る。とても酒に酔っているとは思えない機敏さだった。酔っ払っているのはほんの二人か三人で、それ以外は全員素面なのかもしれなかった。
アスファルトの上を裸足のまま走る。すぐに足の裏が痛くなる。追いかけてくる人たちの硬い靴音が間近に聞こえてきた。いかにも走りやすそうで、生まれたままの姿で走る僕とは条件が違いすぎる。
交差点を曲がったところで待っている筈のIさんの姿が見えなかった。事態を察してとっとと帰ったのか、桑畑に隠れたのかもしれない。いずれにせよ、Iさんに追っ払ってもらうつもりだった僕は、あっけなく不良高校生たちにつかまってしまった。
「なんだ、男じゃねえか」
「嘘、女だろ?」
「違う。男の子だよ。追い掛けている時は絶対、あれは女だと思ってだけどね」
高校生たちは僕を引き連れて公園に戻った。両側からがっしりと腕を掴まれて、おちんちんを丸出しにした僕を見て、女の人たちが声を上げて笑った。酔い崩れてベンチに仰向けに寝ていた一人が頭を持ち上げて、「なんだ、お前か」と呟いた。
素っ裸で苛められている僕をこれまで何度も目撃したことがあると言う。女の人たちはほとんど全員が僕のことを見知っていた。僕が全裸のままバスに乗せられた時、この人たちも居合わせて、射精させられたところもしっかり目撃したばかりか、中にはおちんちんを直接扱いたという人もいた。
「で、お前、なんでいつも裸なの?」
眉毛を剃った大柄な男の人が僕に真顔で質問する。
「意地悪な女の人たちに洋服を取り上げられたんです」
正直に答えた僕は、手が自由になったので急いでおちんちんを隠した。もうつくづく裸はいやだった。小さなパンツでも得ることができるなら、この人たちを満足させる努力は、それが多少性的なものであっても、惜しまない気分だった。
「そうか、そいつは可哀想にな。知ってるよ。あのでかいけど細い、ツンとした感じの女の子だろ、目が細くて吊り上がってる。あの子がいつもお前の洋服を脱がせて、こんな風にして裸にして外へほっぽり出すのね」
眉毛のない大男が感心すると、酔いから醒めようとするみたいにこめかみの辺りを手でがんがん叩いた。女の人たちは、バスの時みたいに僕にいろんなことをさせたいと言い、男の人たちも賛成した。
こうして僕は、高校生たちが囃す中、彼らのオーディオ機器から流れるアイドル歌手の歌に合わせて、踊りを踊らされることになった。以前にY美に教わった踊りだった。もちろん素っ裸のままだった。
「もっとおちんちんを振りなさいよ」
「そうそう。もっとしっかり」
恥ずかしくて、動きがぎこちなくなる。なるべく見られないように、踊りの手が許す限りおちんちんを隠そうとしたり、腰をひねったりしていたけれど、踊りの中でどうしても腰を上下左右に動かすところがあって、手は腰に当てなくてはならない。緊張して縮んでいるおちんちんが丸出しのまま揺れる。高校生たちは下品な声を立てて笑った。女の人たちが僕を引き寄せて、勃起させようと試みた。
「ねえねえ、きみ、ナオス君て言うんだよね」
女の人の一人が言った。曖昧に答えると、いきなり頬を張られた。
「はっきり答えなさいよ。あんたのことはだいたい分かってんだよ」
観念して名前を言い、Y美の家に居候の身であることを問われるままに語ると、女の人はうって変わって優しくなり、いきなり自分のシャツの裾をめくって、大きなブラジャーを見せてくれた。
「特別サービスだよ。カワイソーでかわいいボクちゃんのため」
唇の間から、かすれたような声を出して、フッと小さく息を吐いた。街灯の淡い光の中、水色のブラジャーがぽっこりとお椀の形に膨らんでいる。背丈の低い僕のために女の人はしゃがみ込んでくれた。胸の谷間が見える。頭がくらっとするような噎せるような香りが広がり、肉と肉がぷるんと弾ける。と、めくられたシャツの裾がするすると下りてきて、まるで幕だった。時間切れ。女の人の、別人のような嘲笑が聞こえた。
「馬鹿みたい。ブラジャー見ただけで勃起してるよ、こいつ」
