電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

脳がフリーズする

2006-01-10 23:26:12 | 自然・風物・科学

 先日、話をしていて、不意に次に何を話していいか分からなくなってしまった。そのときは、大した話ではなく、何気ない話だったので、適当にごまかして済んでしまった。しかし、そのことは強い記憶になって残っている。その時、その前に話していたことや次に話そうと考えていたことをその瞬間に忘れてしまっていたのだ。結論は、覚えていた。しかし、その結論に至る過程を説明しようとしていて、その話の全体が突然見えなくなってしまったのだ。これは、多分、私が時々陥る物忘れと関係がありそうだ。私は、自分が「ぼけ始めたのかな?」と疑った。そして、年を取ってきたからかも知れないと思った。

 しかし、どうもそうではなさそうだ。もちろん、年を取り、記憶力が衰えてきたということは多少あるかも知れないが、たびたび起こる物忘れは、どうも違うらしい。築山節さんは、『フリーズする脳』(NHK出版/2005.11.10)の中で、「環境の中に脳をボケさせる要因があり、本人がそれを補う努力をしていなければ、人は簡単にボケます」と言っている。つまり、脳はボケるようにつくられているということだ。脳というのは、たくさんの神経細胞が複雑な回路をつくっていて、その回路の機能として多様な活動がおこわなれている。その回路つまりネットワークは使われなければ機能低下を起こす訳だ。

 たとえば、人に話しかけられたときにうまく反応できない。言葉がなかなか出てこない。思考がすぐ途切れてしまう。よく知っていたはずの人や物の名前が思い出せない。メールを送ろうとしてパソコンに向かったものの、何を書こうとしていたのか完全に忘れている。電話で人の話を聞いた直後に、もうその内容が頭から抜け落ちている。人の話や文章を理解して記憶することができない……。そういう当たり前にできると思っていることが、できない瞬間。あのもどかしい状態を本書では「フリーズ」と呼びます。(『フリーズする脳』p8・p9)

 築山さんは、財団法人河野臨床医学研究所理事長で、脳神経外科の専門医である。築山さんは上記の本の中で、幾つかのケースを取り上げて、脳のハードの障害でない場合、何が原因でそういう状態になったのかという分析と治療の方法を書いている。そして、不思議なことに、それが現代人の知的環境のせいでそうなるらしいのだ。つまり、忙しさから解放されて、便利になった生活環境が突然そうした要因になりうるということだ。典型的なパターンは次のような場合だ。

 たとえば、一日中パソコンに向かっている仕事。隣の席との間はパーティションで区切られ、耳にはヘッドフォンを当てて音楽を聴いている。コミュニケーションは基本的にメールで行う。思い出す代わりのようにインターネットで検索する。計算などの雑多な思考作業は道具に任せる。そして、仕事を終えて家に帰ってくると、家族と話すこともなく、テレビを見て寝てしまう……。こういう環境の中で、脳は、ある種の訓練の機会を劇的に失っている可能性があります。(同上・p5)

 仕事が安定し、楽になればなるほどそうなりやすいということだ。私の場合で言えば、仕事のかなりの部分でパソコンを使用していること、結婚して家事のことは一切かみさん任せになってしまったこと、仕事の雑用を部下に任せるようになってきたことなどが大きな原因らしい。もちろん、仕事で外出したり、人と会ったりしているが、会社の帰りに居酒屋に寄り、異業種の人と仕事を離れて話をしたり、一緒に遊んだりということもなくなった。ますます、あぶない環境に違いない。こうなると子どもの「ゲーム脳」だけの問題ではなくなる。

 脳というのは本来身体全体の動きや働きと密接に関係しながら発達してきたはずだ。私たちはもう一度、自分の身体と脳の関係をしっかりと考えてみるべきかも知れない。そして、たとえ便利だからといって、自分の身体(もちろんそれには脳も含まれる)を使わずに道具に頼り切りにならないようにする必要がありそうだ。読んだり、書いたり、計算をしたりという活動は、子どもの学習に必要だけでなく、脳の機能の若さを維持していくためにも必要らしい。

コメント (2)
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