巻頭早々、終戦直後の広島を撮らえる暴力的なエネルギーに圧倒されてしまった。1973年、深作欣二監督による傑作シリーズの第1弾だ。菅原文太、松方弘樹、渡瀬恒彦、田中邦衛、梅宮辰夫らが一世を風靡するギラつきを放ち、カメラもそのエネルギーを浴びて荒れ狂う。ドスの効いた広島弁の応酬は、今のTVで育った世代には理解不能のカオスだろう。暴力団の仁義なき抗争を描いた本作は、大量の登場人物を捌きながら僅か99分のランニングタイムを怒涛の如く駆け抜けていき、その振り切れたエネルギーは指詰めシーンでついにスラップスティックな笑いにまで転じる。死人が出る度に鳴り響く、津島利明のあのテーマ曲と死亡日時を記したテロップはほとんど様式美の域で、なぜか高揚してしまうのだから面白い。初見で登場人物の整理はほぼ不可能。只々、流れに身を任せて引きずり回されればいい。
本作が観客から絶大な支持を獲得し、映画史に残る傑作となった由縁は、戦争を知る深作監督ら製作陣の精神性が時代のメンタリティと合致したからではないだろうか。姑息な山守親分(タヌキ芝居が憎々しい金子信雄)に言いくるめられ、菅原文太演じる広能は何度も“鉄砲玉”として危ない橋を渡らされる。だが、何度クサい飯を喰おうが親分の言う「ムショから出たらオレの全財産はおまえのものだ」という約束は果たされる気配がない。広能はまさに特攻隊であり、山守は戦争を起こした親世代の象徴として若い世代にそのツケを背負わせ続けるのだ。安保闘争を経た1973年は、そんなメンタリティを共感できる“戦争の匂い”がまだ残っていたのではないか。「弾はまだ残っちょるがよ」はイーストウッド『許されざる者』と並ぶ、最高に痺れるクライマックスである。
『仁義なき戦い』73・日
監督 深作欣二
出演 菅原文太、松方弘樹、田中邦衛、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、金子信雄
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