ツンと硬くなったおちんちんを指で突く。ブラジャーの中も見せてくれるのだろうか、揉ませてくれるのだろうかと期待した僕が浅はかだった。女の人はおちんちんが勃起するかどうかだけを確かめ、大きくなったらもうこれ以上見せる必要を認めないのだった。
こうして僕は、おちんちんを硬くさせられたまま、再び踊らされた。踊りはそれなりに体力を要し、疲労とともにおちんちんが元の大きさに近づく。そうすると、女の人たちに扱かれた。射精寸前まで追い詰められ、勃起した状態で何度も踊らされるのだった。
公園の街灯に照らされて、素っ裸のまま踊る。女の人たちがキャッキャッと喜ぶ声がする。高校生の集団と思っていたけれど、女の人の中にはもっと若い人も交じっているようであり、明らかに幼い笑い声や話し振りが聞こえた。
とにかく、みんなに一糸まとわぬ姿をじろじろ見られながら踊らされるという、羞恥と人格否定による精神的な苦痛から逃れるには、頭の中を空っぽにして踊りに意識を集中するしかなかった。以前、Y美に強制的に叩き込まれた通りに体が勝手に動くようにする。
「もっと振って。振るのよ」
ブラジャーを見せてくれた女の人が叱咤した。
硬化したおちんちんが両側の太腿へ交互にぴしぴしと当たる。その肉と肉のぶつかる音を聞こうと、一人の女の人が前に出て腰を屈めた。また別の女の人は、缶ビール片手におちんちんを指して大笑いして、眉毛のない男の人の胸にもたれかかった。
少し離れた地点から野太い怒鳴り声がして、大きな人影がずんずん近づいてきた。聞き取りづらかった声が次第にはっきりしてくる。
「こら、お前たち、何やってんのか」
高校生たちの動きが止まり、再生中の音楽がプチッと途絶えた。ターリさんだった。その後ろにはIさんもいた。
「げ、あの人だ。マジでやばい」
眉毛を剃った大柄な男子生徒がそう呟くと、しだれかかっている女の人を起こした。この中で一番肝が据わって腕力のありそうな男子生徒が真っ先に逃げる様子を見せたので、他の高校生たちはたちまち酔いから醒めたようだった。作務衣を着た大きな男からただならぬ妖気が漂っている。男と自分たちの距離が縮まるのを見て取ると、高校生たちは僕を置いて一目散に逃げ出した。
少し遅れて、音楽再生の機材を持った男子生徒が大きく腕を振って走り出した。僕の横を通過する時、機材がおちんちんの袋に当たった。衝撃で地面に倒れる。
激痛にしゃくり上げる僕をターリさんとIさんが両側から立たせた。
「男の敵は男だね。わざとじゃないかしら」
上機嫌のIさんは相変わらずブラジャー無しのキャミソールにパンツ一枚だけの格好だった。不良高校生たちに僕が捕まったのを見て、ターリさんの助けを求めに一旦帰ったのだと言う。Iさんは僕が射精させられていないかをしきりに気にしていた。僕が精液は出していないと言っても信用せず、おちんちんをいじる。
「やっぱり精液を出したんじゃないの? なかなか大きくならないじゃないの」
「勃起はさせられましたけど、射精はしてません」
「じゃ、なんで大きくならないの? さっき陰嚢をぶつけたせい?」
Iさんが指の位置を変え、おちんちんを挟んで本格的に扱き始めた。おちんちんの袋がきゅっと締まる。気持ちいい。たちまちにおちんちんが硬くなる。
「ごめん、扱き方が悪かっただけか。うん、精液は出してないのね。信じるわ」
大きくなったおちんちんの亀頭の部分を指の腹で押しつけて、付着した精液を舐め、Iさんはようやく納得したようだった。
僕がこの集会所に住み込むことになったのは、一重に罪を払う清めの儀を行ずるためだった。だから、深夜に出歩いて高校生たちに苛められたとしても、朝寝は許されなかった。二階の板敷の間に寝ていた僕は、大きな杓文字のような棒を持ったIさんに六時に叩き起こされた。
まず顔を洗い、朝の支度を整える。バケツに水を汲み、運ぶ。雑巾が渡される。朝食前に課せられた仕事は、床の雑巾掛けだった。
お粥だけの簡単な朝食を済ませると、白い着物に着替えたIさんに二階の応接室に呼ばれ、真っ赤なカーペットの上に正座させられる。清めの儀について、改めてIさんから詳しい説明があった。
儀の期間は三日であると聞いたのに、Iさんは首を横に振って、昨晩、僕が無許可で外に出たことによって、五日に延長されたことをやんわりと告げる。
「そんな。三日だって言ったじゃないですか。なんで五日なんですか?」
「無許可の外出は厳禁なのよ」
「知らないです、そんなの。お願いですから三日で僕を返してください」
「駄目よ。知らなかったのは気の毒だけど、厳守するべき決まり事を破ったのだから諦めなさい。あなたの滞在期間は二日延長され、五日になったからね」
清めの儀を行ずる間は、必ず決まり事を守らなければいけない、とIさんが釘を刺した。それを破ると、儀が完了せず、滞在期間がいたずらに延びるだけだと言う。
決まり事は三つあった。一つ目は、僕が知らずに破った外出禁止だった。但し、Iさんやターリさんが許可する場合はこの限りではない。それどころか、二人のどちらかによって全く僕の意思とは関係なく、力ずくで外へ連れ出されることもあると思うが、このような時は罰の一つだと思って頑張って耐えて欲しいとIさんが淡々と補足する。
二つ目は、期間中における着衣厳禁だった。いかなる時、いかなる場合においても布切れ一つ身に付けてはならず、常に全裸でいることを約束させられた。
「もっともあなた、この家に入った時から裸だったわよね」
口籠ってしまって、なかなか「はい」と答えられない。
「あなたの大好きなおば様に聞いたわよ。裸で過ごすのは、慣れてるみたいね」
「そんなこと、ありません」
微笑するIさんの馬鹿にし切ったような視線が僕の露わな肌という肌に突き刺さり、思わず項垂れてしまう。あと三日は素っ裸で過ごさなくてはいけない。途中で何か衣類を身に付けようものなら、監禁の期間がまた延長し、それだけ裸で過ごす時間が長くなる。
続けて三つ目、最後の決まり事についての説明に入った。それは無断射精の厳禁だった。Iさんかターリさんが精液を出せさる場合と二人のいずれかの許可を得られた場合を除き、射精は厳禁とのことだった。
「もっとも自分でこっそりオナニーしようなんて思わない程搾り取るつもりだから、この決まり事については心配無用かもね」
顔は笑っているのに目はずっと僕を睨みつけていた。僕が承知し、三つの決まり事を絶対に守る旨を誓わされると、昨日と同じ作務衣姿のターリさんが麻縄を持って入ってきて、後手高手に僕を縛り上げた。複雑に縄が交差し、幾重にも巻き付ける複雑な縛りなのに、慣れた手つきであっという間に僕の両腕はがっちりと動きを封じられた。縄尻を取ったターリさんに一階の和室へ連れて行かれる。
これから何をされるのか分からない不安と恐怖で緊張する僕のお尻をIさんがぴしゃぴしゃと叩いて、「リラックスリラックス」と笑った。とてもリラックスなんかできる雰囲気ではない。Iさんが僕の体を押さえた。縛るのはターリさんの役目だ。ターリさんが両手に山のような縄を抱えて戻ってきた。
一旦解かれると、手首だけでなく腕全体に縄が掛けられる。僕は、鴨居から垂れた麻縄に両腕を広げた状態で拘束され、青竹を膝の裏側から通して、青竹に膝部分を縄で縛り付けられた。青竹の両端は縄で繋がれていて、天井の滑車を通って、ターリさんの足元に垂れていた。
腰を屈めて縄尻を手に取ったターリさんがそれを引くと、天井の滑車がゆっくりと回り、僕の膝頭が上昇を始めた。膝が頭よりもやや上の位置まで持ち上げられ、おちんちんだけでなくお尻の穴までもがすっかり丸出しになった。
持ち上げられた両足の間に入ったIさんの着物の袖が垂れて、太腿の内側を撫でた。白くて清潔な着物だった。Iさんは、おちんちんを指に挟んで左右に激しく振り、おちんちんの袋を揉んだ。揉む力が段々強くなる。痛みを訴える僕を無視して、ぎゅっとおちんちんの袋を握り続ける。悶え苦しむ僕をじっと観察しているようだった。もう片方の手でおちんちんの皮を剥いたり引っ張ったりする。ひたすら痛い。
庭に面したガラス戸から晴天の日差しが降り注いで、観察するIさんのうっすらと白粉を塗った顔が不気味に生々しく迫ってくる。Iさんは、ゴム管の付いた注射器をターリさんから受け取った。水を張った洗面器で指を濡らし、お尻の穴に石鹸を塗り、軽く揉んでから、ゴム管の先端を挿入させ、ゆっくりと中に押し込んだ。
いや、何をするんですか、とずぶずぶと入る長いチューブに喘ぎながら抗議する。それを無視してIさんが注射器のピストンを押した。ぬるま湯の液体がどくどくと入り込んでくる。縛り付けられた四肢をくねらせ、腰を上げたり下げたりして、悶える。
液体は大量だったような気がしたけれど、Iさんの後ろで様子を見守っていたターリさんに言わせると、全然少ないとのことだった。信じられなかった。もうお腹が液体で重くなっている。これ以上注入されたら、お尻の穴から液体がこぼれ出るだろう。早くもお尻の先がむずむずしてきた。
便意に襲われた僕にIさんが厳かに告げたのは、許しが出るまでうんちをしてはならないというものだった。とても我慢できる苦しみではないと訴えると、Iさんはターリさんにあれを持ってくるように言った。
あれ、というのは栓のことだった。トランプのスペードの形をしたその栓は、お尻の中に挿入する時はすぼみ、ぐいと押し込むと、中に入るにつれて元の形になって、うんちを塞ぐ仕組みだった。
これではうんちを出したくても出せない。僕は、便意がもたらす苦しみに全身汗まみれになって悶えた。腰から脚、背中にかけて、体じゅうが苦悶に震える。まだまだ我慢しなさい、というIさんの声が聞こえる度に激しく首を横に振り、助けを求める。もう外してください、うんちをさせてください、と懇願し、泣き叫んだ。
このままでは腸が破裂する。汗まみれになって喘ぎ、悶える。どれくらいの長い時間が経ったか分からないけれど、ターリさんが栓の輪っかに紐を括りつけて、少し離れたところから引っ張ることになった。この栓が抜けると同時に、僕をさんざん苦しめるうんちが放出される。
Iさんがカウントダウンし、ターリさんが紐を引いた。お尻の穴を塞ぐ栓はなかなか抜けなかったが、ついにポンと音がしたような気がして取れると、今までお腹の中を逆流していたうんちが一気に噴出した。Iさんとターリさんはその瞬間をしっかり見たようで、頻りにエネルギーのことを言っては感心していた。
吊るされ、両足を広げた格好でうんちをさせられた僕は、これまで何度も女の人たちの前でうんちをさせられてきたにもかかわらず、どうにも悔しくて恥ずかしくて堪らず、まるで初めて浣腸された時のように、しゃくり上げた。そんな僕を尻目にIさんとターリさんはせっせと後片付けをし、ガラス戸を開け放して空気を入れ替えた。
縄の拘束から自由になった僕は、庭に出された。裏にある井戸で水浴びをすることになった。汚れた体を清めなくてはいけない、とターリさんが言った。僕は素直に従い、井戸から汲んだ冷たい水を素っ裸の身に被った。石鹸とタオルを持ってきてくれたターリさんが、ずっと吊るされて痛くなった僕の腕をマッサージしてくれた。
小さなおにぎり一つだけの昼食を済ますと、二階の板敷の間に連れて行かれた。そこでは木像を清める仕事が待っていた。きれいな白い木綿が渡され、小さな木像を一つ一つ丁寧に拭く。これらの木像は全てターリさんが彫ったものだという。
ターリさんが拭き方を細かく教えてくれた。最初は優しい口調だったけれど、一度教えたことを間違えると不機嫌になり、舌打ちが聞こえた。二回目は怒声になった。とても有難い木像だけあって、拭き方一つにも注意事項が多かった。拭き終わった木造の並べ方も手順が複雑で難しかった。なかなか一度で頭に入るものではないけれど、機嫌を損じたターリさんが怖いから必死に覚えようとする。
緊張して手順を間違えることもあった。同じ注意が三回に及ぶと、とうとう手が飛んできた。頬を張られ、体が飛んだ。
手順通りに木像を清め、手のひらに乗るサイズの木像を教わった通りに並べていく。ターリさんは僕の背中をさすり、やっと笑顔を見せた。
「その調子だよ。頑張れ。あと八十体あるぞ」
「これ、全部やるんですか?」
「当たり前だろ。でないとお前、いつまでも素っ裸のままだぞ」
ということは、この仕事が終わったら服を着せてもらえるのだろうか。先程のIさんの話では、期間中は着衣厳禁だった。なんだろうと思いつつ、「はい」と生返事をする。
「あ、木綿の拭いた面を返さないで、次のを拭いたな。返せって言っただろうが。もう忘れたのか」
いきなり頬を張られて、続けて腰を蹴られた。廊下に出された僕の前にターリさんが仁王立ちしている。鬼の形相だった。僕は震える体のまま土下座をして謝ったけれど、横から鋭い蹴りを入れられ、階段を転げ落ちた。
「あなた、ターリを怒らせないほうがいいわよ」
Iさんが一階の廊下に倒れ込んだ僕を見下ろしていた。
「あの人ね、激昂すると何するか分からない。人を殺したこともあるのよ」
しゃがみ込んだIさんは、体の節々が痛くてなかなか起き上がれない僕の顔を心配そうに覗いた。人を殺したことがある、と言ったIさんの声が僕のがらんとした頭の中で静かにエコーする。
「あら、私ったら余計なこと喋ったわね。今のは聞かなかったことにして」
おちんちんを摘まみ、引っ張る。僕を立たせる時、Y美もおば様も脇から腕を通すのに、Iさんだけはなぜかいつもこのやり方だった。僕としては辛く、できればやめてほしいのだけれど、立たせる側としては、一番手っ取り早いのかもしれなかった。とにかく、おちんちんの皮を引っ張られると、どんなに体が重く、疲れていても、すぐに立たざるを得ない。女の人であるIさんには到底理解してもらえない痛みだった。
いくら教えても覚えない、これでは任せられない、とターリさんがIさんに報告した。これも真剣に儀を行ずる気持ちが足りないからだと見なされ、僕は裏庭の井戸の前に連れて行かれた。後手高手に縛られる。Iさんが麻縄をせっせと滑車に通している。ターリさんに軽々と持ち上げられた僕の体は、井戸の縁を越えて、宙吊りにされた。井戸の中で反省するのよ、とIさん。縄がするすると下がった。
やだ、ごめんなさい、許して、と泣き叫んでも、むなしく自分の声が反響するばかりだった。得体の知れない闇の世界へ降ろされてゆく。恐怖と不安のあまり、縛られた腕の部分に体重がかかる痛みもそれほどに感じられなかった。太陽の光がどんどん少なくなり、薄闇に包まれる。足先が井戸の水に触れた。冷たくて、すぐに膝を曲げる。
冷水の中に足先から入り、お尻と太腿がほぼ同時に沈んだ。お腹の辺りで一旦止まったと思ったら、また下がり、とうとう首から上を残してすっぽりと井戸の水に浸かってしまった。水にぎゅっと体を固められた感じだった。内壁に腰を掛けられる程度にはみ出た石があって、そこで体勢を保った。
井戸の深いところから円形の青空を見上げる。時折覗き込んでは声掛けしてくれたターリさんも用事があるのか、もう顔を見せなくなった。冷水に全身の肌がぴりぴりと震える。空気もまたどんよりとして、ずっと昔からそこに淀んでいるかのようだった。
腰をもぞもぞと動かしていたら、お尻が石の出っ張りから離れてしまった。体が井戸水の中に沈む。僕を繋いだ縄はしっかり固定されていなかったようで、再び落下した僕の重みとともに縄もまたするすると滑車を回した。後手高手に縛られた体で必死にもがいて、なんとか顔を水面から出すと、助けを求めて叫んだ。声だけがむなしく反響する。
落ちるとは思っていなかったので、びっくりしてたっぷり水を飲んでしまった僕は、うまく呼吸ができず、足を開いて内壁のはみ出た石で体を支えようとした。ぬるぬると足が滑って、バランスが取りづらい。ターリさんが気づいてくれたのは全くの幸運だった。井戸から身を乗り出して縄を引いてくれた。出っ張りに腰を下ろせた僕に、この井戸はまだまだ深いとターリさんが言った。
髪の毛からぽたぽたと水滴が落ちて、暗緑色の水面にたくさんの波紋を作る。その下には不気味な水域が垂直に広がっているのだと思うと、僕はもう一刻も早くここから出してもらいたくて堪らなくなった。涙を流しながら許しと助けを乞う。
井戸を覗き込むターリさんの坊主頭がくっきりと見えた。逆光になって表情が見えない。分かった、という声が聞こえたような気がした。井戸のやたらと声が反響する中では、言葉が大変聞き取りづらいのだけれど、確かに「分かった」と言ったような気がした。
果たして、僕の体は井戸から引っ張り上げられた。井戸の縁に足を掛けて、ようやく地上に戻った。白い着物姿のIさんが暗い目をしてじっと僕を見ていた。
縄を解かれて、両腕が自由になった。ターリさんが縄を扱いていた。縛られていた両腕を摩る僕を横目で見て、Iさんがにっこりと笑った。緊縛から解放されたのは束の間だった。僕はまた縛られた。
「もういやだ。許してください」
暴れ、もがいても無駄だった。今度は両手首、両足首を別々にがっちりとくっ付けた形で縄を括られた。足首を縛った縄尻には大きな煉瓦が結ばれている。全てはIさんの指示だった。
再び井戸に入れられる。今度は足の先に重たい煉瓦を括られていて、落ちる速度が前より速かった。冷たい井戸水が足の先から順々に浸かり、首のところで止まる。真上を向いてかろうじて呼吸ができる程度だった。と、突然ガクンとストッパーが外れたかのように落とされ、素っ裸の身が完全に水中に沈む。
呼吸を止める。ずんずんと僕の体が沈み、指の先まで冷水の中に入った。しっかり空気を吸い込んでいなかったので、すぐに苦しくなる。落とされた瞬間に飲み込んでしまった水がお腹に下った。もしも両手首を結んでいる縄が外れたら、僕は足先に括られたとともに、二度と浮かび上がることはないだろう。
井戸は底無しの深さだった。いくら沈んでも足がつかない。上下の感覚が薄れそうになった水の中でやっと体を引っ張られ、伸び切った両腕がぴりぴりと痛んだ。縄が手首を抜けた場合に備えて、括られた不自由な手でしっかり縄を握る。まず手から水面を上がり、頭髪、額、目の順に水中から出る。ようやく待望の呼吸ができた。
びしょ濡れの体が滑車まで巻き上げられた。おちんちんが井戸の縁よりも上に出て、Iさんが「まあ」と呆れた顔をした。冷水に浸かったおかげで小指の先っぽくらいのサイズに縮んでいるのだった。
足元の石を持ち上げて、地面に叩きつけるIさんをターリさんが宥めた。Y美たちが約束の時間を過ぎた今も集まらない。このことにIさんは腹を立てているのだった。儀の期間中は毎日三時に集まることを約束してY美たちの帰宅を許したのに、時間になっても誰一人顔を見せない。どういうことかしら、とIさんが僕の頬を手で挟んで、詰る。
こんな風に僕を吊るして、足首を縛った縄尻に煉瓦を括りつけるのは、見せしめなのだった。Y美たちが集まるまで、僕は井戸の中に吊るされることになった。
井戸に落とされ、頭上の指の先まで井戸水に浸かっても、まだ止まらずに底へ沈み続ける。全身の肌を例水が圧迫する。苦しくなって腰を揺する。ゴンと音がして、重しの煉瓦が内壁にぶつかる。
体が引き上げられては、また落とされる。この連続だった。時には顔が出ただけのところで止まった。地上から引っ張られることを期待して上を向くと、括られた手首の間から光に溢れた青空と雲が見えた。あそこまで昇っていきたい、と切に願った途端、足を引っ張られた感じがした。体が沈み、青空に水が被さった。
聞き覚えのある女の人たちの声がした時、僕の体は冷え切って、体の震えが止まらなかった。井戸の深いところから引き上げられ、昼の明るさに眩暈を感じる。井戸の縁には、Y美がいた。ターリさんは何度も僕を引っ張り上げたおかげで、さすがに腕が痛くなったらしい。肩をぐるぐる回しながら機嫌よくY美に話し掛けるが、Y美はそれを無視してS子を呼んだ。庭を横切ってS子が来た。
ルコ、ミュー、風紀委員、エンコ、N川さんも一緒だった。メライちゃんがIさんと話をしながら来た。昨日のようなお洒落なポロシャツではなく、いつもの白いワンピースを着て、靴も普通の運動靴だった。
滑車から吊り下げられたままの僕の体をじっくりと見て、Y美たちがいろんなことを言う。彼女たちは、なぜ僕がこんな酷い目に遭わされているのか、理解していないようだった。ターリさんが質問に答えて、「こんな風に落とした」と実演した。僕はまた井戸に落とされ、ずんずんと体を沈められた。
縛られた両手の縄が滑車の最上部まで巻き上げられて、どこも隠すことができず、頭のてっぺんから爪先まで全身びしょ濡れの素っ裸の体を女の人たちにまじまじと見られた。胸から腰にかけて鳥肌が立ち、唇が紫色になっているのを見て、メライちゃんが顔を背ける。ミューがメライちゃんの肩にそっと手を置いた。
「ちょっと酷すぎない?」
ミューが呟くと、Y美がにっこりと笑った。
「どうせ粗相をしたんでしょ。いい気味だよ」
Y美は僕がお仕置きを受けていると思っているのだった。寒さと悔しさで体がぶるっと震えた。
許しを得てようやく縄を解かれた僕は、そのまま風呂場に連れて行かれ、ぬるま湯に肩まで浸かることができた。体が温まってくると、引き戸から顔を出したIさんが僕にすぐに出るように命じた。脱衣所ではターリさんが待っていた。タオルも与えられないので、ぽたぽたと水滴を落としながら廊下を歩く。ターリさんに背中を押され、和室に入らず、玄関に向かう。土間に下りると、下駄を引っ掛けたターリさんによって問答無用に明るい戸外に出されてしまった。
そこではY美たちが待ち構えていた。隅っこには、身を竦めるメライちゃんの青ざめた顔があった。Iさんが「これからナオス君の行ずる儀は、あなたたちの手伝いが必要不可欠」と、Y美たちに語りかけた。麻縄を持ったターリさんが僕に襲い掛かり、あっという間に僕を後手高手に縛り上げた。がっちりと縄で縛られた僕の恥ずかしい姿をメライちゃんが怯えた目で見つめる。
縄尻をS子が取って、道路へ出た。
「全裸緊縛で歩かされるって、どんな気分なの?」
「ねえ、みんなが見てるよ、びっくりしてるよ。恥ずかしくない?」
女の人たちが次々と僕を冷やかした。実際、ちょっとした大名行列だった。白い着物に紫の上衣をまとったIさんを先頭にY美、縄尻を取るS子、僕が続き、他の女の人たちは僕の横に来たり後ろに回ったりした。しんがりはターリさんだった。これだけの人数で歩いて、しかも素っ裸で緊縛された僕が混じっているのだから、目立たない筈がなかった。脇を通行する車という車が速度を緩めて見物した。
列の先頭と後方にIさんとターリがいるのを見て、人々はこれがみなみ川教の宗教行事であると察するようだった。家や畑から、ぞろぞろと沿道に出てくる。Iさんやターリさんに挨拶する人も少なくなかった。やはり日中だけある。深夜に僕がIさんに連れられて歩いた時とは大違いだった。
桑畑のある十字路を右に曲がって、公園に入った。昨晩、僕が高校生たちに捕まった公園だった。宮殿の形をしたトイレの屋根が金色に輝いていた。
硬い地面にざらざらした砂をまぶした空間が楕円の形に広がっている。ターリさんが縄を解いてくれた。両手が自由になると、この何も身を隠すことができない、草一つ生えていない平らな場所から逃げ出したくなった。自分だけが素っ裸でここにいる。思わずしゃがみ込んだ僕をY美が腕を組んで見下ろした。
犬のように歩け、とY美が言った。四つん這いになると、すぐ目の前にメライちゃんの靴と細い脚があった。S子が縄で裸の背中を打つ。膝をつけずにお尻を高く上げて、楕円の形をした広場を一周させられた。
こんな風にお尻の穴丸出しにして歩かされるのが鷺丸だったらどうするの、とY美がメライちゃんに話し掛けた。二人は、僕のすぐ後ろを付いてくる。メライちゃんは返答に窮したようだった。
「ちゃんと答えろよ」
「いやです。そうなったら別れます。こんな恥ずかしいことする人が彼氏だなんて」
一呼吸置いて、メライちゃんが答えた。きっぱりと決意を伝えるような口調だった。ざらざらした地面が手のひらと足の指に鋭い痛みを一瞬伝えた。
Iさんとターリさんが座るベンチの前を通りかかった。Iさんが話をし、ターリさんが不動の姿勢で話を聞いている。ベンチの後ろには信者の中年女性たちがいて、四つん這いで歩かされている素っ裸の僕をじっと見つめる。
下からIさんの足が伸びてきて、すっと上げた。サンダルを脱いだIさんの素足が僕のお腹に当たり、腸を圧迫した。四つん這い歩行が一瞬止まる。足はすぐに下に移動して足の甲でおちんちんを軽く叩いた。
「立ち上がるのよ。手は頭の後ろで組んでね」
少し間を置いてからIさんが言った。間髪を入れずにY美にお尻を叩かれた。信者の女の人たちは厳粛な宗教行事に参列しているような真面目な顔をして、命令に従う僕の体を上から下までじろじろ眺めた。
少しでも腰を捻らせたり、頭の後ろで組んだ手を動かしたり、足をもじもじさせたりすると、じっとしてなさい、動かないで、とIさんに注意された。ターリさんや信者の中年女性たちに向けて話をするIさんの口から、魂の浄化とか生命のエキスとか精霊とか、普通には聞かない単語が頻発した。困ったような顔をしてS子が笑うと、すぐにY美がS子を睨みつけた。S子はびっくりしてたちまち真顔に戻る。Iさんの指示を受けたターリさんがベンチから立ち上がり、麻縄を持って僕に近づいた。
街灯の支柱と広場の外側にある若木に縄を結ぶ。僕を立ったまま大の字に体を広げた格好で縛りつけるらしい。縛る直前、ターリさんが僕を唆した。本気で抵抗して、もしもターリさんの手を逃れることができたのなら、この理不尽な儀式から今すぐ僕を解放してくれるというのだった。僕はその言葉に偽りがないことを確信し、一瞬の隙をついて後方へ飛び、そのまま回れ右をした。足を踏み出した途端、両足をターリさんに抱きかかえられ、上半身から地面に倒れた。
必死に抵抗する僕をY美たちは無駄なあがきと見て、冷笑した。転ばされ、背中やお尻に小さな石の粒が付着した僕をメライちゃんがじっと見ている。無表情だった。ターリさんの屈強な力で地面に押さえつけられた僕の手首、足首に縄がきゅっと締まる。
「残念だったな」
ターリさんが勝ち誇った笑顔を見せて、僕の背中をバシンと叩いた。
腕、足を伸ばし切った状態で拘束された僕の正面にIさんがメライちゃんの手を引いてきた。アシスタントとしてY美がメライちゃんを指名したのだった。メライちゃんはIさんからシャーレを渡されると、僕の顔を見て、謝るように小さく頭を下げた。じっと僕の体へ視線を向けたまま、ゆっくりと腰を下ろす。
「ごめんね、ナオス君。私だってこんなこと、したくないんだけど」
それだけ言うと、メライちゃんはおちんちんに触れ、皮を剥いた。亀頭のひりひりする部分に指を当て、皮をしっかり剥いた時に現れる亀頭の下の部分を指でなぞった。
まるで地獄絵図のような状況ですね!
みなみ川教の人々は関わりたくないです。
私、ほんの数分だけとはいえ、ナオス君と同じ状況を経験しています。
ふとしたことからその時の状況をイラストにしようと思い立ち、参考になりそうなイラストや体験談を検索する課程でこの物語に出会いました。
私の場合、風呂上がりの姿を見せ物にされてしまったのはほんの数分ですが、ナオス君の場合はそれが数週間の単位で継続中なのですね・・・。
本来の私の目的であるイラストの方も、機会があれば投稿できればと思っております。
今後とも宜しくお願い致します。
二月毎の更新、大変かと思いますが、どうか無理せずに自分のペースでお続けください。
なお前回のコメントでイラストを要求している大変無礼な者がおりましたが、ああいった輩の戯言は気にしないようにしてください。
今回はみなみ川教出の話が中心で、肉体的に厳しい話がメインだったような気がします。
いろいろと好みはあるのでしょうが、それは作者が決めることだと思っています。
体に気をつけて継続くださいね。
ちなみに今回、一番よかったのはメライちゃんが、Y美に「こんな風にお尻の穴丸出しで…」と聞かれて答えた部分です。
そろそろ続きが見たいですが、今年中は無理そうですね…
12月は毎年忙しそうですし…
今年もよろしくお願いします。
小説の新展開楽しみにしてます。
ご無理をせず頑張って下さい。